昔々、シナプレンティという国に一人の王様がいました
その王様にはエレクトラという名の従者がおり
彼女は他の誰も敵わないほどの忠節で王様を愛し
王様のため毎日微笑みを絶やすことはありませんでした
しかしそれも何処吹く風
王様は梯子を探していたのです

誰もが梯子を探している
誰もが魂の救済を求めている
その道のりは決して容易いものではない
だがその道を進むと決めた者にとって
その報いは計り知れない

誰もが答えを探している
どのように物語が始まり、どのように物語が終わるのか
半端な物語、半端な夢にどれほどの意味があろうか
昇るなら全ての段を昇り切らなければならない

プリンスの音楽は全体で一つの巨大な物語を成しています。その物語は途方もなく壮大で、様々な変化を見せながら、複雑に繋がり合って展開していきます。印象に残る場面も人により様々だと思います。

これまでここで書いてきたブログ記事には、タイトルに「私の選ぶ曲」と付けているものがあります。それらは私が個人的に選んだ特別なお気に入り曲です。一応順位がついていますが、1位と2位は別として、他の順位にそこまで深い意味はありません。スーザン・ロジャースがプリンスとの思い出を語るときにしばしば言うように、プリンスの音楽は、じっくり聴くとどの曲も「これが最高傑作」だと感じられてしまうからです。なのでここに挙げた曲は、自分の心の中に特別な居場所を作っている曲を、思い付くままに順番に挙げていったらこうなった、というリストです。

また、この記事は、リストには入れていませんが「The Ladder」(Around The World In A Day, 1985年) を聴きながら書きました。旧約聖書の創世記に出てくる、天国と地上を繋ぎ天使が行き来するという「ヤコブの梯子」から歌詞が着想されたと思われる曲です。

一般的な代表曲とファンに選ばれる曲

私が選んだ曲のリストは非常に個人的なもので、一般的に紹介されるプリンスの曲とはかけ離れています。そこで、プリンスをあまり知らない人のために、まずはプリンスの代表曲を挙げておきます。プリンスの代表曲としてまず知っておきたい曲を2つ挙げると、1984年に半年もの間アルバムチャートで全米1位となった「Purple Rain」の同名タイトルトラックと、同年の年間1位のシングルとなった「When Doves Cry」になるかと思います。また、「Nothing Compares 2 U」はその意味からトリビュートで演奏されることが多く、現在ではこれも代表曲のひとつとして挙げられると思います。

また、こういった代表曲とは別に、ファンによく選ばれる曲を3つ挙げておきます。

私の選ぶ曲トップ10

さて、ここからが私の選ぶ曲です。まずトップ10からです。

1位: Goodbye - ベーシック録音 (1991)、Emancipation アウトテイク / Crystal Ball (1998)
プリンスを知って以来、心の中でずっと「こんな曲を作ってほしい」と思い続けてきた、そのままの曲。当時はどうしてこのような曲をもっと作ってくれないのかと疑問に思ったものですが、プリンスはキャリアを通してこういった悲しい曲を意図的に避けてきたのだということが、私は今になってようやく分かるようになりました。例えば、スーザン・ロジャース曰くプリンスの最も素晴らしい曲であったという「Wally」も、プリンスは自ら音源を消去し、存在を世の中から消すという選択をしました。2017年に遂にリークされたその曲は、最初に録音されたバージョンではなく、コミカルに作り変えられたものでした。
2位: Condition Of The Heart - Around The World In A Day (1985)
世の中一般には、プリンスは「Purple Rain」を書いた人、と言えるかもしれません。それと同じ言い方をするならば、私にとってプリンスは「Condition Of The Heart」を書いた人です。「Purple Rain」の発表後、プリンスは人生の重大な変化を受け入れることになりました。そのときプリンスは、来た道を引き返すことが完全に不可能になり、残りの人生は孤独を背負って生きなければならなくなったことを自覚していました。私がプリンスを思うときはいつも、この曲が頭のどこかで流れているように思います。

この2曲は私にとって本当に特別な曲です。この感覚を上手く説明する言葉を私は持ち合わせていませんでしたが、他ならぬプリンスが、この感覚をぴったり表すような表現を教えてくれました。

