「Gold」は1995年のアルバム「The Gold Experience」の最終曲で、タイトルから分かる通りこのアルバムの主役となる曲です。おそらくこれはプリンスをよく知らない人にも好印象を持たれやすい曲で、そういえば私の知り合いの英会話の先生にも、「プリンスは別に好んで聴いたことがないけれども Gold は素晴らしい曲だ」と言う人がいます。それと、漫画のジョジョにアルバムタイトルが使われたり、なぜか昔格闘技の K-1 のエンディングテーマに採用されたりしたので、プリンスの中では割と知名度がある曲です。

ただ私の場合、実を言うと長い間これは個人的には「それほど・・・」という曲でした。理由は2つあって、1つはこのアルバムの特徴である、サウンドのオーバープロダクションです。このアルバムは「Gold」を含め多くの曲でサウンドが過剰に装飾されていて、演奏がまるでおもちゃの音楽隊みたいに感じられるのが私はあまり好きではありませんでした。ただ、そういうサウンドでも「Dolphin」など例外的に好きな曲もありますが。それともう1つは歌詞です。昔はこの曲の歌詞は安易に格言っぽい言葉を並べただけのように思え、プリンスとしては珍しく凡庸な曲に感じられたのです。

とはいっても、ブートでライブバージョンを聴くと、少し感激度が上昇してこれはやはり良い曲かもしれないとも感じます。何というか、ライブになるとこの曲はより温かみを増します。特に2011年頃のツアーではオープニングにこの曲が演奏されることもあったようです。コンサートがこの曲から始まるなんて、ちょっと忘れられない体験だろうと思います。また、これもブートの話になってしまいますが、装飾一切なしで後半ちょっとベースラインが違う展開を見せるデモバージョンはなかなか素晴らしく、簡素な作りながら名曲のポテンシャルを感じさせます。つまり、先ほど「それほど・・・」と書いてしまいましたが、やっぱり「Gold」って良い曲だなという思いもあり・・・何とも感想の書きづらい曲でした。

しかし今では完全に考えが改まり、「Gold」って実は滅茶苦茶良い曲じゃないかと思うようになりました。私がこう考えを変えるようになった切っ掛けとして、以下に挙げる2つの事柄があります。

Courage (勇気/度胸/胆力) - スーザン・ロジャースがプリンスから学んだこと

この曲の歌詞は、ぱっと読み取った感じでは凡庸にも思え、昔は心から良いものだとは思えませんでした。しかし最近になって、改めてこの曲の意味を噛み締め、その印象は誤りだったと思うようになりました。その切っ掛けとなったのは、Curtin Call という YouTube チャネルにある、2017年2月のスーザン・ロジャースのインタビューを聴いてのことです。

このインタビューの36分頃、インタビュアーはスーザンに「プリンスから学んだ最も大きなもの/最大の教訓は何か?」と質問します。スーザンは、しばしの思慮の後にこう答えます。

少し変な答えに思われるかもしれないけれど…

"Courage (勇気/度胸/胆力)" かしら。

"Self-discipline (自己を律する力)" と言おうかとも思いましたが…プリンスはその力を強く持っていましたから。でも、彼が彼であるために必要な度胸 (guts)、彼が活動を行う上で必要な度胸、彼が彼で居続けるために払った犠牲、スターであるために払はなくてはならなかった私生活の犠牲や、諦めなくてはならかった人間らしい生活。これはある意味、悪魔の契約のようなものです。

プリンスは、調子を崩した時も、悲しい時も、疲れている時も、気が乗らない時も、迷った時も、すべき事が見えない時も、自身に確信が持てない時も、常に仕事をする勇気を持っていました。どんな時でもプリンスは仕事をしました。プリンスは姿を隠して逃げることは決してありませんでした。そしてプリンスにはリーダーシップがありました。能力のベストを尽くす胆力があり、自身が能力を持っていることをきちんと知っていました。私がプリンスから学んだ最も大きなものは、こういったことだと思います。

私は様々な人達から物事を学ぶ機会を得ました。レコードプロデューサーに必要なことは Tony Berg に学びました。音楽とは何かについては Tommy Jordan や Greg Kurstin から学びました。他の教訓、例えばバンドリーダーに必要なことは Barenaked Ladies から学びました。ビジネスについては David Byrne から知ることができました。しかし、プリンスから学んだ最も大きなことを挙げるとすれば、それは "Courage" だと思います。

私はこのインタビューを聴いて、はっとする思いがしました。「プリンス = ワーカホリック」というイメージはあまりに強く、また事実であったので、プリンスから学んだ教訓はと聞かれたら、普通はまず Self-discipline、規律、鍛錬、勤勉さといった言葉が頭に浮かぶはずです。プリンスの下にいた間まともな私生活を送ることができず、睡眠すらろくに取ることができなかったスーザンならば、それはなおさらのことだと思います。しかし彼女はそういった答えを選びませんでした。そのとき私の頭の中で流れたのが「Gold」です。そして改めてこの曲を聴き、これがプリンスの生き様や価値観、そしてたとえ前例がない道であっても自分の決断を信じる "勇気" を実直に歌った曲であることに初めて気付きました。モグラ塚を作って安住するのではなく、誰も踏破したことのない山の頂に挑戦する "勇気" です。

