今日取り上げる曲は「God」です。今回は最初に曲のリンクと歌詞を載せます。この曲は、できれば部屋の照明を暗くして、そしてヘッドホンかイヤホンをして聴いてみてほしいです。
In the beginning, there was God
He made the earth and the heavens
He gave us light 2 rule the day
And another light 2 rule the night
始まりに、神がおられた
神は地上とそして天国をつくられた
神は昼を司る光を私たちに与えられた
そして夜を司るもう一つの光を与えられた
The Lord, thy God
He made, He made the seas
He made the fruit upon the tree
When He saw
When He saw that it was good
He made a man
He made a man
Only He could, only He could
主よ、汝の神よ
神は海をつくられた
神は木に果実を結びあそばされた
神はそれを見て良しとされると
神は人をつくられた
神のみがなしえられた
God made U
God made me 2
He made us all
He made us all equally
神は君をつくられた
神は私もつくられた
神は私たち皆をつくられた
神は私たち皆を平等につくられた
Now U say it
今度は君が言う番だよ
God made U
God made me
He made us all equally
神は君をつくられた
神は私をつくられた
神は私たち皆を平等につくられた
Wake up children
Dance the Dance Electric
There isn't much time
Who screamed?
Was it U?
子供たちよ目を覚まして
ダンス・エレクトリックを踊ろう
時間はあまりないんだ
誰が叫んだんだい?
君かい?
「God」はシングル「Purple Rain」のB面として1984年9月にリリースされた曲です。YouTube リンクのタイトルはなぜか Instrumental Version となっていますが、言うまでもなくこれは Vocal Version です。
この曲の歌詞は、創世記の最初の部分をなぞるように書かれています。また、歌詞の最後には「God」の録音の前々日から前日にかけて録音された「The Dance Electric」への言及があります。「The Dance Electric」は、憎しみや敵意に囚われて生きるか、それとも主のみちびきのもとに他者を愛するか、残された時間をいかに生きるかを聴く者の魂に問う曲です。これが単なるダンストラックだという認識だと「God」で言及されている意味も分からなくなってしまうため、前もって和訳しておきました。
プリンスの音楽を知る人ならば、プリンスを知らない人にプリンスの凄さを知ってもらうために、最初にどの曲を聴いてもらえばいいのだろうと考えたことがあるのではないかと思います。
プリンスは本当に沢山の曲を世に残しました。私が今のペースでブログ投稿を続けても、全ての曲を取り上げる前に私の寿命が来る方が先ではないかというほどです。それだけ沢山の曲があるので、最初にどの曲を聴くべきかという問いについても人によって言うことは違うでしょうし、人によって曲の評価もしばしば割れます。ある人が最高だと言う曲を、ある人はこの世のどんな曲よりも最低だと極端に貶したりします。
どうやらプリンスで最初にどの曲をすすめるかというのはとても悩ましい問題のように思えます。これを読んでいる方々も、それぞれ考えがあるものと思います。
では私の考えはというと、この問いに私ならこう答えます。
質問: プリンスを知らない人にプリンスの凄さを知ってもらうために、おすすめの曲は何ですか?
