「A Case Of U」は、元々はジョニ・ミッチェルの1971年の曲です。プリンスはこの曲がお気に入りだったようで、コンサートなどでこの曲をカバーしています。プリンスが最初にこの曲をコンサートで演奏したのは、1983年8月3日の First Avenue です (この日のコンサートでは「I Would Die 4 U」、「Baby I'm A Star」、「Purple Rain」も初めて演奏され、これらの演奏は同時にアルバム「Purple Rain」の元音源にもなりました)。また、2002年の「One Nite Alone... - Solo piano and voice by Prince」に収録され、オフィシャルリリースされたバージョンもあります。

この曲は、ジョニ・ミッチェルの原曲では恋愛の歌で、傷付くと分かっているのに恋の相手に惹かれてしまう複雑な女心と "オォ、カーナーダーァーァー♪" が歌われます。一方で、プリンスのカバーではそういった要素は取り除かれ、ジョニ・ミッチェルへの純粋な敬愛のほどがうかがわれるカバーとなっています。プリンスのカバーでは、第1と第3ヴァースが省かれ、第2ヴァースのみが歌われます。また原曲で "I'm frightened by the devil / And I'm drawn to those ones that ain't afraid / 私は悪魔に怯え、(悪魔を) 恐れぬ人に惹かれてしまう (しかしその人が悪魔を恐れないのは、その人自身が悪魔だから)" と現在形で歌われる部分も、プリンスのカバーでは過去形にして、異なる意味合いに変えて歌われます。

1983年のバージョンや「One Nite Alone...」のバージョンは YouTube などで容易に見つかるので、私はまずこれらのバージョンに慣れ親しみました。妖しくワイルドな格好なのに小鹿のような眼差しで歌う、音質や画質が劣化してヨレヨレなのが実に惜しい1983年のバージョンも、より円熟した「One Nite Alone...」のバージョンも、どちらを聴いてもプリンスは本当にジョニ・ミッチェルが好きなんだな、と感じさせられる素敵なカバーだという印象を持ちました。

この曲に関してはそれが主な感想だったのですが、とあるバージョンを聴いて……。何というか、どういう言葉を選べば良いのか分からないバージョンに出会いました。それは2016年4月14日のアトランタ、7:00 PM の Piano & A Microphone コンサートです。プリンスはこの日に Show 1 (7:00 PM) と Show 2 (10:00 PM) の2つのコンサートを行い、それが最後のフルコンサートとなりました。私は未だ断片的にしか聴けていないのですが、この日のコンサートは、少し聴いただけでも人類の文化遺産に指定すべきだと感じる、途轍もなく素晴らしいコンサートだと思います。

元々ジョニの原曲とは異なる意味に変えられてカバーされていたこの曲でしたが、2016年4月14日のアトランタでの演奏は、完全に別次元の曲へと昇華されています。この日の演奏では、美しい間奏を挟んで、2度目の "In my blood like holy wine" が3回連続で歌われます。最初から凄い高音を出すのですが、3回目はさらに高くなり、プリンスはこの世のものとは思えない声を出します。曲が終わると1分ほど演奏が止まり、しばらく歓声だけになります。映像がなくて分からないのですが、この間プリンスは席を外し、しばしステージを離れていたらしいです。そして戻って来るとこう言います。

Sometimes I forget how emotional these songs can be. Okay, stay with it, Prince!
これらの曲がどれだけエモーショナルだったのかちょっと忘れてたよ。オーケー、プリンス、持ちこたえるんだ。

このアトランタのバージョンは、是が非でもヘッドホンかイヤホンで聴くことをおすすめします。YouTube に見つからないので、次のブログを勝手にリンクさせていただきました。筆者ご自身で録音した音源だそうです。「A Case Of U」は 8:00 頃から始まります。

また、この音源の最初には、プリンスが「Chopsticks」を弾く、とても面白い演奏が入っています。曲名だと分からないかもしれませんが、聴けば誰でも「ああ、これか」となる曲です。リンクしたブログの方は、この部分のスクリプトも書いてくださっています。

