プリンスを語るとき、これを除外して考えるなんてできないけれども、オープンに話題にするのは憚られることがあります。それはブートレグのことです。

プリンスのようにスタジオ録音の未発表音源が大量にブートレグにされているアーティストは他にはいないので、正直この話題をどのように扱えばいいのかよく分からないのですが、とにかくオープンに語るのは問題があります。むりやり別のものに置き換えると、これは密猟された象牙や、盗まれたさくらんぼやメロンを入手するような行為です。…あまり的確な喩えになっていないかもしれませんが。

とにかく、そういう建前はあるものの、プリンスで思い浮かぶ曲を列挙していくと、オフィシャルリリースされたものを差し置いて、ブートレグでしか聴けない未発表曲が次々思い浮かびます。これはブートレグまで聴いているプリンスファンなら誰もがそうだと思います。プリンスのオフィシャルリリースは、必ずしも曲の良し悪しで判断されているわけではないため、オフィシャルリリースよりも優れているのにボツにされてしまった勿体ない曲がたくさん存在するのです。

この辺のプリンスの感覚は常人が理解できる範疇ではありません。例えば、私の個人的な嗜好で言わせてもらえば、1986年「Parade」以降にレコーディングされ1987年「Sign O' The Times」でボツにされた曲を適当に見繕えば、この短い期間のボツ曲だけでオフィシャルの最高傑作を超えるアルバムを作ることすらできてしまいます。

具体的な曲名を適当に列挙すると、カオティックな「Dream Factory」、「Girls And Boys」をファンキーにしたような「Sexual Suicide」、ヘビーな「Rebirth Of The Flesh」、後にも先にも音楽を聴いてこれほどたまげるという経験をしたことはないくらい、初めて聴いたときはとにかくぶったまげたフルバージョンの「Crystal Ball」、後にBサイド集でリリースされた荘厳な「Power Fantastic」、美しいサックスバージョンの「Crucial」、絶妙なスローテンポの86年バージョンの「We Can Funk」、後に手を加えずにリリースされて嬉しかった「Last Heart」、いくつかバージョン違いがある中でクールなギターバージョンの「Witness 4 The Prosecution」、どんな曲か形容する言葉は見つからないけれども素晴らしい「In A Large Room With No Light」などがあります。

また、他の時期にも印象的な未発表曲はたくさんあります。ぱっと思い浮かぶものを少し挙げると、アルバム「1999」のダークな成分を焙煎して抽出したような「Purple Music」、シンプルで情熱的な「Moonbeam Levels」や「Electric Intercourse」、超絶にポップなプリンスバージョンの「Neon Telephone」、アルバム「Parade」の遊園地バージョンのような「All My Dreams」、時代を挟んで、個人的にはアルバム「Graffiti Bridge」でリリースされたどの曲よりも好きな「The Grand Progression」、そして、「Emancipation」のボツ曲だけれども私が最も好きな「Goodbye」などです。


とはいえ、純粋な未発表曲を語るのは何となく憚られるので、ここでは1曲だけ「Open Book」という他のアーティストに提供した曲を取り上げます。

「Open Book」はマルティカと、この時期様々な楽曲の制作に関わったリーヴァイ・シーサー Jr. との共作ということになっており、1990年末〜1991年頭頃に作られた曲です。マルティカのアルバムには入らず、ジェヴェッタ・スティールの1993年のアルバム「Here It Is」でオフィシャルリリースされています。

この曲を取り上げたのには理由があります。オフィシャルリリースされたジェヴェッタのバージョンは殆ど印象に残らない凡庸な曲なのに、ブートレグで聴けるプリンスのデモバージョンは同じ曲とは思えないほど綺麗な曲なのです。

ジェヴェッタの同じアルバムに入っているもうひとつのプリンス提供曲「Hold Me」は素晴らしいし、セリーヌ・ディオン、ジョージ・マイケル、バーブラ・ストライサンドといった大物アーティストを含めやたらカバーされている「Calling You」もジェヴェッタのオリジナルが一番インパクトがあると言えるくらい良いのに、不思議なことに、オフィシャルリリースの「Open Book」は「なぜ?」と言いたくなるくらい印象に残りません。

とにかく、この曲はプリンスのブートレグを聴かないと良さが分かりません。

「Open Book」は女性への提供曲なだけあって、歌詞は完全に女性視点です。どんな曲かイメージできるように少し抜粋します。

U said my heart's just like an open book
あなたは私の心は開いた本のようだと言ったけれど
But there are lines U've never seen
あなたには見えない行があるの
U said that U could tell in a single look
あなたは私のことを一目で分かると言ったけれど
But U never looked in between
あなたは一度も間にあるものを見たことがないの

2 me it was 4ever, 2 U it was just a phase
私にとっては永遠でも、あなたにとってはいずれ終わること
I'll give back your name if U give back my heart
私はあなたの名前を返すわ - あなたが私の心を返してくれるなら

U said U'd take me 2 another world
あなたは私を別の世界に連れて行ってあげると言ったけれど
I said U were only posing
あなたは単にそのふりをしただけ
U'd never be able 2 read this girl
あなたは決して私を読むことはできないわ
So the open book is closing, closing, closing
だから開いた本は閉じているの