「3 x 2 = 6」は Vanity 6 のセルフタイトルアルバム (1982年) の最終曲で、心に深く沁み渡るバラード曲です。アルバム「Vanity 6」は、キラーチューンの「Nasty Girl」や、プリンスがダミ声の女を演じるコミカルな「If A Girl Answers (Don't Hung Up)」を筆頭に、それぞれに印象的な曲が並ぶ名盤です。しかし、アルバム全体を通して聴いたとき、それまでの全てを掻き消すようなショックと共に、いつまでも心に取り憑くのはこの曲だったりします。

「Nasty Girl」では悪女を気取って名前も教えてくれなかったヴァニティが、この最終曲で遂に心を開き、胸に秘めた思いを打ち明けます。けなげでいじらしいヴァニティの乙女心に胸が締め付けられます。

Nasty Girl:
That's right, pleased 2 meet U
I still won't tell U my name
Don't U believe in mystery
Don't U want 2 play my game
そうよ、はじめまして
まだ私の名前は教えられないわ
謎めいたものって素敵でしょう?
私のゲームをしてみたいと思わない?

3 x 2 = 6:
Let me tell U my story
私のことを話してあげるわ

My made-up name is Vanity 'cause a girl's best friend's her pride
私に付けられた名前はヴァニティよ
だって女の子にとって一番の友達は自分のプライドだもの


今回の記事は、先日書いたプリンスという「点」とミネアポリスという「シーン」に続くものです。1981年以降、プリンスは、「プリンス」に収まりきらない芸術表現をアウトプットする場として、The Time や Vanity 6 や The Family などのサイドプロジェクトを作りました。これらのグループはプリンスの別人格としての役割を果たすことになりましたが、その中で、ヴァニティはプリンスの女性バージョンとも言える存在でした。

この曲には、プリンスは自身の思いを投影させたのではないかな、と個人的に感じるヴァースがあります。

When I'm older, I wanna be a movie star just like Greta Garbo
Then I can tell everybody what to do
Well, she was so cool, it was plain to see that she was in control
I bet she never played the part of anyone's fool
私は将来グレタ・ガルボみたいな映画スターになりたいわ
そしたら周りの人間にあれこれ指図ができるの
彼女はとっても毅然としていて、主導権が彼女にあるのは明白だった
誰かのおもちゃを演じることなんて絶対になかったはずだわ

このヴァースから私が思いを巡らすのは、プリンスの最初のマネージャーであるオーウェン・ハスニーとの関係と、ザ・ローリング・ストーンズのオープニングアクトの事件です。


オーウェン・ハスニーはプリンスの最初のマネージャーを務め、プリンスのワーナーでのデビュー契約を実現させた人物です。ファーストアルバムの「For You」(1978年) までプリンスのマネージャーを務めましたが、その後、二人は袂を分かちます。

owen-husney

次のビデオの11分48秒からのやりとりを見てください。1999年のラリー・キング・ライブで、プリンスが出演した回です。プリンスは自分が有名になった経緯を語る中で、さらっと強烈な発言をします。

King: How did you get famous? How did the world get to know you? What happened? Was it a record, an appearance, something?
あなたはどのようにして有名になったのですか? どのようにしてあなたは世界に知られるようになったのでしょう? 何がきっかけでしたか? レコードでしょうか? それともイベントやメディア出演か何かでしょうか?

The Artist: Well, it started with a lot of appearances I was doing in and about Minneapolis. And word just spread about...
そうですね、はじまりは私がミネアポリスで行っていた様々な活動からです。その中で私についての評判が広まったのです。

King: So you were a local man?
あなたは地元で有名な人だったのですね?

