「Illision, Coma, Pimp & Circumstance」は2004年のアルバム「Musicology」の2曲目に収録されている曲です。非常に「奇妙」で癖が強いため、評価が別れる曲だと思います。ちなみに私はこの曲はかなり好きです。

この曲については何から書いたら良いのでしょう…

まず、この曲はアルバムの中で場違いな存在感を放っています。アルバム1曲目は2004年のプリンスのテーマソングとも言える「Musicology」です。「オールドスクールの本物の音楽を楽しもう」と、アルバムの基底となるトーンをセットしたかと思いきや、プリンスはこの2曲目でいきなりそれをブチ壊すような展開にしてしまいます (笑) 2曲目に入る前、「Musicology」のエンディングの後、チューニングダイヤルを操作するようなエフェクトと共に過去の名曲が断片的に流れます。その断片的なサンプリングは「If I Was Your Girlfriend」、「17 Days」、「Kiss」、「Sign O' The Times」、「Little Red Corvette」と続き (ただし耳を凝らすと、「Sign O' The Times」の "Oh year!" のところでプリンスは一瞬「ハァハァハァ」と異常に荒い息使いになったりして、一体プリンスは何をしているのだろう?と不可解な疑念に囚われます)、これらのプリンス・クラシックな曲たちに「おおプリンス!!!」と盛り上がったところで、それをブチ切って挿入されるのが、この「Illusion, Coma, Pimp & Circumstance」です。「え?これが Musicology に続く曲?今流れた過去の名曲たちのサンプルは何だったの?」と、ポカーンと開いた口が塞がらなくなります。

そして、鋭く掻き鳴らされるギターが強烈なこの曲は、ファンキーではあるものの、全体的にファンク成分が抑えられた感じがするこのアルバムにあっては少し浮いた感じがします。また、この曲は過去の80年代のファンクにも90年代のファンクにも似ておらず、2004年のファンクといった感じがするところもまた特異的です。

また、「Musicology」のアルバム全体に通して言えることですが、この曲は、80年代とも90年代とも違うけれども、どことなくプリンスが昔の引き出しから素材を掘り返して2004年風にアップデートした音楽という印象も受けます。この曲に関してはかなり直接的に昔の素材を連想させ、私がこの曲を初めて聴いた時は、シンセの「ペン、ペン、ペン、ペン、ペンペン」のリフから、「Sex」(The Scandalous Sex Suite マキシシングルの B-side、1989年) みたいだなあと思いました。


そして、歌詞です。サウンド面でもアルバムから浮いた感じがするこの曲ですが、この曲を最も奇妙なものにしているのは、個人的には何と言ってもその奇妙な歌詞だと思います。また、女性がひたすら醜いものとして描かれているのもプリンスの歌詞では極めて珍しいことであり、合点がいきません。これには何か裏の意味があるはずです。

この曲では一風変わった男女関係が歌われます。登場するのは容姿が醜悪で年齢もいっているものの凄まじい金持ちである白人の女と、カネとクルマを見返りにその女と付き合う黒人のジゴロです。二人の間には敬意の欠片も感じられません。プリンスは一体何を思ってこんな奇妙な歌を書いたのでしょうか?

個人的には、白人であり、白髪が生えるほどの年齢であるこの女は、レコード会社、具体的にはワーナー・ブラザーズの重役を象徴していると考えるとスッキリします。プリンスは、ワーナー・ブラザーズとの不和が表面化して以降、自身はワーナーの金儲けの駒として働かされていると訴え、作品をリリースする決定権や自身が作った作品の所有権を持たせてもらえないことなどから、一時期 SLAVE (奴隷) という文字を頬に描き、繰り返し「契約」に対する不信感を表明しています。つまるところ、女が男にカネとクルマを与えたうえで契約を結ぼうと迫るこの曲は、裏の意味としてプリンスとレコード会社との不和をダークなユーモアにして歌ったものなのだと解釈することができます。


「Illision, Coma, Pimp & Circumstance」がアルバム「Musicology」の2曲目として相応しいかどうかは評価が分かれるところですが、個人的にはこの曲はかなり好きです。鋭いギターや「ペン、ペン、ペン、ペン、ペンペン」のリフはとてもファンキーだし、コーラスの "She knew which fork 2 use, but she couldn't dance...♪" のフレーズも癖になります。また、プリンスが女役のセリフで "Put the spoon down honey, let mama feed U" と言ったり、何だかおばあちゃんみたいなフガフガした声で "Boy, I was fine back in the day" と言ったりすることろも面白いです。

