プリンスの殆どの楽曲は、一旦その世界に入り込むと「これはプリンスの最高傑作ではないか?」と感じてしまうほどの深みと広がりを持っています。しかしプリンスの楽曲には、こういった無数の「最高傑作」の中でもさらに特別な格を持つものが存在します。例を挙げると「Controversy」、「When Doves Cry」、「Purple Rain」、「Sign O' The Times」、「Diamonds And Pearls」といった、傑出したアルバム作品の中にあってさらに代表的存在として君臨するような曲です。

今回取り上げる「1999」もまた、そういった特別な格を持ったプリンスの楽曲の一つです。

  • ひたすらファンキーでありながら、どこまでもポップな音楽
  • 破滅への暗示を含みながら、人生に前向きな力を与える音楽
  • 表面的には単調なのに、よく聴くと驚異的に繊細な技巧が凝らされた音楽
  • 親しみやすさを覚えるのに、他の誰とも違う不思議な音楽

「1999」とは、このように一見両立が不可能に思えるものを奇跡のような高い次元で調和させた、唯一無二の「プリンス」という音楽のエッセンスが詰まった偉大な曲です。


「1999」は楽曲としての偉大さが傑出しているだけに、それに見合った適切な説明をするのが非常に難しい曲です。

少し私の話をすると、「1999」は理解不足のために第一印象で大きな肩透かしを喰らった曲でもあります。その度合いは「Kiss」や「Bob George」と並ぶほどで、「1999」と併せてこれらは私の「三大第一印象で肩透かしを喰らったソング」としています。

私がこの曲を初めて聴いたのは中学生の頃だったと思います。アルバム「1999」はプリンスの代表作の一つであるため、私は1991年の「Diamonds And Pearls」でプリンスを聴くようになって割と早い段階でこの作品を聴きました。しかし、プリンスがブレイクスルーを果たしたアルバムのタイトルトラックだという以外、碌な前提知識を持たなかった私にとって、初めて聴いた「1999」は期待とはかけ離れた曲でした。ファンクという音楽の聴き方を知らなかった私は、この曲をどう聴けば良いのか分からず、落胆を覚えました。

当時の私が親しみを持って聴くことができたのは、「Little Red Corvette」のようなロック的、あるいは邦楽ポップス的な展開を持つ曲でした。期待を膨らませる魅惑的なイントロに、膨らんだ期待をさらに盛り上げるヴァース、そして全てが最高潮に達するコーラス/サビ。さらには空いた隙間を埋める熱いギターソロ。ジェットコースターのように感情を動かしてくれる「Little Red Corvette」と比べたら、「1999」はまるで平坦な道をトコトコ進むトロッコのような退屈な曲に感じられました。そして後にヌードツアーのテンポの速い「1999」を聴いて、これはずいぶん速いトロッコだなあと思ったりしました。

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要するに、当時の私は「1999」の土台にファンクがあることを理解していませんでした。「1999」のコーラス/サビが持つ使命はそれまでに積み重ねられたグルーヴを次へと橋渡しすることであり、ジェットコースターのような急展開は、土台にロックを置いた「Little Red Corvette」では効果的でこそあれ、ファンクではレールを外してしまい、逆にせっかく積み重ねたグルーヴを殺しかねないということを当時の私は知りませんでした。それなのに私は、来るはずもないジェットコースターの急降下を求めて、それがいつ来るのかと待ち構えるだけの頓珍漢な聴き方をしていたのです。

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「1999」の曲については、The Current の Prince: The Story of 1999 ポッドキャストで様々なバンドメンバーや関係者が当時の回想や制作過程の具体的な話を語っています。どれを引用するか悩ましいのですが、その中でデズ・ディッカーソンのインタビューを一部抜粋して以下に翻訳しました。

アンドレア・スウェンソン: さて、「1999」を単体のアルバムとして考えて、プリンスのキャリアのこの瞬間を振り返った時、あのアルバムのサウンドは言葉ではどのように説明できるでしょうか?

デズ・ディッカーソン: そうだな、まず第一に思うのは、プリンスはこのゲームの生粋の学徒だったということかな。プリンスは信じられないくらいインスピレーションに溢れ、アイデアを自然に生み出すことができた一方で、良い意味で非常に計算高くもあった。プリンスは制作を進めながら同時に様々なことを学んでいったんだ。