同率3位: Last December - Rainbow Children (2001)
「もし君に最後の12月が来たら、そうしたら君はどうする?」
この曲を聴いていると、まるで時の流れが止まった中で音楽を聴いているかのような不思議な感覚になります。大変美しい曲です。
同率3位: We Can Fxxk - ベーシック録音 (1983) / Purple Rain Deluxe (2017)
ふたりの男女が電撃的に出会い、情熱的に愛し合い、最後は恍惚の中で再び・・・という3部の異なる展開で構成される10分強の曲。中盤までの音楽的な展開だけなら既発の「We Can Funk」でお馴染みですが、30年以上の時を経て初めて明かされたこの曲の本当の姿に、私は驚愕しました。エリック・リーズが加わる前なのであの秀逸なサックスパートは含まれていませんが、この曲の本質は「We Can Funk」よりも「Do Me, Baby」に近いといえるので、むしろこれで良いのだと思います。
同率3位: Crystal Ball - ベーシック録音 (1986) / Crystal Ball (1998)
これも10分以上の大作で、ファンキーで複雑でとんでもない曲です。この曲は未発表のまま長年放置され、その間はブートレグでしか聴くことができなかったという経緯があるため、「Sign O' The Times」が表面のボスだとすると、この曲には裏面のラスボスのような存在感があります。
6位: Bob George - The Black Album (1987、1994)
開けてびっくり玉手箱、ではなくて、聴いてびっくりボブ・ジョージです。私にとっては最高のヘッドホン・ソングです。
7位: The Morning Papers - Love Symbol (1992)
プリンスにはマイテへの想いを捧げた曲を数多く残しており、それぞれに特別な想いが込められています。ふたりが出会った頃のプリンスの情熱と喜びが感じられる曲です。
8位: The Grand Progression - 未発表曲 / ベーシック録音 (1987) / Graffiti Bridge アウトテイク
個人的にプリンスの未発表曲として真っ先に思い浮かぶ曲のひとつです。「Graffiti Bridge」のフワフワ感がありながら「The Morning Papers」のように情熱的で、まだ80年代の若さが感じられる歌声が心に響きます。
9位: With You - Prince (1979)
曲自体は割と普通かもしれませんが、私にとってはとても特別な曲です。多分、人生で一番沢山聴いている曲かもしれません。
同率10位: Controversy / Sexuality - Controversy (1981)
私がプリンスに惹き付けられる決定打となった曲。「Diamonds And Pearls」でも「Purple Rain」でも「Sign O' The Times」でも「1999」でもなく、実はこの2曲によって私はプリンスにノックアウトされました。

特別枠

トップ10の枠には入れなかったけれども、私の中で特別な居場所を作っている曲。

席不定: Positivity - Lovesexy (1988年)
世の中にはこんな音楽があるのか、と驚かされた曲。催眠術に引き込まれそうになる、Lovesexy の最終曲。
特別席: Wasted Kisses - NPG, Newpower Soul (1998)
得体の知れないドラマが展開され、鬱々とした雰囲気が癖になる曲
補助席: Sweet Baby - Love Symbol (1992)
マイテとの関係が深まる前に書かれた、優しい愛情が込められた曲
ガイド席: One Kiss At A Time - Emancipation (1996)
「Oh I see, this is what U wanted / One kiss a time♪」
「I got 2 be on my knees, I, I, I, I gotta please♪」
これぞプリンス、というファルセットボーカルが披露される甘い曲。
おまけ席: A Million Days - Musicology (2004)
この曲は、何というか作品として色々おかしいような気がします。起承転結でいうと起と承が完全に欠落しています。とにかく気になってしまう曲。
追加席: Way Back Home - Art Official Age (2014)
2006年以降プリンスの新作から遠ざかっていた私は、2016年に初めてこの曲を聴きました。後期の作品の中で最も強い衝撃を受けた曲。

プリンス以外

プリンスの音楽は他の音楽とは違います。私にとって両者は明確に別なもので、本質的に性質が異なるものです。このため同じ音楽であっても一緒の括りにまとめることはできないのですが、プリンス以外の音楽では、次の曲が思い浮かびます。

Deacon Blues - Steely Dan、Aja (1977)
一言でいうと、とても素晴らしい曲です。

世の中では勝者に称号が与えられる
だが俺は敗北した時に名前が欲しい
アラバマ大を「クリムゾン・タイド」と呼ぶならば
俺のことは「ディーコン・ブルース」と呼んでくれ

Both Sides, Now - Joni Mitchell、Clouds (1969)
プリンスが敬愛するアーティストだから、というきっかけで私はジョニ・ミッチェルを知りました。彼女のベスト盤を買って、最も印象に残った曲。

