この前に未リリース曲「Be My Mirror」のブログ記事を書いてからというもの、「Be My Mirror」をよく聴いています。しかもプリンスのデモではなく、prince.org のスレッドで「骨が砕けるほど酷い」とまで形容される俳優バージョンの方です。でもこちらのバージョンはシンガーでない人でも歌えるようにアレンジされているので鼻歌にぴったりなのです。

このバージョンを聴いたことがない人のために説明すると、ポニョの主題歌みたいな感じ、と言えば「骨が砕けるほど酷い」にもかかわらず何度も聴いてしまう気持ちが想像できると思います。ポニョの主題歌とちょっと違うのは、歌が下手なのは女の子ではなく、俳優のニック・ノルティの方なところです。


「この人の声ならずっと聴いていられる」

私はスザンナ・ホフス (Susanna Hoffs) の歌声を聴くといつもこう思います。自分でも理由は分かりませんが、なぜかそういう気分になります。声を聴いただけでこのように思える人は、他にはちょっと思いつきません。

しかし、割と最近まで、私はこの人の歌を聴くことは滅多にありませんでした。というのも、私はこの人の声は好きでも、この人の歌う曲そのものには特に思い入れを抱くことができなかったのです。The Bangles として「Eternal Flame」や最後にボーカルをとる「Walk Like An Egyptian」などのヒット曲はあるし、全曲スザンナづくしのソロアルバムも出てはいるのですが、特別惹かれるような曲は見出すことができず、私はずっと歯痒く口惜しい思いをしていました。

「えっ、プリンスが書いた Manic Monday は?」と疑問に思うかもしれません。この曲に対する微妙な気持ちは後述します。

ちなみに、この長年の口惜しい問題は、2012年のソロアルバム「Someday」でついに解決しました。このアルバムは私にとっては大大大傑作です。個人的な話で恐縮ですが、娘が生まれた瞬間にかけていた CD でもあるので、そういう面でも特別なアルバムです。今はこのアルバムはずっと車の CD チェンジャーに入れたままにしています。


さて、「Manic Monday」です。プリンスが書いた曲で、1986年、The Bangles にとって初めてのシングルヒットとなった曲です。「月曜日、朝起きて仕事に行かなくちゃ」という歌で、「Manic」とは Manic Depressive (躁うつ病の) の「躁」の意味です。「Depressive」でなく「Manic」の方をチョイスした言葉の感覚や、スザンナ・ホフスの声がぴったりはまるキャッチーなメロディで、ヒットしたのも頷けます。

勿論、プリンスとスザンナ・ホフスの両方が好きな私もこれは素敵な曲だと思います。しかし、私にはどうしても引っ掛かる部分があります。それはブリッジの「All of the nights...」に続く部分です。ここの歌詞が微妙なのです。

この曲は途中までは OK です。会社勤めで月曜日の朝に出掛けるなんてしたことがないくせに、プリンスはこんな可愛い曲を書いて……とほのぼのします。ところが2番のコーラスが終わってブリッジに入ると突然ショッキングな展開になります。堂々と性的な表現が出てきて、しかも付き合っている恋人がヒモ男だという話になってしまうのです。

この部分は本人も歌いづらいようで、後にスザンナは歌詞を変えて性的な表現を避けるようになっています。下の動画では「Why did my lover have to pick last night to come around?」と歌い、2分10秒〜「Come on, honey...」と言った後は黙って微笑むだけです。やっぱりこの人は素敵です。

ちなみに、この曲はプリンス関連ユニットの Apollonia 6 によるデモバージョンがブートレグで出回っており、そちらは The Bangles のリリースバージョンよりも少し古い時代のテイストがするアレンジになっています。このデモはボーカルがイマイチという理由で一般的な評価は低いのですが、Apollonia 6 はランジェリー姿で「I'm a sex shooter, shooting love in your direction♪」と歌うグループなので、ブリッジの歌詞に違和感がなく、そこだけは安心して聴くことができます。でもまあこの曲は The Bangles に提供されて良かったと思います。

