今時、音楽を聴いて衝撃を受け、驚愕するなんて、有り得ないことだと思っていました。

優れたアーティストや音楽作品であれば、世の中に音楽が飽和した現在でも生まれ続けていると思います。そして、例えば Britain's Got Talent のポール・ポッツスーザン・ボイルなどのように、意外性を突いた「狙った」驚きであったら、このような現在にあっても起こすことができるかもしれません。しかし、純粋な音楽そのものに驚くとなると話は全く別です。純粋に「作品そのものに衝撃的な力を内在させている」と感じさせる音楽に出会う時代は、もうとっくの昔に過ぎ去ったものだと思っていました。

また、プリンスの音楽は、最初は理解できず、後から徐々に意味が分かってくることが多いものです。思えば、私は、音楽を聴いていきなり衝撃を受けるという経験は殆どしたことがありません。

ところが、それが起こりました。しかも一度に3曲も。

前置きが長くなりましたが、「Purple Rain Deluxe」の Disc 2からもう一曲、「We Can Fxxk」です。これは「Love And Sex」と「Electric Intercourse」と並んで、Disc 2を聴いて私が驚いた曲です。しかも、「We Can Fxxk」に関しては単に驚いただけではありません。今、私がお気に入り曲を選び直すとしたら、この曲は上位に割って入ります。数字がおかしくなってしまいますが、細かいことは気にせずにこれを同率3位にします。ちなみに、他の同率3位の曲は「Last December」と「Crystal Ball」です。


「We Can Fxxk」、あるいはこれまで知られていた「We Can Funk」という曲は、私にとっては積年の思いが詰まった曲です。そしてこの曲は、異なるバージョンの存在がよく話題になる曲でもあります。大まかには次のバージョンが知られていると思います。

  • ジョージ・クリントンが参加した、Graffiti Bridge バージョンの「We Can Funk」
  • ブートレグで流出した、曲の前半部のみで構成される、スローダウンし音も削ぎ落とされた1986年バージョンの「We Can Funk」
  • 一応補完のため、こちらも曲の前半部のみで構成される、Andy Allo がボーカルのアコースティックな「We Can Love」(YouTube リンク)
  • 今回 Purple Rain Deluxe で発表された、1983年12月31日〜に録音された、最初のバージョンである「We Can Fxxk」

時は遡って1991年頃、当時プリンスを聴くようになった私は、「Graffiti Bridge」(1990年) を「Diamonds And Pearls」(1991年) と共によく聴いていました。「We Can Funk」は複雑に作り込まれた凄い曲だと思いましたが、何か引っ掛かるものを感じました。また、「Graffiti Bridge」全般にも言えることですが、「ひょっとして、これってかなり良い曲なんじゃないか」という気持ちと「客観的に判断してかなり良い曲のように思えるのに、なぜかグッとこない」という気持ちが混在する感覚がありました。「Graffiti Bridge」にまで話を広げると収拾がつかなくなるので「We Can Funk」に限って言うと、この曲に関しては「何か誤魔化されているような気がする」という気持ちが常に頭の片隅にありました。

ちなみにこの曲には、私が「プリンスの言葉」を作るとしたら真っ先に入れる次の歌詞があります。私の場合、おそらく大半はこういったユーモラスな言葉で占められることになると思います。

I could tell U things to get U excited, things U never heard
U know the Kama Sutra?
I could re-write it with half as many words
僕は君がワクワクすることを教えてあげられる - 君が今まで聞いたこともないようなことを
カーマ・スートラは知ってるかい?
僕はあれを書き直すことができる - 半分の語数でね

とはいっても、Graffiti Bridge バージョンの「We Can Funk」では、他の歌詞とのバランスからあまりに唐突にこの台詞が出てくるような気がして、どうも妙な感じがしました。

月日は流れ、やがて、ブートで出回っているスローでヘビーな1986年バージョンを知るに至りました。一般的にはこのバージョンは Graffiti Bridge バージョンよりも遥かに優れているという評価ですが、実際私もそう思います。1986年バージョンは、「Girl O' My Dreams」、1986年バージョンの「Can't Stop This Feeling I Got」と3連のメドレーになっているのもまたポイントが高いです。しかし、ファンの間で評価の高いこちらのバージョンを聴いても、「まだ何か誤魔化されているような気がする」という気持ちを完全に拭い去ることはできませんでした。


