昔の話です。

私は昔から全体的にパワーがなく、スクワットもデッドリフトもしょぼい重量しか挙げることができませんでした。そのため、パワーリフターのような凄い重量を扱いたいという思いは、トレーニングを始めて早々に諦めることになりました。

しかし、そんな私でもバーベルベンチプレスだけは特別でした。もう10年くらい前の話ですが、30歳くらいになってもこの種目だけは男のロマンで重量を伸ばそうと頑張っていました。当時扱っていた重量は、かなり頑張って 115kg が数レップ程度でした。私はこの重量で軽々セットができない自分に納得できず、無理やり最大セット重量を 115kg〜120kg にしてトレーニングを続けていました。

そんなある日、最大重量セットのベンチプレスで、最初のレップでバーを切り返すと、左胸の付け根が「ぺりっ」となりました。実際に音が出るほどのものではなかったと思いますが、胸の付け根あたりで「ぺりっ」と引き裂かれる感覚がしました。挙上しながらの出来事だったのでバーを挙げ切ることはできましたが、とても以降のセットができる状態ではありませんでした。フライなど他の種目を試そうとしても痛みで行うことができず、その日のトレーニングは諦めるしかありませんでした。

やがて状態が回復して、また全力でトレーニングできるようになりました。相変わらずベンチプレスの重量に納得がいかない私は、また無理やり最大セット重量を 115kg〜120kg にしてトレーニングをするようになりました。そしてある日、またしても「ぺりっ」となりました。

やがて、また状態が回復して全力でトレーニングできるようになり - (中略) - 「ぺりっ」となりました。

ついに私は学習し、このような無茶なやり方でのベンチプレスはもうやめよう、という結論に至りました。というか、左胸の付け根に違和感が残ってしまい、そのようなトレーニングはやりたいと思ってもできなくなりました。

私の場合、絶対的な重量が大したものではなかったためか、幸いなことに「ぺりっ」となっても痛みが出るだけで、完全に切れることも内出血を起こすこともありませんでした。そのため最初は断裂だとは思わなかったのですが、今になって考えると、どうやら軽い筋断裂を繰り返していたのだと思います。

それにしても、ジムで凄い重量のベンチプレスをする人を見るにつけて、そういう人達は私とは違うのだと感じます。まず、そういう人達は体の厚みが違います。フルレンジであってもバーのボトムポジションが高いので、あまり危ない感じがしません。それに、人によっては筋量だけでなく体の構造が根本的に違うのではないか、と感じることもあります。

あとは、凄い重量を扱っていても、レップレンジをパーシャルに留めて、単純に下まで降ろさずにベンチプレスをする人もよく見ます。個人的にはそこまでして高重量のベンチプレスをしたいものかと思いますが、私のように怪我をするよりは賢い選択かもしれません。


ベンチプレスでの大胸筋断裂は割と起こりうるアクシデントです。私のように 100kg ちょっとの重量でもこのアクシデントは起こるようで、一般トレーニーでもこの話は見聞きします。また、この怪我を避けるため、高重量のベンチプレスは行わないというボディビルダーの話もよく聞きます。

実際にベンチプレスで筋断裂した経験があるボディビルダーというと、私にはぱっと思い浮かぶ人が二人います。

ひとりは、Alexander Fedorov というロシアのボディビルダーです。少々昔の話で恐縮なのですが、この人については、2003年のロシアでのコンテストで、全盛期の Ronnie Conleman や Jay Cutler と互角のバルクでステージに立つ写真を見て驚いた記憶があります。それらの写真は、一部から Alexander Fedorov は Next Ronnie Coleman か?という声が出るくらいのインパクトがありました。

しかし、残念なことに、この人には致命的な弱点がありました。ベンチプレスでの筋断裂により、右胸が著しく萎縮してしまっていたのです。この人はベンチプレスでキャリアを潰してしまった勿体ないボディビルダーです。もしこの怪我がなかったら、本当に Ronnie Coleman の次にこの人の時代が来ていたかもしれません。この人は最近コンテストに復帰しているので、まだ過去の人にするのは早いのですが、ボディビルの「たられば」をくすぐる人物だと思います。

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そしてもうひとりは有名なビルダーで Kevin Levrone です。というか、びっくりしたんですけど、この人は9月の Mr. Olympia に出場するんですね。にわかには信じがたいのですが、これを書きながらふと検索したら、カムバックの情報があって驚きました。今のビルダー達と並んで立ったらどうなるんでしょう?ちょっと楽しみです。