前回、プリンスの手紙と併せて取り上げた1991年の雑誌記事は、当時翻訳されて日本の音楽雑誌にも掲載されたように覚えています。その主な内容は、ロンドンのジャーナリストが、新譜の「Diamonds And Pearls」を試聴するため、はるばるペイズリーパークへ訪れるも、プリンスに惨々振り回されてしまったという体験談です。

当時の私には、その記事を読んでとても強く印象に残った箇所がありました。それはプリンスが「Standing At The Altar」という新曲をスタジオでレコーディングしていたという記述です。それも、それがとても素晴らしい曲だという賛辞と共に。

「Standing At The Altar」とは一体どんな曲で、どれほど素晴らしい曲なのだろう? そして、この曲を聴くことのできる日はいつ訪れるのだろう?

当時は英語が分からなかったので、「結婚式で教会の祭壇に立つ」というタイトルの意味が分からず、私は「何やらかっこいい響きなので、とにかくかっこいい曲なのだろう。スタンド・バイ・ミーみたいな曲かな?」と勝手に想像し、この曲がリリースされるのを心待ちにしていました。ちなみに、元の英語記事を確認すると、確かに曲の記述の直後に "fantastically good" という称賛の言葉がああります。しかし、それは試聴させてもらったアルバムに対するもので、この曲が具体的にどんな曲かについては言及がありませんでした。ということは記事の翻訳ミスか私の読み違いか・・・まあ今となってはどうでも良いことです。

その後、この曲は1992年のアルバム「Love Symbol」には入っておらず、お蔵入りになったのかと諦めていたところ、1994年に NPG Records レーベルのコンピレーションアルバム「1-800-NEW-FUNK」なるものがリリースされ、何とそこにこの曲の名前がありました。実はこの曲は、プリンスが女性アーティストのために作ったもので、そもそも自分用の曲ですらなかったのです。記事のジャーナリストが目にしたのは、プリンスがガイドボーカルを歌い、デモを作っていた風景だったのだと思われます。本当にプリンスに関する限り、事前に得た情報が参考になった試しがありません (笑)。


「Standing At The Altar」は、とても変わった曲です。

この曲で歌われるのは、結婚という幸福な瞬間を目前に相手に去られてしまうという、とても不幸なシチュエーションです。それにもかかわらず音楽は全くの正反対で、本当は訪れるべきだった幸せな空気をそのまま詰め込んだようなハッピーな曲です。英語が分からなければ、間違ってウェディングソングとして結婚式に使ってしまいそうです。音楽には明るさと力強さがありますが、それでいて「失恋しちゃったけどドンマイ、がんばれ私!」みたいな歌でもありません。

当時これを聴いた私は、こんなチグハグな作りで良いのだろうか、と困惑しました。どうしてこの歌詞でこんなに心躍るハッピーな音楽なのか、私の理解の範疇を超えていました。普通、悲しい言葉には悲しい音楽が付けられるものです。適当に思い付いたものでいうと、五輪真弓の「恋人よ」、エリック・カルメンやセリーヌ・ディオンの「All By Myself」、アデルの「Someone Like You」といったように。これらの曲は、言葉に意識を傾けるまでもなく、ボーカルパフォーマンスと音だけで悲しみが伝わります。

しかしプリンスには、そのような分かりやすい名曲が存在しないような気がします。プリンスほどの能力があれば、そのような名曲は容易に作ることができそうなのにもかかわらず、です。プリンスの有名なヒット曲は、何かしら引っかかるところがあり、ストレートには理解しづらい曲ばかりなのです。

私はこれを「プリンスには他人に気軽にすすめられる曲が存在しない問題」と呼んでいます。こんなことを言うのは生まれて初めてなのですが。とにかくプリンスには、最初聴いたときに、妙な違和感を抱かせたり、容易には全体の姿を掴めなかったりする曲が非常に多いのです。例えば、あなたは何かプリンスの有名なヒット曲をいくつか聴いたとします。あなたは「ふーん、プリンスってこんな音楽なんだね。もうだいたい分かったよ」という感想を抱くかもしれません。しかし実は、その時点ではまだ、あなたにはそれらの曲の本当の姿は見えていません。それに気付くのは1年後か、10年後か、あるいは多くの場合ずっと気付かないままなのです。これは個人的に非常にもどかしく、口惜しいことです。

