「4 The Tears In Your Eyes」に「Hello」と、「The B-Sides」に収録されている曲が続いたので、「The B-Sides」からもう少し行きます。今度は「Sign O' The Times」シングル B 面の「La, La, La, He, He, Hee」(1987年) です。犬の鳴き声を模したサンプル音が使われており、遊び心を感じる曲です。少々不適切な喩えかもしれませんが、私の中では、「La, La, La, He, He, Hee」は宮沢賢治の童話に Parental Advisory のステッカーを貼ったような曲、というイメージがあります。

思い起こせば、1991年の「Diamonds & Pearls」からプリンスを聴くようになった私は、1992年のアルバム「Love Symbol」を通してこの曲の存在を知りました。当時の音楽雑誌に、このアルバム8曲目の「I Wanna Melt With U」に使われている犬の鳴き声は「La, La, La, He, He, Hee」のものだ、と書かれていたのです。私には「I Wanna Melt With U」のトランス的な妖しいイメージが先にあったので、1993年の「The B-Sides」で初めてこの曲を聴いた時は、いきなり一拍置きのスネアドラムに乗って "ウォン!"、"ウォン!" と繰り返されるのに不意打ちを喰らった上、"Oh, oh, oh, oh!" の鳴き声もちょっと違うじゃないか!と、あまりにも想像の斜めを行く曲だったことに思わず脱力しました。それに、"Oh, oh, oh, oh!" の前に、プリンスは真剣な声で "Say it!"、"Say it again!" と叫ぶので、「一体誰に向かって叫んでるの?」と可笑しくなります。また、"U've got 9 lives, I've only got one!" と歌う所が段々叫び声になっていくのも可笑しいです。

ちなみに、この曲はシーナ・イーストン (Sheena Easton) とのやり取りから生まれたのだそうです。曲が出来た経緯は PrinceVault にも記載されていて、以下はそこで引用されているシーナ・イーストンのインタビューの抜粋です。

That was something I was writing, just a stupid little thing. See, I have six cats. It was about a cat up in a tree teasing a dog. I was actually being sarcastic. He said, "Ya, that could be a song," and I was like "Oh ya, like what do you want me to sing? La La La, He He He - I love you, you love me? That's how talented I am?"...

それは私が書いていたほんの些細なことから生まれたのよ。その、私は猫を6匹飼っていて、その内の1匹が木の上から犬をからかっていたの。本当は私は皮肉のつもりだったのよ。プリンスが「うん、それは歌になるかもね」って言うものだから、私も「そうね、何て歌ってほしい? La La La, He He He - I love you, you love me? これって才能のなせるわざじゃない?」って...

この曲は3分21秒のエディットバージョンの他に、10分40秒を超える "Highly Explosive" バージョンがあります。ロングバージョンでは本編の歌の後はジャム展開になり、珍しいことにファンキーなベースソロを披露したり、Sign 〜 Lovesexy の橋渡しを感じるような箇所が所々にあったりします。また、「Superfunkycalifragisexy」のイントロに出てくるような変な笑い声が出てきたり、鼻をクンクンさせて "I'm picking up your scent / U... U must be wet" と言ったり、「一体何を考えてるんだ!」と思いながらもつい笑ってしまう表現も出てきます。また、ロングバージョンで演奏が繰り返されるのを聴いて気付いたのですが、ブリッジの「Why U wink at me?」の所でバックに流れるホーンは、アルバム「Lovesexy」の「Eye No」のエンディングにちょっと似ています。


そういえば、プリンスの音楽を説明するのにぴったりくる言葉ってどんなものがあるでしょうか。よく使われる言葉には「天才」とか、特に1980年代を指して「革新的」といったものがあります。こういった言葉を選択するのは楽チンですが、個人的には、これらの表現はどうもしっくり来ません。例えば、「La, La, La, He, He, Hee (特に Highly Explosive)」などはプリンスならではの曲で、他にこれを真似できる人はまずいないように思うのですが、それを「天才」とか「革新的」というのは、言葉に具体性がなさすぎるという以前に、意味が上手く嵌っていない感じがします。なるべくズレのない言葉ということであれば、「プリンスがプリンスをやっている」と言えば私にはストンと腑に落ちます。ただ、それだとプリンスを説明するのに「プリンス」を基準にすることになってしまうので、じゃあその「プリンス」って何?と堂々巡りになるのですが。

また、B 面という縛りを付けてもなお「She's Always In My Hair」、「Erotic City」、「17 Days」、「How Come U Don't Call Me Anymore」等々もっと先に名前が挙がる曲がいくつもあって、これだけ面白い曲なのに影が薄いとさえ感じさせるのも、また「プリンス」だなあと思います。


Oh, oh, oh, oh! {犬の鳴き声の疑似サンプル音で}

I am a dog outside your door
僕は犬 - 戸の外さ
I have been there since a quarter 2 4
4時の15分前からそこにいる
U are a cat looking intense
君は猫 - 何やら激しい様子
I bite your leg in self-defense
僕は自己防衛で君の足に噛み付く

Say it! Oh, oh, oh, oh!
Say it! Oh, oh, oh, oh!

Get out my tree grinnin' at me
君は木から離れてニコッと僕を見る
Licking your tail like it's cream
まるでクリームのように尻尾を舐めて
Strokin' your whiskers, causing a scene
口髭を撫ぞる - 見せつけるかのよう
That's not the way 2 me (the way 2 me)
その景色に僕は困ってしまう

Say it! Oh, oh, oh, oh!
Say it! Oh, oh, oh, oh!

Chorus:
And the doggies say 2 the kitty
そしてワンコたちはニャンコに言う
La, la, la, he, he, hee
ラ・ラ・ラ、ヒ・ヒ・ヒー
I want U, U want me
僕は君が欲しい - 君も僕が欲しい
Oh, how sexy it will be
ああなんて素敵なことだろう
If we ever get 2gether in my tree
もし僕たちが僕の木の下で一緒になれたなら

Say it! Oh, oh, oh, oh!
Say it! Oh, oh, oh, oh!

Hey little pussy, U sure look sweet
ねえ小猫ちゃん、君はとても素敵だね
Knockin' me off of my 4 feet
僕はドキドキして4つの脚もバランスを失ってしまうよ
Sure do wish dogs could climb (I wish, I wish)
犬だって木登りできたらいいのにね
Then we could have a funky good time
そしたら僕たちはもっと楽しい時間を過ごせるのに

Say it! Oh, oh, oh, oh!
Say it again! Oh, oh, oh, oh!

Why U wink at me? I don't really see
どうして僕にウインクするの? 分からないよ
Nasty little cat up, up in a tree
イタズラな小猫、木の上から
Is it really worth the one night of fun?
一夜限りのお愉しみに価値はあるの?
U've got 9 lives, I've only got one!
君には9つの命があるけど、僕はたった1つなんだよ!