「I Spend My Time Loving You」は、前回取り上げた「Leaving For New York」と同様に、1976年の最初期に録音された未発表曲の一つです。音を出しながらアイデアを探るようにして作った感触がある穏やかなバラードで、ささやかではあるけれど、まるで大切な宝石のように感じられる曲です。

去る4月下旬に「Originals」のニュースが出てから、実際に作品がリリースされるまでの私の最大の関心事は、私にとって特別な曲である「You're My Love」がどんな曲なのだろう? ということでした。もしプリンスオリジナルの「You're My Love」が存在するならば、それを聴くことは私の人生の願いの一つだったのです。そして、私は「With You」やこの「I Spend My Time Loving You」を聴きながら「Originals」のリリースを待つ日々を過ごしました。きっと「You're My Love」も、この曲のように穏やかで素敵な曲なのだろうと思いを馳せながら。この時点では、まさかあんな奇妙な体験をすることになるとは思いもせずに。


この曲は流行りの邦楽曲などとは違い、コードや展開がせわしなく動くこともなく、歌詞さながらに穏やかな時が流れます。それだけに途中で「魔法にかけられた / ラ ラ ラ・・・」と音程が不思議な上がり方をするところも良いアクセントになっています。

この曲を聴くと、私はふと、隆慶一郎の時代小説「一夢庵風流記」(漫画版のタイトルは「花の慶次」) で、主人公の前田慶次郎が直江兼続にかけた言葉を思い出します。

場面は終盤。関ヶ原の戦いで西軍敗戦の報が届き、最上で戦っていた上杉勢は退却を余儀なくされます。最上義光の軍勢二万に対し、上杉軍の総大将・直江兼続は三千の兵を率いて自ら殿軍 (しんがり) を努めます。そして戦局がいよいよ苦しくなる場面です。

血戦につぐ血戦に直江勢も漸く疲れた。
「無念だが、これまでのようだ。せめてものことに我が首を敵の手に渡すことなかれ」
兼続はそう云うと馬を降り、具足を脱いで腹を切ろうとした。直江山城守兼続が討ち取られたと聞えれば、味方の士気は落ち、敵の士気はいやでも増すことになる。兼続はこれを恐れたのである。
…(略)…
腹をくつろげ、鎧通しを抜いた時、それが槍ではね上げられ、遠くへ飛んで行った。慶次郎が松風で駆けつけたのである。この時、慶次郎が喚いた台詞を『上杉将士書状』から引用して見よう。
『言語道断。左程の心弱くて、大将のなす事とてなし。心せはしき人かな。少し待 (ち)、我手に御任せ候へ』
心せわしき人かな、と云うのがいい。死にいそぎするな、と云うのである。

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このような穏やかなプリンスのバラードを聴き慣れた私は、コードや展開をせわしなく動かす邦楽の流行りの曲、その……具体的にはプリキュアの曲や「パプリカ」等なのですが、そういった曲を耳にするたびに、「心せはしき人かな」と思うのです。もちろん、ああいった曲は元々それを良しとして作られているのでしょうけど。

それはともかく、「I Spend My Time Loving You」は特に複雑な展開のないバラードなのに7分以上もあり、たとえ発表しようにもそのままレコードに入れることは難しかったであろう長尺曲ですが、私にはその長さが却って嬉しいです。まだプリンスが高校生であった最初期に録音された曲ながら、とてもプリンスらしいバラードだと思います。


I used 2 spend my time
Painting watercolor portraits of a long sunrise
But when U came around
I would behold the beautiful sun forever in your eyes
Ooh
かつての僕は長い日の出の情景で
いくつもの水彩画を描き時を過ごした
けれども君が現れてから僕は
君の瞳に永遠の美しい太陽を見るようになったよ

I used 2 spend my time wondering why the war was here
And would change the day into the night
But now that U are mine, days and us remain the same
And from your eyes remains the only light
かつての僕はなぜ戦争が起きているのか
そして昼を夜に変えてしまうのか考え時を過ごした
だけど今君は僕のもの、昼と僕らは同じまま
そして君の瞳から唯一の光が灯るよ

In love with U I fell forever under your spell
La la la la la la la
君に恋に落ちて、僕は永遠に君の魔法にかけられた
ラ ラ ラ ラ ラ ラ ラ

All my days belongs 2 U cuz I would do everything 4 U
僕の日々は全て君のもの、僕は君のために何だってするのさ

Terrified by your lovin' power
Every minute, every happy hour
I spend my time loving U
君の愛の力に畏れを抱くよ
毎分、幸せな毎時間を
僕は君を愛しながら時を過ごすよ

Cuz of U, gone are my childhood fears
If not 4 U the dark would bring my tears
U and I 4 the rest we are... yeah
Makin' love 4 the rest of our summertime
4 the rest of our summertime, ooh yeah
Ooh yeah... oh yeah...
君のお陰で子供の頃の恐怖は何処かへ消えたよ
君がいなければ闇で僕は涙に濡れていた
君と僕は残りをずっと・・・そう
残りの僕らの夏をずっと睦み合いながら過ごす
残りの僕らの夏をずっと・・・そう

Terrified by your lovin' power
Every second, every minute, every hour
I spend my time loving U, oh
I spend my time loving U
I spend my time loving U, loving U
I spend my time loving U
I spend my time loving U
君の愛の力に畏れを抱くよ
毎秒、毎分、毎時間を
僕は君を愛しながら時を過ごすよ
僕は君を愛しながら時を過ごすよ
僕は君を愛しながら時を過ごすよ
僕は君を愛しながら時を過ごすよ
僕は君を愛しながら時を過ごすよ

Ooh
The color beautiful
So beautiful
I need U
Oh, ooh
その美しい色
とても美しい
僕には君が必要なのさ
ああ、ああ