あときが長くなったので2つに分けました。前回からの続きです。トレーニング方法を模索する中で「重量にこだわらないトレーニング」を試してみたものの、当時は良い結果が得られませんでした。「重量にこだわらないトレーニング」は、筋トレの原則である「Progressive Overload」に反しており効果的ではない、という否定的な考えにひとまずは至りました。しかし、この手の発言はたいてい立派な肉体をした人物から発せられるものです。どうにも信じがたいけれども、発言者の肉体を考えると果たして本当に100%ウソな話なのだろうか?と謎な状態が続きました。

トレーニングの参考に、Ronnie Coleman や Dorian Yates など、海外のプロビルダーのビデオも見てみましたが、 Ronnie のトレーニングは、有名な 800lbs のデッドやスクワットとか、「ライウェイッ」とか「Nothing but a peanut」とかそっちの方に注目がいくし、一方 Dorian は当時の私は見る目がなくて「結構普通なトレーニングだなあ」というのが感想でした。ちなみにこれは本当に的外れな感想で、まさにその普通にトレーニングしていることがいかに異常であるかに気付いたのはずっと後のことです。他のビルダーならフォームを崩さないと扱えないような超高重量なのにもかかわらず、あのボディビルのお手本のようなフォームで普通にトレーニングしているビデオというのは、世界中探してもこれ以外には存在しないのではないかと思います。

これらのトレーニング動画は色々と学ぶことが多いものでしたが、自分のトレーニング観を根底から変えるようなものではありませんでした。そんな時に手にしたのが Victor Martinez の DVD です。Ronnie がチャンピオンだった時代に「時期 Mr. オリンピアは?」と聞かれて当時最大のライバルだった Jay Cutler ではなくて Victor だと答えたのがちょっとした話題になって、私はこの人に興味を持ちました。そんなこんなで手にしたのが Titans シリーズ #3 の Victor の DVD です。

そこで目にした Victor のトレーニングは私には衝撃的でした。「やっているトレーニングの動作が自分の知っているものとは違う。これまでに見たことのないトレーニングだけど、洗練されていてただ変わったフォームで行っているという風には思えない。動きが小さいけれども、パーシャルレンジかというとそれは適切な表現ではないような気がする。」

そういえば、以前、下の私のラットプルダウン動画をメンバーフォーラムに上げたとき、私のフォームを「おかしい」、もっとはっきり言えば「これって悪いフォームなんじゃないの?」と感じた方が少なからずいたようです。動作が小さいように見えますが、これはパーシャルのトレーニングか?というと私自身の感覚としてはちょっと違います。私の感覚では、この動作でラットプルダウンのマシンでヒットできる範囲でフルに広背筋を使っています。これ以上引くことのできないところまで引いているので、これ以上動作を大きくしなくていいのか?という発想にはなりません。仮にこれ以上引こうと思ったら、意識的に広背筋をターゲットから外さなければいけません。そうすると広背筋ではない別の種目になってしまいます。
 

いつからこのようなフォームのラットプルダウンをするようになったのか覚えていないのですが、影響としては Victor のラットプルダウンを見て真似してみようと思ったのが最初だと思います。


そうして自分のトレーニングに Victor や他のビルダーの真似を取り入れていく中で、トレーニングに対する意識が変わっていきました。同時に、なぜ以前は「重量にこだわらないトレーニング」で結果を出せなかったのかについても気が付きました。

トレーニング種目の分け方として、コンパウンド種目とアイソレーション種目とがありますが、自分のトレーニングでは純粋なアイソレーション種目はそれほど多くは行っていなかったように思います。というか、今でもそうですけど、この分類方法に対する意識自体が希薄で、これはコンパウンド、これはアイソレーションという意識をあまり持たずにトレーニングしていました。 その代わり、当時の私がどのような意識でトレーニングしていたかというと、「記事その1 - 前置き」で書いたところのバーベル中心的なスタイルでトレーニングを行っていました。各種目で行うことといったら、バーベル等をA点からB点まで動かしてまたA点に戻る、この繰り返しです。このスタイルを変えないままトレーニングの重量を落としたことで、そのまま筋肉への刺激も落ち、結果として質の低いトレーニングとなってしまいました。それは、たとえ「ストリクト」に行ったところで同じことでした。

ちなみに、この「ストリクト」いうのもまた初心者へのアドバイスでよく使われる言葉ですが、私はそれほど価値を置いていません。念のため Google で検索してみましたけど、私は過去に「ストリクトな動作でトレーニングしましょう」と人に勧めたことはありません。「ストリクト」というのはフォームの正しさやトレーニングの正しさを保証するものではないからです。前回の記事で挙げたマッスル北村やミスターボディビルディングな方のトレーニングは、ストリクトではないけれども正しいトレーニングの例です。私には真似できませんし人にも勧めませんけど。一方、ボディビルダーではないパーソナルトレーナー的な人達が紹介するトレーニングは、ストリクトだけれどもしばしば間違っているトレーニングです。

話を戻して、以前私が「重量にこだわらない」トレーニングを試したときは、トレーニングの基本的なスタイルやフォームは変えませんでした。そのため、重量を落としたぶん筋肉への刺激は低下してしまい、質の低いトレーニングになってしまいました。これが、以前私が「重量にこだわらないトレーニング」で失敗した理由でした。

Victor などのトレーニングフォームを真似していく中で、今度はあえて試そうと思ったわけではなく、自然と「重量にこだわらないトレーニング」をもう一度行っていることに気付きました。そこで結果として気付いたのは、「重量にこだわらないトレーニング」とは、すなわち「バーベル中心種目を筋肉中心種目に置き換えていく作業」だということでした。前置きの記事で、コンパウンド種目・アイソレーション種目という従来のカテゴリ分けではなく、バーベル中心種目・筋肉中心種目と、わざわざ別のカテゴリ分けを作って紹介したのは、これを説明したかったからというのが大きな理由です。

筋肉中心種目では、トレーニングの負荷はターゲットの筋肉に集中します。このようなトレーニングをすると、扱える重量は低下してもトレーニングの強度は高重量のトレーニングと同等以上のものにすることができます。つまり、「重量にこだわらないトレーニング」と筋トレの原則である「Progressive Tension Overload (漸進的過負荷)」は両立させることができます。

現在では、「重量にこだわらないトレーニング」でも、むしろ場合によってはこちらの方が高強度な刺激を得て質の高いトレーニングを行うのに適切だと思うようになりました。このことに気付いたことで、私のトレーニング観は大きく変わりました。それと同時に、以前の私は、まるでトレーニングを知らない初心者同然のトレーニーだったとつくづく思います。私の場合、非常に長い年月を要しましたが、このことに気付いて初めて自分のトレーニングに自信を持てるようになりました。(終わり)