前回からの続きで、Disc 2 に関する雑感です。

Disc 2 - From The Vault & Previously Unreleased

全体の印象

Disc 2 を一通り聴いてまず思ったのは、収録されている曲がどれもパープルレインという感じがしない、ということです (個人的には「Computer Blue」もアルバムとこちらのバージョンは別物です)。Purple Rain Deluxe の Disc 2 としてリリースされたこのディスクですが、単に録音時期がパープルレインと被っているだけで、作品としては独立した感じがします。それだけバラエティーに富んだ楽曲を作っていた時期なのだと思います。Prince.org のスレッドでは、これを Disc 2 という無機質な呼び方で扱うのはもったいないので、"HitnRun: 1984" や "The Dance Electric アルバム" といった別のタイトルにしても良かったくらいだ、と言っている人達がいて、確かにそうだなと思いました。

1. The Dance Electric

アンドレ・シモンに提供された曲のプリンスバージョン。ビート感が後にリリースされた「Mountains」に似ています。調べてみたら、この曲は2012年によくライブで演奏されており、その際に「Mountains」と「The Dance Electric」の2曲が連続で演奏されることもあったようです。また、曲自体が似ているわけではないのですが、"Dance the Dance Electric - Listen 2 the rhythm of your soul♪" という歌詞は、個人的には後のマイテの "Listen 2 the rhythm of your heart♪" を思い起こさせます。ちなみにマイテのオフィシャル YouTube に「Rhythm Of Your Heart」のビデオがありました。こちらは割と普通の90年代っぽい曲です。

また、この曲はギターが入ったバージョンがブートレグで出回っており、最近はさらに別のバージョンもリークされています。Prince.org を見ると、今回のオフィシャルバージョンよりもこれらのバージョンの方が良いという声がちらほら見受けられます。個人的には、最もすっきりしている、オフィシャルに選ばれたバージョンに特に不満はありません。ただ、より手が加えられたバージョンが存在するのに、どうしてこれが選ばれたのか説明があれば良かったな、とは思います。

2. Love And Sex

Uh, come on, baby, hurt me!

Sha la la la, sha la la boom!

この曲は何と言ったら良いのか、もう言葉が出てきません。5分間、プリンスのリードボーカルはひたすら叫びながら歌い続けます。終盤のバックボーカルは性別不詳な声も混じっているように聴こえて自分の耳では判断できないのですが、PrinceVault によると、ボーカルも演奏も全てプリンスなのだそうです。こういった常軌を逸したノリの曲は、得てしてプリンスの一人パフォーマンスにより作られているものです。他の常軌を逸した曲として、例えば「Tamborine」や「Thunder」なども、PrinceVault を確認するとレコーディング欄に書かれているのはたったの一行、"Prince - all vocals and instruments" です。「Thunder」は日本では駄曲の烙印を押されていたりもしますが、「これってボーカルも演奏も、全部プリンスが一人でやったのか…」と思うと、あまりの凄さに自然と変な笑いが込み上げてきます。こういった曲を聴くと、私はプリンスに畏敬の念を抱かずにはいられません。

ちなみに、最近リークされた曲のひとつに、同名異曲の「Love And Sex (Sheila E.)」というのがあります。「シーラ E がこの曲を? 一体どうやって?!」と思って聴いたら、全くの別曲でした。恐ろしいのが、それがとんでもない極上のポップソングであったことです。どうしてこれほどの曲を保管庫に眠らせたまま放っておけるのでしょうか。全く常人の理解を越えています。

3. Computer Blue (Hallway Speech Version)

個人的に、音楽史上これに比類する曲はない、と言えるほどの傑作だと思います。感想はここでは書ききれないので、別途記事を書いています。

4. Electric Intercourse (Studio Version)

このディスクで最も純粋に感激した曲です。これも感想はここでは書ききれないので、別途記事を書いています。これまでは、この曲はかなり感触の異なるライブバージョンで知られていました。結局、あの素晴らしいライブバージョンがオフィシャルリリースされる日は来ないのでしょうか。

5. Our Destiny / Roadhouse Garden

「Our Destiny」の最初に流れる美しいオーケストラのフレーズは、後に「The Ladder」に使われています。オーケストラといい、打ちつけるキックドラムといい、個人的には何となく1985年の The Family のアルバムにも通じる、爽快で気持ちの良い曲です。

