「Sweet Baby」は、1992年のアルバム「o(+> / Symbol」に収録されている曲で、私の10曲 + 特別枠5曲のひとつに選びました。これが素敵な曲であることには多くの人が同意してくれると思いますが、華やかで強力な曲が並ぶアルバム「o(+>」にあって、主張が控えめなこの曲は、ある意味アルバムの中で最も "弱い" 曲と言えるかもしれません。意外な選曲であろうことは一応自覚しているので、10位から外して特別枠にしました。

私の選ぶ曲としてこれまでに挙げたのは、「With You」、「The Morning Papers」、「Wasted Kisses」、そして今度は「Sweet Baby」と、いわゆるプリンスの有名曲からは外れたものになっています。この後もヒット曲や有名曲はほぼ含まれないリストになります。純粋に私にとっての存在の大きさから選んだ結果なのですが、なぜこんなリストになるのかについては、いつかどこかのタイミングで言い訳、もとい説明をできればと思っています。


マイテの本に、この曲を思い起こさせるようなエピソードがあります。

マイテがプリンスのコンサートでステージに立つようになったのは、1992年4月に東京ドームからスタートした Diamonds And Pearls ツアーからです。しかし、この時点ではマイテはまだダンサーとして数曲に登場するのみでした。マイテはプリンスと行動を共にするも、バンドメンバーにとっては、それどころかマイテ自身にすら、マイテがプリンスにとってどんな意味を持ち、どんな立ち位置の存在であるのかよく分からない状態でした。

そんなある日、ツアーで訪れたとある地で、ちょっとした事件が起こります。それは、マイテがプリンスの宿泊するホテルでプリンスと一緒の時間を過ごした後、自分の宿泊するバンドメンバー用のホテルの部屋に戻る途中でのことです。マイテは、ドアが半開きになった部屋の中でバンドメンバーが自分の噂話をしているのを、偶然立ち聞きしてしまいます。

以下は、マイテの本より、そのエピソードを訳したものです。

「…それでね、彼女ったらブラジャーにパッドを詰めてるのよ!」

本気で? ダイアモンドとパールは意地悪な女子中学生だったの? 私は愕然としました。彼女たちは陰で私を嘲笑していたのです。残念なことに、その時私は剣を持っていませんでした。
「マイテ?」
サックス奏者のひとりが丁度通り掛かりました。私は急いで自分の部屋に向かいましたが、彼は追ってきて尋ねました。
「どうしたの? なぜ泣いているの?」
「たった今、皆が陰で私のことを何て言っているか聞いてしまったのよ」
「違うよ。あいつらはそういう意味で言ったんじゃない」
「ええ、そうね」
私は部屋に入りドアを閉めました。

少ししてプリンスからの電話が鳴りました。プリンスは私の胸中が穏やかでないことを感じ取りました。私は何が起こったのかを打ち明けるつもりはありませんでしたが、プリンスは上手く雰囲気を和らげて、私は告げ口をするというよりも、女友達と噂話に興じているかのような気分に導かれました。
「それであいつらは正確には何て言ってたのさ?」
私は恥ずかしさから教えるのをためっていましたが、プリンスは知りたがりました。
「焦らさないでくれよ。言っちゃって大丈夫だから」
「…その、その、"私がブラジャーにパッドを詰めてる" って」
プリンスはこらえきれずに吹き出しました。
「それで?」
「そうね、笑っちゃうわよね。私は6年生の頃にいじめられ足りなかったみたいね」
「笑っているのか泣いているのかどっちなんだい?」
「どっちもよ!」
「泣かないでおくれよ。あいつらは自分達の時間が限られていることを知っているんだ。僕の心は既に次に移っているからね」

補足すると、ダイヤモンドとパールというのは、Diamonds And Pearls の時代にプリンスの元にいた綺麗な二人組ダンサーの名前です。そして、マイテが剣を持っていれば良かったというのは、次期アルバム「o(+> / Symbol」の主要曲である、「7」のミュージックビデオに、マイテが剣を頭に乗せて踊ったり、剣を構えて振り降ろしたりするシーンがあるためです。異常な創作ペースで作品を発表し続けたプリンスにとっては常のことですが、「Diamonds And Pearls」がリリースされた時には、プリンスの心は既に次期プロジェクトに移っていました。このエピソードの時点で「7」はもうレコーディング済みであり、プリンスはこの曲やプロジェクトの構想についてマイテによく話をしていたという背景があります。ちなみに、princevault によると、「Sweet Baby」はさらに早く、「Diamonds And Pearls」発売日の1991年10月1日にレコーディングが行われていたらしいです。


