最近よく私の頭をよぎる曲に「Play In The Sunshine」(Sign O' The Times 収録、1987年) があります。私にとって、これは様々な意味でプリンスを象徴する曲のひとつです。

また、少し前に「The Morning Papers」と「Love's No Fun」を取り上げました。私の中では、「Play In The Sunshine」はこれらの2曲とも密接に関係しています。一見脈絡がなさそうに思えるかもしれませんが、私の中では色々と繋がっているので後述します。

これからする話は私の記憶を辿ってのものになります。


今となってはどうでもいいことですが、日本の音楽評論家の、プリンスに対する異常ともいえるシニカルな態度は、昔の私にとって頭を悩ませるものでした。

時は遡って1990年代初期、遅れてプリンスを聴き出した私には、次の重大な命題がありました。

プリンスの「革新性・実験性」とは何か/80年代のプリンスとは何か

「革新性・実験性」というのは、当時、雑誌の批評や国内盤アルバムに付いてくる解説において、「天才」と並んでプリンスの音楽を説明するのによく使われていたキーワードです。そして、90年代以降のプリンスは革新性を失った、だからプリンスは終わった、というのがこれまたよくあるプリンスの評価でした。つまり、音楽評論家によると、当時の私は終わったアーティストの音楽を聴いて喜んでいる状態だったわけです。

インターネットのない時代、音楽評論家・音楽ライターという人達は大きな影響力を持つ存在でした。私は、プリンスを殆ど聴いたこともない友人から「プリンスは革新性がなくって大したことないよね」と言われたこともあります。プロの評論家の意見を否定するのは結構勇気が要るものです。まだ中・高校生だった私にとっても、音楽評論家のプリンスに対するシニカルな態度は心に引っ掛かるものでした。

かつて、プリンスの音楽は「革新性・実験性があるかどうか」により評価が決定され、そういった性質がなければ駄作の烙印が押される習わしでした。1995年のアルバム「The Gold Experience」では、「タイトルに "Experience" と銘打ってありながら全然実験的ではないではないか」という批判もありました。しかしその批判は、「"Experiment (実験)" とちょっと単語が似てるけど、"Experience" は "体験" だろ」という結論に至りました。

ちなみに、音楽評論家の言う「革新性・実験性」を体現する作品群とは、具体的には1985年から1987年に発表された「Around The World In A Day」、「Parade」、「Sign O' The Times」の3作のみです。1984年の「Purple Rain」は、音楽評論家的には「ヒットして良かったね。キモイけどね」くらいの評価です。また、90年代を待たずに、1988年の「Lovesexy」でプリンスは革新性を失なった、プリンスはもう終わった、という声も強かったように思います。

繰り返しますが、以上の話は私の記憶と勝手な印象に基づくものです。実を言うと私はアルバムの解説や歌詞の和訳などは全部捨ててしまっており… 確認できないのです。


それにしても、音楽評論家の言う、プリンスの音楽における「革新性・実験性」とは一体何者なのでしょう? 私は未だにこの疑問に対する明確な答えを知りません。そこに答えがないことは知りながら、かつての私はこう思ったものです (前も書いた通り、私は「The Morning Papers」の歌詞がとても好きです)。

君の顔を照らす月明かりに尋ねたらいいのだろうか
あるいは君の髪に滴る雨の雫に尋ねようか
それともアルバムのライナーノーツにそう書いたあの人にでも尋ねようか

その答えは、シニカルな評論家達がそれなりに好意的な評価をする、1985年から1987年に発表された3つのアルバムにあるのでしょうか。無理を承知で、そこからプリンスの音楽を集約する1曲を選ぶとしたら、何になるのでしょうか?

一般的にいって、音楽的にプリンスの最高傑作とされるアルバムは、1987年の「Sign O' The Times」… を作るにあたってボツにされた未発表曲を適当に見繕ってまとめればそれが最高傑作… という話もありますが、まあオフィシャルアルバムとしては「Sign O' The Times」になると思います。

さらにそこから1曲に絞ろうと思うとき、私が思い描くのは、コンサートフィルム「Sign O' The Times」の最初に演奏される一連の曲です。「Sign O' The Times」、「Play In The Sunshine」、短い「Little Red Corvette」を挟んで「Housequake」… しかし、ここから選ぶとなると、「Sign〜」と「Housequake」は曲としての独特さが突出しすぎているような気がします。そうなると残るのはこれしかありません。おもちゃ箱を引っくり返したような楽しいサウンドで、後半は複雑な展開を見せ、色々なものが詰め込まれていて才気が溢れて止まらない、といった感じのこの曲、「Play In The Sunshine」となります。特にこの曲のスタジオバージョンはとても濃密で緻密に作られています。

ということで、そもそも1曲に絞るというのが間違っているという話は置いといて、80年代のプリンスを集約する1曲って何だろう?と思うとき、私の頭をよぎるのは「Play In The Sunshine」となります。


プリンスの音楽には、音楽評論家が説明してくれない細やかな仕掛けや複雑な意味が沢山含まれています。音楽的にもそうですし、歌詞もそうです。「Play In The Sunshine」は、私にとって、次のことを明確に意識するきっかけとなった曲でもあります。

