一般的なお勧め記事ではあまり紹介されないけれど、ファンにはよく選ばれるような気がするプリンスの曲で、かつスタジオバージョンを聴く必要がある曲、第2位には「The Ballad Of Dorothy Parker」(「Sign O' The Times」収録、1987年) を挙げたいと思います。絶妙なサウンドと歌詞で構成されるこの曲は、プリンスを知っている人の間では名高い傑作としてのポジションが固まっている感があります。まあ意外性のない選曲だと思いますが、順位付けでびっくりさせるようなものではないので、第1位もこのような素直な選曲にします。

この曲の歌詞はストーリー仕立てになっていて、まるで夢の中にいるような不思議な出来事が歌われます。全てが聴きどころといって良く、メインボーカルが「Well (ええと)」と言うところまでもが曲の重要な構成要素です。また、曲の中で出てくるジョニ・ミッチェルの「Help Me」はストーリーの雰囲気にぴったりで、これが原型を壊さずに歌われるのも面白いです。

他の聴きどころとしては、メインボーカルの合いの手に入るバックの声も印象的です。特に、ドロシーと泡風呂に入った後、メインボーカルが violent room (暴力の部屋) に戻ったよと歌うと、バックは話の続きをせがんで「Tell us what U did, what U did (何をしたのか教えてよ、教えてよ)」と妖精のように囁き、それに対して「Let me tell U what I did (何をしたか教えてあげるよ)」とメインが歌うと、バックは楽しそうに「Oooh Wa! (ウー・ワ!)」と囁いて、曲がメジャー調に転調を起こすところは本当に素敵です。そしてその後バックも喜んで一緒になって歌いますが、続いて奇妙なメロディで「Next time I'll do it soone-e-e-e-er」となるのでドキッとさせられます。


この曲のストーリーはこうです。恋人と violent room (暴力の部屋) で口論になったプリンスは、そこを抜け出して通りの店に入り、ウェイトレスとして働くドロシーと出会います。二人は気が合い、一緒に泡風呂に入ることにしますが、プリンスは恋人がいるからとパンツを履いたまま泡風呂に入ります。お風呂ではちょっとした素敵な出来事があり、気分が良くなったプリンスは、violent room に戻り、再びパンツを履いたまま恋人と泡風呂に入ります。すると争いは全てやみ、プリンスはもっと早くこうすれば良かったと思う…という話です。

この曲の歌詞では、ドロシーと泡風呂に入った場面がよく話題になります。

My pants were wet, they came off
僕のパンツは濡れ、脱げてしまった
But she didn't see the movie cuz she hadn't read the book first
でも彼女は映画を見なかった - なぜなら彼女は原作を先に読んでいなかったから
Instead she pretended she was blind
そのかわり彼女は盲目になったそぶりを見せた
An affliction brought on by a witch's curse
魔女の呪いがもたらした試練

「原作を先に読んでいなかったから映画を見なかった」というのは比喩的表現で、「中身をちゃんと知らない男とホイホイ肉体関係を持つような軽いマネはしないわ」ということの喩えです。ドロシーはその代わりに、魔女の魔法にかけられて盲目にさせられてしまったそぶりを見せます。

実際にこんな人がいたら「ああ小賢しい、もっと普通に言え!もっと普通に振舞え!」と内心なりそうな気もしますが、もともとドロシーはウィットに富んだことを言うキャラという設定です。丁度そういうものを求めていたプリンスは楽しくなって笑います (ハハ、ハハ)。ちなみにこの笑い声、なぜか昔から私にはそんなに楽しそうに聞こえません。とにかく、二人の間に情事は起こらず、気分を取り直したプリンスは violent room に戻ります。


そしてこの曲のサウンドです。この曲の不思議な雰囲気を作っているのは、何といっても、あのくぐもった、フワフワと味のあるサウンドです。この独特の浮遊感のあるサウンドはある意味偶然の産物で、レコーディングを急ぐプリンスに機材のセットアップが間に合わなかったための不備によるものである、と後にエンジニアのスーザン・ロジャース (Susan Rogers) が語っています。

