それにしても、どうして今頃になって、これまで聴いたこともないような曲がポロポロと出てくるのでしょう?

「Wally」とは、レコーディングの後、プリンスが自らの意思で消してしまったというエピソードで知られる曲です。この曲が本当はどのような曲であったのかは、今ではスーザン・ロジャースのみが知っています。スーザンによると、この曲は、今まで聴いたことのないほどプリンスが心の内を包み隠さずに表現した、とても美しい、素晴らしく "A-MAZING" な曲だったそうです。

この曲は後に、異なるトーンに変えられてレコーディングし直されましたが、それが最近リークされました。興味本位でふと聴いてみて、「何だコレ?」となって、もう一度聴いてみて、やっぱりもう一度聴いてみて、、、それを繰り返して、今はずっとこの曲ばかり流しています。期待値を上げすぎないように一応断っておくと、このバージョンはスーザンが素晴らしいと評した最初のレコーディングとは異なるものであり、凄い名曲というよりも、どちらかと言うと「興味深い」4分34秒ほどの曲です。そして、スーザンが素晴らしいと評した最初のレコーディングは、もうこの世に存在せず、誰も聴くことができません。

プリンスがこの曲を自ら消してしまった時のエピソードは、次のリンクで紹介されています。

また、日本語の説明は少し微妙なのですが、この曲については次のリンクでも言及されています。

また、prince.org での、この曲に関するディスカッションスレッドです。スレッドタイトルがもうこの曲を聴いた人の気持ちをよく表しています。


「Wally」は、1986年12月にスザンナ・メルヴォワンがプリンスの元を去ったときの傷心を歌った曲で、ウォーリーとは、当時バックダンサーであった Wally Safford のことです。

リークされたバージョンでは、プリンスがディズニーアニメのお姫様みたいな声を出してスザンナの台詞を喋ったり、パッパカパーンと鳴り響くエリック・リーズの遊び心のあるホーンが前面に出ていたりと、全体的にコミカルでユーモラスな雰囲気があります。スーザンが上で語っている説明とは色々と異なる部分があり、おそらく最初のレコーディングとはかなり違うトーンで作り直されているものと思われます。ストーリーもスーザンが言うような悲観的な展開にはなりませんし、子守歌のように穏やかな "Oh my la-di-da" のコーラスも、本来は "Oh, my malady (病気、病)" や "Oh, my melody (メロディ)" へと変化していくらしいのですが、その変化も起こることなく曲は終わります。下で紹介した本で、引用をした部分の少し後に、「プリンスは、憂鬱であることは殆ど罪であると考えていた」というスーザンの言葉が出てくるのですが、そういった考えからこのようなコミカルなトーンに作り変えたのかもしれません。ただ、無理をしている感じがありありと出ていて、コミカルなところが逆にとても悲しいです。

このバージョンのレコーディングは、PrinceVault では1986年とあります。ギタープレイの感触は1988年頃の音にも聴こえますが、エリック・リーズのホーンが加えられ、確かに Sign O' The Times 期の雰囲気があります。prince.org のスレッドによると、スーザンは自身がプリンスの元を離れた1987年以降にレコーディングされたのではないかと話しているそうです。いずれにせよ、最初のレコーディングとはかなり異なるトーンの曲に作り直されているのは間違いなさそうです。

そのうち削除されてしまうかもしれませんが、YouTube リンクをしておきます。


また、この曲の最初のレコーディングの話は、Alex Hahn と Laura Tiebert 著の「The Rise Of Prince: 1958 - 1988」にも記述されています。第24章 Masterpiece から一部抜粋して以下に翻訳しました。

スザンナが去ってしばらくした1986年12月のある晩、スーザン・ロジャースは地下スタジオに降りてきたプリンスを見て、いつもとは違う雰囲気を察知した。そしてプリンスは、沈んだ様子で殆ど言葉を発せず、物悲しいピアノパターンをベースに曲を作り始めた。語り口調で展開されるその曲の歌詞は、プリンスと、バンドのダンサーであるウォーリー・サフォードとの次のような架空の会話であった。プリンスは悲しく落ち込んだ様子で、恋人を喜ばせるためにウォーリーに50ドルとサングラスを貸してほしいとお願いをする。しかし、プリンスは思い直してそれをウォーリーに返し、実は恋人と別れひとりになったので今はもうお金を使う相手もいないと打ち明ける。ヴァースを通して伴奏はピアノのみであったが、ギター、ベース、そしてドラムが加わり、曲は"o-ma-la-di-da" と繰り返されるコーラスへと展開する。この "Wally" と呼ばれる曲を作る中で、プリンスが心の内を包み隠さないでいることにスーザンは驚愕した。そこには失ったものを諦めきれずにそれでも諦めざるをえない悲しみがあった。プリンスはこうすることでスザンナに別れを告げ、心を蝕む破局の毒を追い出しているようであった。

「"Malady" ってフランス語で病気や病という意味の言葉だって知ってる?」
プリンスはコーラスのフレーズを引き合いに出しながらスーザンに言った。
「これって "Melody (メロディ)" って言葉とすごく似てるよね」
音楽においてですら心の内をめったに見せることがないプリンスは、自身の喪失感を表現するためのメタファーを求め模索しているようだった。

