「The Beautiful Ones」は1984年のアルバム「Purple Rain」に収録されている曲です。この曲は、この世で最も高貴で格式の高いバラードのひとつと言って良いのではないかと個人的には思います。少なくとも、好むと好まざるとに関わらず、この世に二つとない曲であることは確かだと思います。

この曲は映画では32分過ぎ頃から歌われます。アポロニアがモーリスに口説かれているのを見たキッド (プリンス) は、ステージに立ち、この曲を歌い始めます。最初は美しく優雅な調子で曲が進行しますが、歌唱は次第に激しさを増し、最後は絶叫に変わります。キッドは、モーリスと自分とどちらを取るのかとアポロニアに問いかけ、そして絶叫の中で「君が欲しい」と想いを訴えます。

ちなみにこの曲の特徴的なリズムは、なぜか前回取り上げた The Time の「Chili Sauce」と一緒です。そして「Chili Sauce」の歌詞の一部は、前述のモーリスがアポロニアを口説くシーンにも使われています。本当にプリンスという人は何なんでしょう……言葉が見つかりません。


時を遡って、この曲について私の思い出を少し書きます。

私がこの曲と出会ったのは中学生の頃でした。私にとってプリンスの原点である、1991年の「Diamonds And Pearls」が発売される少し前、私はダビングされたカセットでアルバム「Purple Rain」を聴きました。しかし、この時点では「Purple Rain」は私の心には全く響きませんでした。

そして、アルバムの中でも特に理解不能だったのが、この「The Beautiful Ones」です。当時は歌詞がさっぱり分からなかったので、私にとって、これはただ「ベイビー、ベイビー、ベイビー♪」がもっさりと繰り返される曲でしかありませんでした。サビでメリハリが付くような曲でもなく進行ももっさりしていますし、終盤の絶叫も素頓狂だとしか思えませんでした。中学生の英語力では、だいたい「ビューティフル・ワンズ」というタイトルからして意味不明でした。基本的にプリンスは猫撫で声のような声質をしていますが、「The Beautiful Ones」のプリンスの歌声は特に猫撫で声に聴こえます。そのためか、私にはこの曲に「美しい犬たちに禁断の恋をする猫の歌」というイメージが付いています。

「ビューティフル・ワンズ、君はいつだって僕の心を傷付ける・・・♪」

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今になって昔の私を思うと、まるで初めてウニを食べた子供のようだな、と思います。せっかくの食材も、舌がまだ肥えておらず未熟なために、その価値が理解できない状態でした。「猫に小判」、「豚に真珠」、「中学生にビューティフル・ワンズ」です。


その後プリンスについて色々と知るようになってからも、「The Beautiful Ones」は邦楽にはないタイプの曲ですし、分かりやすいロックやファンクの曲でもないので、ずっと寝かせた状態が続きました。ただ、海外ではやたらと評価の高い曲なようで、それについては何とも不思議な感覚がありました。そして、それを象徴する出来事が1997年に起こりました。マライア・キャリーがこの曲をカバーしたのです。

マライア・キャリーといえば、当時の音楽界で歌唱力において頂点に立っていた人です。そんなマライアが「The Beautiful Ones」を歌うとは! 私は期待を膨らませました。そして、マライアのカバーをラジオで聴いた私は、衝撃を受けました。

……そのあまりの凡庸さに。

まあ今になって冷静に聴けば、マライア・キャリーのカバーもおしゃれなレストランで食べる生ウニパスタのような上質さがあるとは思います。しかし、当時の私はこのカバーを聴いて愕然としました。プリンスのオリジナルの「The Beautiful Ones」は、これとはもう全くの別物です。プリンスのオリジナルは、強い磯の香りが漂う港を訪れて、殻を割ってそのまま食べるウニのような……。私は生ウニパスタを食べたこともないし、穫れたてのウニを港で食べたこともないのですが、とにかく私は衝撃を受けました。そしてこのカバーは、私にとって考えを改める切っ掛けにもなりました。音楽雑誌では批評の対象に上がることすらなく、評論家からは全く無視されているようだけれども、「実はプリンスのボーカル能力ってとんでもなく凄いのではないか?」と。