この曲の歌詞は素朴で純粋です。平易な表現で書かれていることがかえって曲の良さを高めていると思います。

Ask yourself what's more important:
Him or the broken pieces of your heart?
彼と、壊れた君の心のかけらを比べて
自分の胸にどちらが大切なのか尋ねてごらん

Stand tall, sweet baby (Baby) / Don't U fall
U ain't the only one gettin' beat down
It happens 2 us all
毅然と立って、スイートベイビー - 挫けてしまわないで
辛いことは君だけじゃなく
僕達皆に起こるのだから

The road U chose 2 walk in this life
Is a one that leads into the next
So, sweet baby, stand tall
Stand tall - Sweet baby
この人生で君が歩むと決めた道は
次へと繋がる道
だからスイートベイビー、毅然と立って
毅然と立って - スイートベイビー

上記のエピソードを読むと、プリンスは当時のマイテの状況を分かっていて、そのためにこの曲を書いたのだろうなと強く感じます。上の事件の後、程なくしてプリンスはマイテに手紙を書きます。僕達の魂は同一であり、ただ肉体が離れているだけである、と。そしてプリンスは、マイテがいかに周囲の他の女性とは違う存在であるかについて書き記します。

ちなみに、このアルバムを元に作られたビデオ「3 Chains O' Gold」では、「Sweet Baby」のミュージックビデオの後、日本に滞在中のプリンスが、東京へ向かう新幹線の車窓から遠く離れたマイテを想う、みたいなシーンがちらっと入ります。


Close your eyes, sweet baby / Now don't U cry
Everybody get their heart broke / Sweet baby, sometime
瞳を閉じて、スイートベイビー - どうか泣かないで
時には誰だって傷付くことがあるのだから

So he left U 4 another fool / Yes, a fool
4 lovin' him from the start
彼はつまらない女の所に行っただけ - そう、つまらない女
彼に最初から好意を見せていたから

Ask yourself what's more important:
Him or the broken pieces of your heart?
Sweet baby
彼と、壊れた君の心のかけらを比べて
自分の胸にどちらが大切なのか尋ねてごらん
スイートベイビー

Stand tall, sweet baby (Baby) / Don't U fall
U ain't the only one gettin' beat down
It happens 2 us all
毅然と立って、スイートベイビー - 挫けてしまわないで
辛いことは君だけじゃなく
僕達皆に起こるのだから

The road U chose 2 walk in this life
Is a one that leads into the next
So, sweet baby, stand tall
Stand tall - Sweet baby
この人生で君が歩むと決めた道は
次へと繋がる道
だからスイートベイビー、毅然と立って
毅然と立って - スイートベイビー

Sweet baby hold your tears back now
Better days gonna come your way soon, oh yeah, sweet baby
Someway, somehow
Oh, sweet, sweet, sweet, sweet baby
Sweet baby
スイートベイビー、その涙をこらえて
より良い日々がやがて君の元に訪れるから
やがて、きっと
ああ、スイートベイビー
スイートベイビー

Walk faster, sweet baby
Don't let those bad boys catch U now
もっと速く歩いて、スイートベイビー
あの悪い奴ら捕まらないで

Those things that they would have U do
U been done known better, oh and how...
奴らが君にやらせようとしていることよりも
それより君はもっと賢いはずだから、それに…

How can U sleep knowing that U and a fool
Sing in the same key
Walk faster, sweet baby
Strive 2 be the very best U can be
Sweet baby
Oh, sweet baby
それにどうして愚か者と一緒のキーで歌い眠ることができるのだろう
もっと速く歩いて、スイートベイビー
できる限り最良の自分になれるように
スイートベイビー

Sweet baby, hold your tears back now
Better days g'on come your way soon
Oh yeah, sweet baby, someway somehow
スイートベイビー、その涙をこらえて
やがてより良い日々が君の元へ訪れるよ
そう、スイートベイビー、いつの日か

Oh sweet baby
Better day g'on come your way
Yeah
Sweet baby
スイートベイビー
より良い日々が君の元へ訪れるよ
スイートベイビー