「Raspberry Beret」は1985年のアルバム「Around The World In A Day」からのヒット曲で、プリンスの有名曲のひとつです。

個人的に、「Raspberry Beret」はプリンスの作品の中でも、最も過小評価されている曲のひとつだと思います。この曲は、ほんわか親しみやすいメロディでよく「プリンスらしくない」と評されたりもします。私はそういった評価を目にするたびに、この曲の凄まじさが見落とされてしまっているような気がしてなりません。

「Raspberry Beret」は表面的には単なるヒット曲、という印象を与えるかもしれませんが、その内実はとんでもない曲です。この曲の凄さのひとつには、異常な表現力を持ったプリンスのボーカルが挙げられます。このプリンスのボーカルのために、この曲は他のアーティストがカバーするとおかしなことになってしまうという特徴があります。普通に歌うとずいぶんと物足りない感じになってしまいますし、かといってオリジナル並みの表現力に挑戦しても、これまた何とも言えない違和感が生じます。「Raspberry Beret」はその親しみやすさにもかかわらず誰にも上手く歌うことのできない奇妙な曲であり、プリンスがいかに異常な能力を持ったシンガーであったかの好例を示す曲だと思います。

また、この曲は歌詞も非常に秀逸です。私は、この曲の歌詞はポップミュージック史でも指折りの秀逸さだと思います。例えば次の部分の "The thunder drowns out what the lightning sees" などは、上手く日本語に訳せませんが本当に素晴らしい表現です。

The rain sounds so cool when it hits the barn roof
And the horses wonder who U are
The thunder drowns out what the lightning sees, huh
And U feel like a movie star
雨は冷たく音を立てて、納屋の屋根に打ち付ける
馬たちは僕らが何者なのか怪訝そうにしてる
稲妻が照らし出す僕らの姿を雷鳴の轟きがかき流す
気分はまるで映画スターさ

このように、「Raspberry Beret」は単にヒットしたかどうかで評価されるような曲ではありません。あまりの親しみやすさのために見過ごされてしまいがちかもしれませんが、サウンド、メロディ、ボーカル、歌詞の全ての面で、ポップミュージック史でも類を見ないほどの秀逸さを誇る曲です。


プリンスの音楽では、プリンス自身の人生に関わる出来事が題材にされている曲が数多くありますが、スーザン・ロジャースによると、ラズベリーのベレー帽を被った女の子は実在せず、この曲は純粋な創作物語なのだそうです。"Built like she was, she the nerve 2 ask me" や "She wasn't 2 bright, but I could tell..." など、女の子への描写にちょっと気になる言葉が散りばめられていて、いったいどんな女の子だったのだろうとイメージが膨らみます。ちなみに、先日の曲当てクイズの正解は、この曲でした。

この曲の歌詞では、他にも気になる言葉が出てきます。

She walked in through the out door, out door
あの娘が外のドアから入ってきたんだ

この "out door" とは、プリンスが当時聴いていた Led Zeppelin の1979年のアルバム「In Through the Out Door」から出てきた言葉であるようです。ただ、プリンスはこのアルバムがあまりお気に召さなかったようで、"Oh, this is terrible, this is awful" と言っていたとスザンナ・メルヴォワンは回想しています。

また、農場を営む "Old Man Johnson" という人物も気になります。

I put her on the back of my bike and
We went ridin' down by Old Man Johnson's farm
僕はその娘をバイクの後ろに乗っけて
ジョンソン爺さんの農場までひと乗りしたのさ

ここで歌われる "ジョンソン爺さん" とは、ジェシー・ジョンソンのことであるとスーザン・ロジャーズが明かしています。この曲が書かれる4ヶ月ほど前に、ジェシーは The Time を脱退しました。プリンスはその当て付けとしてジェシーを "ジョンソン爺さん" 呼ばわりしてやったのだそうです (笑)。

