12月7日に発売された「プリンス録音術」(原題: Prince In The Studio - The Stories Behind The Hits 1977 - 1994)、著者: Jake Brown、翻訳: 押野素子) を読みました。前回のクイズの回答は先延ばしにして、この本について少し書いておくことにします。

この本の特徴は、1980年代のみならず90年代に入ってからのレコーディングについても扱われており、他の情報源では得られないエンジニアのエピソードが含まれていることだと思います。多くの情報は新しいものではありませんが、それを日本語で読めるのはとても嬉しいです。また、レコーディングに関する機材やテクニカルな言葉が頻出するのですが、私にはそういった言葉はサッパリなのが無念です。

また、この本では翻訳の良さも特筆すべき点だと思います。ただ文章が読みやすいだけでなく、翻訳の過程で情報の正誤チェックも行われているようなので、相当な労力が費やされたものと思います。ちなみに、原著は Amazon 等でもストックはされていないようですが、バージョン違いの「Prince In The Studio - The Stories Behind The Hits 1975 - 1995」が Kindle で $2.99 で購入可能です。雑誌などからの引用が多い本なのですが、原著では初期の怪しい情報なども精査せずにそのまま使っているようで、購入してみたところ、Chapter 1 の最初の文からビックリさせられました。

- Prince Roger Nelson - was born to father John T. Nelson, (who was bi-racial) and mother Mattie Shaw (who was Italian)...
プリンス・ロジャー・ネルソンは、父ジョン・・ネルソン (ハーフ) と母マティ・ショウ (イタリア人) との間に生まれた。

上の部分はもちろん「プリンス録音術」の方では修正されています。名前がプリンス・ロジャーズ・ネルソン、ジョン・L・ネルソンに修正されていて、人種への言及も削除されています。

以下、一読して気に留まった点を少し書き残しておきます。

● 78ページ、ミネアポリス・サウンドについて。ファンジンの「Uptown」からの引用で、「シンセをメインの楽器として使い、コードやフィル、リード・ラインを演奏することで、シンセは単に奇妙なサウンド・エフェクトをつくるためのものでも、ソロを演奏するためのものでもないことを示した」という記述があります。細かいところなのですが、プリンスは奇妙なサウンド・エフェクトの達人みたいなところがあるので、「〜、シンセは単なる奇妙なサウンド・エフェクトやソロを演奏する以上のものであることを示した」の方が適切だと思いました。

● 91ページ、「When We're Dancing Close And Slow」について。ミキシングの段階で、ベースを一音一音手作業で全て弱め、ドラムを強める処置をしたことが書かれています。この曲で表現される親密な私的世界が、強調されたドラムサウンドとコントラストを生み出すように、との意図で行われたそうです。

● 160ページ、マット・フィンクの発言で、「Purple Rain」のストリングスはクレア・フィッシャーがオーバーダブしたと書かれています。クレア・フィッシャーがプリンス関連で手掛けた最初の仕事は1984年の「The Family」プロジェクトで、プリンスの作品となると「Parade」まで待たなければならないので、マット・フィンクの勘違いと思われます。

● 292 - 293ページ、「Elephants & Flowers」について。これが一番面白い情報でした。あの特徴的なしゃがれたボーカルは、プリンスが扁桃炎にかかっていたためなのだそうです。医者からは歌うのは止めて静養するように言われていたにもかかわらずプリンスはレコーディングを行い、歌声を聴いたエンジニアはプリンスがボブ・ディランの真似でもしてるのかと思ったのだそうです (笑)

ところで、この非常に美しい P&M ツアーでのパフォーマンスは、いつになったらリリースされるのでしょうか。


おまけです。

● 97 - 98ページ、1985年のローリング・ストーン誌のインタビューが引用され、「Dirty Mind」期に一時期心身の調子を崩したことなどが書かれています。本とは全くの無関係なのですが、米国にはプリンス・ブランドのスパゲティというのがあるらしくて、そのローリング・ストーン誌のインタビューにおいて、プリンスはそのコマーシャルのネタに使用されたことついて答えています。

そのコマーシャルが YouTube にあったのでリンクします。コンサート会場で、熱狂する観客が待ち侘びる中、「レディース・アンド・ジェントルメン、イン・コンサート、プリンス!」というナレーションが響くと、ステージにスパゲティが登場するという、しょうもないコマーシャルです (笑)