ここまでで「背中のトレーニングの基本」と「ラットプルダウンで肩甲骨を寄せるという誤解」と、背中のトレーニングについての2つの記事を書きました。この3つめの記事で本シリーズは一応完了のつもりですが、全体を通してのゴールはこれです。

自分は背中のトレーニングのやり方を知っているし、上手くできる、と自信を持って言える

3つの記事を併せて読むことで、それまで背中のトレーニングがピンとこなかった人がこうなってくれればと思い、記事を書きました。

背中のトレーニングは、表面的にフォームを矯正しただけでは上手くいかない

経験的にいって、背中のトレーニングを人に教えるときは、ただフォームを矯正するだけの教え方では上手くいかないことが多いように感じます。例えば、広背筋の種目を教えるときに、

  • グリップは中指と薬指を中心に使って握る
  • グリップではなく肘主導で引く

というように、グリップや肘の使い方から始まって、肩、胸、目線など、姿勢で矯正した方が良いところがあればそれをひとつずつ直していくという進め方でやると、表面上はそれなりのフォームが出来上がるのですが、どうもいまいち納得感を持ってもらえないことが多いように思います。というのも、このようなやり方では教わる方は適切な姿勢を作ったり肘を引いたりするだけで意識を全部使い切ってしまい、フォームを作るだけで手一杯な状態になってしまうのです。一見良いフォームに近付いているように思えるのですが、結局内面では意識が付いて来ていないので相変わらず負荷を外しながらトレーニングすることになってしまいがちです。

また、それだけでなく、一からフォームを教わるような段階では何が正しいのかをまだ判断できないため、運悪くダメなトレーナーに当たってしまうとそれに対処できないという問題もあります。「はい、ここで広背筋を動員するために肩甲骨を寄せましょう」と間違った指導をされても、ああそうですかと従うしかありません。

このように、背中のトレーニングを教えるときにフォームの矯正だけに終始してしまうと、どうも色々問題があるように思います。フォームの矯正だけでなく、フォーム矯正の先に何があるのか、つまり、背中のトレーニングを理解している人は何を意識してトレーニングしているのかを知る必要があります。

Brandon Curry の背中のトレーニング

背中のトレーニングを理解している人が何を意識してトレーニングしているのかについては、「背中のトレーニングの基本」にまとめましたが、あの記事では、それを実際のトレーニング種目でどのように実践したら良いかには触れませんでした。この点について何か良いお手本がないかと探してみたところ、Muscular Development の YouTube チャネルで見つけた Brandon Curry というプロビルダーの動画が、ドンピシャで私の望み通りの内容だったので、これを参考例として紹介したいと思います。

この動画は、2014 Arnold Classic 4週間前の彼の背中のトレーニングを本人のナレーション付きで収めたものです。ナレーションではフォームのコツのようなものは殆ど出てきません。その代わり、各種目をどのような意図で行っているのか説明してくれています。背中は実質的に2つの異なる部位から構成されることもあって、フォームの解説系の動画は往々にして言葉足らずで結局何をしようとしているのか意図が分からず(というかやっている本人も意識していないのかもしれません)参考にならないことがあります。その点この Brandon の動画は、本人の口からどんな感覚でトレーニングをしているのかを説明してくれているので個人的にはとても参考になります。

ちなみに私の場合、他人のトレーニングを見るときは、「フォームのここをこうしなきゃ」と見た目で判断できる部分に意識が行くのですが、自分自身がトレーニングをするときには、それよりもまず最初に「背中のこの部分を鍛えよう」という意識があります。フォームというものはその意識に従うことで自然に決定するものであって、コツを学んで矯正するものかというと少し違うような感覚があります。

この動画では、Brandon は8つの種目を行っています。私の英語力では所々何と言っているのか分からないのですが、ひとつずつ見ていきましょう。

1. 自重チニング (0:50〜)

ウォームアップを兼ねた最初の種目です。主に広背筋を意識して行っています。動作が小さくて驚いた方もいるかもしれませんが、上体を立てたワイドグリップのチニングならこれで広背筋は可動域いっぱいです。もしこれよりも動作が大きくなったらそれはもう別モノの種目です。