レコーディング中、スーザンは機材に不備があることに気付きますが、レコーディングを一向にやめないプリンスにはそのことを告げるチャンスが得られず、内心パニック状態で大焦りだったそうです。プリンスはプリンスで、スーザンには何も言わずにレコーディングを続け、スーザンに最終指示をする段になってやっと、音がおかしかったことをスーザンに告げるとそのままベッドに行ってしまったそうです。プリンスが去ってからようやく、スーザンは機材をテストするチャンスを得て原因を特定します。結局、プリンスは音のおかしさに気付きながらも、それが夢から着想したこの曲の雰囲気に合っていたため、それを問題視することなくレコーディングを続けました。そうして完成されたのがスタジオバージョンの「The Ballad Of Dorothy Parker」です。

参照: Daddy Rock Star: Susan Rogers on Prince’s Sign O’ The Times (Part 2 of 3)


Dorothy was a waitress on the promenade / She worked the night shift
ドロシーは通りの店のウェイトレス - 夜のシフトで働いていた
Dishwater blonde, tall and fine / She got a lot of tips
くすんだ金髪、背は高く端麗 - 多くのチップを得ていた
Well, earlier I'd been talkin' stuff in a violent room / Fightin' with lover's past
ええと、その前に僕は暴力の部屋で言い争いをしていた - 恋人の過去のことで
I needed someone with a quicker wit than mine / Dorothy was fast
僕には自分よりもっと機転が利く人が必要だった - ドロシーはそんな女だった

Well, I ordered - "Yeah, let me get a fruit cocktail, I ain't 2 hungry"
それで僕は注文した - 「あの、フルーツカクテルをもらえる?あまりお腹が空いていないんだ」
Dorothy laughed / She said - "It sound like a real man 2 me (U're kinda cute)
ドロシーは笑った - そして言った - 「あなたってオトコだわ」(それに素敵)
U're kinda cute, U wanna take a bath?" (Do U wanna, do U wanna?) ... Bath?
「あなたって素敵な人ね、一緒におフロしない?」(入りたい?入りたい?) - おフロに?
Oh, I said - "Cool, but I'm leavin' my pants on (What U say?)
僕は言った - 「うんいいよ。でもパンツははいたままね」(えっ何て言ったの?)
Cuz I'm kinda goin' with someone"
「何ていうか、付き合っている人がいるんだ」
She said - "Sound like a real man 2 me / Mind if I turn on the radio?"
彼女は言った - 「あなたってオトコだわ - ラジオを付けてもいいかしら」

"Oh, my favorite song," she said
「あら、私の好きな歌だわ」 - 彼女は言った
And it was Joni singing, "Help me, I think I'm falling (in love again)"
ジョニ・ミッチェルが歌っていた - 「どうしよう、(また恋に) 落ちてしまう」
(Drring) The phone rang and she said
(ジリリン) 電話が鳴ったけれども彼女は言った
"Whoever's calling can't be as cute as U"
「誰の電話だろうが、あなたほど素敵な人ということはありえないわ」
Right then and there I knew I was through (Dorothy Parker was cool)
まさにその瞬間僕は何かを抜けたと思った (ドロシー・パーカーはイカしていた)

Well...
オホン…

My pants were wet, they came off
僕のパンツは濡れて、脱げてしまった
But she didn't see the movie cuz she hadn't read the book first
でも彼女は映画を見なかった - なぜなら彼女は原作を先に読んでいなかったから
Instead she pretended she was blind
そのかわり彼女は盲目になったそぶりを見せた
An affliction brought on by a witch's curse
魔女の呪いがもたらした試練

Dorothy made me laugh (ha ha, ha ha)
ドロシーは僕を笑わせてくれた (ハハ、ハハ)
I felt much better so I went back 2 the violent room
僕はずいぶん気分が戻って - 暴力の部屋に戻った
(Tell us what U did, what U did)
(教えてよ、何をしたの?何をしたの?)
Let me tell U what I did (Oooh Wa!)
何をしたか教えるよ (ウー・ワ!)

I took another bubble bath with my pants on
もう一度泡いっぱいのおフロに入ったんだ - パンツをはいてね
All the fighting stopped / Next time I'll do it sooner
全ての争いは収まった - こんどはもっと早くこれをしよう
This is the ballad of Dorothy Parker
これがドロシー・パーカーのバラード
(Dorothy Parker, Dorothy Parker, Dorothy Parker...)
ドロシー・パーカー、ドロシー・パーカー、ドロシー・パーカー…