今回の話は、日本の音楽評論家によって語られることはほぼないような気がするのですが、これに触れずしてプリンスの音楽を語ることなかれ、というくらい重要なことです。何となく遠慮して先延ばしにしていましたが、本来であれば一番最初に言いたかったことです。

そのこととは、これです。

プリンスの音楽をきちんと聴くためには、ヘッドホンやイヤホンは、殆ど必須と言って良いくらいに重要なアイテムです。

何だそんなことかと思うかもしれません。しかし実のところ、この一点だけを持ってしても、プリンスは他のどんなアーティストとも違う、と言い切ることができます。これはそれほど特異な特徴であり、この特徴を持つアーティストというのは、おそらくプリンス以外には誰もいません。というのも、プリンスの場合、ヘッドホンやイヤホンが必要になる理由が、他のアーティストとは根本的に異なるのです。

ヘッドホンやイヤホンで音楽を聴く利点というと、普通、より良いサウンドや臨場感を楽しんだり、周囲に迷惑をかけずに音楽を楽しんだりできることなどが挙げられると思います。もちろん、プリンスを聴く場合であってもこれは当てはまります。しかし、これだけの理由であれば、ヘッドホンやイヤホンは必須アイテムというほどのものではありません。プリンスの場合、これとは全く別の理由からヘッドホンやイヤホンを使用する必要が生じます。

今回の話はプリンスの音楽をよく聴く人には納得してもらえると思うのですが、どこの馬の骨かも分からない私が力説してもあまり説得力がないので、替わりに Peach & Black Podcast の Musicology レビューでのやり取りを意訳して紹介します。

MC: ここで少しだけプリンスをヘッドホンで聴くことについて触れておこうかな。このアルバムは、というか、どのプリンスのアルバムでもそうなんだけど、僕らのレビューを聴いた後は、あるいはそれに限らずプリンスのアルバムを聴く時は、機会があればヘッドホンで聴いてみてほしいんです。

Captain: それもショボイやつじゃなくて良いヘッドホンでね。ゼンハイザーとか、マトモな品質のヘッドホンね。イヤホンとかショボいやつが多いからね。

Toejam: それは本当に同意するよ。ヘッドホンだと、プリンスの音楽はクるんだよね。その、よりクるんだよね。まともなヘッドホンで聴くとね。

MC: それも遥かに。今回は Musicology のレビューだけど、少しプリンスをヘッドホンで聴くことについてコメントしておこうかな。これはこれだけで一つの独立したポッドキャストが作れるような話題だけど。プリンスを、他の商業的に売られているポピュラー音楽のアーティストと比べると……僕は実際に様々なタイプの音楽をヘッドホンで沢山聴いた上で言っているんだけど、そういった音楽は、どれも、ヘッドホンで聴いても完全に同じように聴こえるだけか、あるいは、ヘッドホンで聴くことによって寧ろがっかりさせられる (makes me appreciate it less) かのどちらかなんです。なぜならば、曲が単純すぎるか、結局のところ大して手の込んだものが入っていないかのどちらだから。だけど、プリンスの場合は、それが逆転するんです。

普通、ヘッドホンで音楽を聴くと、より良いサウンドが楽しめてハッピーな気分になるものだと思います。なので、ヘッドホンで音楽を聴いて逆にがっかりするというのは、多くの人にとってはあまり馴染みがない感覚かもしれません。しかし、プリンスを知っていると、他の音楽を聴いたときに本当にこういう感覚になります。

一般に流行っているポピュラー音楽の場合、ヘッドホンで聴き直したときに、「曲に驚く」ということは殆ど起こらないのではないかと思います。大抵こういった音楽は、ヘッドホンで聴いたらどうなるかは事前に予測できるものです。なぜならば…それは既に知っている曲がそのまま流れてくるだけだからです。変わるのはあくまでサウンドであって、大元の曲自体が変化するわけではありません。「サウンドに驚く」ことはあっても、「曲に驚く」ことは殆どないのではないかと思います。

しかしプリンスは違います。プリンスの場合、既に知っているはずの曲であっても、ヘッドホンやイヤホンで聴き直したら事前に予測した範囲外のものが出現し、大元の曲そのものが変化して驚かされる、ということが何度も起こります。それまで存在を認識していなかった仕掛けが突如として姿を現したり、平坦だと思っていたのに実は微細な突起物があり全く平坦ではなかったり、単純な曲だと思っていたのに実はそれまで気に留めていなかった展開があり全く単純な曲ではなかったり、ということが何度も起こります。また、プリンスにはただ聴き流したのでは意味を見落としてしまうような曲も多いので、ヘッドホンやイヤホンを使い、音楽をより耳に入ってきやすい環境で聴くことによってそれに気付くチャンスが増えます。こういった理由により、ヘッドホンやイヤホンで聴くプリンスの音楽は、時に普通に聴くのとは別の音楽である、と言えるほどの違いをもたらします。

いったんここで終わりにします。次の記事では、これが具体的にどういうことを言っているのか、少し例を出して続きの話を書くつもりでいます。