話が脱線しかかってきたので、まとめに入ります。

プリンスは、普通ならば悲しみや怒り、あるいは敵意をもって表現するのが妥当に思われることでも、そういった負の感情を込めずに音楽を作り上げることがよくあります。「Standing At The Altar」に近いタイプの歌詞では、例えば「I Could Never Take The Place Of Your Man」もとびきりのハッピーソングです。こういった曲は枚挙にいとまがなさすぎるので、もう1曲だけ挙げると、プリンスの最高の曲だった、とスーザン・ロジャースが評するほどの「Wally」も、その素晴らしいオリジナルはプリンス自らの手で消去され、この世に残存せず誰も聴くことができません。この曲はコミカルなアレンジで作り直されたバージョンが昨年流出しています。

「Standing At The Altar」を改めて聴くと、プリンスはなぜこの詩でこんな音楽にしたのか、今は分かるような気がします。世の中には殆ど知られていませんが、私のとても好きな曲です。2分47秒頃に登場するプリンスの控えめなバックボーカルなども凄く良いです。


Why?
なぜなの?

I got the news just yesterday
They said U up and ran away
All because of what somebody said
I spent my wedding night alone in bed
つい昨日、知らせを聞いたわ
あなたが突然去ってしまったって
誰に吹き込まれたとも知らない話のために
私はウェディングの夜を一人ベッドで過ごしたわ

'Cuz U left me standing at the altar
U left big tears in my eyes
(Tears in my eyes)
U didn't even stop 2 ask me who
What or where or why
あなたは私を一人祭壇に残して去ってしまった
私の目には大粒の涙が残ってしまった
あなたは聞くことさえしてくれなかった
誰かも何かも何処かも何故かも

Ever since the day that we first met
Everybody been jealous as they could get
(They could get)
People sayin' this and sayin' that
(Sayin' that)
Struck us, struck us out before we even got 2 bat
私たちは初めて出会った日から
誰もが羨んではやきもちを焼いたわ
外野があれこれ騒いでいるうちに
バットを持って打席に立つ前に
私たちはストライクアウトにされてしまったのよ

Hey, U left me standing at the altar
U left big tears in my eyes
(Tears in my eyes)
U didn't even stop 2 ask me who
What or where or why
あなたは私を一人祭壇に残して去ってしまった
私の目には大粒の涙が残ってしまった
あなたは聞くことさえしてくれなかった
誰かも何かも何処かも何故かも

How could U do this, how could U leave?
When U knew how much U meant 2 me
(You meant 2 me)
I gave 2 U more than I've given any friend
Just 2 have U give it all back in the end
どうしてそんなことができるの?
どうして私を捨てられるの?
私にとってあなたがどれほど大切か、あなたは知っていたのに
私はどんな友達にするよりもあなたに尽くしたわ
ただ最後にあなたから欲しかったから

U left my poor heart broken
U left my world in a daze
(In a daze)
If I could, I'd write a letter 2 U
But I don't know what 2 say
I don't know what 2 say
あなたは私の哀れな心を壊してしまった
私は茫然自失の世界に取り残されてしまった
できるならあなたに手紙を書きたい
でももう言葉も見つからない
もう言葉も見つからないわ

I got the news just yesterday
They said U up and ran away
If there's a God way up above
One day U'll have 2 answer 2 him 4 my love
つい昨日、知らせを聞いたわ
あなたが突然去ってしまったって
もし天の彼方に神様がいるのなら
いつか私の愛のため、あなたは神様に答えなければならないわ

U left me standing at the altar
U left big tears in my eyes
U didn't even stop 2 ask me who
what or where or why
あなたは私を一人祭壇に残して去ってしまった
私の目には大粒の涙が残ってしまった
あなたは聞くことさえしてくれなかった
誰かも何かも何処かも何故かも

U left my poor heart broken
U left my world in a daze
(In a daze)
If I could, I'd write a letter 2 U
But I don't know what 2 say
I don't know what 2 say
あなたは私の哀れな心を壊してしまった
私は茫然自失の世界に取り残されてしまった
できるならあなたに手紙を書きたい
でももう言葉も見つからない
もう言葉も見つからないわ

(U left me standing at the altar)
U better stop doggin' me baby, yeah
I can't take it no more
I can't take it no more, baby
(U left my poor heart broken)
もうこれ以上私を苦しめないで
これ以上は耐えられない
これ以上は耐えられないわ