胸は、私にとって、スムーズにトレーニングできるようになるまでに最も苦労した部位です。去年、このことに関連させて胸のトレーニングについて少し書こうとしたのですが、グダグダになって文章を上手くまとめられず、結局、対象を背中に変更して背中のトレーニングの基本という記事を書きました。

最近ちょっとやる気になって前座のような記事を書いたので、胸のトレーニングの基本についてもまとめてみます。

前置き - 胸のトレーニングの仲間外れ

ひとくちに「胸のトレーニングの基本」と言っても、その言葉の持つイメージは人によってかなり異なるものです。そのため、この記事では、イメージをひとつにして認識を合わせるところから説明します。

まず、次の問題を考えてみてください。

(問題) 以下の4つの胸のトレーニング種目に仲間外れがいます。それはどれですか?

  • 普通のバーベルベンチプレス
  • ダンベルベンチプレス
  • マシンチェストプレス
  • ダンベルフライ

ヒントを出します。マシンフライ、ケーブルクロス・・・と種目を増やしても答えは変わりません。

引っ張ってもしょうがないので解答します。仲間外れは普通のバーベルベンチプレスです。この種目が仲間外れになる理由は、他とは異なり胸のトレーニングの基本から逸脱した種目だからです。普通のバーベルベンチプレスでは、バーを挙上することが最も優先され、自然に効率良くバーを挙上するための動作が第一に求められるので、他の種目とは異なる軌道でバーを動かすことになります。例えば、普通のバーベルベンチプレスでは、胸の下部にバーを降ろして胸の上部に向かって挙上をするとき、横から見たバーの軌道はいわゆる「J カーブ」を描きます。これに対して、胸のトレーニングの基本に従ってプレスをすると、横から見たバーの軌道は直線的になります。記事を読み進めるにあたって、まずは普通のバーベルベンチプレスが特殊な例外種目であるという点について認識を合わせてもらいたいと思います。

また、普通のバーベルベンチプレスが他の種目と異なる点として、肩甲骨を寄せてブリッジを作る、レッグドライブを使う、といった周辺パーツの動作も思い浮かんだかもしれません。これらはベンチプレスの基本ではあるかもしれませんが、胸のトレーニングの基本動作ではないため、これらについてもここでは話題にしません。

誤解を防ぐために断っておくと、これは普通のバーベルベンチプレスを胸のメイン種目にしたらダメだと言っているのではありません。普通のバーベルベンチプレスは大胸筋が主動筋であり、良い胸のトレーニング種目です。ただし、これをメインにする場合は少し注意が必要で、ベンチプレスから他の種目に移行するときに意識を切り替える必要があります。 もし意識の切り替えをせず、バーベルベンチプレスの呪縛に囚われたまま他の種目も同じように動作してしまうと上手くいきません。そうして「やっぱり胸はベンチプレスじゃないとダメだ」とますます勘違いが深まる悪循環に陥ってしまいます。

話を進めるうえでの前提なのでしつこく繰り返しますが、普通のバーベルベンチプレスは胸のトレーニングにおいては例外種目であり、その基本テクニックを他の種目にそのまま適用することはできません。なぜならば、それはバーベルベンチプレスの基本であっても胸のトレーニングの基本ではないからです。胸のトレーニングの基本とは、全ての胸の種目に適用可能なものです。もちろんバーベルベンチプレスにも適用可能であり、後述のデモで出てくるバーベルベンチプレスがそれにあたります。これは知らない人にとっては表面的には普通のバーベルベンチプレスと同じに見えるかもしれませんが、本質的に異なる種目です。

これで前置きは終わりです。ここから先は普通のバーベルベンチプレスの話は出てこないので、「胸のトレーニングの基本」から真っ先にバーベルベンチプレスを思い浮かべた人は、いったん頭を空っぽにしてください。

それでは本題にいきます。

胸のトレーニングの基本

胸のトレーニングでウエイトを動かすのは大胸筋を鍛えるためです。つまり、大胸筋を鍛えるための動作が胸のトレーニングの基本動作となります。

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前記事の繰り返しになりますが、上は Wikipedia の大胸筋の図です。

大胸筋の起始 (Origin、筋肉を動かすときにより固定度が高い方の付着部) は鎖骨から肋軟骨 (ろくなんこつ) など体の中心部に広がっており、停止 (Insertion、筋肉を動かすときに稼働させる方の付着部) は上腕骨の上部です。

胸のトレーニングの基本動作は、上図のように横〜斜めに走る大胸筋の筋繊維を、負荷に抵抗にさせながら収縮・伸展させることです。

背中と比べると胸はとても単純ですよね。胸のトレーニングが難しく感じられるという場合、個人的には、それはバーベルベンチプレスという単純ではない種目が胸の代表種目になっているせいであることがほとんどだと思っています。バーベルベンチプレスを例外にしてしまえば、胸のトレーニングはずいぶんと単純なものになります。

Milos Sarcev による胸のトレーニングの解説

基本に対するイメージができたら今度は実践です。お手本として、Milos Sarcev の解説を参考にします。これは2009年に bodybuilding.com で公開されていた The Fit Show というシリーズの胸のエピソードです。デモ役のボディビルダーは Marcelo Caraveo という人です。