プリンスは、ファーストアルバムでは大胆にかつて誰もやらなかったことをやろうとした。次のセカンドアルバムでは、レコード会社からヒット作を出すようプレッシャーに晒された。そういったことを経て「1999」が出る頃までには、そうだな、NFLのクォーターバックになぞらえると、5年間選手をやってきて、落ち着いた状況判断が可能になり、何かが起こる前に実際に物事がどうなるか予めはっきりと見えてくるようになった。「1999」の頃までにプリンスはそういう状態になっていたんだ。だからあのレコードは卓越したコンビネーションのたまものなんだ。ファンクの要素があり、けれどもポップの要素もあり、フックもあり、プリンス独自と言えるまでにユニークなものがあった。プリンスは実際に俺にこう言ったんだ。どのレコードにも、どの曲でも使うようなサウンドを必ず一つ入れる。それがプリンスが持っていたモチーフの一つだった。あのレコードはこれら全てが集約されたもので、プリンスが到達した一つの極みと言っていいだろうね。

アンドレア・スウェンソン: そのサウンドというものは何でしょうか? LinnDrum ですか?

デズ・ディッカーソン: そうだね、結果的に LinnDrum はその一部になったね。他のレコードにはないもの、「1999」を例に挙げると、「プシュ〜」といった、あの電子パーカッションの音がある。実際に聴いてみると、あの音はレコードのいたる所に入ってるのが分かるはずだよ。

ある時プリンスが俺に言ったことがあるんだ。これはもちろん Pro Tools やら何やらが登場する以前の話だけど、たまに技術的なミスが発生したけれどもそのテイクは取っておきたいっていうことがあるんだ。それでプリンスはこう言ったんだ。「いいかい、あるトラックを取っておきたいけれども、それに聴かれたくないマズい箇所がある場合、そこに爆発音を被せちゃえばいいんだよ」。これでプリンスのスタジオセッションの秘密をばらしちゃったね。ミスをしたら爆発音で被せるんだ。それでオッケーさ。

アンドレア・スウェンソン: これまでとは聴き方が変わってしまいました (笑)。

デズ・ディッカーソン: そういうこと。ジョージ・クリントンは「ナーサリーライムを入れない限りファンキーにはならない」と言ったけれど、プリンスはこう言ったのさ。「爆発音を入れちゃえ」ってね。

アンドレア・スウェンソン: いい話です。私が疑問に思っていたことはまだあります。それは、「1999」のサウンドを、いわゆるミネアポリス・サウンドとして意識していたかということです。

デズ・ディッカーソン: もちろん俺たちはそれをミネアポリス・サウンドとは呼ばなかったね。プリンスもそうは呼ばなかった。他の人々がミネアポリス・サウンドと呼んだんだ。ミネアポリス・サウンドとは、プリンスがやっていたことや、俺たちがやっていたこと、そしてプリンスが周囲の人間たちから吸収していったものから発展して出来たサウンドのことだね。

ミネアポリス・サウンドの一部は、プリンスの周囲の全てを吸収する能力と共に作られたものだ。最高のものは残し、上手くいかないものは切り捨てながらね。LinnDrum とポリリズム、それにシンセでホーンをシミュレートする Oberheim の OB-8、俺にとってはそれがミネアポリス・サウンドさ。だけどプリンスはそれをもっとポップなモチーフでやる方法を見出したんだ。例えば「1999」の曲は、もちろんあのリズミックなノリとホーンのスタブがあるね。だけど、殆ど呆れるくらいの純粋なポップで、突き抜けてポップなんだ。それでいて同時に世界の破滅への暗示を感じさせる。プリンスはそういうスイート・スポットを突き当てたのさ。


「1999」の曲についてはプリンス自身もインタビューで語っています。1999年の Larry King Live のインタビューから該当部分を翻訳しました。リンクの動画で18分13秒からです。

ラリー・キング: 「1999」という曲はどのようにして生まれたのか教えてください。1980…2年? その時あなたが考えていたことは何でしょう?

ジ・アーティスト (プリンス): 1982年ですね、あれを書いたのは。1999年に関する (ノストラダムスの) 特別番組があって、皆の間でその年に何が起こるのかとあれこれ憶測が飛び交っていました。それで本当に皮肉だなと思ったんですが、自分の周りで楽観的だと思っていた人々までもがその日が訪れるのを怖がっていたんです。ですがいつだって私にとって問題にはならないだろうと分かっていました。過酷な時代が訪れるだろうとは全く感じなかったんです。確かにこのシステムはエントロピーに基づいていますから、それがある方向に進んで行き、地球において過酷な時代が来ることもあろうというのはありました。だから私は何か人々に希望を与えるものが書きたかったんです。そして人々はそれを聴いてくれました。私たちが世界のどこにいようとも、私は同じような反応を得られるんです。

ラリー・キング: ディック・クラークはあれをミレニアムの偉大な10曲の一つに選びました。

ジ・アーティスト: そうですか。

ラリー・キング:ミレニアムの偉大なレコードに。この作品がこれほど予言的であると共に、これほどの成功を収めるとは予測がつきましたか?

