私の選ぶ曲の番外、もう1曲はジョニ・ミッチェルの「Both Sides, Now」です。この曲は、最初1967年に Judy Collins の歌う快活なバージョンがヒットし、後の1969年にジョニ自身も、よりしっとりしたアレンジにしてアルバム「Clouds」にて発表しました。Wikipedia を見ると膨大な数のカバーバージョンがリストされていますが、私が選ぶのはジョニ・ミッチェル本人のバージョンです。


私はジョニ・ミッチェルというアーティストの存在を、プリンスの「The Ballad Of Dorothy Parker」(1987年、Sign O' The Times 収録) から知りました。この曲にはジョニ・ミッチェルの「Help Me」という曲が登場します。

"Oh, my favorite song," she said
And it was Joni singing, "Help me, I think I'm falling (in love again)"
(Drring) The phone rang and she said
"Whoever's calling can't be as cute as U"
「あら、私の好きな歌だわ」 - 彼女は言った
ジョニ・ミッチェルが歌っていた - 「どうしよう、(また恋に) 落ちてしまう」
(リンリン) 電話が鳴ったけれども彼女は言った
「誰の電話だろうが、あなたほど素敵な人ということはありえないわ」

それで興味を持った私は、ジョニ・ミッチェルのベスト盤「Hits」と「Misses」を買って聴いてみました。ちなみに「Help Me」とは下にリンクした曲です。「The Ballad Of Dorothy Parker」はとても変わった曲なのに、この曲が違和感なくそのまんま歌われていて面白いです。

とにかく、このベスト盤を通して聴き、最も印象深く感じた曲は、私にとっては「Both Sides, Now」でした。その印象は今でも古びることがありません。個人的には、これがジョニ・ミッチェルが若い頃に書いた曲だというのが、また素敵なことだと思います。

また、非常に個人的な意見なのですが、この曲は「Purple Rain」みたいだな、とも思います。歌の内容も曲調も全然違いますが、どちらもヴァース毎に対象が移り変わっていきます。「Both Sides, Now」の第1ヴァースは雲のこと、第2ヴァースは恋のこと、そして第3ヴァースは人間関係や人生のことが歌われます。他方、「Purple Rain」の第1ヴァースは父のこと、第2ヴァースは恋人 (アポロニア) のこと、そして第3ヴァースはバンドメンバーのことが歌われます。

そんなことを思うにつけ、「Purple Rain」はつくづく凄まじくスケールの大きな曲だなと思います。歌の部分で既に高い熱量を持っているうえに、そも歌も構成の一部分でしかなく、むしろ歌が終わってからのギターソロや "Wooo-hoo-hoo-hoo" の方がメインみたいなところがあり、展開に懐の深さを感じます。

話が脱線しました。「Both Sides, Now」は、聴いて刺激を受けたり興奮したりする曲ではないかもしれませんが、そのぶんカゼインプロテインのようにじんわりゆっくり体に取り入れられる曲だと思います。(ウエイトトレーニングに興味がない人にはピンとこない喩えでアレですが、カゼインとは牛乳に含まれ、ゆっくり時間をかけて消化・吸収される特徴を持つタンパク質です。最近「A Case Of You/U」をよく聴いていて、「Both Sides, Now」はワインではないな・・・と思っているうちに、じゃあカゼインかな・・・となりました。)

参考リンク

  • Both Sides, Now (Wikipedia) - この曲ができた背景の説明があります。ジョニが飛行機の中で Saul Bellow の "Henderson the Rain King" を読んでいて、本の中に飛行機から雲を見下ろす描写があり、ジョニもまた同じく飛行機の窓から外を見ると、眼下には雲があった、というところからこの曲ができたのだそうです。

Rows and flows of angel hair
And ice cream castles in the air
And feather canyons everywhere
I've looked at clouds that way
幾筋にも流れる天使の髮の毛
空に浮かぶアイスクリームの城
至るところに佇む羽根の峡谷
私はそんなふうに雲をみてきた

But now they only block the sun
They rain and they snow on everyone
So many things I would have done
But clouds got in my way
だけど今、雲は太陽を遮るだけ
雨や雪を人々に降らせる
もっと沢山のことができたはずなのに
雲が私の邪魔をした

I've looked at clouds from both sides now
From up and down, and still somehow
It's cloud illusions I recall
I really don't know clouds at all
私は両方の側から雲を見てきた
上からも下からも、だけどそれでもなぜか
私に思い起こせるのは雲の幻想だけ
私は雲のことは本当に何も分からない

Moons and Junes and Ferris wheels
The dizzy dancing way you feel
As every fairy tale comes real
I've looked at love that way
お月さまに六月、それに観覧車
踊りをして目がくらむような気分
おとぎ話が現実になるかのよう
私はそんなふうに恋をみてきた

But now it's just another show
And you leave 'em laughing when you go
And if you care, don't let them know
Don't give yourself away
だけど今は、同じショウの繰り返し
人に笑われるままに舞台を移る
それを気にするなら、自分を晒さないで
自分を見せないこと

I've looked at love from both sides now
From give and take, and still somehow
It's love's illusions I recall
I really don't know love at all
私は両方の側から恋をみてきた
与える方も貰う方も、だけどそれでもなぜか
私に思い起こせるのは恋の幻想だけ
私は恋のことは本当に何も分からない

Tears and fears and feeling proud
To say "I love you" right out loud
Dreams and schemes and circus crowds
I've looked at life that way
涙と不安、そして誇りを持ち
愛してるとはっきり声にして言う
夢と計画、そしてサーカスの観衆
私はそんなふうに人生をみてきた

But now old friends they're acting strange
And they shake their heads
And they say that I've changed
Well something's lost but something's gained
In living every day
だけど今では古い友人は変に振る舞う
頭を振って私は変わったと言う
失うものもあれば得るものもある
日々生きていく中で

I've looked at life from both sides now
From win and lose and still somehow
It's life's illusions I recall
I really don't know life at all
私は両方の側から人生をみてきた
勝つ方も負ける方も、だけどそれでもなぜか
私に思い起こせるのは人生の幻想だけ
私は人生のことは本当に何も分からない

I've looked at life from both sides now
From up and down, and still somehow
It's life's illusions I recall
I really don't know life at all
私は両方の側から人生をみてきた
上からも下からも、だけどそれでもなぜか
私に思い起こせるのは人生の幻想だけ
私は人生のことは本当に何も分からない