● 膝を出してはいけない教のスクワット

この記事は昔書いた「スクワットで膝を出してはいけない教」の補足です。あの記事を読んで、言わんとするところは何となく分かるような気がするけれどもイマイチしっくりこないという人も結構いるのではないかと思いますので、もう少し踏み込んで説明します。

まず、「膝を出してはいけない教」のスクワットについて改めて説明します。

「膝を出してはいけない教」のスクワットとは、「ハイバーで担いで、膝を出さないように気を付けながら腰を引いていくスクワット」です。普通のスポーツクラブで一般的に指導されるフォームなので、最初はこのフォームでスクワットを覚えてしまった人も大勢いると思います。

このフォームはなかなか高いテクニックを要求される、というか私に言わせれば単純に無理がある姿勢を強いられるので、思うようにできなくて悩むことになります。あるいはその辛さをポジティブに受け入れる人は、「さすがはスクワット。これはとてもキング・オブ・トレーニングだ」となります。

トレーナーは軽い重量でしかお手本を見せてくれませんが、その姿は「なんということでしょう」のナレーションと共に麗しいピアノの旋律が流れてきそうです。そしてこう言います。「上手くできないのは柔軟性のせいですよ。筋力バランスのせいですよ」と。

まあこのスクワットがどんなものかについてはこれぐらいで十分だと思いますので、このフォームの問題点を説明します(最初に言うのを忘れましたが、このフォームには問題があります)。

このフォームの大きな問題は、しゃがみを深くするに従ってバーが前方にシフトするように力が働くことです。ハイバーで膝を出さずに腰を引いていくと、このような力が働くことは避けられません。トレーナーはこの問題を見事な匠の技で我慢してみせますが、バーに重量を足していくと問題は無視できなくなってきます。深くしゃがんだときの腰の負担が増えていきますし、前方にシフトする力に負けてしまうと一気に膝に強い負担を受けることになります。

● それでは正しいスクワットとは・・・

まず、スクワットにおける正しいフォームとは何かを語るあたっての大前提を理解しておきましょう。
スクワットでは、バーの軌道が極めて重要な意味を持ちます。
これは極めて重要な大前提です。正しいスクワットでは、バーの軌道は動作を通して安定していなければいけません。バーの軌道が不安定になるフォームは決して正しいフォームにはなりえません。バーの軌道を安定させるために匠の技が必要な「膝を出してはいけない教」のスクワットは、断じて正しいフォームではありません。トレーナーが言うような柔軟性や筋力バランスは、実は正しいスクワットでは全く不要なものです。スクワットとは匠の技が必要なエクササイズではないのです。

私の感覚で言うと、スクワットを「膝を出すか出さないか」で考えること自体がズレています。

私の場合、スクワットのフォームを決める主なパラメータは次の3つです。
● バーを担ぐ位置
自分の意思で決めます。普通はハイバー、ロウバー、あるいはフロントの位置で担ぎます。これらは単純に位置が違うというだけでなく、担ぎ方自体が違うことを知っておく必要があります。例えば時々ロウバーが上手く担げないという人の話を聞きますが、ロウバーはハイバーのように乗っけるだけでは元々上手く担ぐことはできません。背中を寄せてタイトにする必要があります。三者それぞれ特色がありますが、この担ぎ方でないとダメというのはありません。実際私はこれらのどの担ぎ方でもスクワットをします。

● スタンスの幅
これも自分の意思で決めます。膝が出るか出ないかの話で言えば、これが一番関係があると思います。スタンスを広くすると脚が外側に開くぶん膝はあまり出ないのに対し、スタンスを狭くすると膝はより前に出ることになります。基本的には自分が心地良いと感じるスタンスを選択するようにします。特に、もし人からワイドにしろと言われたからというだけの理由でワイドでしかやったことがないという人がいたら、本当はどの辺が自分に合っているのか、少し狭めのスタンスも試してみるのは良いことだと思います。

● 動作中の上体の前傾度 (腰を引く意識をどれくらい持つかも含め)
バーを担ぐ位置の影響を受けます。また、スタンスの幅の影響も受けます。ハイバーはバーの軌道を保つためにロウバーよりも上体が立ちます。フロントは上体を立たせないと深くしゃがむことはできません。腰を引く意識をどれくらい持つかはここに挙げた3つのパラメータで変わってきます。例えばフロントで担いで上体が立ち、またスタンスを広めにとる場合、腰を引く意識はあまり必要ありません。しかしながら、どのようなフォームで行うにしろ、動作の初動は必ず膝ではなく股関節からになります。スクワットに慣れていない初心者は膝から初動を開始してしまいがちなので、この初動の動作は意識して習得する必要があります。
そして、安定したバーの軌道で動作が完遂するようにスクワットを行います。
● バーの軌道
バーは常に体の中心にあるような意識で、そのまま降ろして挙げる感覚になるように動作します。バーの重さはつま先ではなく、常にかかと側で受けます。スクワットでボトムで切り返すことを英語ではよく「drive out of the hole (穴から抜け出す)」と言いますが、このタイミングでもバーの重さはかかと側で受け、床を押し出すような意識で立ち上がります。失敗するとバーが前方にシフトし、つま先を使って押し出すことになりますよね。それは良くない立ち上がり方です。

※バーの重さをかかと側で受けると書きましたが、これを意識しすぎるとぎこちない挙上になってしまうかもしれませんので、コメントを受けて追記します。

私自身は、スクワットをするときにはかかとに体重を乗せようという意識はあまり強く持っていません。私が意識するのは、ボトムの切り返しを行うときに「股関節で強いドライブをかける」ことです。その意識で床を押し出すと、自然と体重はつま先側ではなくかかと側にかかると思います。意識してかかとに体重をかけるというよりも、力強く切り返そうとした結果、自然と(つま先側ではなく)かかと側に体重がかかるという感覚です。
以上が私が考える、スクワットにおける正しいフォームの大まかなエッセンスですが、この説明の中に、膝を能動的に動かす動作が一つもないことに気づきましたでしょうか?私にとっては、膝はスクワットの動作中に能動的に出したり引っ込めたりするものではありません。結果的に膝は出たり出なかったりしますが、そこはフォームで意識するポイントではありません。

膝を出さないというアドバイスが誤りであることを啓蒙するために膝をテーマにブログ記事を書きましたが、スクワットのやり方を語る文脈で膝を出すとか出さないという話が出ること自体ズレていると思う、というのが本音のところです。