「Snow Man」は1993年に書かれたプリンスの未発表曲です。オフィシャルでは発表されていないため音源はブートレグで流出したものになってしまうのですが、私にとっては冬が近付くとふと思い出す曲です。この曲のボーカルはプリンスではなく、ミュージシャンのマーヴィン・ゲイ (Marvin Gaye) を父親に持つ、ノーナ・ゲイ (Nona Gaye) が歌います。

この曲のリードボーカルのメロディは一つだけで、サビもそれ以外も全部基本的に同じメロディの繰り返しです。このように、たった一つのメロディーの繰り返しからきちんとした曲を丸々成立させてしまうのはプリンスの特徴の一つなのですが、曲の構成をどうこう言う前に、この曲を聴くとまずノーナのボーカルに意識を奪われます。ノーナの声色からは、これは普通の曲ではなく、何か特別なことを歌っているのではないか、という雰囲気が感じられます。それもそのはずで、実はこの曲は、ノーナが亡き父のことを歌ったものです。1980年代初めに、ノーナが子供の頃に一時期住んでいたベルギーでの思い出が歌にされており、ノーナは、幼い頃に弟と作った雪ダルマに父の姿を重ねます。

複雑な人生を送ったノーナの父親マーヴィン・ゲイは、ベルギーから米国に戻った後、45歳の誕生日を目前にした1984年4月1日、マーヴィン自身の父親との口論の末に拳銃で胸などを撃たれ、帰らぬ人となります。この時ノーナは9歳でした。曲では「Everything seems so perfect / That nothing would dare go wrong (全てが完璧に思えた - 何も起こりようはなかった)」と歌われる1分47秒頃、バックでカチャッという音と共に銃声が響きます。

「Snow Man」はオフィシャルリリースの機会を失なってしまった曲ではあるものの、背景を知りつつ聴くと心に印象を残す、美しくも哀しい曲です。

ちなみに、プリンスは1994年に「Love Sign」という銃反対のメッセージを含んだ曲を書いています (コンピレーションアルバム「1-800-NEW-FUNK」収録)。売られ方次第ではかなりのヒットになっていてもおかしくないようなポップな曲で、リードボーカルをとるのはノーナ・ゲイです。個人的には、もし「The Gold Experience」(1995年) に、社会メッセージソングの枠として「We March」に差し替えて「Love Sign」が入っていたら、このアルバムはもっとピリッとしたものになっていたかも、と思ったり思わなかったり…という気がします。


Christmas in Belgium was different / Than the ones spent in L.A.
ベルギーでのクリスマスは L.A. で過ごすクリスマスとは違った
The Christmas I got no presents / Still me and my brother played
プレゼントのないクリスマス - けれども私は弟と一緒に遊んだ
Near the ocean makin' the snow man / On his face we were makin' a smile
海岸の近くで雪ダルマを作り - その顔には笑顔を描いた
'cause just like a daddy / The snow man had style
だってパパみたいに - その雪ダルマは格好良かったから

CHORUS:
Snow man, snow man / Another Christmas gone
雪ダルマ、雪ダルマ - またクリスマスが過ぎた
I got a chess game this time / A bishop takes the pawn
今年はチェスゲームをもらった - ビショップがポーンを取る
Sometimes I wanna go back where / The ocean swallows the shore
時々戻りたくなる - 波が海岸を飲み込むあの場所に
I could still see him smiling / When my snow man is no more, no more
あの雪ダルマはまだ微笑んでいる - なのに私の雪ダルマはもう微笑んではくれない

Winter seldom passing / Where the memory doesn't sway
冬は通り過ぎることがない - 揺らぐことのない思い出に
2 the smell of a Christmas dinner / Shared the family way
家族一緒に囲んだクリスマスの夕食の匂いに
Everything seems so perfect / That nothing would dare go wrong
全てが完璧に思えた - 何も起こりようはなかった
But tears come with the summer / So long, so long
だけど夏は涙と共に訪れた - 別れの挨拶

CHORUS

I look at my hands and I wonder / Will they ever make anyone smile
私は自分の手を見て思う - この手は誰かを微笑ませてあげられるだろうかと
The way the snow man made me
あの雪ダルマが私にしてくれたのと同じように

CHORUS