The Artist: Yes - what I could do. And then I was taken out to Los Angeles by my first manager, whose name escapes me. And other people started getting to see what I could do.
ええ、私ができることについての評判が。その後、私の最初のマネージャーにロサンゼルスに連れて行かれました。その人の名前はちょっと思い出せませんが。そうして他の人々にも私の才能が知られるようになっていったのです。

言うまでもなく、プリンスがオーウェン・ハスニーの名前を忘れるなんて絶対にありえません。プリンスは、意図的にオーウェンの名前を出さなかったのです。


オーウェン・ハスニーのマネージャー契約が解消となった経緯については、様々な書籍や、ネット上ではペペ・ウィリーのインタビューなどに説明が見つかります。プリンスは、身の回りの雑用も含めオーウェンに100%の献身を求めましたが、オーウェンは自身で広告代理店も経営していたため、その要求の全てに応えることはできませんでした。決裂を決定付ける出来事として、プリンスがリハーサル部屋に置くためのヒーターを買ってくるようにオーウェンに頼むも、オーウェンは仕事上の都合でプリンスの要求を拒否したという話が知られています。

2018年にオーウェン・ハスニーは本を出版しました。タイトルは「Famous People Who've Met Me: A Memoir By the Man Who Discovered Prince」です (上の方に貼った二人の写真は、この本の表紙を切り取ったものです)。その本の「Crossroads」という章に、マネージャー契約が解消となった経緯についてオーウェンの視点からの説明が書かれています。それとは直接関係がないのですが、同じ章に面白いエピソードが紹介されていたので、以下に訳して紹介します。

以前、プリンスが新しく買った車を一人で運転している時に、雪道の中で立ち往生してしまったことがあった。プリンスはバッテリージャンパーケーブルを持ってくるようにと私に電話してきたので、私はすぐにその場に向かい、私の車のバッテリーとプリンスの車のバッテリーをケーブルで繋いだ。するとプリンスは突然何の前触れもなく、真冬の寒空の下、ジャンパーケーブルを持った私と2台の車を残し、こう叫んで走り去って行ってしまったのだ。
「もしファンに見られたらどうするんだよ! (What if my fans see me!)」
この話が面白いのは、これがプリンスがファーストアルバムやシングルを出す前の出来事だということだ。これは滑稽なプリマ・ドンナの行動だったのだろうか? いや、私には分かっていた。プリンスは、自分が絶対的な本物であることを既に知っていたのだ。この時点でプリンスは、3年後の自分が何処にいるかを頭の中で計算していて、既にその世界に生きていた。道の真ん中で立ち往生するようなヘマは、プリンスの作り出したペルソナのすることではなかったのだ。


もうひとつ私が思いを巡らすのは、ファンなら誰もが聞いたことがあろう、ザ・ローリング・ストーンズのオープニングアクトの事件です。4作目のアルバム「Controversy」のリリースを1981年10月14日に控えた時期、10月9日と10月11日の2度、プリンスはロサンゼルスでザ・ローリング・ストーンズのオープニングアクトを務めました。しかし、ステージに立ったプリンスとバンドメンバー達は、白人中心のガラの悪いオーディエンスから様々な物を投げ付けられるなど酷い目に遭います。そしてプリンスは初日のパフォーマンスの後ミネアポリスに帰り、以降の出演を拒否します。しかし、マネージャーのスティーヴ・ファグノリ、ミック・ジャガー、そしてデズ・ディッカーソンの説得に折れ、渋々ながら再度の出演を承諾します。ドラマーのボビー・Zは、"It was one of the only times I saw Prince visibly, physically have to do something against his will / プリンスが自分の意に反して実際に何かをするのを見たのは、あの時くらいのものだった" と回想しています (Mpls.St.Paul Magazine のサイトの記事、2016年12月5日)。しかし、再びステージに立ったプリンスとバンドメンバー達はやはり散々な目に遭い、以降の出演はキャンセルとなりました。

2018年10月に、初期プリンスの様々な写真を収めた Allen Beaulieu の写真集「Before The Rain」が出版されました。出版元である Minnesota Historical Society の紹介ページに行くと、Images の中の1枚にそのステージの写真が見つかります。

1981-rolling-stones

実は私がこの曲についてブログ記事を書こうと思い立ってから、2年以上の月日が経っています。それ以来、私は通算で数百回はこの曲を聴いています。Vanity 6 の「3 x 2 = 6」は、何度聴いても心が揺さぶられる名バラードです。