ジ・アーティスト: 傲慢ぶるわけではありませんが、あれは制作に取り組んでいるリハーサルの最中だったんです。あの曲をスライ&ザ・ファミリー・ストーンにように3パートのハーモニーで歌うことにしたのは。最初は皆で集まって歌い始めたんですが納得のいくものにならなかったんです。それでやったのは、「オーケー、君は最初のパートのハーモニーを歌って。君は2番目のパートのハーモニーを歌って。僕は3番目のパートのハーモニーを歌うよ」っていう具合に分割したんです。そして皆をそれぞれのパートに分けて分割して歌うようにした時点で、これはとても特別な作品になると確信しました。


「1999」は、他のアーティストへの影響という面でも偉大な楽曲です。特にシンセのリフの存在が大きく、有名なところではフィル・コリンズの「Sussudio」(1985年) でよく似たシンセのリフが使われており、フィル・コリンズ本人も類似性を認めています。また、ヴァン・ヘイレンの「Jump」(1984年) にも、「1999」っぽい存在感のシンセがあり、ついでにメロディは「Dirty Mind」にも似ています。ちなみに「1999」のリフのメロディは The Mamas & The Papas の「Monday, Monday」(1966年) からのインスピレーションだろうと思われます。プリンスは「1999」のヴァースメロディを使って「Manic Monday」という似たタイトルの曲を書いたことも、暗に「Monday, Monday」からのインスピレーションを示しているように思われます。

これに関連して最近初めて知ったのですが、「1999」はマイケル・ジャクソンの「Thriller」にも影響を及ぼしたという話もあるようです。「Thriller」のシンセサイザー奏者の話です。(Telegraph | Monster budgets, visits from Jackie Onassis, and a very angry Vincent Price: how Michael Jackson made Thriller)

Brian Banks (synthesizers): It was late in the evening one night when we were working, and Quincy came to us. We all knew how 'Thriller' was going – they were trying to get Vincent Price, they were doing all this stuff – but he wanted this huge chord sequence.
あれは制作に取り組んでいたある夜のことで、クインシー・ジョーンズがやって来たんだ。我々は皆「Thriller」のことを知っていた。ヴィンセント・プライスに (ナレーションを) 依頼して、色々進めていたんだ。だけどクインシーはあのデカいコードシーケンスが欲しかったんだ。

He said, "There's this sound that I've got in my head. There's this underground, this new artist, that nobody's ever really heard of but he's great, he's hot, he's got this great song." And he pulled out the album and it was Prince, '1999'. And you know the opening sound on that? Duh-da da, dur-duh-duh? Well, that was the sound – that big, bitey chord sound at the opening of '1999' – he wanted that, but bigger, for 'Thriller'."
クインシーは言ったよ。「俺の頭の中にあるのはこのサウンドなんだ。このアンダーグラウンドの新しいアーティストだ。まだ誰もよく聞いたことがないがこいつは凄い奴だ。奴はホットでこんな凄い曲を作ってる」。そしてクインシーが取り出したのはプリンスのアルバム「1999」だった。オープニングのサウンドは知ってるよね? ダッダー、ダーダーダーって。あれがそのサウンドだよ。あの「1999」のオープニングの、デカい、噛み付くようなコードサウンド。クインシーはあれを欲しがったんだ。だけど、「Thriller」にはあれよりもっとデカいやつをに入れろってね。

「1999」のアルバムリリースは1982年10月27日 (「1999」のシングルリリースは9月24日) で、「Thriller」のレコーディングセッションの完了は1982年11月8日ということなので、時系列的にも納得できる話です。「Thriller」は元々あった「Starlight」という曲をボツにして、それを作り直して出来た曲です。「Starlight」は YouTube などでも音源を聴くことができますが、メロディは「Thriller」と同じながらも全体的に抑制された感じで、インパクトは「Thriller」の方が格段に向上しています。

「Thriller」と「1999」の類似性なんて考えたこともなかったのですが、「Why U Love 2 Listen 2 Prince (with Anil Dash)」というポッドキャストを検索してもらうと、その11分20秒あたりで両曲のオープニングで響くシンセの厚い壁の聴き比べがあります (Google 検索)。この聴き比べを聴くと、その類似性に驚くかもしれません。いったん聴くと、もう「Thriller」を「1999」と切り離すことは不可能になります。


Don't worry, I won't hurt U
I only want U 2 have some fun
心配しないで、ボクは危害を加える者じゃない
ボクはただ、キミに楽しんで欲しいんだ