私の答え: だいたいどの曲でも構いません。
絶対にひとつ挙げなければならないとしたら、今日なら丁度ブログを書いたので、「God」にします。
ただし条件があります。それは曲をきちんと聴くことです。「God」ならば、部屋の照明を落としてヘッドホンで聴いてもらいます。また、いくらどの曲でも構わないといっても個人的におすすめしない曲もあります。例えば「どれでもいいのか。じゃあタイトルからして名曲っぽい『Purple And Gold』を……」という人がいたら、さすがの私も「とりあえず待て」となります。代わりに「Purple Rain」か「Gold」を提案します。
それにしても、「どの曲でも構わない」とはずいぶんいい加減な答えだと思われるかもしれません。ですが、私は真剣に答えてこう言っています。それは、きちんと聴きさえすれば、だいたいどの曲を聴いてもプリンスがいかに唯一無二のアーティストであるかは感じ取れるはずだからです。細かいことを言うと、過去記事にも書いたように2000年代の作品は全体的に複雑な思いがあったりするのですが、少なくともブログで取り上げている曲に関しては、ほぼどれも「これは最高傑作だ! / これは凄い曲だ!」と感じながら私は記事を書いています。
このブログで度々名前を出しているスーザン・ロジャースは、1983年7月下旬に「Darling Nikki」のレコーディングに関わったのを始まりに、4年以上に渡ってプリンスのレコーディングエンジニアを務めました。スーザンは、プリンスが何か新しい曲を録音するたびに「これはプリンスの最高傑作ではないかしら! / これをファンが聴いたら凄いことになるわ! / これって素晴らしすぎるわ!」と驚き、興奮したのだそうです。その興奮が初めて途切れ、「あら、これは、最高傑作ではないかも」となったのが「Adonis & Bathsheba」なのだそうですが (笑)、それはスーザンがレコーディングエンジニアを務め始めてから3年も経過した1986年7月27日の出来事です。それに、この曲にしてもたまたまスーザンには響かなかっただけで、ファンの間ではかなり評価の高い曲です。それだけプリンスは膨大な数の「最高傑作」を作り続けたのです。
Duane Tudahl の本に、この曲がレコーディングされたときの話が書かれています。要約か一部抜粋をと思ったのですが、全て訳します。
プリンスは特定の曲を日曜日のために取っておいたり、日曜日にインスパイアされて曲を作ったりしたことがあったわ。「God」はそういった日曜日の曲のひとつなの。
- スーザン・ロジャース
プリンスは今日のセッションのために、(レコーディング場所である) 倉庫の照明を消し、キャンドルを灯してムードを整えた。プリンスはピアノに向かって座り、演奏を始めようとしたが、不運なことに何度試みても録音機器が動作しなかった。スーザンはその時のムードをこう語る。
「それは本当に、本当に難しいムードで、プリンスのフラストレーションがどんどん溜まっていくのが分かったわ。プリンスは完全に無口になり、コミュニケーションを取るのが不可能になってしまった。だけどプリンスは怒っていたとか、そういうわけではないわ。ただ、機器に技術的な問題が発生していてそれを直すのは私の責任だったので、私はできる限りのことをしたわ。プリンスはどうしてもこの曲をレコーディングしたかったの」スーザンがやっと機器を直したのは午前零時を過ぎてのことだった。スーザンが録音ボタンを押すと、今度はテープマシンは録音を開始し、テープは回り続けた。プリンスはワンテイクで「God」のピアノとボーカルのトラックを成功させると、ピアノの蓋を閉じ、そのまま無言で去って行った。そしてこのセッションは終了した。
「あの時、プリンスが頭の中で何を考えていたかは分からないわ。だけどあのような日はよくあったの。プリンスが普段とは違うムードでスタジオにやって来て、本当は一人になりたいけれども、レコーディングのために他の誰かがその場にいなければならない状況ね。私は可能な限り自分の存在を消して、起きる出来事をただテープに残すためだけにその場にいたのよ」
スーザンは後にミネソタ・パブリック・ラジオで次のように説明した。
「プリンスと一緒に仕事をするのは、時として本当に難しいことがあったわ。プリンスはとても大きなプレッシャーを背負っていたから。だけど、他の有名人やアーティストと違って、プリンスはそのプレッシャーを和らげるためにドラッグや不品行に走ることはなかった。プリンスはプレッシャーを真っ向から受け入れ、衝動的に怒りを爆発させることはせずに、ゆっくり時間をかけて少しずつそれに対応できる人だったの。私たちはそれが過ぎるのを待つだけだったわ。それさえ過ぎれば、プリンスはまた陽気で面白くて心から温かくて、そして愛情深い人に戻ったの。それはいつだって確かなことで、私たちはそんなプリンスに信頼を抱いていたわ」プリンスは、そのキャリアの大半において深遠さと背徳を混在させた思想を示したが、それはプリンスに最も近い存在の人々ですら混乱させた。ウェンディ・メルヴォワンは (プリンスの神学的な探求について) 著述家のマット・ソーン (Matt Thorne) にこう語った。
「私にとってはショウビジネスだと感じたわ。個人的にはあまり共感はなかったの。だけど、当時を振り返ると、プリンスのバンドにはユダヤ人やメキシコ人に黒人、白人、それにゲイもストレートもいたわ。皆がそれぞれの意見を持ち、許容され受け入れられていたのは素晴しいことだったわ」
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