1985年、プリンスは We Are The World のレコーディングに参加しなかったことでメディアから一斉の非難を受けることになりました。プリンスはこれに対して表立った行動はせず、代わりに強いメッセージを持った「Hello」という曲をシングル「Pop Life」の B 面で発表しました。

この曲には2つのバージョンが存在し、「The B-Sides」収録の3分23秒のバージョンの他に、6分16秒のバージョンがあります。3分近く延びている部分にあまりキャッチーな展開はありません。個人的には、この部分は少し「Computer Blue」の未発表部分に似た雰囲気を感じます。6分16秒のエクステンデドバージョンからキャッチーな部分を取り出したのが「The B-Sides」のエディットバージョンという感じです。いかにもプリンスの B 面らしく、それ単独で固有の存在感を持っています。

歌詞を抜粋してみていきます。

I tried 2 tell them that I didn't want 2 sing
僕は歌いたくないと伝えたんだ
But I'd gladly write a song instead
その代わりに曲なら喜んで提供すると
They said OK and everything was cool
彼らは了承し、それで全て問題ないはずだった

繰り返しになりますが、プリンスは「We Are The World」のレコーディングに参加しない代わりに、自身で作った歌「4 The Tears In Your Eyes」を提供しました。

When this man tries 2 get in the car
その時男が車に乗り込んできた
......
U call 'em bodyguards but I call 'em my friends
君がボディガードと呼ぶ人を、僕は友達と呼んでいるんだ

プリンスがレコーディングに参加せず、外出先でボディガードがパパラッチと警察沙汰を起こしたことはマスコミの格好のニュースとなり、Saturday Night Live でコメディのネタにもなりました。しかしそれは、プリンスが乗った車にパパラッチが無断で侵入しようとしたことが発端でした。

I eat what I want, whole wheat toast
僕は食べたいものを食べる - ホールグレインのトースト
(U can eat what U want, anything is cool in moderation)
(君も好きなものを食べなよ - 適度にやる分には何だって良いさ)
And I'm happy, and that's 4 sure
僕はこれでハッピーなんだ、もちろんさ

アメリカ音楽界のスター達が一同に会した「We Are The World」のレコーディングでは、シャンペンやキャビアが振る舞われたのだそうです。飢餓救済のイベントの裏で高級な食べ物を口にするというのも、「らしい」と言ってしまえばそれだけの話なのかもしれませんが。一方、プリンス達は、ツアーの地で「4 The Tears In Your Eyes」のレコーディングを終えた後、別のパーティのケータリングから残り物をもらい、時間が経ったサンドイッチやぬるいソーダで食事をまかなったことが Alan Light の本に書かれています。

そういえば、「We Are The World」のレコーディングは、「入口でお荷物をお預けください」といった表現をもじった "Check Your Ego At The Door" (入口でエゴをお預けください) のモットーの元で行われました。しかし、レコーディング風景のビデオを見ると…この人を例に挙げるのもなんですが、例えばマイケル・ジャクソンの金ピカ模様をあしらった派手な衣装を見ると、一体エゴって何だろう?と思います。別にそれが悪いということではないんですけれども。

We're against hungry children, our record stands tall
僕らは子供達の飢餓に立ち向かう - 僕らのレコードはそれを毅然と示す
But there's just as much hunger here at home
しかしここにも同じだけの飢餓があるんだ

プリンスはこの件で一斉の非難を浴びましたが、実際には、プリンスは当時、USA For Africa だけでなく、教育者マーヴァ・コリンズへの支援やフード・ドライブ、特別支援が必要な子供達のためのフリーコンサートなど、様々な国内の慈善活動を行っていました。

U call me a fraud, an uncaring wretch
君は僕を詐欺師で思いやりのない人でなしだと言う
But I'm an artist and my only aim is 2 please
だけど僕はアーティストだから僕の唯一の目的は人を喜ばせることなんだ

プリンスがレコーディングに参加しなかった理由については、色々な推測を混ぜて語ることもできるのかもしれません。ただ、1985年末に MTV に語ったプリンス本人の謙虚な説明や、もうちょっと本音を隠さずに表現しているウェンディ・メルヴォワンの弁は、とてもしっくり来るものだと思います。これらはについては、Alan Light の本や、彼がネットに寄せた記事で言及されています。

<MTV のインタビュー>
"We had talked to the people that were doing USA for Africa, and they said it was cool that I gave them a song for the album," he said. "It was the best thing for both of us, I think. I'm strongest in a situation where I'm surrounded by people I know. So it’s better that I did the music with my friends than going down and participating there. I probably would have just clammed up with so many great people in a room. I'm an admirer of all of the people who participated in that particular outing, and I don’t want there to be any hard feelings... The main thing [the song 'Hello'] says is that we’re against hungry children, and our record stands tall."