冒頭で Milos は昔ユーゴスラビアのジムで目にした印象深い光景を語ります。ジムでは2人の男がベンチプレスをしており、ひとりはプロビルダーレベルの凄まじい胸をしていながら、わずか 80kg でベンチをしていました。他方でもうひとりは 200kg 以上を扱っていたものの全体で見ると胸の発達は目を引くものではなく、その対比に驚いたという話です。Milos は、この話を引き合いにして、重量を闇雲に追い求めるのではなく、胸を刺激することの大切さを語ります。

続いて、Milos は基礎となる姿勢を説明し、各種目のデモに移ります。胸の基本テクニックを掴むうえで特に役立つと思うところを抜き出しつつ、デモを見ていきます。

● 基礎となる姿勢 (02:47-)

milos-chest-1 milos-chest-2

胸のトレーニングをするときの姿勢で、負荷を胸で受けるための重要なポイントは以下の2点です。

Expand the ribcage (胸郭を広げる、胸を突き出す)
胸を Primary Mover (主動筋) として働かせるために胸郭を広げた姿勢をとります。これが不十分だと、三角筋前部に主導権を取られてしまいます。
Keep the elbows out (肘を外側に開く)
ウエイトの負荷を適切に胸に伝達させるために肘を開きます。不必要に肘を内側に入れると、負荷が三頭筋に移行してしまいます。

これは基礎となる姿勢なので、疲れてきたからといって途中で崩れることのないようにします。もちろんこのデモでもこの姿勢は守られています。最初は難しく感じるかもしれませんが、胸を鍛えるという意思を持っていれば逆に姿勢を崩すことに抵抗感を覚えるはずなので、自然にできるようになります。

● フラットバーベルベンチプレス (03:52-)

胸郭を広げ肘を開く基礎の姿勢を作ってバーベルを挙上します。バーベルはただ挙げるのではなく、胸の筋肉を収縮させるようにして挙げます。

  • Use the contraction on the way up
    (収縮を使って挙上する)
  • Squeeze the muscle on the way up
    (筋肉を絞って挙上する)

Squeeze というのは絞るということですが、バーベルを持ち上げるために筋肉をギューッと収縮させるように動作するということです。これは特殊な動作ではありません。つまるところ筋肉は収縮することで機能するのですから、「胸のトレーニングなんだから胸を使え」ということです。

● インクラインバーベルベンチプレス (05:30-)

胸のトレーニングをしている意識を高めるために、やり方を少し工夫して、ボトムで止めを入れています。つまり、バーをコントロールしながら降ろし、ボトムで収縮を作って、胸を絞りながらバーを挙げます。

これのどの辺が工夫か分かりますか?ともすると、レップのネガティブ部分はただバーを降ろしてボトムでは休むだけなりがちですよね。そうではなく、Milos はボトムで胸を収縮させろと言っているのです。ボトムでストレッチはさせますが、同時に胸を最大限に収縮 (エキセントリック収縮) させます。

When the barbell is all the way down, don't relax the chest, instead, expand it as hard as you can, contract it as hard as you can
(バーベルを下まで降ろしたとき、胸はリラックスさせず、できるだけ広げ、できるだけ収縮させる)

そしてポジティブはフラットベンチプレスと同じです。

Don't power it up, squeeze it up
(パワーで挙げるな、絞って挙げろ)

● フラットダンベルフライ (08:20-)

フラットとインクラインバーベルベンチで十分にコツを掴み切れないという人のために、Milos はここで面白いコツを持ち出しています。

ダンベルフライをウエイトトレーニングの種目とは考えずに、ステージに立ってポーズをしているつもりで行うのです。ウエイトを持っていることは意識せず、ステージに立ってロニー・コールマンの隣でモストマスキュラーポーズをしているつもりで胸を絞り上げながらダンベルフライをします。

Once you establish mind muscle connection, then add weight.
(まずはマインドマッスルコネクションを確立すること。重量を増やすのはその後で。)

● インクラインダンベルフライ (10:50-)
● デクラインダンベルフライ (11:46-)

角度を変えて、インクラインとデクラインでもダンベルフライをしています。

● ハンマーインクラインマシン (14:54-)

marcelo-chest-1 marcelo-chest-2

動画では詳しく触れられていませんが、このマシンはハの字型をしたグリップが特徴です。

基礎の姿勢として肘を開くというのがありましたが、これにはひとつ問題があります。特にインクラインプレスでシートの角度がキツいときに問題になりやすいのですが、肘を開いたときに一緒に肩が前に出て、三角筋に動作を乗っ取られやすくなってしまうのです。

これを解決してくれるのがハンマーストレングスのマシンです。グリップをハの字型にすると、肩が前に出るのが抑えられ、三角筋に主導権を取られるのを防ぎやすくなります。

ちなみに、プロビルダーがダンベルプレスをしている動画をチェックすると、オーバーハンドの完全なプレスグリップではなく、このようなハの字グリップで行っていることが結構あるのに気付くと思います。

● インクラインケーブルフライ (17:14-)
● ケーブルクロスオーバー (18:23-)

最後にケーブル種目です。インクラインベンチを使ったり上体の前傾と引く角度を調節したりして、フォーカスを胸の上部・中部・下部で分けて、様々なバリエーションでデモをしています。

これでデモは終了です。とても良い解説動画なので、参考になるところがあったらぜひ試してみてください。