「1999 Super Deluxe」には、「Rearrange」や「Bold Generation」といったザ・タイム用に書かれたのではないかと推測されるファンキーで強力な曲が収録されています。これまでタイトルすら世に知られていなかった未発表音源にこれほど凄い曲が潜んでいたことに、私は二重に驚かされました。これほどの曲がどうしてザ・タイムの1982年のアルバム「What Time Is It?」に収録されなかったのでしょうか? 理由は複数考えられますが、その一つを考えるにあたって、このアルバムから1曲「777-9311」を取り上げることにします。

「777-9311」はザ・タイムの1982年のアルバム「What Time Is It?」に収録されている曲です。Billboard Hot Black Singles で3週トップ2と、ヒットも記録しました。名実共にアルバムのメインディッシュと言える曲です。

と、このようにシングルチャートで2位を獲ったという紹介の仕方をすると、この曲はメガヒットしたかような印象を与えるかもしれません。ですがもしそのように思われたならそれは誤解です。確かにこの「777-9311」は割と有名な曲だったりするのですが、その理由はこの曲が持つ独特な特徴のためであり、この曲がヒットしたからではありません。そしてこの曲はブラックチャートでは成功を収めた一方で、Billboard Hot 100 Singles では88位にとどまりました。つまりこの曲は、チャートの2位という言葉から想像されるような、世の中で広く耳に届けられたヒット曲、というわけではありません。

これに関連して、お馴染みの The Current の Prince: The Story of 1999 ポッドキャストシリーズから、ほんの少しだけですが一部翻訳して紹介します。ボーナスフィーチャーのリサ・コールマンのインタビューで、最後の質問の部分です。当時の音楽シーンの分断や、その中でプリンスが起こした変化についての話です。

インタビュアー (アンドレア・スウェンソン、Andrea Swensson): 時間を割いてこのインタビューに応じてくれたことを本当に嬉しく思います。あなたを解放する前に最後にもう一つ質問をさせてください。この時期のことで聞きたいことがあるんです。1983年の初め頃、1999 ツアー後半に当たる時期になると思うんですが、突然にシングルがトップ10に入り、ラジオで流れ、そしてプリンスやあなたがMTVに姿を見せるようになりました。それはあなたにとってどのような感覚でしたか?

リサ・コールマン: そうね、正直に言うと、あれはムカツいたわ。なぜならMTVで流れるというのは本当に難しいことだったから。最初の頃、あれは本当に馬鹿みたいだったのよ。「ミュージック・テレビジョン」と銘打っておきながら、あれは白人のものだったから。本当によ! せいぜい5つくらいのビデオが繰り返し流れるだけで、それも出てくるのはどれも長髪の白人で構成されたバンドばっかり。私達はどんなことをやろうとも相手にされない場所だった。それで遂に私達も流れるようになったんだけど、「やったあイェイ!」とはならなかったわ。「ファ××・ユー!」よ (笑)。まあ私の中の活動家精神が刺激されたわけね。「やった、私達もMTVに流れたわ。どうもありがとうございません」という感じだったわね。

アンドレア・スウェンソン: それはラジオでも同じような状況だったのでしょうか? というのも、当時はまだ非常に隔離されていて、プリンスの初期の作品はR&Bチャートで扱われるだけでしたから。ずっとトップ40ラジオから無視される状況で、その、刺されたナイフでさらにぐりぐりさせられるみたいな、嫌なことはあったのでしょうか?

リサ・コールマン: それはもちろんよ。フラストレーションや怒りを感じずにはいられない状況だった。そこでクロスオーバーというアイデアが出てくるわけよね。どうして肌の色が黒いというだけでロックをやってはいけないの? あとはベースパートが違うとか。あの「When Doves Cry」ですら、ベースが入っていないという理由でR&Bラジオではオンエアが拒否される状況だった。何で?って感じよ。