私は両方の側から雲を見てきた
上からも下からも、だけどそれでもなぜか
私に思い起こせるのは雲の幻想だけ

次点

リストに入れようかどうか迷った曲。当初はブログに取り上げるつもりはありませんでしたが、ブログが続いているのでやっぱり入れることにしました。

次点1: Good Love - ベーシック録音 (1986)、Camille
どこがどう良いかを上手く説明するのは難しいのですが、とにかく素敵な、煌めくカミール曲
次点2: In A Large Room With No Light - ベーシック録音 (1986)、Dream Factory
The Revolution 解散前に録音された、独特の彩りを放つ曲
次点3: Power Fantastic - ベーシック録音 (1986)、Dream Factory / The B-Sides (1993)
この曲もそうです。The Revolution の後期には、このときにしかなかった素晴らしい彩りがあります。「In A Large Room With No Light」と「Power Fantastic」と併せて聴きたい曲として、ウェンディ&リサの「Song About」という曲があります。
次点4: Insatiable - Diamonds And Pearls (1991)
いったん引き込まれると溢れんばかりの魅力が見えてきます。また、未リリースのオリジナルバージョンは驚くほどお茶目で、プリンスの全作品の中でも最も親密さを強く感じさせる曲のひとつです。
次点5: Diamonds And Pearls - Diamonds And Pearls (1991)
拍子が変動しながら進行する変わった曲なのに、スタンダードな風格を持つ不思議な曲。ビデオやツアーのライブバージョンも素晴らしいです。
次点6: Breakdown - Art Official Age (2014)
我が家では「だうんだうんのうた」と呼んでいるハッピーソングです。しかし同時に、この世で最も悲しい曲のひとつでもあります。一部の歌詞が「The Holy River」と重なります。
次点7: Live 4 Love - Diamonds And Pearls (1991)
どうしたらこんなにアイデアが次から次へと出てくるのか、そしてそれをさも大したものではないかのように惜しげもなく使って、プリンスには勿体ないという概念はないのだろうか? 当時はつくづくそう思ったものです。非常に密度の濃いアルバム「Diamonds And Pearls」の最終曲。
次点8: And God Created Woman - Love Symbol (1992)
ヘッドホンで聴くと、その美しさに魂が震えます。創世記をモチーフにした、マイテへのラブソング。
次点9: Saviour - Emancipation (1996)
プリンスのラブバラードの到達点はこの曲なのかもしれない、と個人的には感じます。これもマイテの存在から生まれた曲。
次点10: Extraordinary - ベーシック録音 (1992) / The Vault... Old Friends 4 Sale (1999)
私の中では、ミネアポリスの花嫁、という副題が付けられています。「愛があるから大丈夫なの」と歌うプリンスに感激します。

さらに特別枠

Gold - The Gold Experience (1995)
プリンスの音楽は、長年に渡って繰り返し聴いても全く気付かず、後になって初めて知ることが沢山あります。中でも「Gold」は、私にとって、当時と今とで最も印象が変化した曲です。この作品の過剰装飾されたサウンドはまるでおもちゃの音楽隊のようで、私はずっと苦手でした。この曲の歌詞も言葉だけなら知っていたつもりでした。ですが、私はずっと、この曲の意味を全く理解できていませんでした。1990年代の「Purple Rain」と言って良いほどの特別な曲です。
Betcha By Golly Wow! - Emancipation (1996)
「おとぎ話が現実になるなんて考えもつかなかった」
プリンスの人生には一度だけ、おとぎ話が現実になった瞬間がありました。スタイリスティックス (The Stylistics) の1972年のヒットで有名な曲を、プリンスは特別な意味を加えてカバーしました。とても美しく、しかしとても悲しいカバーです。
Until U're In My Arms Again - NPG, Newpower Soul (1998)
この世に生まれ、すぐに去ってしまった、プリンスのただ一人の息子アミールへの思いを歌った曲。プリンスはアミールのために、他に「Comeback」という美しいアコースティックな曲も作っています。

もしふたりの子供に不幸が起こらなければ、「Until U're In My Arms Again」や「Comeback」は決して作られることはなかったはずでした。そして、エホバの証人に引き込まれ、マイテとの距離が離れていった1998年頃から、プリンスの作品は徐々に変わっていきます。2006年の「3121」を最後に、私はプリンスの新作から離れた状況になっていました。

Be My Mirror - 未発表曲 / 1992録音 / I'll Do Anything プロジェクト
親と小さな子供が向かい合って "鏡ごっこ" をする曲。同プロジェクトでは、「Don't Talk 2 Strangers」なども印象的です。一度記事を書いていますが、できれば改めて取り上げたいと思っています。

もし平行世界というものが存在するならば、きっとそこには「Be My Mirror」や「Don't Talk 2 Strangers」のような曲がたくさん存在しているはずです。そして、2000年代以降のプリンスの音楽、ひいてはプリンスの人生は、私たちが知っているものとは全く異なっているはずです。時々、自分がそちらの世界に生きていないことを悔しく思います。

Sometimes It Snows In April - Parade (1986)
これまで挙げてきた曲は、全て私の心の中に特別な居場所を作っています。それはもちろんこの曲についても同じです。日常的に訪れる場所ではありませんが、私の心の中の、とても大切な場所にこの曲はいます。ここまで収録曲を1曲も挙げていませんが、私が最も好きなアルバムは何かと尋ねられたら、それはこの曲が含まれている「Parade」だと私は答えます。このアルバムを初めて聴いた高校生の頃からずっとそうでしたし、おそらくこれからもそうだと思います。