曲の説明に戻ります。

長年、この「The Beautiful Ones」という曲はスザンナ・メルヴォワンのために書かれた、という話がありました。スーザン・ロジャースも「スザンナのために書かれた曲は沢山あり、これはその最初の曲だ」という旨の話を1989年にローリング・ストーン誌に語っています。しかし、2015年になって、プリンスは沈黙を破り、Ebony 誌のインタビューにて、この長年の噂を全否定するコメントをしました。ついでに、興味深いことにプリンスはスーザン・ロジャースの分析や言動に不快感を示す発言もしています。これらの話については「365 Prince Songs in a Year」の解説ページとローリング・ストーン誌のリンクを以下に貼り付けておきます。

また、プリンスのコメントを引用します。

If they look at it, it’s very obvious. 'Do you want him or do you want me,' that was written for that scene in Purple Rain specifically, where Morris would be sitting with [Apollonia] and there'd be this back and forth. And also, 'The beautiful ones you always seem to lose,' Vanity had just quit the movie.
曲の内容を見れば全く明らかなんだけどね。「彼が欲しいのか、それとも僕が欲しいのか」、これはパープル・レインのあのシーンのために書いたんだ。モーリスがアポロニアと一緒に座っていて、どちらにするのかを訴えるところだね。そして「美しいひと、君はいつだって負けてしまう」というのはね、ヴァニティが映画から降りたことを引き合いにしてるんだ。

双方の意見がありますが、この曲は映画のコンテクストにこれ以上ないほどにピッタリと嵌っているので、パープル・レインのあのシーンとヴァニティのために書いた、というプリンス本人の言葉は、個人的には十分にすっきり納得できます。


Baby, baby, baby
What's it gonna be?
Baby, baby, baby
Is it him or is it me?
Don't make me waste my time
Don't make me lose my mind, baby
ベイビー、ベイビー、ベイビー
どうするんだい?
ベイビー、ベイビー、ベイビー
彼にするの? それとも僕にするの?
僕の時間を無駄にさせないでおくれ
僕の心を狂わせないでおくれ、ベイビー

Baby, baby, baby
Can't U stay with me tonight?
Oh baby, baby, baby
Don't my kisses please U right?
U were so hard 2 find
The beautiful ones, they hurt U every time
ベイビー、ベイビー、ベイビー
今夜は僕と一緒にいてくれないの?
ベイビー、ベイビー、ベイビー
僕のキスじゃ君を喜ばせることはできないの?
やっとの思いで遂に見つけた君なのに
美しいひと、それはいつだって人を傷付ける

Paint a perfect picture
Bring 2 life a vision in one's mind
The beautiful ones always smash the picture
Always everytime
完璧な絵を描くんだ
頭の中に浮かべる情景に命を吹き込んで
美しいひとはいつだってその絵を打ち砕く
いつだって、何度でも

If I told U, baby
That I was in love with U
Oh baby, baby, baby
If we got married, would that be cool?
U make me so confused
The beautiful ones, U always seem 2 lose
もし君に打ち明けたら、ベイビー
僕は君を愛しているのだと
ああベイビー、ベイビー、ベイビー
もし僕らが結婚をしたら、それは素敵なことだと思う?
君は僕をひどく混乱させる
美しいひと、君はいつだって負けてしまう

Baby, baby, baby
Baby

What's it gonna be, baby?
Do U want him or do U do want me?
Cuz I want U!
Said I want U!
どうするんだい、ベイビー?
彼が欲しいのかい? それとも僕が欲しいのかい?
だって僕は君が欲しいんだ!
そうさ、僕は君が欲しい!

Tell me baby, do U want me?
I gotta know, I gotta know do U want me?
教えてよベイビー、君も僕が欲しいの?
教えてよ、教えてよ、君も僕が欲しい?

Baby, baby, baby, listen 2 me!
I may not know where I'm going, baby
Whoo! Look here
I said I may not know what I need
ベイビー、ベイビー、ベイビー
僕はどこへ向かっているのかも分からないかもしれない
ああ!
僕は何を必要としているのかも分からないのかもしれない

1 thing, 1 thing's 4 certain
I know what I want, yeah
And it's 2 please U baby, please U baby!
I'm begging down on my knees, I want U!!
Yeah, I want U!!
Baby, baby, baby, baby, I want U!!
Whoo!
Yes I do!
だけどひとつだけ、ひとつだけは確かさ
僕は何が欲しいかは知っているんだ
君が望むのなら、君が望むのならベイビー!
ひざまずいてお願いするよ、君が欲しいんだ!
そうさ、君が欲しい!
ベイビー、ベイビー、ベイビー
君が欲しい!
ああ!
誓って本当さ!