6月21日に一般発売になった「Originals」のファーストインプレッション的なレビューです。

この作品については既に様々なレビューがあります。

YouTube のプレイリストです。リリースされたばかりのプリンスの作品が YouTube で聴けるというのは、ありがたくもありつつ何とも不思議です。

作品全般について

「Originals」は一般的な音楽作品とは異なる位置付けのアルバムです。鑑賞するにあたって、この作品に特徴的な点を三つ挙げておきます。

まず一点目の特徴は、この作品は試作品/プロトタイプ/デモを寄せ集めた未完成品ではない、ということです。そして、これは「作者が自分で歌ってみた」的ないわゆるセルフカバーとも全く違います。これはプリンスが他人に渡した提供曲に対し、プリンス本人がガイドボーカルを入れたものであり、プリンス本人による手本が示された完成品と呼べる作品です。

また、これに関連してプリンスの未発表音源全般に言えることがあります。プリンスの作品では、未発表音源と既発音源との間に、音楽的な完成度に明確な差異は存在しません。プリンスは演奏もボーカルも基本的に一発録りで済ませてしまうので、例えば「Sign O' The Times」のようなアルバムの核となる重要曲であっても、作詞・作曲・録音・ミックスの全てを僅か1日で終わらせるといった芸当をやってのけます。また、完成した曲が発表されるか保管庫行きになるかの判断基準には、歌詞の妥当性が大きく関わっていたため、一般のアーティストのように未発表音源だから音楽的なクオリティが劣る、ということも当てはまりません。

二点目の特徴は、他人への提供曲集であるという性格上、プリンスは歌い手に合わせたボーカルパフォーマンスを見せていることです。全体的に抑え気味に曲が作られており、全曲を通してプリンスは自身本来の 100% のボーカルを見せることはありません。つまり、イントロなどで奇声を発することも、要所で金切り声を上げて叫び出すこともありません。過去にこのようなコンセプトの作品はなかったため、これはちょっと珍しい感覚です。唯一「Nothing Compares 2 U」は他とは違う雰囲気がありますがこの曲は例外です。

しかし、だからといって、この作品のプリンスのボーカルパフォーマンスに魅力がないということは全くありません。プリンスのモーリスのためのガイドボーカルが世に出たのはこれが初めてだと思いますし、プリンスのボーカルに関して、他にもこれまで知られていなかった様々な新たなサプライズがあるのが本作品です。

ちなみに、私はこの作品を聴いて「もう全部あいつ一人でいいんじゃないかな」のコラ画像を思い出しました。

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三点目の特徴は、プリンスに馴染みのない人には驚きかもしれませんが、音質の悪さです (苦笑)。特に1980年代のプリンスの音源は、正規の作品でさえも一般的な商業レベルの音楽作品と比べて音質が劣っている傾向があります。また、「Originals」に関しては最終リリースまでにもう少し手が加えられている曲もあるため、ぱっと聴いた感じ、やはりデモレベルの作品ではないかという印象を受けるかもしれません。ただし、この点に関しては、視点を変えて鑑賞してほしいところです。

プリンスの音楽制作において何よりも優先されるべきことは、火山から流れ出る溶岩のようにとめどなく溢れるアイデアを形に残すことでした。スーザン・ロジャースがどこかで似た話をしていたように思いますが、エンジニアは溢れ出る溶岩を取りこぼさないようにフライパンを持って走り回るのに精一杯で、音質は二の次にするほかなかったのです。プリンスは、芸術作品で最も大切なのはアイデアである、というスタンスで作品を作り続けました。

この作品を聴いて、曲によっては音質の劣悪さにガッカリすることもあるかもしれません。しかしそれよりも、プリンスのアイデアに触れる愉しさを感じながらこの作品を聴いてほしいと思います。それがこの作品のみならず、プリンスの作品を観賞するうえで最も大切なことなのですから。

各曲のファーストインプレッション

基本的に曲そのものに対するレビューは割愛して、各曲をとりあえず聴いてみての簡単な所感を書くのみにします。

1. Sex Shooter - Apollonia 6

プリンスのボーカルのメロディラインは、アポロニアのとは少し違います。実は元々はこの曲はこんなにポップでキュートではなく、ヴァニティ向けに作られた少しダークな曲でした。また、シンガーではないアポロニアはボーカルの録音に大変苦労したらしいです。ボーカルのメロディラインの違いはそんな経緯から来ているのかもしれません。結果的には曲は上手く改変されて、アポロニアにぴったりのキュートな曲になりました。この曲はもっと掘り下げられるべきなので、別途ブログ記事を書きたいと思います。

2. Jungle Love - The Time

"Sombody bring me a mirror ... Check it out!"