Thank you, Atlanta. Once again I'd like to apologize for the cancellation I was a little under the weather. But we're here now. I want to take this time to thank you, each and every one of you for coming out and enjoying this night with us.
ありがとう、アトランタ。改めて前回のコンサートはキャンセルしてごめん。少し体調を崩してしまったんだ。でも僕らは今日ここに集まることができたね。この場を借りて、今夜一緒に過ごして楽しんでくれていることを、一人一人みんなにに感謝するよ。

I want to tell you a little bit about myself. I was born in Minneapolis. My father taught me how to play the piano...
少し自己紹介をするよ。僕はミネアポリスで生まれたんだ。ピアノの弾き方は、父さんが教えてくれたんだ。

("Choipstics" を弾き始める)

He didn't teach me that.
(弾きながら) ・・・なんてね、父さんは教えてくれなかったよ。(聴衆の笑い声)

I taught myself.
僕は独学でピアノを覚えたんだ。

(情緒的なアレンジを加えながら、さらに "Chopstikcs" を弾き続ける)

One of the things my father taught me was that funk (pause) is space.
替わりに父さんが教えてくれたことの、そのひとつは、ファンクは・・・スペースだってこと。

(よりファンキーなピアノプレイに移行する)

My father couldn't sing but he, he, he used to do this thing with his month, he says (starts scatting lightly). I used to watch him do that and (more scatting)...
父さんは歌うことはできなかったけど・・・と、と、父さんは、こんなふうに、口を使って (スキャットし始める)・・・僕は父さんが、こんなふうにするのを見て・・・(さらにスキャットを続ける)

That's funky, right?
ね、ファンキーだろ?

(ピアノの旋律がよりシリアスなトーンに変わる)

When I got a little older, and started doing things my way...
成長するにつれて、僕は自分流のやり方を身に付けていったんだ・・・

he liked to frequent this club down on 36th pimps and things used to hang outside and cuss for kicks... " (starts singing "Joy In Repitition").
"彼は36番通りのクラブによく出入りしていた。外ではいかがわしい奴らが刺激を求めてたむろしていた・・・" (Joy In Repetition の歌い出し)

「Joy In Repetition」は、7:00頃にプリンスの "Love me" という囁きで唐突に演奏が止まります。


画像が紛らわしいのですが、One Nite Alone のバージョンです。

こちらはジョニ・ミッチェルの "オォ、カーナーダーァーァー♪" なオリジナルです。


I'm a lonely painter
I live in a box of paints
I used 2 be frightened by the devil
And drawn 2 those ones that weren't afraid
私は孤独な絵描き人
絵の具の箱が私の住み家
過去の私は悪魔に怯え
恐れを知らぬ人に惹きつけられた

Remember U told me love was touching souls?
Surely U touched mine
Part of U pours out of me
From time 2 time in these lines
あなたは私にこう言ったのを覚えてる?
愛するということは魂に触れることだと
もちろん、あなたは私の魂に触れた
私からあなたの一部が零れ出す
時としてこういった言葉の端々から

U're in my blood like holy wine
U're so bitter, so sweet
I could drink a case of U, oh darling
And I'd still be on my feet
I'd still be on my feet
私の血には聖なるワインのようにあなたが流れる
あなたはとても苦くて、そしてとても甘い
私はあなたを1ケース飲むことだってできる
そしてそれでも私はちゃんと立っていられる
それでも私はちゃんと立っていられる

U're in my blood like holy wine
U're so bitter, so bitter, so, so sweet, oh
And I could drink a case of U, oh darling
And I'd still be on my feet and I'd still be on my...
Still be on my feet, I'd still...
私の血には聖なるワインのようにあなたが流れる
あなたはとても、とても苦く、そしてとても甘い
私はあなたを1ケース飲むことだってできる
そしてそれでも私はちゃんと立っていられる
それでも私は・・・