最近、オーストラリア在住の4人のプリンスファンがプリンスの音楽について語るポッドキャスト、Peach & Black Podcast を少しずつ聴いています。この前、アルバム「1999」(1982年) に対するこの人達のレビューを聴いて、なるほどと思うことがありました。それは、「1999」とはプリンスが「プリンス」というキャラクターを生み出したアルバムであり、音楽的にもオリジナル・プリンスと呼べるようなアルバムだということです。

例えば、「1999」の次にリリースされた「Purple Rain」(1984年) はプリンスの代表作ではあるけれども、作品としてはプリンスの標準から外れている印象があります。言うなれば「Purple Rain」はロック・プリンスです。また、「Around The World In A Day」(1985年) ならば、色々な呼び方ができそうですが、サイケデリック・プリンス、実験的プリンスといった感じがします。このようにプリンスは「こっちでは○○をしている、こっちでは△△をしている」と常に変化を見せます。そんな中で、オリジナルのプリンス、基準となるプリンスは「1999」だというのです。また、「1999」以前のプリンスは「1999」に到達するうえでの過程であるように見ることもできます。なるほど言われてみればそうだな、と思いました。

そんなアルバム「1999」から、最後の曲「International Lover」を取り上げたいと思います。アルバムのもうひとつのバラード「Free」が奇をてらわない正統派バラードなのに対して、この曲はちょっと聴いただけだと少々変ちくりんな曲、という印象を受けます。しかも、「1999」はプリンス・クラシックと呼べるような曲が満載の、11曲70分のモンスターアルバムです。「1999」や「Little Red Corvette」のようなキャリアの代表曲も含まれているので、アルバムを所有していてもこの曲に辿り着くまでに力尽きてしまい、この曲にきちんと耳を傾けたことがない人もいるのではないかと思います。

Peach & Black の一人は、レビューの中で、この曲は「犯罪的」に不当に見過ごされていると言っていました。実はこの曲は、ただ聴き流すのは勿体ないような、楽しみが詰まった傑作コメディバラードなのです。


「International Lover」はバラードでありながら妙にコミカルな雰囲気がします。他と違って6/8拍子で進行し、たまらなくチープな音のシンセが響く中、プリンスはかしこまった口調で語りかけます。

May I have this dance?
私と踊っていただけますか?

あまりの陳腐さに吹き出してしまいそうなイントロです。クールで時に怪しい雰囲気を持っているこのアルバムでは浮いた感じがしますが、それもそのはずで、この曲は元々 The Time のモーリス・デイのために書かれたのだそうです。

歌に入るとプリンスのボーカルパフォーマンスは豊かで素晴らしいです。「I can tell by the look in your eyes♪」の部分は、後の「Adore」(1987年) の「From the first moment I saw U♪」などを彷彿とさせます。

また、コーラスの「ダイヤモンドとパールも買ってあげる」という歌詞は、約10年後にリリースされた「Diamonds and Pearls」(1991) と繋がります。

<Diamonds and Pearls のコーラス>
If I gave U diamonds and pearls / Would U be a happy boy or a girl
もし君にダイヤモンドとパールをあげることができたなら - 君は幸せな少年や少女になるだろうか
If I could I would give U the world / But all I can do is just offer U my love
もしできるなら僕は世界だってあげる - でも僕にできるのは愛をささげることだけ

全体で6分半を超えるやや長めの曲ですが、歌の本編は3分16秒ほどで終わりです。そこから先は寸劇となります。

寸劇では、プリンスは誘った女性を「セダクション747」に乗せ、夜の空を案内します。解説するのも野暮ですが、「セダクション (Seduction)」とは英語で「性的な魅力で異性を誘惑すること」で、それにジャンボジェットのボーイング747のナンバーをくっ付けた名前なので、立派な飛行機なのだと想像できます。

「This plane is fully equipped with anything your body desires」のベタな口調など、プリンスのおどけたボーカルが面白いです。かと思えば、救命具の案内をした後の「ラ・ラ・ラ、ラ・ラ・ラ……」では艶のある美しいファルセットになります。

乱気流を抜け、機体が「サティスファクション」への最終進入に入ると、曲は音の厚みを増し、グランドフィナーレへと向かいます。そして、「サティスファクション」へ接近中、プリンスは抑えきれずにこの曲何度目かの叫び声を上げます (5:34 - 5:41)。しかもここだけ手拍子のような音まで入ります。プリンスは「何でここで?」というくらい様々な場面で叫び声を上げますが、この叫び声は Newsweek のオンライン記事「Prince's 30 Best Screams, Ranked」でも取り上げられています (この叫び声は記事の筆者のお気に入りのようで、3位にランクしています)。

「サティスファクション」に着陸後、プリンスはアナウンスで女性に寝てしまわないようにとお願いしつつ、段々と意識が遠のいていき、自分自身が眠りに落ちてしまって曲はおしまいになります。


May I have this dance?
私と踊っていただけますか?