昔買ったプリンスのアルバム CD には、プリンスがそれまでに辿ったキャリアについて簡単な解説が付いているものがありました。プリンスは「Purple Rain」で成功の頂点を極め、しかしすぐさまその成功を潰すかのように異なる芸術性を持つ「Around The World In A Day」を発表し、巨額の費用を投入してペイズリーパークを建設し、その後「Lovesexy」の豪華絢爛なツアーで財政が危うくなったかと思えば「Batman」のヒットで盛り返し、かと思えば次の「Graffiti Bridge」で再び損失を出し、「Diamonds And Pearls」でまた商業的に成功し、次は名前をシンボルに変え・・・といったように。

ただ当時は、こういった一連の出来事もある意味「プリンスがやることだから当たり前」という風潮があったように思います。少なくとも私はこれらの出来事がどれほど常軌を逸したことかを深く理解せず、「ふーん、そうなの」と半分受け流して捉えていました。しかし、これほどの短期間にこれほどの驚くべきことをやって遂げたのも、アーティストとしての能力や自己を律する精神力は言うに及ばず、世の中でプリンスだけが持っていた特別な "勇気" の成せる業だったのだろうと思います。

プリンスは「Purple Rain」に置き換わる新しい曲という意図をもって「Gold」を作った、という話を聞いたことがあります。昔は私にはその話がどうにもピンと来ず、不思議に思ったものでした。しかし、今ならそれも頷ける話だと納得できます。

プリンスのマイテへの手紙 - I want 2 watch you grow old.

他にもこの曲には印象深い歌詞があります。

There's a lady, 99 years old
If she led a good life, heaven takes her soul
99歳の女性がいる
良き人生を送ったのなら、彼女の魂は天に召されるだろう

What's the use of bein' young if U ain't gonna get old?
老いることがなければ若さに何の価値があろう?

これに似た言葉が、マイテの本「The Most Beautiful: My Life with Prince」で紹介されているプリンスの手紙に見つかります。その手紙は "Most Beautiful Girl" の時期ということなので、つまり「Gold」と同時期に書かれたものになります。

Mayte,
I've never wanted 2 know someone 4 the rest of my life... "I want to know u 4 the rest of my life!" I've never hated to see anyone cry before... "I hate 2 see u cry!"...

僕はこれまで残りの人生をかけて誰かを知っていたいと思ったことはなかった。だが僕は君を知りながら残りの人生を過ごしたい。僕はこれまで誰かが泣く姿を見ても心を痛めることはなかった。だが僕は君が泣く姿だけは見たくない。

...(中略)...

Beautiful people are a dime a dozen. Flesh. I don't want 2 watch them grow old. "I want 2 watch you grow old." It's my desitiny. I have no choice. I only have u.

綺麗な人も所詮はありふれたものでしかない。それは見た目だけのもの。僕はそういった人達が老いていく姿は見たくない。僕は君が老いていく姿を見たい。これは僕の運命だ。僕には他に選択肢はない。僕には君しかいない。

...(後略)...

これを読んで改めて「Gold」の歌詞を見ると、上記の第3ヴァースにはプリンスのマイテへの愛情が含まれているのだなと感じます。また、余談になりますが、この手紙の後略した部分には非常に重くプライベートな内容が書かれています。本の中でも最も印象の強いページのひとつです。



There's a mountain and it's mighty high
U cannot see the top unless U fly
And there's a molehill of proven ground
There ain't no where 2 go if U hang around
果てしなく高い山がある
飛びでもしない限り頂を見ることもできない
踏み均された地にモグラ塚がある
辺りを彷徨くばかりでは行き先を見つけることもない

Everybody wants 2 sell what's already been sold
Everybody wants 2 tell what's already been told
What's the use of money if U ain't gonna break the mold?
Even at the center of fire there is cold
All that glitters ain't gold
All that glitters ain't gold
誰もが既に売れたものを売りたがっている
誰もが既に語られたことを語りたがっている
鋳型を壊さなければお金に何の価値があろう?
炎の中心でさえ冷たさがある
光るものがすべて金とは限らない
光るものがすべて金とは限らない

There's an ocean of despair
There are people livin' there
They're unhappy each and every day
But hell is not fashion so what U tryin' 2 say?
絶望の海がある
そしてそこに住む人々がいる
彼等は来る日も来る日も不幸に暮らしている
でも地獄なんて流行らない - なら何て言えばいい?

Everybody wants 2 sell what's already been sold
Everybody wants 2 tell what's already been told
What's the use of money if U ain't gonna break the mold?
Even at the center of fire there is cold
All that glitters ain't gold, no no
All that glitters ain't gold, no no
誰もが既に売れたものを売りたがっている
誰もが既に語られたことを語りたがっている
鋳型を壊さなければお金に何の価値があろう?
炎の中心でさえ冷たさがある
光るものがすべて金とは限らない
光るものがすべて金とは限らない

There's a lady, 99 years old
If she led a good life, heaven takes her soul
Now that's a theory and if U don't wanna know
Step aside and make a way 4 those who want 2 go
99歳の女性がいる
良き人生を送ったのなら、彼女の魂は天に召されるだろう
それが道理というもの、もし知りたくないというのなら
脇に退いて先を目指す人達に道を作ってやりなよ

Everybody wants 2 sell what's already been sold
Everybody wants 2 tell what's already been told
What's the use of bein' young if U ain't gonna get old?
Even at the center of fire there is cold
All that glitters ain't gold
All that glitters ain't gold
誰もが既に売れたものを売りたがっている
誰もが既に語られたことを語りたがっている
老いることがなければ若さに何の価値があろう?
炎の中心でさえ冷たさがある
光るものがすべて金とは限らない
光るものがすべて金とは限らない

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