「Adonis & Bathsheba」は、1986年に書かれた未発表曲です。少し風変わりではありますが、ワルツのリズムに乗せて神話的な世界が描かれる、なんとも多幸感の強い曲です。雰囲気としては、どこかしら未発表曲「All My Dreams」や未発表1986年バージョンの「Crucial」の要素も感じさせます。また、後半のギターや終わり方は、個人的に後の「She Gave Her Angels」なども感じさせます。

あまり多くの言葉が並べられているわけではないにもかかわらず、この曲の歌詞から紡ぎ出される物語は聴く人の想像を大いに掻き立てます。アドーニスとバト・シェバは、花々が咲く素敵な庭園を訪れます。ふたりは見晴らしのよい廃小屋を見つけると、服を脱ぎ捨てながら走り出します。しかし、廃小屋に辿り着いたふたりは、そこにベッドがないことに気付きました。さあ、ふたりはどうやって愛し合うのでしょう・・・? という歌です。

また、曲タイトルにある、アドーニスとバト・シェバというのは、Wikipedia では次のように説明されています。

  • アドーニス (アドニス) は、ギリシア神話に登場する、美と愛の女神アプロディーテーに愛された美少年。フェニキアの王キニュラースとその王女であるミュラーの息子。彼の名は、美しい男性の代名詞としてしばしば用いられる。
  • バト・シェバ (バテシバ、バテ・シェバ) は、ヘブライ語聖書によれば、ヒッタイト人ウリヤ (ヒッタイト) の妻で、後に古代イスラエルの王ダビデの妻、ダビデの跡を継いで王となったソロモンの母。

この曲について海外のファンの評価を検索すると、見つかるのは賛辞の雨あられ、といった具合で、ファンの間では非常に評価の高い曲であることが分かります。しかし、この曲は、スーザン・ロジャースがプリンスとレコーディングをする中で、唯一例外的にお気に召さなかったことでも有名な曲です。以下にリンクした Prince Podcast のエピソードで、スーザンがインタビューに答え、この曲についてコメントしています。45分54秒ごろからです。

Michael Dean: このインタビューにあたって、予めリスナーにあなたへの質問を募り、沢山の質問を頂いています。その全てを取り上げることはできないので絞り込まなければなりませんが、次の質問は私も聞きたかったことです。なぜならば、私はこの曲が大好きなんです。その曲とは、「Adonis & Bathsheba」です。

Susan Rogers: あら、まあ・・・

Michael: 間違いだったら訂正してください。あなたはこの曲のレコーディングに携わりましたが、私の理解では、どうやらあなたはこの曲をあまりお気に召さなかったとか・・・?

Susan: ええ、そうね・・・(笑)

Michael: (笑)。詳しい話を聞かせてもらえますか?

Susan: そうね、先にお話した通り、私はプリンスのもとで働いていましたが、同時にプリンスのファンでもありました。私はプリンスのもとで4年以上の歳月を過ごし、一日一日が過ぎるたびに、そして新しい曲が出来るたびに私が抱いたのは、感謝と、驚きと、それに興奮でした。私の感動しやすい性格もあったのかもしれませんが、そのことは別としても、プリンスはあまりにも素晴らしいアーティストだったのです。私はプリンスが何か新しいことをするたびに頭の中でこう思いました。
「これは彼が作った曲の中で最も素晴らしいんじゃないかしら!」
「これは彼の最高傑作だわ」
「これはファンが聴いたら凄いことになるわ!」
「ファンタスティック」
「この曲大好き!]
私は毎回いつもこのような思いを抱いたんです。たとえどんなに疲れていたとしても、プリンスが「フレッシュテープ」という魔法の言葉を発すると、それはレコーディングを続けることを意味しました。セッションが始まって24時間後か、48時間後か、あるいはもっと時間が経過していても、プリンスが「フレッシュテープ」と言えば、私は興奮状態になりました。なぜならば、それはさらに新しい曲が作られることを意味したからです。もうひとつの新しい曲が!

ですが、「Adonis & Bathsheba」は違いました。4年もの歳月の中で初めて思ったんです。「あら・・・これは最高傑作ではないかもしれないわ」と。それはちょっと面白い曲ではありましたが、歌詞はアドーニスとバテ・シェバやら愛の庭なんやらと何とも陳腐な響きがありました。そして、レコーディングセッションが進み、プリンスが「ポクリ〜〜ン♪」とハープの音をオーバーダビングすると、そこで遂に私は吹き出してしまいました。可笑しくてたまらなくなったのです。プリンスは (私が笑ってしまったことを怪訝に思い) 納得いかない様子で何か言っていたことを覚えていますが、それでも私には可笑しかったんです。とにかく、他とは違うものが感じられたんです。でもそこに行き着くまでに時間がかかりました。

Michael: なるほど。私が初めてこの曲を聴いたときは、驚きのあまり口があんぐり開きました。どうしてこれほどの曲がリリースされなかったのかと。

Susan: 分かります。本当にそうですよね。当時はアルバムの構成曲を検討する中で、私も同じ思いをしたものです。プリンスは私の大好きな曲を構成に組み入れて、私は大興奮するのですが、そのうちプリンスは気が変わってその曲を外してしまうんです。そのたびに、私はその曲がアルバムに収録されないのだと気付いてガッカリするんです。私の場合、それで最も悲しい思いをした曲は「Moonbeam Levels」です。あの曲は私が来る以前に録音されたものですが、私のとても大好きな曲です。あの曲は何度もアルバムに入れることが検討されましたが、プリンスは結局外してしまいました。あれは本当に残念でした。

(注: 「Moonbeam Levels」については、確かスーザンは別のどこかのインタビューで、「Purple Rain」、「Around The World In A Day」、それに「Parade」にも一時は収録が検討されたと語っています)

どうでしょうか? 私は「どうしてこれほどの曲がリリースされなかったのか」という気持ちも、スーザンの「これは最高傑作ではないかも」という気持ちも両方分かる気がします。いずれにせよ、聴く人の想像を掻き立てられる、印象深い曲です。



2 an orgy in a garden of flowers Adonis and Bathsheba flew
All of creation awaits them, flamingos stand by the crystal blue
Stream of desire and erotic rebellion
That parades thru their hearts and minds
They look at one another as much as they don't
2 touch is their need, 2 love they are blind
2 love they are blind
花々が咲き誇る庭園の宴に、アドーニスとバト・シェバは訪れました
そこには全ての創造が待ち受けていました
青く澄んだほとりにはフラミンゴたちが佇み
欲望と淫靡な反逆の絶え間ない流れが
ふたりの心を縫うように行進します
ふたりは互いを見つめては逸らし見つめては逸らし
そしてふたりは触れ合い、愛に盲目でした
ふたりは愛に盲目でした

An abandoned gazebo houses what looks 2 be a perfect place
They undress as they're running, Bathsheba crying
Adonis sweat upon his face
4 them there is no morning, only night decisions so grand
There is no bed, how will they ever... love?
They decide 2 stand
No bed, they decide 2 stand
ふたりは見晴らしのよい廃小屋を見つけると
恰好の場所だとばかりに服を脱ぎ捨てつつ走り出しました
バト・シェバは叫びながら
アドーニスは顔に汗を浮かべながら
ふたりに朝はなく、すべて夜で決心は壮大でした
ですがそこにベッドはありませんでした
ふたりはいったいどうやって・・・愛し合うのでしょう?
ふたりは立つことに決めたのです
ベッドがないので、ふたりは立つことに決めたのです

Adonis and Bathsheba in a garden of flowers, in a garden of love!
アドーニスとバト・シェバは花の庭に - そこは愛の庭!