「Purple Rain」のことを書こうと思って久々にアルバムを聴きました。このアルバムを聴いて改めて思うのは、ややもすると気付かず素通りしてしまいそうなことが色々と散りばめられていることです。

  • 教会のオルガンのような音で始まる「Let's Go Crazy」は、本当は神と悪魔についての歌で、ラジオで流れても大丈夫なように歌詞をあのようにした、と後にプリンスが語っていること。そしてエレベーターのこと。
  • 「Darling Nikki」の終わりに流れる、逆回転させると「僕は大丈夫だよ。もうすぐ主 (Lord) が来られるから。」となる奇妙なメッセージ[*1]。
  • 「I Would Die 4 U」などで、携帯電話やテキストメッセージがなかった時代から、「You = U」や「For = 4」「To = 2」といったタイピングを短縮するスペルを使っていたこと。

そんな中で、ファンでなかったらスルーしてしまう曲をランク付けすると、1位は「Computer Blue」になるのではないかと個人的には思います。そこで「Purple Rain」の前にこの曲について書くことにします。ついでに、コンピュータ繋がりで、歌詞が印象的な「My Computer」という曲を一部和訳します。

Computer Blue

「Computer Blue」は、正規にリリースされたバージョンは正直あまり強力な曲ではありません。実際、この曲は映画のストーリーの中でも受けない曲として扱われます。卑猥なパフォーマンスも手伝ってプリンスが徐々に客に受けなくなり、ライブハウスでの立場が危うくなっていくところを描写するのに使われます。

ただし、途中で挿入されるロックなギターソロは別です。ストーリー上、このギターソロはプリンスが父から受け継いだものとして描かれます。元は悲しい旋律を持つ綺麗なピアノ曲で、元ミュージシャンの父がこれを弾いているのを見て、プリンスは驚き、心を打たれます[*2]。

キッド (プリンス): これは父さんの曲かい?
キッドの父: もちろん俺のだ。他に誰がいるっていうんだ?

しかし、ギターソロを除くとこの曲はちょっとダサいです。ところが、この曲の肝は、まさにそのダサさにあるのです。

当時は1984年なので、この曲でいうコンピュータとはパソコンではなく、SF 映画で出てくるような人型ロボットのことです。また、冒頭のウェンディとリサのやり取りから分かるように、バンド内でウェンディとリサが同性愛の恋愛関係にあることも関係しています。というかそれがテーマです。

そして、「Computer Blue」とは、この曲に登場する「"愛 (Love)" と一緒に、似たような語感で意味が大きく異なる "欲望 (Lust)" がプログラムされたため、愛が分からなくなってしまった哀れなロボット」です。これを説明する歌詞もあるのですが、キッドとアポロニアの出会いを描く「Take Me With U」をアルバムを入れるため、リリースバージョンではその部分はカットされています。

また、本来は長大な組曲のような構成になっているこの曲には、未編集バージョンのひとつに、ファンの間で「Hallway Speech (廊下のスピーチ)」バージョン[*3]と呼ばれるものがあります。

Hallway Speech では、男が女を家に招き、寝室に連れて行く場面が描写されます。 その男の家は、寝室に辿り着くまでに長い廊下があり、それぞれに感情が存在する不思議な作りをしています。男は廊下に名前を付けながら寝室へと進みます。 「欲望 (Lust)」「恐怖 (Fear)」「不安 (Insecurity)」、殆どの廊下に名前を付け終わりますが、ふいに男は立ち止まります。その廊下を「憎しみ (Hate)」と名付けると、女は去ってしまいます。一人になってしまった孤独な男はもうひとつの廊下を「痛み (Pain)」と名付けます。

どうでしょうかこの B 級感。愛と欲望がプログラムされた SF ロボットといい、廊下のスピーチといい、なかなかのセンスです。Purple Rain 自体、商業的には成功したものの、かなりの B 級映画です。つまり、「Computer Blue」とは B 級の権化のような曲なのです。それを感じ取るのがこの曲の正しい聴き方なのだと私は思っています。

My Computer

これは1年前にケイト・ブッシュの YouTube チャンネルにアップロードされたものです。アップロードの説明が面白くて、曰く、Kate on backing vocals with a certain artist who if named will remove this from you tube (ケイトがバックボーカルに参加した、名前を出すと YouTube から削除されてしまう、あるアーティストの曲)、なのだそうです。言うまでもなく、これはプリンスの曲で、1996年のアルバム「Emancipation」に収められています。

1996年に発表されたこの曲の題材は、SF ロボットではなくパソコン通信/インターネットです。グッと今の時代に近付きました。この曲では、子供が1人いる、既婚の男性が歌われます。以下は2番の歌詞です。

I called an old friend of mine just the other day
この前、古い友人に電話をしたんだ
No congratulations, no respect paid
喜びの言葉も、敬意もなく
All she did was wonder if the rumors were true
彼女が聞いてきたのは、ただ噂が本当かということだけ
I said - "No, I ain't dead yet, but uh.. what about U?"
「違うよ、僕は死んでないよ! あの、キミは元気だった?」

I can count my friends with a peace sign: 1, 2
僕は友人をピースサインで数えられる: 1、2
It was Sunday night, instead of doing what I usually do I..
日曜の夜、いつもすることの替わりに…
I scan my computer looking 4 a site
僕はパソコンでサイトを探す
Somebody 2 talk 2, funny and bright
誰か面白くて頭が良い人と話がしたくて
I scan my computer looking 4 a site
僕はパソコンでサイトを探す
Make believe it's a better world, a better life
良い世の中、良い人生の振りをして

シンボルマークへの改名騒動を連想させる電話のやり取り、女性の友人とは誰をイメージしているのか、そして歌詞の抜粋部分にはありませんが子供のことなど、単純な歌詞の意味だけでなく、ファンからすると当時のプリンスのことを色々と考えさせられます。

この曲には、他にも「I don't wanna see a doctor unless he's lonely too (医者も同じように寂しい思いをしていないのであれば、病院には行きたくない)」といった、いかにもプリンスっぽいフレーズが出てきます。

「Computer Blue」や「My Computer」はどちらかというとマイナーな曲で、私にとってもプリンスで真っ先に挙げる曲ではありません。ただ、こうして見ると、どちらも結構心に残る曲だと思います。


  1. Darling Nikki の逆回転メッセージは YouTube でも見つかります。
    Darling Nikki : Forwards...then Backwards
    https://www.youtube.com/watch?v=Gnm-u4Xq9ag
  2. YouTube にもこの「Father's Song」のシーンがあります。
    Prince - Father's Song
    https://www.youtube.com/watch?v=M6mgKXfgxQI
  3. Hallway Speech の全歌詞は prince.org フォーラムを検索すると見つかります。
    余談ですが、Hallway Speech バージョンには、途中で「Na Na Na Na, Na, Wave your hands in the air!」という格好良い掛け声が入ります。このバージョンは正規リリースはされていませんが、岡村靖幸の「Punch↑」という曲を聴くと、3:12頃の「Ok, everybody, say, Na Na Na」に続いて繰り返される掛け声がまんま「Na Na Na Na, Na」なので、それでイメージできます。ちなみに、4:08からの結婚と子供についての語りは「Sign O' The Times」ですね。
    https://www.youtube.com/watch?v=T2ZIRQ8bWRQ&start=190