しかし、セッションが進むに従って、プリンスは曲と自分との距離を引き離し始めた。プリンスは、曲の意図を損なうような似わない演奏を加え始めたのである。ヴァースにパーカッションがちりばめられ、歌が散漫になったので、スーザンはやんわりと提案した。
「ねえプリンス、前の方が良かったと思わない? この辺でやめておいた方がいいと思わない?」
プリンスはスーザンを無視し、シンセサイザーのリフを追加した。

やがて、スーザンにもプリンスが行っていることがはっきりした。プリンスは意図的に曲を破壊していたのだ。曲がすっかり余分な演奏で塗り重ねられてしまった後、とうとうプリンスは言った。
「この24チャンネルを全部オンレコードにして、消去して」
これほどの傑出した作品が失われようとしている状況に狼狽しながら、スーザンは言った。
「いいえ、そんなことはできないわ!」
するとプリンスは言った。
「君がしないのなら、僕がするよ」
スーザンは頑として譲らなかったため、プリンスはサウンドボードの操作を自分で行わなければならなかった。そして、今では誰も聴くことの叶わない "Wally" という曲は、こうして完全に壊されてしまった。

スザンナ、そしてウェンディやリサとプリンスの関係には、プリンスが自身が認めるよりも強い感情的な結び付きがあった。スーザンはこう回顧する。
「あの曲は、プリンスがこれまでに作った最も素晴らしい曲だと思えたわ。私はプリンスがあのような曲を作ってくれることを長年待ち焦がれていた。プリンスがあのように心の内を偽らずに歌ってくれることを」


Oh my la-di-da-da

Wally, where'd U get those glasses?
Those are the freakiest glasses I've ever seen
ウォーリー、そのサングラスはどこで買ったんだい?
こんなにイカしたサングラスは見たことがないよ

Can I try 'em on?
かけてみてもいいかな?

U see, I'm going 2 a party tonight and I could be so clean
Are U going with that same dame?
U know, the one with the beautiful chest and the gorgeous mouth
今夜これからパーティに行くから小綺麗にしなきゃね
キミもいつものあのコと行くかい?
ほら、素敵な胸とゴージャスなおクチをしたコ

Cuz if U are, I was wondering if she had a sister
Cuz Wally, that dame is so fine
Eeh-hee!
もしそうなら、彼女、妹がいたりしないかな?
だってウォーリー、あのコとっても素敵だしさ!

Check it out Wally, huh (growl), I'm on the prowl tonight
Cuz my baby don't love me no more
She said, she said “Well maybe I do, just not like I did before”
見てくれよウォーリー、アゥゥ (唸り声)、今夜は出会いを求めて狩りに出るんだ
だって彼女は僕をもう好きじゃないんだから
彼女に言われたんだ - "ええとアナタは好きだと思うわ、ただ今までとは違うカンジなの"

Ain't that a trip, Wally?
U know, I'd give her all my money before I'd give it all 2 Uncle Sam
Can U believe it, Wally?
参っちゃうよね、ウォーリー
僕のお金ならアンクル・サムよりも優先して全部彼女にあげるのに
信じられないよね、ウォーリー

Where'd U get those glasses?
Those are the freakiest glasses I've ever seen
そのサングラスはどこで買ったんだい?
こんなにイカしたサングラスは見たことがないよ

Wally, can U tell me why did my baby leave?
ウォーリー、彼女はどうして去ってしまったのかな?

La-la-la-di-da, oh my la-di-da

Wally, come on, go out with me 2night
We'll tear it up like we used 2 do
U wanna bring your lady, it's alright
But if U'd rather stay at home 2night, it's cool
Oh no, I understand
We'll be able 2 hook up sometime when I find another
Then the 4 of us, I mean the 4 of us can
ウォーリー、今夜は一緒に繰り出そうよ
ハチャメチャやろうよ、昔みたいにさ
キミの彼女を連れてきたかったらそれでも構わないし
でも、もし今夜は家にいたい気分だったら、それなら仕方ないよ
いや、いいんだよ
そのうち僕に新しい彼女ができたら
そしたらほら、4人で、その、僕ら4人で遊びにいけるしさ

Oh my la-di-da

It's 2 late 4 sympathy
Whatever will be will be
I'm going to a party
And if I don't find somebody, somebody will find me!
Huh, what am I gonna do?
She was the only one in the whole world that I could talk 2
慰めなんて手遅れだし
なるようにしかならないんだから
僕はパーティに行くよ
僕が誰かを見つけられなくても、誰かが僕を見つけてくれるよ!
ああ、どうしよう
彼女は僕が話をできる世界中でたったひとりの人だったんだよ

Wally, where'd U get those glasses?
Those are the freakiest glasses I've ever seen
ウォーリー、そのサングラスはどこで買ったんだい?
こんなにイカしたサングラスは見たことがないよ

La-la-la-di-da, oh my la-di-da
Ooh
La-la-la-di-da, oh my la-di-da {repeat}
Ooh...
Oh my la-di-da