ちなみに、Graffiti Bridge バージョンは、1986年バージョンと比べると格段に作り込まれていますし、展開も複雑です。しかし、一般にはこれよりも1986年バージョンの方が良いと言われることが多いと思います。この辺は人それぞれの好みの話ですが、Graffiti Bridge バージョンについて私が個人的に不満に思う点は2つあります。

1点目は、Graffiti Bridge バージョンで追加された歌詞です。

I'm testin' positive 4 the funk
I'll gladly pee in anybody's cup
And when your cup overflow
I'm testin' positive and I'll pee some mo'

私はこの歌詞があまり好きではありません。ジョージ・クリントンの P-Funk と尿検査をかけた言葉遊びだというのは分かるのですが、この曲の本来の内容を知った今となっては、ますます微妙な歌詞だと思います。

2点目は、Graffiti Bridge バージョンは何となくチャラいことです。所詮は感覚や好みの問題かもしれませんが、プリンスの音楽の良い特徴である濃密さが、このバージョンでは消えてしまっているように思います。個人的には「Jump 'em and funk 'em / Pump 'em and funk 'em」の部分も要らないと感じます。

あと… これを言ってしまうと身もフタもないのですが、2点目と絡めて気になるのが、映画の中でこの曲を歌うジョージ・クリントンの体型です。映画では、たるんだ肉体のジョージ・クリントンがお腹丸出しのファッションで肉体をクネクネするシーンが一瞬あるのですが、ほんの一瞬といえども私はこのシーンが苦手です。これさえなければこのバージョンの印象ももう少し良くなっていたかもしれません。

一方で、Graffiti Bridge バージョンで私が良いと思うところは、「U can blow the candle off baby〜」の後半部の展開があることです。アルバムにおいて、この後「Joy In Repetition」になだれ込むように続く流れは、たった今チャラいと言ったばかりで話が矛盾しますが、アルバムでは場違いに濃密な空気を放っています。


さて…記事もだいぶ長くなりましたが、「Purple Rain Deluxe」で発表された「We Can Fxxk」です。

何というか、これを聴いて驚かなかった人はいないのではないかと思います。なにせ、Graffiti Bridge バージョンの基本的な構成が、この時点で既に完璧に出来上がっていたことが明かされたのですから。そして、Graffiti Bridge バージョンで私が個人的に要らないと思っていた要素は、まだこの時点ではどれも付け加えられていませんでした。そしてこのバージョンは、1986年バージョンと Graffiti Bridge バージョンの2つの「We Can Funk」の良いところを掛け合わせたようなヴァイブを持っています。1986年に追加された格好良いサックスのフレーズは入っていないものの、楽曲の洗練度は凄まじく、とても1983〜1984年に作られた曲だとは思えません。

そして、歌詞です。私の積年の思いが晴れました。今まで誤魔化されていたと思っていたのは、これだったのです…! 「We Can Funk」では取って付けたようなカーマ・スートラの歌詞も、こちらでは非常に強い説得力を持っています。

さらに、このバージョンは全体で10分以上もあります。最初の部分が終わった後、3分50秒頃の「U can blow the candle off baby〜」からは第2の展開になります。そして、曲を聴いて5分過ぎでも「まだ5分も残っている!」とまたまた驚きます。さらに、5分54秒頃の「See this gold chain around my waist?」からは、「ah-ah----, ah-ah----」のバックボーカルでプリンスが叫び始めて、それはもう凄いことになります。

そして、6分以降は、Graffiti Bridge バージョンにもなかった第3の展開を見せます。濃密なのに清々しさのある展開で、プリンスは独り語りモードになります。ここでのプリンスの表現は、何となく「Do Me Baby」など Controversy 期のプリンスを思わせるような生々しい切迫感があります。そして、プリンスの最後の表現は「Please fxxk me again」です。まさかこの曲の本質が「Do Me, Baby」系の受け身の曲だったなんて… 私は思ってもみませんでした。また、終盤の展開に関しては、音などは全々違うのですが、何となく私はアルバムバージョンの「Come」の後半部分も思い起こしました。

そして、少し笑ってしまったのですが、最後はちゃっかり「When Doves Cry」のような綺麗な終わり方をします。いや、惨々こんな展開にしておいて、最後だけ綺麗にまとめても誤魔化せませんから…