2. T バーロウ (1:25〜)

ウォームアップを終えた後のメイン種目です。主に背中の厚みを意識して行っています。この種目は正面からみると肘をピョコピョコ動かしているだけのように見えるので、やったことがない人にとってはこれが何のトレーニングになっているのかと不思議に思えるかもしれません。実際のところ、これは背中の内側に最高に効かせやすい種目のひとつです。ロープーリーロウでよく使う V 字のグリップを使いますが、バーベルの重みがズシッとくるので感覚はロープーリーロウとはかなり異なります。Brandon は、デッドリフトを思い起こさせるような種目だけれどもデッドリフトとは違って背中をガンガンに使う、みたいなことを言っています。

3. ロープーリーロウ (2:06〜)

もう一つのメイン種目です。主に背中の厚みを意識して行っています。前のTバーロウとこの種目で背中の内側をしっかり疲労させます。

4. ビハインドネックラットプルダウン (3:03〜)

ここで背中の厚みは一休みをして広背筋の種目に移ります。チニング同様、動作が小さくて驚いた方もいるかもしれませんが、この種目を広背筋のトレーニングとして行う場合、これが適切な動作範囲です。
brandon-pulldown

5. フロントラットプルダウン (4:15〜)

バックからフロントに切り替えて、広背筋の種目が続きます。少しグリップ幅を狭めて上体を倒すことで動作範囲を大きくとれるようにしています。「ハード」な種目なので軽い重量で行う必要があります。ここではオーバーグリップで行っていますが、初めてこれを真似をするときはアンダーグリップの方がスムーズに行くかもしれません。

6. スティフアームプルダウン/ストレートアームプルダウン (5:27〜)

またまたプルダウンですが、今度は立ち上がってストレートアームのバリエーションです。これも広背筋の種目で、特にボトムポジションで広背筋を意識します。Brandon は、Victor Martinez の背中の V シェイプをイメージしてこの種目を行っているそうです。ウエイトスタックを見ると非常に軽い重量で行っていることが分かりますが、この種目は器具の構造上高重量で行うことはできません。真似する場合は特にボトムポジションの姿勢に注目してください。

7. クロースグリップでのチェストサポート付 T バーロウ (6:50〜)

しばらく広がりの種目が続きましたが、また厚みの種目に戻ります。元々背中の内側に効かせやすい種目ですが、Brandon はクロースグリップにすると広背筋の関与がなくなって、特に Rhomboids(菱形筋)を集中的に使っている感覚が得られると言っています。前々回の記事でも触れましたが、英語では背中内側のトレーニングで Rhomboids という言葉がよく出てきます。

8. ロープグリップでのスタンティングロープーリーロウ (7:38〜)

最終種目です。主に広背筋の下部を意識した種目です。これで背中が全て疲労した状態になり、この日の背中のトレーニングは終了です。

おわりに

さて、背中のトレーニングの実践的な例として Brandon Curry のトレーニング動画を上げましたがどのような感想を持ちましたでしょうか?もし「自分のジムには同じ器具がないから参考にできない」などと感じてしまったら、それは勿体ないです。もしそう思ってしまったら、もう一度「背中のトレーニングの基本」を思い出してください。トレーニング種目は数多くのバリエーションが存在しますが、つまるところ組み合わせの元になる動作は2つだけです。

  • 背中外側(=広がり)の筋肉を働かせる
  • 背中内側(=厚み)の筋肉を働かせる

そして、トレーニングで1つの筋肉ができることはたったの1つしかありません。

  • 収縮させることで、両端の付着点間の距離をコントロールする

これを踏まえて、改めてこのトレーニング動画を見てください。この動画のポイントは、色々な器具を使ったり数多くの種目を行ったりするところではありません。重要なポイントは、各種目を行うにあたって背中の厚みと広がりが明確に意識されていることです。その意識に従うことで自然にフォームが形作られていることを感じ取ってください。

様々な器具で数多くの種目をこなすことは必ずしも必要ではありません。私は時間がないときはラットプルダウン1種目で背中全体をトレーニングして終えることがあります。最近はあまり充実していない施設でトレーニングすることが多く、器具がなかなか空かないことがあるのですが、そんなときは人気がなく空きが出やすいシーテドロウのマシンを2、3の異なるバリエーションで行って背中の外側と内側をそれぞれ鍛えて終わりということがあります。

背中という部位は、この動画のように様々な器具や種目で完璧に疲労させることもできますし、限られた器具や種目であっても完全に鍛えることができます。いずれにせよ、大切なのは基本を知って自分の意識に従うことです。そうすれば、どのようなトレーニングをすれば良いかは、自分の意志で自信を持って決定できるようになります。