モーリス・デイのためのプリンスのガイドボーカルが世に出たのは、ひょっとしてこれが初めてだったりするのでしょうか? 過去から世に知られているものでは「Chocolate」などもありますが、あれはモーリス・デイへのガイドボーカルとは声が違いますし。

3. Manic Monday - Bangles

これまでは、聴いていると耳がショボショボしてくるアポロニアのバージョンが知られていたため、実際に聴くまでは少し不安もあったのですが、懸念は払拭されました。とても素敵な曲です。いや、アポロニアのバージョンも私は好きなのですが。

また、この曲には他にもうひとつ大きな懸案事項がありました。それは、「プリンスは、夢の中で、イタリアの青く澄んだせせらぎのほとりで、ヴァレンティノとキスをするのだろうか?」ということです。それで結果は……はい。してました。ただし、展開のブリッジ部でヒモの恋人からベッドに戻って続きをしようと懇願されるところでは、プリンスはさすがに男女を入れ替えて歌っています。

それにしても、改めて「Manic Monday」はとても素敵な曲だと実感します。

4. Noon Rendezvous - Sheila E.

贅沢。

贅沢だなあと思います。シンプルな曲で、それも自分用の曲ではないため、同じようにシンプルだけど誰にも真似のできない異常なボーカルパフォーマンスがある「The Most Beautiful Girl In The World」のような展開にはなりません。プリンスのボーカルはひたすらシンプルに聴かせます。それなのにとても満ち足りた気持ちになります。個人的に、このアルバムで一番の贅沢を感じる曲です。

5. Make-Up - Vanity 6

過去の Vanity 6 のレビューで「2分30秒ほどの短い曲なのに、丸々通して聴くと時間を損した気分になる」と評した曲です。ところがこのプリンスのバージョンときたら一体何なのでしょう? なぜこんなに印象が違うのか……物凄くかっこいいです。

6. 100 MPH - Mazarti

この曲は何だかブートを聴いている気分になります。ですがオフィシャルなんですね。

7. You're My Love - Kenney Rogers

かつて YouTube でプリンスを聴くことができなかった時代、私はプリンスの代わりにこの曲を聴くことで癒しを得ていました。今回のリリースで私が最も待ち望んでいた曲です。

そして、その中身は全くの予想外でした。というか、これを予想できた人は誰もいないでしょう。今までこんなプリンスがこんな声を出して歌った曲などなかったのですから。私は6月7日のトークイベントでこのバージョンの初体験をしました。私は戸惑うことしかできませんでしたが、壇上の Takki さんが声を出さずに爆笑されていたのが印象的でした。

この曲についてはいずれブログ記事を書きます。

8. Holly Rock - Sheila E.

「ああ、これはプリンスの曲ではないんだな」と最も強く感じた曲です。例えば「Cindy C」と聴き比べると、プリンスのボーカルパフォーマンスの違いは歴然としています。そうは言っても、もちろん「Holly Rock」も良い曲であることに変わりはありません。

9. Baby, You're A Trip - Jill Jones

ジル・ジョーンズのアルバムの最初に披露されるあのボーカル、あれはジルのアドリブではなく、プリンスのコピーだったんですね。個人的に、この曲の最後はかなりのサプライズでした。

10. The Glamorous Life - Sheila E.

シーラ・Eの代表曲ですが、人によっては石川秀美の「もっと接近しましょ」を思い浮かべるかもしれません。私は子供時代、ファミコンの「ぺんぎんくん WARS」の BGM としてこの曲に慣れ親しみました。私にとっては、プリンスとは知らずに一番最初に聴いていたプリンスの曲、ということになるのかもしれません。

11. Gigolos Get Lonely Too - The Time

モーリス・デイのボーカル曲、二つ目です。こうなると The Time のアルバム全曲プリンスのボーカルで聴きたくなります。

12. Love... Thy Will Be Done - Martika

前もってブログ記事を書いていた曲です。この世で最も美しい歌詞を持つ曲のひとつだと思います。

13. Dear Michaelangelo - Sheila E.

どういう経緯でこの曲が選ばれたのでしょう。選曲者がこの曲が好きだったのでしょうか。

14. Wouldn't You Love To Love Me? - Taja Sevelle

素敵な曲です。私は個人的には1978年の、2度目の録音のバージョンが好きです。というか今まで殆どそれしか聴いたことがなく、今回のとてもポップなバージョンには慣れるのにもう少し時間がかかりそうです。

15. Nothing Compares 2 U

今回の「Originals」というコンセプトのアルバムにこれほど相応わしい曲はありません。これまでの14曲は全て他人のために書かれた曲でした。そしてこの曲も表面上は The Family プロジェクトの曲ということになっています。しかし、それはパーソナルな曲の内容を悟られぬための隠れ蓑で、本来はプリンスの元に収まるべき曲であったと思います。それがやっとプリンスの作品に収録されることになりました。プリンスは1993年の「The Hits」で、この曲を感情を隠したような異なるテイストのライブバージョンでオフィシャルリリースしてはいますが、オリジナルのスタジオバージョンはやはり特別な作品です。