「Open Book」は1990年12月から1991年初め頃に書かれた曲です。この曲はジェヴェッタ・スティール (Jevetta Steele) に提供され、彼女の1993年のアルバム「Here It Is」でオフィシャルリリースされていますが、この記事で主に扱うのはプリンス自身がガイドボーカルを入れた未発表音源の方です。この曲については、2年程前にもブートレグの話題の中で触れています。

上の記事を書いた時点ではまだ日が浅かったため、ブートレグを話題にする上で、なぜプリンスの膨大な未発表音源の中から敢えてこの一曲を選んだのか、その理由を上手く説明をすることができませんでした。なので改めてここで取り上げることにします。私がこの一曲を選んだのは、たったこの一曲を聴くだけで、プリンスの未発表音源にどれほどの価値があるか、その潜在的な力を感じることができるからです。

1980年代初期、プリンスは The Time や Vanity 6 といったグループを作りましたが、それは単なるサイドプロジェクトではありませんでした。The Time のモーリス・デイはプリンスの別人格としてのキャラクターでもあり、ヴァニティはプリンスの女性バージョンとしての人格も持っていました。つまり、The Time や Vanity 6 は、プリンスが「プリンス」の枠に収めきることのできない芸術性を表現するための場でもありました。このサイドプロジェクトはそれ以外にも到底プリンスにしか成し得ない、別の重要な意味も持っていましたが、その話はいつかまた別の機会にします。また、1980年代中期には、プリンスはカミールという変名で10曲ほどの楽曲を制作しました。

しかし、The New Power Generation のバンドが出来るとまた変わってくるのですが、このくらいの時期になると、他のアーティストに曲を書く場合も単なる曲の提供やプロデュースに留まり、表面上はプリンスの別人格は影を潜めます。今回取り上げる「Open Book」も、ジェヴェッタ・スティールのバージョンを聴く限り、歌声を響かせている人格はあくまで歌手であるジェヴェッタのものです。ジェヴェッタの歌声からプリンスの人格を読み取ることはできません。

ところが、プリンス自身がガイドボーカルを入れた未発表音源を聴くと、この曲の印象は一変します。そこには紛れもなくプリンスがいることが分かるからです。しかも、それは単にジェヴェッタのボーカルで消えていたプリンスが現れた、というだけではありません。そのプリンスは、「プリンス」のオフィシャル作品では垣間見ることのできない別人格のプリンスなのです。つまり、プリンスの未発表音源を聴くと、「プリンス」の作品では出会うことのできない、「プリンス」を越えたプリンスの芸術性に触れることができるのです。私にとって、「Open Book」はその好例を示す特別な一曲です。


「Open Book」というタイトルは直訳すると「開いた本」ですが、英語ではこの言葉には、隠れた部分がなく容易に理解や解釈ができる人、という意味があります。そして、この曲でプリンスは、悲しく複雑な女性の心を歌います。男性ボーカリストが女性の曲を歌うこと自体はそこまで珍しいことではありませんが、プリンス独特の繊細なボーカルは、聴く人の心に深く沁み入ります。それに、自身の名前を捨ててまでアーティストとしての権利のために戦った、後のレコード会社との争いを予兆させるような歌詞が含まれているのも印象的です。単純に解釈すると、女性は結婚して男性の苗字をもらい、別れることでその苗字を返す、ということが想像されますが、プリンスが歌うとまた別の意味合いが感じられます。

I'll give back your name if U give back my heart
私はあなたに名前を返すわ
あなたは私の心を返して

また、下の YouTube リンクにはこんなコメントが付いていますが、まさにその通りだと思います。

Prince has been an open book his entire life, everything you need to know is all in his music.
プリンスは生涯を通して開いた本だった。知るべきことの全ては彼の音楽にある。

だからこそプリンスの未発表音源は公開されるべきであり、全てが公開されない限り、プリンスという本は永遠に閉じたページが残ったままになってしまいます。今のところ、エステートはどちらかというと本のページを潰すのに熱心なように私には思えます。個人的にこれはとても残念な状況だと思います。

また、この曲はマルティカの「Safe In The Arms Of Love」という曲の歌詞の一部を使って書かれました。歌い出しのラインは殆ど一緒ですが、「Open Book」では全く別の感情が歌にされています。

マルティカの「Safe In The Arms Of Love」を聴いた後だと、この曲にはまた別の顔が見えてきます。それにしても、まさかこの曲を聴いて笑ってしまうとは思いませんでした。何もそこまで否定を繰り返さなくても・・・苦笑。人を感動させたと思ったらこんな仕掛けがあったなんて、本当にプリンスという人は。

U'd never be able 2 read this girl
So the open book is closing, closing, closing
Closing, oh oh oh
あなたはこの私を読むことはできないわ
だから開いた本は閉じているの、閉じているの、閉じているの
閉じているの、オ〜オ〜オ〜

オフィシャルリリースされたジェヴェッタ・スティールのバージョンは、下のリンクで42分12秒からです。


U said my heart's just like an open book
But there are lines U've never seen
U said that U could tell in a single look
But U never looked in between
あなたは私の心は開いた本のようだと言ったわ
でもあなたがまだ一度も目にしていない行があるの
あなたは私のことは一目見れば分かると言ったわ
でもあなたはその間に在るものを見たことがないの

Sometimes I wanted 2 keep U, sometimes I wanted your love
But I've awakened 2 the reality that sometimes is not enough
時にはあなたに傍にいてほしかった
時にはあなたの愛が欲しかった
でも "時には" じゃ足りないという現実に目覚めたの

Oh, our separate dreams pulled us our separate ways
We were so different from the very start
2 me it was 4ever, 2 U it was just a phase
I'll give back your name if U give back my heart
私たちは別々の夢を持ち、別々の道に引き離された
私たちは最初から全然違ったわ
私には永遠だったけど、あなたにはいずれ過ぎ行くものだった
私はあなたに名前を返すわ
あなたは私の心を返して

CHORUS:
U said U'd take me 2 another world
I said U were only posing
U'd never be able 2 read this girl
So the open book is closing, closing, closing
Closing
あなたは私を別の世界に連れて行くと言ってくれた
でも私にはそれは見せかけだけのものだった
あなたはこの私を読むことはできないわ
だから開いた本は閉じているの

Sometimes it felt so natural, sometimes it felt so right
It doesn't seem fair that U and I ever had a fight ... no!
時にはとても自然に思えたわ
時にはとても心地良く思えたわ
争い合ったなんて何かの間違いだとしか思えないほどに

Sometimes I wanted 2 keep U, sometimes I wanted your love
But I've awakened 2 the reality that sometimes is not enough
時にはあなたに傍にいてほしかった
時にはあなたの愛が欲しかった
でも "時には" じゃ足りないという現実に目覚めたの

Oh, now your touch is a reminder like the thorns upon a rose
The beauty is mine if I can stand the cut
ああ、あなたの愛撫は棘を持った薔薇のよう
美しさを愛でるには傷に耐えなければならない

CHORUS:
U said U'd take me 2 another world
I said U were only posing
U'd never be able 2 read this girl
So the open book is closing, closing, closing
Closing
あなたは私を別の世界に連れて行くと言ってくれた
でも私にはそれは見せかけだけのものだった
あなたはこの私を読むことはできないわ
だから開いた本は閉じているの

CHORUS:
U said U'd take me 2 another world
I said U were only posing
U'd never be able 2 read this girl
So the open book is closing, closing, closing
Closing
あなたは私を別の世界に連れて行くと言ってくれた
でも私にはそれは見せかけだけのものだった
あなたはこの私を読むことはできないわ
だから開いた本は閉じているの