また、この曲で少年と少女はジョンソン爺さんの農場の納屋で結ばれます。これは「Purple Rain」の映画から削除された、プリンスとアポロニアが納屋で結ばれるシーンが元になっています。

これらの話は、Duane Tudahl の本に書いてあります。


この曲のリリースバージョンは、1984年9月7日にミネソタの Flying Cloud Drive Warehouse にてベーシック録音がされましたが、実は遡ること1982年4月27日にロサンゼルスの Sunset Sound で原型となる曲のベーシック録音が行われています。ただし、スーザン・ロジャースによると、1982年バージョンの「Raspberry Beret」を示すようなラベルが付けられたテープは存在せず、1984年バージョンは一から録音し直されたとのことです。曲にアップデートが施されたことは、前述の歌詞を見ても分かります。

さらに、2016年になって、この曲に関する面白い事実がプリンス自身の口から明かされています。実は「Raspberry Beret」のあの素敵な伴奏メロディは、リサ・コールマンが作ったのだそうです。2016年1月21日、ペイズリーパークでのコンサートの Show 1 にて、プリンスは次のように語って「Raspberry Beret」を歌っています。これがまた本当に、本当に、本当に楽しくて素晴らしいパフォーマンスなのですが・・・残念ながらブートでしか聴くことができません。

(Raspberry Beret」の伴奏の基本メロディを小気味よく刻みながらプリンスが語り出す)

I'd like to take a moment and, show love and appreciation for Lisa and Wendy. I met Lisa first, she was in the band for a while and then she introduced me to Wendy.
ここで少し時間をとって、リサとウェンディへの愛と感謝の気持ちを語らせてもらおうかな。僕が最初に出会ったのはリサだった。彼女はしばらく僕のバンドにいて、それからウェンディを紹介してくれたんだ。

When I first met Lisa, she didn't look me in the eye. I think... you'll have to ask her why. I called my manager and I said, "I don't think this is gonna work out. Can you make a plane reservation for her? She is going to have to go home." And then, I said "Hold on". And I could hear the piano coming from the basement. She was playing something.
僕が初めてリサに会ったとき、彼女は僕と目を合わせなかった。理由は・・・リサに訊かないと分からないな。それで僕はマネージャーに言ったんだ。
「これは上手くいくとは思えないな。彼女に飛行機のチケットを取ってやってくれないか。彼女は家に帰らせることにするよ」
だけど次にそれが起きたんだ。僕は言った。
「いや、ちょっと待って」
地下室からピアノの音が聴こえてきたんだ。彼女が何かを弾いていたんだ。

(演奏のトーンが変わり、何とも妖艶なコードが奏でられる)

Free form, just making up these crazy chords that I... never heard until I met Miles Davis who came to my house and played similar chords. And she told me that her favorite piano player was Bill Evans... Right? And I am trying to imitate her now...
それはフリーフォームで、彼女はとにかくクレイジーなコードを奏でていたんだ。それは・・・僕が聴いたこともないコードだった。後にマイルス・デイビスが僕の家に来て、似たようなコードを演奏するのを聴くまでね。彼女は好きなピアノ奏者はビル・エヴァンスだと教えてくれた・・・ね? 僕は今、彼女の真似をしてピアノを弾いてるんだ・・・

(妖艶なコードが続く)

And I would write music and I would let them go to the studio and just mess around and see what they come up with and Lisa wrote this harpsichord part that went...
そして僕は音楽を作るとき、彼女たちもスタジオに入らせて、好きなように演奏をさせてどんなものが出来上がるか試したりしたんだ。そして、リサがこんなパートをハープシコードで弾いたんだ・・・・

(再び「Raspberry Beret」の伴奏の基本メロディを刻み出す)

And that's the whole song, right?
これってこの曲そのものだよね?

