4月30日〜5月7日まで渋谷 HUMAX シネマで上映された、プリンスの1987年の映画「Sign O' The Times」に行ってきました。私が行ったのは5月4日(水)です。まだ能動的なアクションを起こす気分にはなれなくて、どうしようか迷った末のことでしたが、やはり行って良かったです。

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この映画は実質的には映画というよりもコンサートビデオで、ストーリーらしいストーリーはありません。ネットを探すとすみけんさんという方が詳しいレビューを書いています。

この映画の個人的なクライマックスは、しょうもない寸劇で焦らして始まる最初の「Sign O' The Times」から4曲目の「Housequake」までの、切れ目なく演奏される一連のパフォーマンスです。最初がクライマックスというのも変ですが。「Sign O' The Times」で、ダンサーのキャットのダンスがライトを背にしてシルエットで映るところや、3曲目の「Little Red Corvette」でオーディエンスにコーラスを任せて笑顔で OK サインを出すところが特に好きな瞬間です。

あとは、今になって見ると、プリンスがあんなに高いハイヒールを履いているのに頻繁にスプリット (股割り) をバンバンするのが今更ながら気になりました。後年は股関節痛に悩まされていたという話なので、あれを見るたびにどうしてもヒヤッとします。


曲としての「Sign O' The Times」は、1987年にリリースされたアルバムのタイトル曲です。1986年の「Parade」ツアー後にバンド The Revolution を解散させてスタジオに籠り、膨大な曲といくつかのプロジェクトをボツにしたうえで作成されたアルバムです。

私は個人的に、「Sign O' The Times」はある意味プリンスの代表曲だと思っています。独特な雰囲気のファンクで一般的なヒット曲の枠に入らず、ちょっと聴いただけでは殆ど良さが分からないところや、いかにもプリンスが一人で作ったと思わせるサウンドなど、色々な面でプリンスらしい曲です。ライブではロック色を強めにして演奏されるのもまた良いです。

この曲は、奇妙でヘンテコなサウンドに思えながら、実はよく聴くと異常ともいえるほどの緊張感とタイトさを持っています。普通に聴いただけでは気付きにくいのですが、このことは映画を観ると否応なしに思い知らされます。というのも、全体的に臨場感のあるライブ演奏がベースになっているこの映画では、最後のスタッフロールで一転してスタジオバージョンの「Sign O' The Times」がボーカル抜きのインストルメンタルで流れるのです。 この急展開に聞き手は解放されたライブ会場から突如として密室に閉じ込められたような感覚に陥ります。5月4日の上映では、映画が終了しても、スタッフロールが流れ終わるまで誰もその場から立ち去ることはありませんでした。他の上映日もそうだったはずです。

ちなみに、この曲は Muse というイギリスのロックバンドがカバーしています。プリンスのライブよりもさらにロック色が強く、元曲の良さはちょっと消えているのですが、両方のファンにとっては嬉しいカバーだと思います。


「Sign O' The Times」は日本語に訳すと「時代を象徴するもの」といった意味で、その歌詞もこの曲が特別である理由のひとつです。1987年に書かれたこの曲には、若い人には意味が分からないだろうと思われる箇所もあるので一部抜粋します。

この曲は次の印象的な歌詞から始まります。

In France a skinny man died of a big disease with a little name
フランスでひとりの痩せた男が小さな名前の大きな病気で死んだ
By chance his girlfriend came across a needle and soon she did the same
たまたまその男の彼女も針を使い回し、やがて同じことになった

ここでいう病気とはエイズのことです。エイズは80年代に入ってから世の中に知れ渡った病気で、当時は解明されていないことも多く、様々な社会不安を引き起こしました。ちなみに、NBA スター選手のマジック・ジョンソンが HIV 感染を公表して現役引退し、クイーンのフレディ・マーキュリーが亡くなったのはこの後の1991年です。

そしてコーラスの歌詞です。

When a rocket ship explodes and everybody still wants 2 fly
宇宙船が爆発したというのにまだ皆飛びたがっている
But some say a man ain't happy unless a man truly dies
でも人は本当に死ぬまでは幸せにはならないという

これは1986年1月28日に起きた、スペースシャトル「チャレンジャー」の打ち上げ失敗で乗組員7名全員が死亡した事故のことです。打ち上げからわずか73秒後に発生した事故で、その様子が全米でライブ中継されるという衝撃的なニュースでした (Wiki - チャレンジャー号爆発事故)。

この曲のミュージックビデオは文字だけで構成され、プリンスは登場しません。これがまた曲の持つ独特な雰囲気を引き立てています。


最後に余談です。2002年にプリンスが最後の来日をしたとき、私は東京だけでなく日帰りで Zepp 仙台の公演にも行きました。(というとすごいマニアみたいですが、私は詳しいファンではありません。狭いライブハウスでプリンスを見ることができるという稀有なチャンスだったので仙台まで行きました。世代がずれているので、結局プリンスをライブで見たのは2002年のみです。)セットリストに「Sign O' The Times」があり、歌詞の最後で「恋をして結婚して子供を作ろうよ/名前はネイトにしよう。男の子だったらね」となるところを、プリンスが歌詞を変えて「子供の名前はセンダイにしよう」と歌ったのがなぜか印象に残っています。

その日の仙台公演では、ライブが終わって客電が付いてから、プリンスがアコースティックギターを持って一人でひょっこり戻ってきて、「Last December」を少しだけ歌ってくれました。これが素晴らしく美しいバージョンで感動したのを今でも覚えています。

If your last December came / What would U do?
もし君に最後の12月が来たらどうする?
Would anybody remember / 2 remember U?
誰かは君のことを覚えていてくれる?
Did U stand tall? / Or did U fall?
毅然として立っていた? それとも躓いてしまった?
Did U give your all?
全てを捧げることはできた?

Did U ever find a reason / Why U had 2 die?
君はこの世を去らなければいけない理由を見つけた?
Or did U just plan on leaving / Without wondering why?
それとも疑問を持たずに去るつもりだった?
Was it everything it seemed? / Or did it feel like a dream?
全て現実に思えた? それとも夢のように感じた?
Did U feel redeemed?
贖 (あがな) われたと感じた?