アルバム「Webcome 2 America」から、3曲目の「Born 2 Die」を取り上げます。

それにしても、「Webcome 2 America」は素晴らしいアルバムです。とはいえ、一口に素晴らしいといってもこれまでの作品とは衝撃の質が違うと感じます。この点が上手くまとめられているレビューはないかと世の中のレビューに色々と目を通してみたのですが、それとは別に一部の批評を読んで少し気になるところがありました。それは、プリンスの批評における「プリンス不在問題」です。

そういった批評では、他人の名前を当てはめることで作品の説明が済まされ、まるでプリンスの存在がないかのように扱われます。今回のアルバムに関して Rolling Stone 誌などの批評からいくつか名前を拾うと、P ファンク、カーティス・メイフィールド、エルヴィス・コステロ風のビーチロック (オルガン入り)、ボン・ジョヴィ風パワーバラードのゴスペル R&B 再構築、それにスライ & ザ・ファミリー・ストーン等々、といった具合になります。

私にはこういった類の批評は、コーヒーに喩えるならば、容器に抽出されたコーヒーには口を付けずに、フィルタに残った粉の方だけをモソモソ食べるような滑稽な行為に映ります。別にフィルタに残った粉を吟味するのはいいのですが、味わうのはそっちじゃないだろうに、と思います。たとえどんなに他人の名前を足し合わせようとも、それがプリンスの作品になることは決してありません。それだけでは容器に注がれたコーヒーまで到達しないのです。


少しひねくれた前置きが入りましたが、今回の曲は「Born 2 Die」です。はい、あの二言目には「カーティス・メイフィールドみたいだ」と形容される曲です。実際にこれはカーティス・メイフィールドをインスピレーションに作られた曲で、YouTube の説明欄にもこの曲に関するエピソードが記載されています。そんな経緯から、私も「Superfly」などカーティス・メイフィールドの作品を色々と聴いてみました。しかし聴き比べた結果、私が強く感じたのは、「違う。スタイルは寄せているけれど、やっぱり違う」ということでした。確かにプリンスとしては色々と珍しい感じがする曲ですが、背景の情報を念頭に置いたうえでも、私がこの曲から第一に感じるのはあくまでもプリンスであることに変わりはありませんでした。

アルバム「Welcome 2 America」は全体的に落ち着いた曲が多く、女性ヴォーカルに主役を譲る場面もあり、プリンスの存在感が抑えられている面もありますが、それでもプリンスを強く感じさせるヴォーカルやサウンドが随所でみられます。この「Born 2 Die」では、まず第1ヴァースの「from the hustle of the streets」の後、ファルセットヴォーカルの間に突然「Oh oh」と地声レンジで悶えるような声が響き渡るところで私はドキリとします。似たような展開としては「Kiss」の第2ヴァースで「U can't be 2 flirty, mama, I know how 2 undress me」の後、急に地声になって「Yeah」と言うのを少し思い出しますが、この「Oh oh」はそれ以上に注意を惹きます。

kiss-yeah

続いて「That's when she lost her... virginity」と息を潜めながら言葉を発するところは、「Wasted Kisses」での「Small dark room / that's where I let U smother」の歌い方と重なります。曲の雰囲気や最後に人生の終わりを暗示させるようなダークな内容もこの曲と通じるところがあります。実際、私が「Born 2 Die」を聴いて真っ先に思い浮かべた曲は「Wasted Kisses」でした。

この曲の歌詞は一つのストーリーになっており、何やら違法な行為をして生きる女性が歌われます。曲を通して女性の名前は明かされません。最後、窓から転落する場面でもなお、皆が「彼女」と距離感のある呼び方をするのがストーリーの痛ましさを際立たせています。そして周囲が騒然とする中、「死ぬために生まれた」と「すべてがうまくいく」がバックで交互に繰り返されます。「Sign O' The Times」のコーラスで歌われるラインとも重なるように感じますが、情景がリアルに描写される中では、この繰り返しはとても不気味に響きます。

Some say a man ain't happy unless a man truly dies
人は本当に死なない限り幸せにはなれないと言う

タイトルの表現が繰り返される時点で不穏な印象を与え、ここまでダークな陰を持った曲はプリンスには珍しいように思うのですが、音楽そのものは耳に心地良く、不気味さと気持ち良さの間で感情が交錯します。普通の感覚ではお蔵入りにされたのが信じ難いほど音の作りも細やかに行き届いており、音を追いかけながら聴いても感嘆を覚えます。アルバムは非常に良くバランスが取れているため、この曲のダークさに作品全体のトーンが支配されるようなことはありませんが、アルバムの中でも存在感があり、間違いなく傑出した曲といえます。