Darlin', it appears 2 me / That U could use a date 2night
ダーリン、どうやら今夜の君はお相手をお探しのよう
A body that'll do U right / Tell me, am I qualified?
君を良くしてあげられる体 - ねえ、僕にはその資格があるかい?

Baby, I know it's hard 2 believe / But this body here is free 2night
ベイビー、僕にも信じられないんだけど、今夜この体は予定が空いているんだ
Your very own first class flight / My plane's parked right outside, baby
君のためのファーストクラスのフライト - 僕の飛行機はすぐ外に停めてあるよ
Don't U wanna go 4 a ride?
乗ってみないかい?

CHORUS:
I'm an international lover / Yeah, that's right
僕はインターナショナルラバー - そうだよ
Let me take U 'round the world / I'll buy U diamonds and pearls
世界中連れて行ってあげる - ダイヤモンドとパールも買ってあげる
Only if U're good, girl
君がいい娘ならね

Darlin', I know it's been a long time / Since U've been satisfied
ダーリン、君は最後に満足してからずいぶん経っているね
I can tell by the look in your eyes / U need it real real bad
君の瞳を見ると分かるよ - 君はひどく欲している
U need it so bad, so bad
君はひどく、ひどく欲している

Baby, maybe if U're good, girl / I'll introduce U 2 my ride
ベイビー、もし君がいい娘なら - 僕の飛行機に乗せてあげるよ
Don't U wanna come inside? / Come on, baby, I won't fly 2 fast
中に入ってみないかい? - 大丈夫、スピードの出しすぎはしないさ
I've got so much class
僕には凄く品性が備わっているんだから

[CHORUS]

Good evening
こんばんは
This is your pilot Prince speaking / U are flying aboard the Seduction 747
機長のプリンスです - 貴女は「セダクション747」にご搭乗しています
And this plane is fully equipped with anything your body desires
この機体には貴女の肉体が欲するあらゆるものが備わっています
If 4 any reason there's a loss in cabin pressure
何らかの理由で客室内の気圧が失なわれた場合は
I will automatically drop down 2 apply more
自動で下降し加圧の措置を取ります
And 2 activate the flow of excitement
そして興奮の流れを活性化させるため
Extinguish all clothing materials and pull my body close 2 yours
衣類を剥ぎ取って、私の肉体を貴女に引き寄せて
Place my lips over your mouth, and kiss, kiss, normally
私の唇を貴女の口に合わせ、口付けを、口付けを、ノーマルに

In the event there is over excitement
過度の興奮に至った場合
Your seat cushion may be used as a flotation device
貴女のシートクッションは救命具としてご利用いただけます

La, la, la...
ラ、ラ、ラ…

We ask that U please observe the "No Letting Go" sign
「解放禁止」のサインにご注意願います
I anticipate a few turbulence along the way
飛行中、幾度か乱気流が見込まれます

We are now making our final approach 2 Satisfaction
当機は「サティスファクション (満足)」への最終進入を行っています
Please bring your lips, your arms, your hips
貴女の唇を、腕を、腰を
Into the upped and locked position / 4 landing
着陸のため、上に向けて固定してください

Can U feel it? Can U feel it? / Ooh! Ow! Yeah!
Let me take U 'round the world / Girl, let it all hang out
Yeah, yeah, yes, yeah, yeah, yes, uh
(最終進入中…)

Welcome 2 Satisfaction
ようこそ「サティスファクション」へ
Please remain awake until the aircraft has come 2 a complete stop
機体が完全に停止するまでは眠りに落ちないようお願いします
Thank U 4 flying Prince International
プリンスインターナショナルにご搭乗いただきありがとうございました
Remember, the next time U fly / Fly the International Lover
次回もインターナショナルラバーのご利用をお忘れなく


追記です。

Purple Rain ツアーでの、ちょっとおふざけが入った「International Lover」のパフォーマンスが YouTube に上がっていました。
コンサート: March 30, 1985 at Carrier Dome Syracuse, New York

このパフォーマンスでは、最初のヴァースを途中まで歌うと「Am I qualified?」の前で演奏が止まります。プリンスは突然駆け出してステージを上り、プレゼントみたいなものを拾って客席に投げます。

ポールをするする伝って降りて、改めてマイクに向かうと決めの台詞を言いますが……

Am I qualified? (僕には資格があるかい?)
(カミナリが鳴り響き、プリンスはびっくりする)
Uhhh... What's happening, brother? (えーと、どうしたんだい?)
(カミナリが鳴り響く)
Man, give me a break, I'm just tryhing to have fun with these people
(おいおい勘弁してくれよ、僕はここの人達と楽しんでるだけなんだ)
(カミナリが鳴り響く)
I know I said I'd be good but they dig it when I'm bad
(確かに僕は行儀良くしてるって言ったけど、でも悪い方が皆が喜ぶんだよ)
(カミナリが鳴り響く)
Alright, alright! (わかった、わかったよ!)

天に怒られてしまったプリンスはこの曲を中止して、代わりに「God」を歌います。これがまた素晴らしいボーカルです。

この一連のシーンは以下の動画の45分36秒ごろからです。