僕らは USA for Africa のプロジェクトと話をして、僕がアルバムのために曲を提供することで了承をもらったんだ。それがお互いにとってベストだったと思う。僕は自分が知っている人に囲まれて仕事をする方が得意なんだ。だから友人達と音楽を作った方が良い結果を出せるんだ。あの録音に参加するよりもね。僕はたとえ参加していたとしても、たぶん多くの偉大な人達の中で引っ込んで口を開けなかったと思う。僕はあそこに参加した人達を熱烈に尊敬しているから、しこりが残ってほしくはない。「Hello」で言いたいことは、僕らは飢餓に苦しく子供達を救おうとしていて、あのレコードがその証左だということなんだ。

<ウェンディの回想>
"I wasn't allowed to say the real reason...... I knew there's no way I can say, 'Because he thinks he's a badass and he wanted to look cool, and he felt like the song for "We Are the World" was horrible and he didn't want to be around 'all those muthafxxxxs.'"

"私は本当の理由を言うことは許されていなかったの…(略)…「なぜならプリンスはクールなワルを気取りたかったし、"We Are the World" は酷い曲だと感じていたし、あんな奴らと同じ場にいたくなかったから」だなんて言えるわけがないもの。

表現は180度違いますが (笑)、私はどちらもその通りだと思います。私としては、プリンスが「We Are The World」に参加せず別行動を取り、その豪華な世界とは全く違う「4 The Tears In Your Eyes」という厳粛な曲を書いてくれたことを嬉しく思います。

Isn't life cruel enough without cruel words, cruel words?
人生は十分に残酷だろう - 残酷な言葉がなくてさえも
U see, words are like shoes
言葉は靴みたいなものだ
They're just something 2 stand on
それを助けにして立ち上がるためのもの
I wish U could be in my shoes
君も僕の靴を履いてみることができたらと思う
But they're probably so high, U'd fall off and die
でも君には高すぎて、君は転げ落ちて死んでしまうだろう

英語では、人の立場や境遇を訴える時によく「靴」を用いた比喩表現を使います。他の人であれば余計なことを考える必要のない歌詞なのですが、プリンスの場合、靴といったらハイヒールなので、比喩としてだけではなく本当に現実に大変な所がまた何と言ったら良いのか…


以下は Alan Light がネットに寄せた記事のリンクです。記事の内容は、主に自著「Let' Go Crazy」の We Are The World に関する記述の引用です (この本は来年1月に日本語訳が出版される予定です)。

記事の副題は「成功の頂点で、プリンスは大胆な決断をし長年に渡り名声を傷つけることになった」というものです。この記事を読み、プリンスは真っ当な評価を得るまでに一体どれだけ長い年月を経たのだろうと思うと、ただ悲しくなります。

プリンスは 2004年に「Real Music by Real Musicians (本物のミュージシャン達による本物の音楽)」の Musicology ツアーを行い、ミュージシャンとして世界一の収益を記録し、2007年の第41回スーパーボウルでハーフタイムショウ史上最高のひとつに数えられるパフォーマンスを行い、2008年のコーチェラ・フェスティバルでは500万ドルもの依頼を受けヘッドライナーとしてサプライズ出演をし、2010年の BET Lifetime Achievement Award でトリビュートを受け…色々抜けていると思いますが、それにしても、どれもこれも全ての出来事が日本にいる身としては蚊帳の外だったというのも残念に思います。


また、前述の1985年末の MTV インタビューでは、プリンスは「I don't ask for much, I just say "thank you"」という印象深い言葉を残しています。ちなみに、これはプリンスが TV では初めて2つ以上の文を連続して喋ったインタビューなのだそうです。

I believe in God. There is only one God. And I believe in the afterworld. And I just want people to know that I'm very sincere in my beliefs. And I pray every night and I don't ask for much, I just say "thank you".

僕は神を信じている。神は唯一の存在だ。そして僕は死後の世界を信じている。僕はとても誠実な信仰心を持っていることを皆に分かってほしい。そして僕は毎晩祈りを捧げている。多くを望んだりはせずに、ただ「ありがとう」と言うんだ。


Hello (Hello) Hello (Hello)
ハロー、ハロー

I tried 2 tell them that I didn't want 2 sing
僕は歌いたくないと伝えたんだ
But I'd gladly write a song instead
その代わりに曲なら喜んで提供すると
They said OK and everything was cool
彼らは了承し、それで全て問題ないはずだった
Till a camera tried 2 get in my bed (Hello)
カメラが僕のベッドに侵入しようとするまでは (ハロー)
My bed (Hello) (Hello)
僕のベッドに (ハロー) (ハロー)