I was dreamin' when I wrote this
Forgive me if it goes astray
But when I woke up this morning
Could've sworn it was judgment day
The sky was all purple
There were people runnin' everywhere
Tryin' 2 run from the destruction
U know I didn't even care
これを書いた時は夢の中だったんだ
おかしな歌になっても許してくれよ
だけど今日の朝起きてみたらそれは
さながら最後の審判の日だったのさ
空は一面が紫色に染まり
人々はいたる所で逃げ惑っている
何とか破滅から逃れようとね
けれどもほら、僕は全然お構いなしさ

Cuz they say 2000 zero zero, party over, oops, out of time
So tonight I'm gonna party like it's 1999
だってどうやら2000年でパーティは終わり、おっと時間切れさ
だから今夜は1999年みたいにパーティするんだ

I was dreamin' when I wrote this
So sue me if I go 2 fast
But life is just a party
And parties weren't meant 2 last
War is all around us
My mind says prepare 2 fight
So if I gotta die
I'm gonna listen 2 my body tonight
Yeah
これを書いた時は夢の中だったんだ
速くやりすぎたら訴えてくれよ
だけど人生なんてただのパーティ
パーティはいつかは終わるもの
戦争はそこかしこで起こり
頭の声は戦う準備をと言ってくる
だからどうせ死んでしまうのならば
今夜は肉体に耳を傾けるのさ

They say 2000 zero zero, party over, oops, out of time
So tonight I'm gonna party like it's 1999
Yeah
だってどうやら2000年でパーティは終わり、おっと時間切れさ
だから今夜は1999年みたいにパーティするんだ

People, let me tell ya somethin'...
If U didn't come 2 party
Don't bother knockin' on my door
I got a lion in my pocket
and, baby, he's ready 2 roar
Yeah
もしパーティしに来たんじゃなかったら
ドアをノックする必要はないよ
僕のポケットにはライオンがいるのさ
そいつは吠えたくてウズウズしてる

Everybody's got a bomb
We could all die any day
Oh
But before I'll let that happen
I'll dance my life away
Oh
僕らはみんな爆弾を抱えてる
いつだって死ぬ可能性を抱えてる
ああ
だけどそんな事が起きる前に
僕はこの人生を踊り明かすのさ

They say 2000 zero zero, party over, oops, out of time
We're runnin' outta time
So tonight we're gonna, we're gonna... oh!
(Tonight I'm gonna party like it's 1999)
だってどうやら2000年でパーティは終わり、おっと時間切れさ
だから今夜は1999年みたいにパーティするんだ

Say it one more time
2000 zero zero, party over, oops, out of time
No, no
So tonight we're gonna, we gonna... whoo!
(Tonight I'm gonna party like it's 1999)
Alright, 1999
U say, 1999
Ooh, 1999
Ooh, 1999
もう一回歌おう
だってどうやら2000年でパーティは終わり、おっと時間切れさ
だから今夜は1999年みたいにパーティするんだ

Don't stop, don't stop, say it one more time
2000 zero zero, party over, oops, out of time
Yeah
So tonight we gon', we're gonna... whoo!
(Tonight I'm gonna party like it's 1999)
止めないで、止めないで、もう一回歌おう
だってどうやら2000年でパーティは終わり、おっと時間切れさ
だから今夜は1999年みたいにパーティするんだ

1999
Don't U wanna go? (1999)
Don't U wanna go? (1999)
Ooh
We could all die any day (1999)
I don't wanna die
I'd rather dance my life away (1999)
Listen 2 what I'm tryin' 2 say
Everybody, everybody say party
C'mon now, U say party
That's right, everybody say party
U can't run from the revelation, no (Party)
Sing it 4 your nation, y'all (Party)
Dreamin' when U're singin, baby (Party)
So the telephone's-a-ringin', mama (Party)
C'mon, c'mon, U say party
Everybody 2 times (Party)
Work this joint 2 the ground, now say it (Party)
Ooh (Party)
Oh, take my body, baby (Party)
That's right, c'mon, sing the song (Party)
Yeah (Party)
That's right, everybody say party
I got a lion in my pocket, mama, say party
Oh and he's ready 2 roar (Party)
Yeah!
1999
行きたくないかい?
行きたくないかい?
僕らはいつだって死ぬ可能性を抱えてる
僕は死にたくはない
だからこの人生を踊り明かすのさ
僕の言うことを聴いてくれ
みんな言うんだ、パーティ
さあ言うんだ、パーティ
誰も黙示録から逃れることはできない
祖国のために歌おう
夢の中で歌うんだ
電話が鳴ってるよ
さあ言うんだ、パーティ
このジョイントをやり切るんだ
僕のポケットにはライオンがいるのさ
そいつは吠えたくてウズウズしてる

Mommy, why does everybody have a bomb?
Mommy, why does everybody have a bomb?
ママー、どうしてみんな爆弾を持ってるの?
ママー、どうしてみんな爆弾を持ってるの?