そのような全くおかしな状況がずっと続いていたのよ。権力を持つ地位に就いている人達は、世の人々が望むものや商業的に適切なものが何であるかについて色んな前提をつけるから、私達がまともにラジオでオンエアされるようになるまでに、つまりプリンスの音楽がより多くの人々の耳の届くようになるまでにとても長い時間がかかったのよ。単純な話、プリンスという名前のミュージシャンがいて、彼は曲が書けて、バンドも持ってる。それに何だかクールだ。それのどこに政治的なインパクトがあるの?ということね。だけど面白いことに、そこには大きな政治的インパクトがあったわ。ラジオは変わらざるをえなくなったし、沢山のことが起きた。私達は思いがけず偶然に活動家になったようなものね。けれどもそれは偶然というわけではなかった。それはまさに私達がやってたことそのものだったから。それは壁を壊していくようなものだったわ。やれ白人のラジオだとか黒人のラジオだとか、くだらないものだわ。人々はただ音楽が好きなだけでしょう? それが良いものだったら、それが好きだっら、ただそれでいいのよ。だから、あるべきものはただミュージックステーションでいいのよ。ブラックミュージックステーションじゃなくてね。「こちらはブラックフードが好きな人のためのブラックレストランです」みたいなのはおかしいでしょう?

問題は今も続いているし、今後もずっと続いていくんでしょうね。まあ、ずっとということはないのかもしれないけれど、これはどこまで行ってもいくらかは付いて回るものだから。だから、私達が初期の活動でいくつかのルールを壊し、変化を起こしたことについて、私は本当に誇りに感じているわ。プリンスは、彼は平和の王子様ね。そして私達はそのために仕えた。だから、プリンスに乾杯ね。

思い起こせば私が「Diamonds And Pearls」でプリンスを聴くようになった中学生の頃、プリンスのCDを探しに近所の大きなツタヤに行ったのに、なかなか見つからなくて苦労したことがあります。何も知らない私は、洋楽のロック・ポップスのセクションでプリンスの名前を一生懸命探していたのです。有名なアーティストなはずなのにおかしいなと思っていたら、何のことはない、今はこういう呼び方をしないと思いますがブラック・コンテンポラリーとかいうセクションが別にあって、そこにプリンスの名前がありました。へぇ、プリンスってカテゴライズするとロックやポップではなくブラック・コンテンポラリーと呼ばれるのか、とは当然納得できず、理解に苦しんだ記憶があります。


さて、「777-9311」は楽曲としては1拍目から微妙に遅れて楽器演奏が入るのと、ハイハットが複雑に刻まれるドラムパターンが特徴的な曲です。このドラムパターンは Tower of Power の David Garibaldi によりプログラムされたもので、リンドラムのストックビートだったという話らしいのですが、このドラムパターンは非常に難易度が高く、時には生身の人間には不可能だと言われたりもすることで有名です。また、プリンスのドラマーとしても活躍した故ジョン・ブラックウェルは、このドラムビートを見事にやってみせたことでプリンスに認められた、という話をどこかで目にしたことがあります。

「777-9311」というタイトルは、デズ・ディッカーソンの自宅の当時の電話番号です。「Rearrange」の歌詞ではありませんが、この曲のせいでデズは電話番号を変えるはめになりまた。

Rearrange your brain
Dial a brand new number
脳みそをリアレンジするんだ
新しい番号をダイヤルしよう

そして歌詞を見てみると、これはまあモーリス・デイにぴったりの内容です。基本的に、ザ・タイムにあまりメッセージ性の強い曲はありません。ザ・タイムはプリンスからファンク成分を抜き出したようなバンドであり、クールでファンキーで華があれば良く、音楽シーンや社会を分断する壁を壊すまでの役割は求められていませんでした。クロスオーバーな音楽を作り、壁を壊すのはプリンスやリサ達の役目でした。ちなみに、プリンスやリサ達は、マネジメントからもお前達はファンクバンドじゃないと言われ、当時はストレートなファンクはやりたくてもできなかったようです。

とにかく、「777-9311」や「The Walk」、それに「Gigolos Get Lonely Too」などが入ったアルバムに、「Rearrange」や「Bold Generation」のような曲が入ったら、それだけでアルバムのパワーバランスが引っくり返って作品のコンセプトが変わってしまいます。「Rearrange」や「Bold Generation」が「What Time Is It?」に入らなかった理由は、楽曲の音楽的なアイデアをプリンス自身が使いたかったからとか、ボーカルが少々難しそうだったからとか、他にも色々考えられるかもしれませんが、メッセージ性が強すぎて入れられなかったというのもあるのではないかと個人的には思います。