このバージョンのボーカルはリサ・コールマンですが、ジル・ジョーンズがボーカルを取ったバージョンも存在します。ジルのボーカルの方が格段に存在感が強いので、両者を聴き比べた場合、ジルのバージョンの方が良いと言う人の方がおそらく多いのではないかと思います。ただ、今回のリリースに入れるのであれば、個人的には、より素直に歌っているリサのバージョンの方がしっくりきます。それにリサのバージョンの方が、演奏も追加されていて曲としてより仕上がっています。ちなみに、ペイズリーパークの保管庫から取り出してリリースされたオフィシャルバージョンよりも、ジルが個人的に所有していたバージョンの方が音質が良いような気がします (笑)

6. Possessed

ライブで演奏されるようなファンキーで激しいバージョンを想像していたら、オリエンタルな風味と繊細なボーカルで、ちょっと予想外なアレンジでした。

7. Wonderful Ass

一度聴いたら忘れないフックの効いたメロディと、それにぴったりな歌詞で、ブートを聴く人達の間では長年有名だった曲です。よく1985-86年頃の曲と一緒にまとめられているイメージがあったのですが、最初のレコーディングは1982年に行われ、1984年に追加のレコーディングがされました。Prince.org のスレッドで、ジル・ジョーンズの以下の発言が紹介されています。これは元々1999ツアー中に書かれ、ヴァニティに贈られた曲で、ヴァニティはコンサート前にこの曲をひっきりなしに流していたそうです。

Wonderful ass was written originally on the 1999 tour and gifted to Vanity. She played it non stop before the shows during that time.

この曲でちょっと可笑しいのが、4分16秒頃、バックコーラスが高らかにこう叫ぶところです。

The Revolution will be heard!

このすぐ後、もう一度これを繰り返すのですが、今度は一転して "The revolution will be heard..." とトーンがガクッと落ちて自信なさげな声になります (笑)。30年以上もかかりましたが、ようやくこの曲も、日の目を見てファンに声が届きました。良かったね、と言ってあげたくなります (笑)。

また、再生時間が前後しますが、1分55秒からの、"Educate, tolerate, negotiate, ...ate, ...ate" と続く部分はジル・ジョーンズが一緒に考えたらしいです。ネットで手書きの歌詞が見つかり、見ると上のヴァース部分と下の単語リストは違う筆跡で書かれています。タイトルのお絵描きといい、何とも楽しそうなノートです。

prince-wonderful-ass-lyrics

今回のリリースでは、何となくジル・ジョーンズが蚊帳の外に置かれている感じがして少し不憫です。ちなみに、アルバム「Purple Rain」の制作過程において、1983年11月のアーリーコンフィギュレーションには、おそらくジルがボーカルをとることを念頭に書かれた、「Wednesday」という愛らしい小曲が含まれていました。ブートによっては「There's No Telling What I Might Do」というタイトルになっている曲です。ジルは、自分がボーカルをとったバージョンの「Wednesday」を、「Our Destiny」などと共に自らネットに流しています。個人的には、「Wednesday」も今回のリリースに含めてほしかったな、と思います。

8. Velvet Kitty Cat / 9. Katrina's Paper Dolls

特別なボーカル能力を必要としない、シンプルでキュートな2曲です。私はどちらも結構好きで、Disc 2 を通して再生した場合、丁度良い具合に一息つくタイミングができます。また、「Katrina's Paper Dolls」は、何も起こらないような雰囲気で曲が進行するので油断してしまいますが、"Love will make U lonely" の歌詞の部分が最後だけ "Love will make U horny" に変わるので、聴いているとギョッとします (笑)。Katrina はヴァニティのミドルネームということなので、さすが一筋縄ではいきません。

10. We Can Fxxk

サプライズだらけのこのディスクにあって、私がとりわけ衝撃を受けた曲です。感想はここでは書ききれないので、別途記事を書いています。

11. Father's Song

ピアノ独奏のしっとりした美しい曲を想像していたら… 思ったよりも変わったアレンジの曲でした。不思議な余韻が残ります。