この曲の終盤の展開は、プリンスの音楽、ひいては人間性を考えるうえで、とても特徴的なところだと思います。私の言葉では上手く説明できないのですが、スーザン・ロジャースが、まさにこの点について語っているので紹介します。以前「ホームベース - 自分の住むストリート」で記事にしたのと同じインタビュー/レクチャーからです。

動画は 1:03:25 から始まるようにリンクしています。ちなみに、このレクチャーが催された2016年12月の時点で実体が流出していたかどうかは私は知りませんが、ちょうど「We Can Fxxk」の曲名も言及されています。

(1:02:09〜)
プリンスはどこか危険な男だと思われていました。
…(中略)…

そしてプリンスには乱痴気騒ぎをして暮らしている人だというイメージがありました。プリンスは乱痴気騒ぎを繰り返す、性的な捕食者であると。しかし、実際のプリンスはそれとは正反対の人でした。真実のプリンスは勤勉な人であり、日々仕事に向かう人でした。そして、仕事をするということが、プリンスの全てでした。

確かにプリンスは女性と関係を持っていました。しかし、それは通常、ヴァニティ、スザンナ・メルヴォワン、ジル・ジョーンズ、それにシーラ・Eのような、プリンスと普段の関わりがある女性達でした。
…(中略)…

(1:03:25〜)
プリンスについては、ファンを除いて、多くの人々に見落とされていることがあります。それは、プリンスが性について歌っているとき、プリンスは女性に力を与えているということです。その好例に "Do Me, Baby" が挙げられます。"Do Me, Baby" では、プリンスはこういうことを歌っています - "君が僕をするんだ。僕じゃなくて君が。君がオトコになって僕を侵略するんだ。さあ僕をしてちょうだい" - プリンスは、女性が力を持つということが、どれだけ素敵なことであるかについて語っているんです。プリンスの曲は皆… ブートレグを知っている人なら聴いたことがあるかもしれません。"We Can Fxxk" と呼ばれる曲を。

これらの曲は皆素晴らしいものばかりで、どれも私たち女性について歌われています。プリンスは女性を誘惑するにあたって、決して捕食者のような態度をとることはありませんでした。"僕は君を征服する。君は僕の獲物だ" ということは決してなく、プリンスは常に女性と対等に接していました。これは女性がプリンスを愛する理由のひとつだと思います。私たちはプリンスを信頼していました。プリンスと一緒にいて安全だと感じていました。力を与えられていると感じていました。対等だと感じていました。プリンスは常にそういったものを私たちに与えてくれるという点で、常に一貫していました。プリンスとは、そのような人だったのです。


[Verse 1]
I could tell U stories until U get tired
I could play with your mind
But U'd probably say that I was a liar
So I won't waste your time
君がうんざりするまで話を聞かせることもできる
君の心を弄ぶことだってできる
でも君はそれは嘘だと言うだろう
だから無駄なことはしない

I'm scared because though we just met
There's this energy between us
Let's just go somewhere, we can fxxk
僕は怖い - だって出会ったばかりだというのに
僕らの間にはこれほどのエネルギーが溢れている
さあ何処かへ行こう - XXXX できる場所に

[Verse 2]
I could say I'm sorry all my life
And that wouldn't be true
I only say and do the things I do
'Cause I'm not U
僕は一生君に謝り続けることもできる
だけどそれは本当のことじゃない
僕は僕のやることを言い実行するだけ
僕は君ではないのだから

I'm scared because though we just met
I want U so bad, baby
Don't U want to come with me?
We can fxxk
僕は怖い - だって出会ったばかりだというのに
こんなにも君を欲しがっている
一緒にしたくない?
XXXX しよう

[Hook]
Oh oh ooooh
We can fxxk
Oh oh ooooh
We can fxxk

[Spoken Interlude]
What?
No, this isn't something I've said many times before
But what difference does it make?
That was them, this is U
何? いや、これは僕が過去に何回も言ってきたこととは違うんだ
だとしてもそれがどうしたっていうの?
それは別のこと、これは君の話なんだ

Can't U see this room is electric?
OK, well then maybe it's me
But I know the smell of desire, honey
And it's all over U
この部屋が凄いことになっているのが分からない?
そう、ならば僕しか分からないんだね
僕は欲望の匂いを知っている
それが君全体を覆っているんだ

[Verse 3]
I could tell U things to get U excited, things U never heard
U know the Kama Sutra?
I could re-write it with half as many words
僕は君がワクワクすることを教えられる - 君が今まで聞いたこともないようなことを
カーマ・スートラは知ってるかい?
僕はあれを書き直すことができる - 半分の語数でね