Let me tell U my story
私のことを話してあげるわ

[Verse 1]
My favorite band in life is playing in town on Wednesday night
I wish to God I had the nerve to go
The singer in the band's my type, not too big or small
But I hate to let my inner feelings show
水曜日の夜に、私が人生で一番好きなバンドが街にやってくるの
私に行く勇気があったらって神さまに願うわ
バンドのボーカルは私のタイプで、大きすぎず小さすぎないの
だけど胸の内に秘めた感情を見せるのはイヤだわ

[Chorus]
My made-up name is Vanity 'cause a girl's best friend's her pride
And a working girl don't have to tolerate the mailman's tricks
Everybody gets 3 years of tribulation unless they lie
But with the female, 3 times 2 equals 6
私に付けられた名前はヴァニティよ
だって女の子にとって一番の友達は自分のプライドだもの
働く女の子は郵便屋さんのちょっかいに耐える必要はないわ
誰もが3年の試練を受けるの、嘘をつかなければね
でも女性の場合、3x2で6になるわ

[Verse 2]
When I'm older, I wanna be a movie star just like Greta Garbo
Then I can tell everybody what to do
Well, she was so cool, it was plain to see that she was in control
I bet she never played the part of anyone's fool
私は将来グレタ・ガルボみたいな映画スターになりたいわ
そしたら周りの人間にあれこれ指図ができるの
彼女はとっても毅然としていて、主導権が彼女にあるのは明白だった
誰かのおもちゃを演じることなんて絶対になかったはずだわ

[Chorus]
So, my made-up name is Vanity 'cause a girl's best friend's her pride
And a working girl don't have to tolerate the mailman's tricks, oh no
Everybody gets 3 years of tribulation unless they lie
But with the female, 3 times 2 equals 6
それで、私に付けられた名前はヴァニティよ
だって女の子にとって一番の友達は自分のプライドだもの
働く女の子は郵便屋さんのちょっかいに耐える必要はないわ
誰もが3年の試練を受けるの、嘘をつかなければね
でも女性の場合、3x2で6になるの

Play your song one time, baby girl
ねえ、あなたの歌を一回やってちょうだい

I don't think they heard you now, baby
皆には聴こえてなかったんじゃないかしら

[Bridge]
That's all I need to say because I think you understand
Unless of course, in another life, you were a man
私が言いたいことはこれで全部よ、もうあなたは理解したでしょうから
もちろん、前世において、あなたが男でなかったらの話よ

[Chorus]
Please believe me when I tell you, a girl's best friend's her pride
A working girl don't have to tolerate the mailman's tricks, no she don't
Everybody gets 3 years of tribulation unless they lie
But with the female, 3 times 2 equals 6
どうか私の言うことを聴いてちょうだい
女の子にとって一番の友達は自分のプライドなの
働く女の子は郵便屋さんのちょっかいに耐える必要はないわ
誰もが3年の試練を受けるの、嘘をつかなければね
でも女性の場合、3x2で6になるの

Won't somebody help me
Please believe me when I tell you, a girl's best friend's her pride
A working girl don't have to tolerate the mailman's tricks, sister can you hear me
Everybody gets 3 years of tribulation unless they lie
But with the female, 3 times 2 equals 6
誰か一緒に歌ってくれないかしら
どうか私の言うことを聴いてちょうだい
女の子にとって一番の友達は自分のプライドなの
働く女の子は郵便屋さんのちょっかいに耐える必要はないわ
誰もが3年の試練を受けるの、嘘をつかなければね
でも女性の場合、3x2で6になるの

Sister can you hear me talking to ya
Please believe me when I tell you, a girl's best friend's her pride
A working girl don't have to tolerate the mailman's tricks, sister can you hear me
Everybody gets 3 years of tribulation unless they lie
But with the female, 3 times 2 is 6
あなたにも私の声が届いてるでしょう
どうか私の言うことを聴いてちょうだい
女の子にとって一番の友達は自分のプライドなの
働く女の子は郵便屋さんのちょっかいに耐える必要はないわ
誰もが3年の試練を受けるの、嘘をつかなければね
でも女性の場合、3x2で6になるの