下にリンクしたのは当時のテレビ出演でのパフォーマンスのようですがとてもファンキーでクールです。同時にプリンスとは明確に方向性が違うんだな、というのも感じます。


[Verse 1]
Baby, what's your phone number?
I know I'm kinda fast, but I hate 2 waste time
Baby, what's your phone number?
Girl, I have 2 ask 'cause you're so fine
ベイビー、君の電話番号は何だい?
気が早いのは分かってるが俺は時間の無駄が嫌いでね
ベイビー、君の電話番号は何だい?
君はとても素敵だから聞かずにはいられないのさ

[Chorus]
777-9311
I wanna spend the night with U if that's alright
777-9311
Ooh baby, please can I come tonight?
777−9311
もし良かったら君と一夜を共にしたいんだ
777−9311
ベイビー、今夜行ってもいいかい?

[Verse 2]
Baby, what's your phone number?
How can U be reached on a lonely night?
Baby, what's your phone number?
How can I get into U when I'm feeling right?
ベイビー、君の電話番号は何だい?
どうしたら孤独な夜に君と連絡がつくんだい?
ベイビー、君の電話番号は何だい?
どうしたら頃合いの良い時に君と繋がれるんだい?

[Chorus]
777-9311
I wanna spend the night with U if that's alright
777-9311
Ooh baby, please can I come tonight?
777−9311
もし良かったら君と一夜を共にしたいんだ
777−9311
ベイビー、今夜行ってもいいかい?

Jellybean
ジェリービーン

[Interlude]
Ain't nothin' worse than rejection
I'd feel a little better if you'd slapped my face
拒絶よりも最悪なものはないね
俺を頬をぶってくれればまだ気が晴れるね

[Verse 3]
Hey, what's your phone number?
Can't U see the agony I'm goin' through?
Baby, what's your phone number?
Girl, it's getting hard, baby, won't U let me love you?
ベイビー、君の電話番号は何だい?
俺が苛まれているこの苦悶が分からないのかい?
ベイビー、君の電話番号は何だい?
もう抑えるのは難しいんだ、君を愛させてくれ

[Chorus]
777-9311
I wanna spend the night with U if that's alright
777-9311
Ooh baby, please can I come tonight?
777−9311
もし良かったら君と一夜を共にしたいんだ
777−9311
ベイビー、今夜行ってもいいかい?

[Bridge]
Hey baby, what's your phone number?
I know it sounds fast, but I ain't got all night...
Come on baby, what's your phone number?
U know I got 2 be cooler than this cat you're sittin' with
I'll do U right, baby
Come on!
Come on!
Come on! (Nah!)
Come on! (Yeah...)
ベイビー、君の電話番号は何だい?
気が早いのは分かるが一晩中こうしてるわけにはいかないんだ
ベイビー、君の電話番号は何だい?
今一緒に座ってる奴より俺の方がクールだって分かってるんだろう
後悔はさせないよ、ベイビー
さあ!
さあ!
さあ!
さあ!

[Chorus]
777-9311
I wanna spend the night with U if that's alright
777-9311
Ooh baby, please can I come tonight?
777−9311
もし良かったら君と一夜を共にしたいんだ
777−9311
ベイビー、今夜行ってもいいかい?

[Outro]
Come tonight, if it's alright
Honey, please can I come tonight?
Can't U see what I'm gonna do?
I wanna do it tonight, baby
I wanna do it 2 you
今夜行ってもいいかい?
ベイビー、今夜行ってもいいかい?
俺のしようとしてることは分からないかい?
俺は今夜したいんだ
君としたいんだ

It's on fire, U burn me out
It's getting higher, U know what I'm talkin' about
Help me out, good Lord above!
Marry me, girl, give me some of that love...
燃えているんだ、君は俺を燃やしてしまう
どんどん高まっていく、何を言ってるか分かるだろう
どうすればいいのさ、なんてこった
もう結婚してくれよ、その愛が少し欲しいんだ

Terry
テリー