ところで、「Manic Monday」のボーカルメロディに「1999」(1982年) のメロディが使われているのはなぜだろう、と私は長年気になっていたのですが、検索したら面白い記事が見つかりました。まず、「1999」の有名なシンセのリフは、60年代にヒットした The Mamas & the Papas の「Monday, Monday」からアイデアを得ているのだそうです。そして、「1999」からシンセのリフを取り除き、ボーカルメロディの一部を使ってタイトルを似せた「Manic Monday」を書くことで、プリンスは大元の曲とリンクさせ、「三角関係のトリビュート」を表現したのだろう、ということです。Apollonia 6 のデモが古い感じの曲に聴こえるのもこのことが関係しているのかもしれません。

「Manic Monday」と「1999」は全く異なる内容の歌ですが、出だしの歌詞は少し似ています。

<Manic Monday の歌い出し>
6 o'clock already, I was just in the middle of a dream
もう6時だけれど私はまだ夢の中

<1999 の1番>
I was dreaming when I wrote this, forgive me if it goes astray
これを書いたとき僕は夢を見ていたんだ- 変な方向に行ったら許してくれ
<1999 の2番>
I was dreaming when I wrote this, so sue me if I go too fast
これを書いたとき僕は夢を見ていたんだ - 速すぎるようなら訴えてくれ

余談ですが、「1999」とくると、私は Steely Dan の「Deacon Blues」(1977年) という曲を連想します。両者に音楽的な共通点はないのですが、この曲を知っていれば絶対に心に留まるような印象的な歌詞があり、その表現が似ているのです。この連想をするのは私だけではないようで、検索してみたら同じような指摘がちらほら見つかります。

<Steely Dan - Deacon Blues>
I cried when I wrote this song, sue me if I play too long
この歌を書いたとき俺は泣いてしまったんだ - 演奏が長すぎたら訴えてくれ


6 o'clock already, I was just in the middle of a dream
もう6時だけれど私はまだ夢の中
I was kissing Valentino by a crystal blue Italian stream
青く透き通るイタリアの小川のほとりでヴァレンティノにキスをしていたわ
But I can't be late cuz then I guess I just won't get paid
だけど遅刻はできないの - だってお給料をもらえなくなっちゃうから
These are the days when U wish your bed was already made
自分でしなくてもベッドの用意ができていたらと思うこの頃だわ

CHORUS:
It's just another manic Monday
また躁病みたいな月曜日
I wish it was Sunday
日曜日だったら良いのに
Cuz that's my fun day
だってそれが私の好きな日
My "I don't have 2 run" day
私が走らなくても良い日
It's just another manic Monday
また躁病みたいな月曜日

Have 2 catch an early train, got 2 be 2 work by 9
9時の仕事に間に合うように電車に乗らなくちゃ
If I had an airplane, I still couldn't make it on time
たとえ飛行機を持ってたって時間に間に合わないわ
Cuz it takes me so long just 2 figure out what I'm gonna wear
だって何を着て行くかを決めるのに時間がかかってしまうんだもの
Blame it on the train, but the boss is already there
電車を責めても仕方がないわ - ボスはもう職場で待っている

(CHORUS)

All of the nights, why did my lover have 2 pick last night 2 get down?
よりによって、どうして私の恋人ったら昨夜にしようとしたのかしら
Doesn't it matter that I have 2 feed the both of us? Employment's down
私が2人分稼がなければいけないって分かっているの?雇用も下がっているのに
But when he tells me in his bedroom voice
だけど彼はベッドルーム用の声で言うの
"Come on, honey, let's go make some noise"
「おいでハニー、ギシギシ音を立てようよ」
Time, it goes so fast (when U're having fun)
時が過ぎるのって速いものね (楽しいことをしているとね)

It's just another manic Monday
また躁病みたいな月曜日
I wish it was Sunday
日曜日だったら良いのに
Cuz that's my fun day
だってそれが私の好きな日
It's just another manic Monday
また躁病みたいな月曜日