プリンスの音楽は、プリンスの人生を切り取って作られている

この曲には、背景知識がないと意味不明な次の歌詞があります。

Aah, pop goes the music when the big white rabbit begin 2 talk
And the color green will make your best friend leave ya (Walk)
It'll make them do the walk, but that's cool (That's cool)
Cuz one day (one day), every day (every day) will be a yellow day,
大きな白うさぎが語り出すとポンッと音楽が弾ける
緑の色が親友を去らせてしまう
それが奴らに "The Walk" をさせる - だけどそれで "COOL" さ
だっていつかは、毎日が黄色い日になるんだから

プリンスは自分からは詳細に歌詞の解説をしない人なので想像での解釈になりますが、この歌詞において、"the big white rabbit" は、プリンスの私生活をタブロイドに売った巨漢のボディガード Big Chick を連想させます。"White" という言葉は彼が当時コカイン常習者であったことも引っ掛けてあるようにも取れます。

また、"green" は妬み・欲望やお金を表す色であると共に、"The Walk" や "COOL" はプリンスがプロデュースした The Time の曲です。The Time のボーカルのモーリス・デイは当時プリンスとの仲がこじれた状態でした。この歌詞には、それをユーモラスに揶揄にする意味合いも込められているのだと解釈できます。

ちなみに、以前の記事では曲のイメージを壊すので言及を避けたのですが、この歌詞のせいで「Love's No Fun」の "No one can WALK the way U do / It's so COOL (あなたのような歩き方は誰にも真似できないわ / とっても格好良いから)" という部分を聴くと、私の中では流れるように颯爽と踊るモーリス・デイの姿がチラつきます。書こうかどうか迷ったのですが、なんかもう書いてしまったので GIF を貼り付けます。

prince-moris-jungle-love

また、"yellow day" というのは、辞書的には特別な意味はないと思いますが、私がもの凄く好きな「Condition Of The Heart」という曲に出てくる表現です。言葉の意味はよく分かりませんが、とても素敵なことを言っているのだと思います。

とにかく、私はプリンスを後追いで知ったので、後に様々な背景知識を得てこの歌詞の裏の意味に気付いたときは、「これは凄い…」と感嘆しました。


そんなつもりはなかったのですが、少し愚痴っぽいトーンが混ざってしまったかもしれません。反省して今日のプリンスの言葉はこれにしたいと思います。そういえば、英語ではゴリラとゲリラは同じ発音なんですよね。関係ないかもしれませんが。とにかく敵を愛するとゴリラが壁から落ちるのだそうです。

We gonna love all our enemies 'til the gorilla falls off the wall
We're gonna rock him (Rock him)
We're gonna roll him (Roll him)
We're gonna teach him that love will make him tall
敵を皆愛してあげよう - ゴリラが壁から落ちるまで
奴をロックして (ロックして)
奴をロールして (ロールして)
愛が誇り高いものだってことを教えてあげよう

もう一つ追加します。

Before my life is done
Some way, some how I'm gonna have fun
僕の人生が終わってしまう前に
何とかして、どうにかして、楽しんでみせるよ

上手くは言えませんが、人生をこのように楽しいものにしてくれるプリンスに、私は感謝しています。


Ooh doggie!

We wanna play in the sunshine, we wanna be free
Without the help of a margarita or exstacy
僕等は太陽のもとで楽しみたいんだ - 自由になりたい
マルガリータやエクスタシーの助けを借りないでね

We wanna kick like we used 2, sign up on the dotted line
We're gonna dance every dance like it's gonna be the last time
昔のように蹴り上げたい、点線に署名して加わりたい
できるダンスを全部しよう、それが最後であるかのように

We got 2 play in the sunshine, turn all the lights up 2 10
I wanna meet U (meet U) and kiss U (kiss U)
And love U (love U) and miss U (miss U)
太陽のもとで楽しまなくっちゃ - 全部のライトを10にして
君に会いたい、君に口づけしたい
君を愛したい、君に会えなくて切ない思いをしたい

Do it all over again, do it all over again
もう一回繰り返そう、もう一回繰り返そう

We're gonna play in the sunshine, we're gonna get over
I'm feelin' kind of lucky 2night, I'm gonna find my 4-leaf clover
太陽のもとで楽しもう - 乗り越えよう
今夜はラッキーな気分がする - 四つ葉のクローバーを見つけるよ

Before my life is done
Some way (some way), some how (some how) I'm gonna have fun
僕の人生が終わってしまう前に
何とかして、どうにかして、楽しんでみせるよ

Play in the sunshine
太陽のもとで楽しもう

We gonna love all our enemies 'til the gorilla falls off the wall
We're gonna rock him (Rock him)
We're gonna roll him (Roll him)
We're gonna teach him that love will make him tall (So tall)
敵を皆愛してあげよう - ゴリラが壁から落ちるまで
奴をロックして (ロックして)
奴をロールして (ロールして)
愛が誇り高いものだってことを教えてあげよう

Aah, pop goes the music when the big white rabbit begin 2 talk
And the color green will make your best friend leave ya (Walk)
It'll make them do the walk, but that's cool (That's cool)
Cuz one day (one day), every day (every day) will be a yellow day,
大きな白うさぎが語り出すとポンッと音楽が弾ける
緑の色が親友を去らせてしまう
それが奴らに "The Walk" をさせる - だけどそれで "COOL" さ
だっていつかは、毎日が黄色い日になるんだから