I'm scared, because if I don't kiss U
I'm going to go mad, baby
Take off my clothes
We can fxxk
僕は怖い - なぜなら君にキスをしないと
狂乱してしまうだろうから
僕の服を剥ぎ取っておくれ
XXXX しよう

[Hook][x2]
Oh oh ooooh
We can fxxk
Oh oh ooooh
We can fxxk

[Breakdown]
Wait a minute, let me turn on some lights
(We can fxxk)
Is that better?
Yeah, come here
ちょっと待って、灯りを点けるよ
この方が良いかい?
さあ、こっちに来て

U can blow the candle off baby
U can turn the candle on
Which ever one U choose is alright
Because we're going to do it all night long
ロウソクを吹き消したっていい
ロウソクを点けたっていい
どちらを選んでも構わない
なぜなら僕らは一晩中するのだから

Do U want to--
Undress me, babe
Shall I undress U?
U can leave your clothes on if U want to
And I'll still do it all to U
僕の服を… 脱がせたい?
君の服も脱がせてあげようか?
君は服を着たままでも構わないよ
どちらにしろ僕は君に全部のことをするから

Sex between two people is alright
Whether they're in love or not
As long as they're not trying to hurt nobody
Just as long as it's hot
二人の間でする営みは最高だ
愛し合っていてもいなくても
誰も傷付けることがない限り
それを熱く続ける限り

Good Lord, baby, I want to make love to U
Two times maybe three
Yeah, if U want to go four or five, baby that's alright with me
ああ、君を愛したい
2回、いや3回
君がしたいなら4回や5回だって、僕だったら大丈夫

Let me tell U I said I will be your little baby
Yeah, I can be your big strong man
I can be your girl or boy
I can be your toy
Alright, let's dance
It's up to U
僕は君の可愛い赤ん坊になれる
そう、僕は強くて大きな男にもなれる
男の子や女の子にもなれる
君のおもちゃにだってなれる
さあ踊ろう
君の望む通りさ

U can fxxk me, baby
I'll fxxk U
We can fxxk one another
Whatever U want to do
君が僕を XXXX してもいいし
僕も君に XXXX してあげる
交互に XXXX したっていい
何だって君のしたい通りに

U got an electric ass, baby
U got electric thighs, baby
Ow, I can't wait no longer, child
It's getting stronger, baby
Open up your eyes
Ow!
君は、凄いお尻をしている
君は、凄い太腿をしている
ああ、もうこれ以上待てない
どんどん強まっていくんだ
目をちゃんと開いて
ああ!

See this gold chain around my waist?
I want to give it to U
When people tell me I got no taste
Then blow this candle out
Let's see if it's true
僕の腰に架かっている金のチェーン
そう、これを君にあげる
僕のセンスが悪いって言う人もいるけれど
このロウソクを吹き消してよ
それが本当かどうか確かめよう

[Spoken]
Oh baby, this is excellent
No, no, it is really
It's like
Oh I'm sorry, it's just
I don't know
I've just never felt this way before
No, I'm really happy, really
Well I guess I met U and I just don't deserve it
Because U're so special
No I'm not, not like U
U're perfect
U really are
ああ、とても凄いよ
本当に、本当にだよ
これは
これはまるで
言葉では表現できない
こんなことは初めてなんだ
いいや、とても嬉しいんだ
君に出会えたなんて僕にはとても勿体ないよ
君はとても特別だから
いや、僕はそうじゃないから
君は本当に完璧だよ
本当に完璧だ

There are so many things I want to do with U
There are so many things I want to do for U
So so many things
君としたいことが沢山ある
君のためにしたいことが沢山ある
沢山のことが

Listen, don't let anybody hurt U
No, U don't have any reason to feel insecure
U're the best
Do U believe that
ねえ、他の誰にも傷付けられないで
君が不安に思う理由など何も存在しないから
君は最高だ

No one can ever ever hurt U
Yes, I love U
I know it sounds strange, but I do
I do
誰も君を傷付けることはできないよ
そうさ、愛してる
変に聞こえるだろうけど本当なんだ
本当さ

I knew I loved U, the split second before we kissed---
Oh darling, kiss me now
Oh please
Please fxxk me again
キスをする一瞬前にはもう分かったよ、君を愛してしまうことになるって
ああダーリン、今すぐキスして
ああ
お願いもう一度 XXXX して