最近、自分のトレーニングはルーティンを変更して、スクワット、ベンチプレス、デッドリフトを組み入れています。ルーティンを変更した元々の理由は、持病の腰椎分離症による腰痛を日常生活で悪化させてしまったので、体幹を補強して腰痛を和らげるためだったのですが、いざやり始めるとこの3種目ってやっぱり面白いものだと改めて感じます。前回、スクワット、ベンチプレス、デッドリフトがなんちゃらという記事を投稿しましたが、それはこのトレーニング内容の変更を切っ掛けに書こうと思ったものです。

しかし、楽しんでトレーニングしてはいるものの、腰の問題を差し引いても私はかなりショボイ重量しか挙げることができません。このように、思ったよりも重量が挙がらないという悩みを持っているのは私だけではないと思います。高重量を見せつけたいというエゴを棄てて誤魔化さずに挙上すると、自分の願望よりも低い重量しか挙げられずにガッカリだという人は多いのではないでしょうか。

そこで「今よりももっと強くなりたい」という思いがあれば、これらの種目を伸ばすために努力をするものです。しかし残念なことに、世の中は役に立たない情報で溢れています。正しい方向に向かって努力できるように自分を導いてくれるような適切なアドバイスは、得るのが難しくとても貴重なものです。

そんな中でも私が特に役に立たないと思うアドバイスの筆頭は、「柔軟性が足りないから~」とか「筋力バランスが悪いから~」といったものです。アドバイスでこういった類のことしか言えないという場合、指導する本人が正しいデッドリフトやスクワットやベンチプレスを知らないのだと考えて間違いありません。私は今腰の状態が悪く、前屈で指先が膝までしか届かない状態なのですが、デッドリフトもスクワットも動作上の問題は全くありません。ベルトも別に必要なものではないので着けていません。弱いので扱う重量はかなり軽いのですが充実したトレーニングができています。もしうまく動作できないのだとしたら、それは柔軟性や筋力バランスの問題ではなく、単純に各種目が何をするものなのか理解しておらず、体をどう動かしたらよいのかを知らないというだけのことです。

とにかく世の中そんなどうしようもない情報ばかりなので、その分野に精通した人による踏み込んだ詳しいアドバイスがあると「おっ」となります。そういったアドバイスでは、それぞれの種目に関わる動作を細かく分析し、拳上におけるこの部分の強化はこう、と具体的な処方箋を示してくれます。そして、自分の弱点を見極めてそこを克服するようにトレーニングを行いましょう、と指南してくれます。

そういう詳しい人からの懇切丁寧なアドバイスってありがたいものですよね。

・・・否。

そのアドバイス、「ちょっと待て」です。引っ掛かるところがあります。ノーギアのパワーリフティング種目において、「弱点」などというものは存在しません。

ノーギアのパワーリフティング種目では、誰もが同じところで挙上を失敗します。ベンチプレスならば、少し挙がったところ~半ばを過ぎたあたりでミスをします。スクワットならば、ボトムから切り返すところでミスをします。デッドリフトの場合は、たいていは床から浮かせて膝を通過する前に限界がきますが、デッドリフトだけは様々なところで失敗する可能性があり、膝を通過してロックアウト直前まで行きながらミスしてしまうこともあります。

ちなみに、拳上を失敗するスティッキングポイントは、ギア有りの場合では話が変わります。ギア有りではギアのアシストを利用してノーギアのスティッキングポイントを乗り越えることができるなど、拳上の特性が変わってくるので、ノーギアとは違ったアプローチで物を考える必要性がでてきます。

とにかく、ギアを使用しない場合、拳上におけるスティッキングポイントは皆一緒です。ワールドクラスのリフターも趣味レベルのトレーニーも同じところで拳上をミスするとしたら、それを「弱点」と呼ぶのは適切ではありません。そこでミスをすることは元から定められていて、いかなるトレーニングでもそれを克服することはできないからです。

Paul Carter の LIFT-RUN-BANG を読んでいたら、このことに言及したブログエントリがありました。彼に言わせると、こういうことです。

Weak point training is bullshit. It's a complete myth.

では強くなるためにはどうすれば良いのでしょうか?

If you want to get stronger... get stronger.

そうです、強くなりたいのであれば、ただ単純に強くなればよいのです。

「一部のトップリフターは特別なノウハウを隠し持っているのではないか?自分が弱いのはそのノウハウを知らないせいではないか?それを伝授してもらいトレーニングすれば・・・」

このような考えに陥ったことのある人は多いと思います。しかし、このように自分を信じられないときに必要なのは、秘密の特別なトレーニングではありません。それに、トップリフターが言っているからといって、それが適切なアドバイスだとは限りません。確かに記録を向上させることは容易なことではありません。でも、だからといって特別なノウハウを学ぼうとしたり、変わったトレーニングに手を出したりするのは無駄な努力です。

複雑にものを考える必要などありません。自分のテクニックが正しいのか不安なのであれば、ただ単純に正しいテクニックを知ればよいのです。強くなりたいのであれば、ただ単純に強くなるためにトレーニングをすればよいのです。

● 参考リンク


Making your strong points...stronger - Paul Carter