(そのまま歌に入る)
Working part time in a 5-and-dime, My boss was Mr. McGee♪
僕は雑貨店でバイトをしてたんだ、ボスの名前はミスター・マギーでね♪



I was workin' part-time in a 5-and-dime
My boss was Mr. McGee
He told me several times that he didn't like my kind
Cuz I was a bit 2 leisurely
僕は雑貨店でバイトをしてたんだ
ボスの名前はミスター・マギーでね
お前のような奴はいけ好かないって何べんか言われたよ
僕は少しのんびりしすぎてたからね

It seems that I was busy doin' somethin' close 2 nothin'
But different than the day before
That's when I saw her, ooh, I saw her
She walked in through the out door, out door
だいたい僕はぼーっとしてるのに忙しかったんだ
でもあの日はそれまでとは違ったのさ
それはあの娘を見た時だった、そう、あの娘を見た時さ
あの娘が外のドアから入ってきたんだ

Chorus:
She wore a raspberry beret
The kind U'd find in a second hand store
Raspberry beret
And if it was warm, she wouldn't wear much more
Raspberry beret
I think I love her
あの娘はラズベリーのベレー帽を被ってた
古着屋さんに置いてあるようなやつさ
ラズベリーのベレー帽
暖かい日はあんまりそれ以上着ない娘だった
ラズベリーのベレー帽
僕はあの娘に恋したみたい

Built like she was, huh, she had the nerve 2 ask me
If I planned 2 do her any harm, hmph
So looka here, I put her on the back of my bike and ah...
We went ridin' down by Old Man Johnson's farm
体つきに似つかわしく、その娘は大胆にも聞いてきた
イケナイことをするつもりなのって
ふっ、だから僕はその娘をバイクの後ろに乗っけて
ジョンソン爺さんの農場までひと乗りしたのさ

I said now overcast days never turned me on
But somethin' 'bout the clouds and her mixed
She wasn't 2 bright, but I could tell when she kissed me
She knew how 2 get her kicks
僕はどんより曇り空の日は気乗りしないタイプだったけど
その日の空模様とその娘は何だか妙にハマった
その娘は少し鈍いふうだったけど、僕にキスしてきた時分かったよ
この娘は楽しいコトをするコツをちゃんと心得てるってね

Chorus:
She wore a raspberry beret
The kind U'd find in a second hand store
Raspberry beret
And if it was warm, she wouldn't wear much more
Raspberry beret
I think I love her
あの娘はラズベリーのベレー帽を被ってた
古着屋さんに置いてあるようなやつさ
ラズベリーのベレー帽
暖かい日はあんまりそれ以上着ない娘だった
ラズベリーのベレー帽
僕はあの娘に恋したみたい

The rain sounds so cool when it hits the barn roof
And the horses wonder who U are
The thunder drowns out what the lightning sees, huh
And U feel like a movie star
雨は冷たく音を立てて、納屋の屋根に打ち付ける
馬たちは僕らが何者なのか怪訝そうにしてる
稲妻が照らし出す僕らの姿を雷鳴の轟きがかき流す
気分はまるで映画スターさ

Listen, they say the first time ain't the greatest
But I tell ya, if I had the chance 2 do it all again
I wouldn't change a stroke cuz baby I'm the most
With a girl as fine as she was then
ねえ初めてってあんまり最高じゃないって言うけれど
だけど自慢じゃないけど、たとえもう一度やり直すチャンスをもらえたとしても
僕は一切の細かな動きまでやり方を変えないよ
だってあの時のあの娘ほど素敵な娘と一緒なら僕は最高なんだから

Chorus:
She wore a raspberry beret
The kind U'd find in a second hand store
Raspberry beret
And if it was warm, she wouldn't wear much more
Raspberry beret
I think I love her
あの娘はラズベリーのベレー帽を被ってた
古着屋さんに置いてあるようなやつさ
ラズベリーのベレー帽
暖かい日はあんまりそれ以上着ない娘だった
ラズベリーのベレー帽
僕はあの娘に恋したみたい