Here she come
She's a bad girl
One hit and she'll get U high
彼女が来たよ
悪い女さ
一発で君をハイにする

Born 2 die (x6)
死ぬために生まれた
死ぬために生まれた
死ぬために生まれた

She sells everything from A 2 Z
Anything just 2 keep her free
From the, from the hustle of the streets
She left the church a long time ago
Said they couldn't teach
What they did not know
That's when she lost her virginity
彼女は何であろうとお構いなしに売る
ストリートの喧騒から免れるためなら
教会はとうの昔に去っている
あそこは自分達の知らない事は
教えられないからと彼女は言った
そして彼女は純潔を失った

Now she's pimpin' every vato
From New York 2 L.A.
Ask her why she do that thing
She says it's always been that way
Jump back Jack
U might be next
If U try 2 cut mama's cake
(What the deal, daddy?)
Ask her what the deal is
This is what she say
そして彼女は男を利用し渡り歩く
ニューヨークからLAへ
どうしてなのか訊いてみれば
いつだってそうだったからと言う
急いで離れた方がいい
ママのケーキに手を出せば
次は君になるかもしれない
「調子はどう、ダディ?」
どういうことかと言わせたら
彼女はこう言うのさ

Born 2 die, born 2 die
If U ain't livin' right
U know U're born 2 die
Better watch out
She getcha, getcha
So high, so high
U know everybody's getting
So high
(I gotta get my hustle on)
死ぬために、死ぬために生まれた
正しく生きていなければ
そう死ぬために生まれた
気を付けなよ
彼女は君をとことんハイにする
そう、誰もがハイになる
「頑張っていかなきゃ」

She runs six streets in Oakland
Clear down into Frisco Bay (Ooh)
Before she concerned if crime does pay
Ask her when
She saved from the first day
What she really needs is
2 get back 2 the truth
Before we up, before we go astray
Ask her what the deal is
(What the deal, daddy?)
This is what she'll say
彼女はオークランドを6区画
フリスコ・ベイまでシマにする
彼女に関する限り犯罪は儲かる
それも最初からだという
本当に彼女に必要なのは
真実に立ち戻ること
気付くと僕らが道を踏み外す前に
どういうことかと言わせたら
「調子はどう、ダディ?」
彼女はこう言うのさ

Born 2 die, born 2 die
If U ain't livin' right
U surely born 2 die (Getcha...)
Look out, getcha getcha
She'll getcha so high, so high
They say
Nothing good happens after midnight
Getcha, getcha so high
Bye-bye
死ぬために、死ぬために生まれた
正しく生きていなければ
そう、死ぬために生まれた
気を付けるんだね
彼女は君をとことんハイにする
真夜中過ぎればロクな事は起こらない
君をとことんハイにする
サヨナラ

Ah yeah
(Born 2 die)
Getcha, getcha
So, so high (x3)
Getcha, getcha
So high, so high
Getcha, getcha so high
Getcha, getcha
So high, so high

(Born 2 die)
Yo, what happened?
(Everything's gonna be alright)
Girl, she fell from third story window
What?
Yes
(Born 2 die)
Oh my God
Why is there always something going on
Honey, I don't know
(Everything's gonna be alright)
I think she'll be cool
But, oh my goodness, girl
Look at her
(Born 2 die)
Oh no
So sad
They're puttin' her on the gurney right now
I hope she'll be alright"
Where?
Does anybody know what happened?
Girl, she fell
She fell
(死ぬために生まれた)
ねえ何が起きたの?
(すべてがうまくいくわ)
彼女が3階の窓から落ちたの
なんですって!
そうなのよ
(死ぬために生まれた)
なんてことなの
何でこんなことばかり起きるんだろう
(すべてがうまくいくわ)
大事に至らないといいけど
ああ、なんてことなの
ねえ見てよ
(死ぬために生まれた)
ああ
可哀想に
今担架に乗せられてるわ
大丈夫だといいんだけど
どこなの?
何が起きたの?
彼女が落ちたのよ
彼女が落ちたの