プリンスを聴いていると、音楽には2種類あるのだと感じさせられます。ひとつは「皆で楽しめる音楽」で、もうひとつは「皆で聴くより一人で聴いた方が楽しめる音楽」です。もとい、後者はそれでは表現が控えめすぎる気がします。それよりも「否応なく外界と遮断され、独りで聴くことを強要されるような音楽」とでも言った方が良いかもしれません。プリンスの作る音楽の中には、後者のように、他人と一緒に聴いて楽しむのは殆ど不可能だと感じるものがあります。これはプリンスの音楽を考えるうえで欠くことのできない点で、同時にプリンスの大きな魅力のひとつでもあります。

プリンスの音楽におけるこの側面は、ある意味プリンスの本質といえるほどのものですが、これは一般に紹介されるお勧め曲を聴くだけでは掴みにくいかもしれません。また、これが通り一遍の論評で深く言及されることもあまりない気がします。ちなみに、これまでに4つほど刊行されている雑誌の特集号は全部買ったのですが、論評に関しては興味深いと思えるものがなかなか見つからないなという感想を持ちました。ただし、これは単に私には読む気が起きないようなページが多くて、全体的にまともに読んでいないのが理由かもしれません。

その一方で、ファンが自分のお気に入り曲を選ぶときには、ヒット曲や一般的なお勧め曲を押しのけて、後者の「否応なく外界と遮断される」タイプの曲が入り込んできます。そこで、普通の紹介記事には出てこないかもしれないけれど、ファンのお気に入りにはよく名前が挙がるような気がする曲ベスト3を取り上げたいと思います。

とりあえず第3位からいきます。第3位は、「When 2 R In Love」です。

と、ここで一言断っておきます。プリンスはライブで輝きを増すアーティストではあるのですが、このタイプの曲に関しては、まずはライブではなくスタジオバージョンを聴く必要があります。というのは、往々にして、多数の聴衆に向けて行われるライブの演奏では、こういった曲はアレンジが変更されるなどして、皆で聴いても違和感が少ないものへと質感が変わり、スタジオバージョンとは異なる曲に変化するからです。

また、順位は私が今の気分で決めた勝手なイメージです。実際のところ、「When 2 R In Love」はそれほど頻繁に名前が出てくる曲ではないかもしれません。個人的には、「When 2 R In Love」は日本のプリンスファンがよく挙げる曲、というイメージがあります。私の場合、この曲に関しては歌詞はそこまで直接的には響かず、それよりも少しのユーモアと圧倒的な音楽の美しさの方が強いインパクトを持って心に響きます。日本のプリンスファンがよく挙げる曲というイメージも、そういうことが関係しているのかもしれません。ちなみに、私自身の特別なお気に入り曲はこれらとは別にあるので、そちらの方もいずれは書きたいと思っています。


「When 2 R In Love」は、みなしごのような存在に思える曲です。この曲は、制作が完了していながら直前で発売中止になった「The Black Album」から唯一「Lovesexy」(1988年) に組み入れられた曲ですが、個人的にはどちらのアルバムで聴いても微妙にマッチしていないように感じます。私には、「When 2 R In Love」は本当の居場所を持たない曲、という印象があります。

この曲はメジャー調の綺麗なバラードですが、不穏な下がり方をするメロディが入るため、美しくも奇妙で妖しい雰囲気を持っています。また、この曲では、音楽を構成する様々な要素がおフロの水のようなイメージで奏でられます。ドラムは反響して「パシャッ(、パシャッ、パシャッ…)」となり、ボーカルまで「drip-drop, drip-drop, drip - water, water, water」と水の真似をします。個人的には、コーラスで「Bathe with me」と歌う度にいちいち「ザー」とおフロからお湯が溢れる様子 (?) を連想させる音が入るところが、いかにもプリンスという感じがして好きです。

プリンスとおフロに関しては、この曲は音楽部門の第1位といって差し支えないと思います。ちなみに視覚部門の第1位は、「When Doves Cry」(1984年) のミュージックビデオで、歌の内容とは関係なしにプリンスがバスタブからニュッと出てきて四つん這いで歩くシーン…でしょうか。プリンスはスピリチュアルな世界を表現するのに水をよく使います。例えば、アルバム「Lovesexy」は始まりと終わりに水が流れる音が出てきますし、代表曲の「Purple Rain」の雨も根底にあるのは精神の浄化です。このため、プリンスの音楽に水が出てくると、歌詞の過激さは薄れ、心が浄化されてスピリチュアルな世界に連れて行かれるような感覚がします。

歌が終わった後は、インストゥルメンタルのジャムっぽくなるのかなと思わせて、そのままフェイドアウトして曲は終わりになります。


So fierce U look 2night
今夜の君は凄絶に美しい
The brightest star pales 2 your sex
君の魅力の前では最も明るく輝く星も光を失う
Before we do anything, let me just talk 2 U
何をするよりも先に、まず君に伝えたい

When 2 are in love / They'll whisper secrets only they 2 can hear / When 2 are in love
二人が愛し合うとき - 二人は自分たちにしか聴こえない秘め事を囁き合う
When 2 are in love / Their stomachs will pound every time the other comes near / When 2 are in love
二人が愛し合うとき - 二人が近付くたびにお互いの鼓動は高鳴る
When 2 are in love / Falling leaves will appear 2 them like slow motion rain
二人が愛し合うとき - 落ち葉はスローモーションの雨にように見える
When 2 are in love / The speed of their hips can be faster than a runaway train
二人が愛し合うとき - 二人のヒップの速さは暴走機関車よりも速くなる
(Drip-drop, drip-drop - water, water, water)
(ドリップ・ドロップ、ドリップ・ドロップ - ワァタ・ワァタ・ワァタ)

CHORUS:
Come bathe with me / Let's drown each other in each other's emotions
おいで、僕とおフロに入ろうよ - お互いの心の中に溺れてしまおう
Bathe with me / Let's cover each other with perfume and lotion
おフロに入ろう - お互いの体を香水とローションで覆おう
Bathe with me / Let me touch your body till your river's an ocean
おフロに入ろう - 君の川が海に変わるまで君に触れさせて
Bathe with me / Let's kiss with one synonymous notion
おフロに入ろう - ひとつの同じことを考えながら口づけをしよう
Nothing's forbidden and nothing's taboo / When the 2 are in love
何も禁忌されることはなく、何もタブーはない - 二人が愛し合うときは
L.O.V.E. - L.O.V. / Can U hear me?
L.O.V.E. - L.O.V. - 聴こえる?

When 2 are in love / Their bodies shiver at the mere contemplation of penetration / Let alone the actual act - Act
二人が愛し合うとき - 貫くことに思いを巡らすだけで二人の体は震撼する - 行為 - 実際の行為は言うまでもなく
When 2 are in love / The thought of his tongue in the V of her love / In his mind - this thought - it leads the pack - Pack
二人が愛し合うとき - 彼の舌が彼女の LOVE の V に入ることは - 彼の頭の中では - 集団 - 集団の中で先頭に立つ

(CHORUS)