I was sittin' pretty with a beautiful friend ("Oh darling")
僕は美しい友人と普通に座っていた ("オー、ダーリン")
When this man tries 2 get in the car
その時男が車に乗り込んできた
("Hey Prince, come on, give us a smile, eh?")
("ほらプリンス、こっち向いて笑ってくれる?")
No introduction, "How've U been?"
名も名乗らず - "調子はどう?"
Just - "Up yours! Smile, that's right, U're a star!"
"何だよ、笑ってよ - ほらほら、あんたスターなんだから!"
(Star)
(スター)

U call 'em bodyguards but I call 'em my friends
君がボディガードと呼ぶ人を、僕は友達と呼んでいるんだ
I guess I'm used 2 havin' 'em around
一緒に居るのは僕にとって普通のことなんだ
And cameras by nature like rewards
カメラというものは報酬を求めるものだから
That's the trouble I get when I'm Uptown
僕がアップタウンにいるとトラブルを呼ぶ
I'm not afraid 2 die cuz I know there's a better place 2 go
僕は死ぬことは恐れない - より良い場所の存在を知っているから
(Don't be afraid cuz there's a better place 2 go)
(恐れないで - より良い場所が存在するのだから)
I eat what I want, whole wheat toast
僕は食べたいものを食べる - ホールグレインのトースト
(U can eat what U want, anything is cool in moderation)
(君も好きなものを食べなよ - 適度にやる分には何だってクールさ)
And I'm happy, and that's 4 sure
僕はこれでハッピーなんだ、もちろんさ

We're against hungry children, our record stands tall
僕らは子供達の飢餓に立ち向かう - 僕らのレコードはそれを毅然と示す
But there's just as much hunger here at home
しかしここにも同じだけの飢餓があるんだ
We'll do what we can if y'all try 2 understand
君たちが理解しようと努力してくれるならば - 僕らはできることをする
A flower that has water will grow
水を与えれば花は育つ
And the child misunderstood will go
そして子供は誤解を受ける
Hello!
ハロー!

Everybody
Gotta he..., gotta he... he... hello!
ハ…ハ…ハロー!

I haven't lost my desire
僕はまだ自分の望みを失っていない
I wouldn't beg U
君に請うつもりはない
Instead of playin' deduction of what 2 do
彼らはやるべきことに熟慮を巡らせる代わりに
They called me rude often
僕を無礼者と呼んだ
When I called their hand
僕が彼らの手札をコールした時
They judged me and told me that we're through
彼らは一方的にもうおしまいだよと言った
"Why can't U be like the others?"
"どうして皆と同じように振舞えないんだい?"
I cried out over and again
僕は繰り返して叫んだ
"Why can't U learn 2 play by the rules?"
"ならどうしてルール通りに進めてくれないの?"
But maybe at last it's the end
だけど結局それも多分終わりだ
Because I am not like others
なぜなら僕は皆とは違うから
I'm unique in the respect I'm not U
君ではないという観点において僕は独立しているから
I know in my heart I would try 2 love U
僕は心の中では君を愛したいと思っている
I wouldn't try 2 hurt U despite all the ways U try 2 hurt me
君が僕を傷付けようとしても、僕は君を傷付けようとは思わない
U call me a fraud, an uncaring wretch
君は僕を詐欺師で思いやりのない人でなしだと言う
But I'm an artist and my only aim is 2 please
だけど僕はアーティストだから僕の唯一の目的は人を喜ばせることなんだ
Between U and yours, myself and mine
君の君のもの、僕と僕のものとの間
Isn't life cruel enough without cruel words, cruel words?
人生は十分に残酷だろう - 残酷な言葉がなくてさえも
U see, words are like shoes
言葉は靴みたいなものだ
They're just something 2 stand on
それを助けにして立ち上がるためのもの
I wish U could be in my shoes
君も僕の靴を履いてみることができたらと思う
But they're probably so high, U'd fall off and die
でも君には高すぎて、君は転げ落ちて死んでしまうだろう
4 U words are definitely not shoes
君にとって言葉はきっと靴ではなく
They're weapons and tools of destruction
君にとって言葉は武器であり破壊の道具
And your time is boring unless U're putting something down
君は誰かを非難していないと退屈してしまう
What would life be if we believed what we read
読んだものをそのまま信じてしまうのなら、人生はどうなるだろう?
And a smile is just hiding a frown?
そして笑顔がしかめっ面を隠すものだとしたら?
Come now, isn't life a little better with a pair of good shoes?
ほら、人生は良い靴を得ればもっと良いものにできると思わない?