前回取り上げた「Comeback」(1998年) は、この世を去った人が再び戻ってくることを歌った曲でした。私には、この曲を思うときに一緒に思い浮かべる曲が2つあります。ひとつはアルバム「Musicology」(2004年) の「Reflection」で、もうひとつはアルバム「The Gold Experience」(1995年) の「Dolphin」です。
曲について何か書く前に、アルバム「The Gold Experience」について少し触れておきます。
「The Gold Experience」は、一般的にはまあまあ名盤という評価を得ているアルバムです。また、タイトルが漫画のジョジョで使われたり、当時人気だった格闘技の K1 のテーマソングになぜか「Endorphinmachine」と「Gold」が使われたり、「We March」で女性が「ウォーゥー」と歌う部分がテレビでよく流れたりと、日本で普通の人にも認知される機会があった最後のプリンスと言えるかもしれません。
しかし残念なことに、私はどうしてもこのアルバムは好きになれません。私にとって、このアルバムを一言で表すとしたら、それは「オーバープロダクション/過剰演出」です。特に「Endorphinmachine」と「The Most Beautiful Girl In The World」のアルバムバージョンは、オーバープロデュースにより台無しにされてしまっており、聴くに堪えません。この2曲は本当はとても良い曲なだけに、愛憎が入り交じって「I hate U, because I love U」と言いたくなります。ちなみに、作曲時期が一部被っているアルバム「Come」(1994年) にもこれと似たようなことが言えて、私は「Come」や「Space」も未発表バージョンの方が遥かに好きです。
あと、割とどうでもいいことですが、C.J. という地元の女性ゴシップコラムニストに宛てた曲「Billy Jack Bitch」は、何となく「おらは死んじまっただー」の歌を思い出してしまいます。といっても誰も類似性を指摘しているのを聞いたことがないので、このように感じるのは私だけかもしれません。
「The Gold Experience」のオーバープロデュース具合だけでなく、「Love Symbol Album」(1992年) のエジプト風味 (これは好きですが) や、3枚組の「Emancipation」(1996年) で各 CD の再生時間をきっかり60分に統一するという妙なこだわりなど、マイテと恋をしていた時期のプリンスは、舞い上がるあまり何か余計なことをしないと気が済まない状態だったのかな、という気がします。
でも、そんなアルバム「The Gold Experience」にも、文句無しでお気に入りの曲が2つあります。そのひとつは「I Hate U」です。「I Hate U」は、後半「International Lover」のように一人芝居になり、コミカルながらも情熱的で、最後は狂おしいギタープレイで終わります。歌、歌詞、曲の展開の全てが素晴らしく、プリンスの真骨頂ともいえる傑作だと思います。
そしてもうひとつのお気に入りの曲が、記事タイトルの「Dolphin」です。
「Dolphin」は聴いていて楽しい曲です。ところどころサウンドに水に潜ったようなエフェクトが掛かり、プリンスはコーラスで次のように歌います。
If I came back as a dolphin / Would U listen 2 me then?
もし僕がイルカになって戻ってきたら - そうしたら話を聴いてくれる?
Would U let me be your friend? / Would U let me in?
君の友達にしてくれる? 仲間に入れてくれる?
後に改宗したエホバの証人は輪廻転生を否定する宗教らしいので、比喩的ではあれ、このように生れ変わりが歌われるという点で、プリンスには珍しいタイプの曲かもしれません。
とにかく、この純真な歌詞のために、このアルバムに特徴的なおもちゃの音楽隊のようなダサいサウンドも、あまりにストレートなメロディに恥ずかしくなるようなギターソロも、全てが美しく響き心を打ちます。「Alphabet St.」(1988年) がプリンス版セサミストリートならば、「Dolphin」はまるでプリンス版イソップ寓話のようです。
ちなみに、この曲はファンタジー的で何となく子供っぽい愛らしさを感じますが、実はレコード会社への批判がこめられた曲です。コーラスの歌詞の純真さに感動しつつ全体に目を向けると、賑やかで楽しいサウンドとは裏腹に、心をえぐられるような言葉が並んでいてちょっとびっくりします。
また、この曲にはビデオもあります。楽器を詰め込んだベッドルームにバンドが集まり、バックでマイテが天使の格好で踊るというカオスな内容です。この時期なのでプリンスは頬に「SLAVE (奴隷)」と描いています。
How beautiful do the words have 2 be / Before they conquer every heart?
全ての心を感服させるためには、言葉はどれだけ美しくなければならないのだろう?
How will U know if I'm even in the right key / If U make me stop before I start?
僕が歌うのを君が阻むならば、僕が正しく歌えるかなんてどうして君に知り得るだろう?
CHORUS:
If I came back as a dolphin / Would U listen 2 me then?
もし僕がイルカになって戻ってきたら - そうしたら話を聴いてくれる?
Would U let me be your friend? / Would U let me in?
君の友達にしてくれる? 仲間に入れてくれる?
U can cut off all my fins / But 2 your ways I will not bend
ひれを全て切り落とされても僕は君のやり方には折れない
I'll die before I let U tell me how 2 swim
君が泳ぎを教えようとする前に僕は死んでしまうだろう
And I'll come back again as a dolphin
でも僕はまた戻ってくる - イルカになって
Why does my brother have 2 go hungry / When U told him there was food 4 all?
どうして僕の兄弟はお腹を空かせてしまっているのか - 食べ物なら皆の分あると君は言ったのに
This is the man that stands next 2 the man / That stands 2 catch U when U fall
これが倒れた人を支えるために隣に立つ者がすることなんだね
[CHORUS]
If I'm under water, will U find me? / Will U shine a light and try 2 guide me?
僕が水の中に潜ったら君は見つけてくれる? 光を照らして僕を導いてくれる?
It's happened before, I've knocked on your door / But U wouldn't let me in
それは以前起きたこと - 僕はドアをたたき - 君は入れてくれなかった
How beautiful do the words have 2 be / Before they conquer every heart?
全ての心を感服させるためには、言葉はどれだけ美しくなければならないのだろう?
[CHORUS]
コメント
コメント一覧 (3)
このアルバムは当方もリアルタイム聞いていたので非常に思い入れがあります。I hate uにdolphin 確かに素晴らしいですよね。 goldも最高ですが。
なぜか私がこのアルバムで1番好きなのはshyなんです。当時から今まで変わらず、、、でも他のプリンスファンの方のサイトで評価を見ると、皆さん印象が薄いようです。。。
最初の1分くらいまでが滅茶苦茶カッコいいのに、以降はカントリーミュージック?でもないですけどハートウォーミングな音楽になるし。あと、エンディングが始めからは想像ができないほど可愛い終わり方なので、改めて聴いたら笑ってしまいました。
それで、歌詞がギャング抗争みたいなので、少女が報復で人を殺め、後悔も悲しみも感じない、だけど私は shy ってなって。それなのにこの温かい音楽?って思ったら後半でブラフとかフィクションという言葉が出てきて結局どういう話なのかよくわからないという。
後、それと今思ったんですけどこの曲ドラムないですよね。変わってます。改めて聴くとかなり良い曲ですね。
確かにドラムがないですね、、初めて気付きました。あとはあの間奏とラストのダウンリフが印象深いです。
私もギターをたしなむのでこの曲最近弾いてみたんですけど、歌い始めからびっくりしましたよ。え、このコードでこう歌うんだ? って、、
やはりセンスが違いすぎるというか、、なんていうのもおこがましいのは承知です。(もちろん挫折しました)