リンクの YouTube はカラオケとタイトルが付いていますが、実際は口バクでプリンスのボーカルをそのまま聴くことができます。カーステレオのため演奏の音はクリアではありませんが気分良さそうにノッています。


Chorus:
She knew which fork 2 use but she couldn't dance
女はどのフォークを使うかは心得ていたが踊りは出来なかった
So he hipped her 2 the funk in exchange 4 the finance
だから男は金銭を見返りにファンクを楽しませてやった
Who's pimpin' who if nobody gets a second chance?
誰が誰に仕組んでいるのか - 誰も二度目のチャンスを得られないなら?
This is the story of illusion, coma, pimp and circumstance
これが幻影と昏睡と色事師そして境遇の話

She was older but rich beyond compare
女は年がいっていた - だが凄まじい金持ち
She'd drop a thousand dollars at the salon just 2 get her hair did
髪を切るだけでサロンに1000ドル落とす
He was good at compliments, better in the bunk
男は口から出まかせが上手なおべっか使い
She laced him with a crib in Paris, he hipped her 2 the funk
女は男をパリの家に住まわせファンクで報わせた

Way 2 fine, he was 4 her
男はこの女には勿体ない上玉
A dirty dog in expensive fur
高級毛皮を纏ったいかがわしい男
But long as she's providing chips and whips
だが女がカネとクルマを与えてやれば
We can do this funky thang, uh huh
ファンキーな遊びも愉しめるというもの

'Long as she was playing the host
女がホストとして世話を続ける限り
He figured he would make the most of them hips and lips
男はそれに応えることを心得えていた
He hooked her up, rocked her coast 2 coast (Funky thang)
女に相応の対応をし、東岸から西岸まで揺り動かす

Ugly...
醜悪…
So ugly, but rich beyond compare
ひどく醜悪だが凄まじい金持ち
Dropped a couple hundred thousand dollars on a silver whip
数十万ドルで買ったのはシルバーの高級車
Just 2 match the color of her hair
女の髪の色とぴったりお似合い
(Say what?)
She said "I got plenty of what U need
"私は貴方が必要なものを一杯持っているわ"
Put the spoon down honey, c'mon, let mama feed U"
"スプーンを置いてちょうだい、ほらママが食べさせてあげるわ"
Oh!
ああ!

Chorus

Where was I? Oh yeah...
どこまで話したんだっけ? ああそうだった…
A gentleman, he was
男は紳士だった
He never spoke about her nose
女の鼻について話すことは決してなかった
So prominent because in the dark it'd glow
暗がりで光り出すほどに目立つ鼻

If she was only tan instead of so lily white
色があれば違っただろうが女は全く百合のような白さ
Her name was Doris but he called her "Flo"
女の名はドリス - しかし男は "Flo" と呼んだ
As in "rescent" - That ain't right (That ain't right)
"rescent"、つまり花が咲くようだからと - それは正しくない
Fluorescent every night
蛍光し続ける - 毎晩
A situation bound 2 fail
破局が定められた状況
As sho' as Doris's skin was pale
ドリスの肌の血色の悪さのように確定的

Money might talk, but what does it say?
カネはモノを言う - しかし何と言っている?
"U better get busy if U wanna get paid"
"しっかりやることをやるのよ - お金が欲しければね"
"Boy, I was fine back in the day"
"いいこと、私は昔はすごかったのよ"

Chorus

He spent her money oh so well, honey
男は女のカネを湯水のように使った
Take a bath in cold Cristal
冷たいクリスタルの風呂
He took a trip 2 burn an old flame in 'Frisco, like wow!
昔の情事を再燃させにサンフランシコに赴く - まあ!

When Doris caught him in her arms
ドリスは男の腕を掴むと
She shrugged her shoulders and said "No harm"
肩をすくめて言った "悪い話じゃないのよ"
"Just put your name on this pre-nup and we can all hit the disco"
"この婚前契約書に名前を書くだけよ - そしたらディスコにでも行きましょう"

Chorus