このブログは一応ウエイトトレーニングを中心にしたフィットネスに関するトピックがメインですが、これまでトレーニングの具体的なやり方についてはあまり書いたことがありませんでした。以前Q&Aサイト等に投稿していた頃は、質問に対する回答という形で具体的なトレーニングの話をあれこれ書く機会がありましたが、ブログは勝手が違い、なかなかそういったことを書くには至りません。

しかし、ブログテーマ的に何かトレーニングの具体的な話を書きたいとは思うので、とりあえず何か書こうと思います。とはいえ何も取っ掛かりがないと書き出しづらいので、ちょっと仮想質問を投げかけてみることにします。

トレーニングをしていて、最もトレーニングのやり方が分からず難しいと感じる部位はどこですか?

おそらく「背中」と答える人が一番多いのではないかと思います。そこで今回は背中のトレーニングの基本についてまとめることにします。

なぜ背中のトレーニングは難しいのか

さて、なぜ背中のトレーニングはよく分からない、あるいは難しいと思う人が多いのでしょうか? トレーニングをしながら筋肉の動きを自分の目で見ることができないないからでしょうか?確かに背中は自分の目の届かないところにあります。しかし、結局のところトレーニングで大切なのは筋肉への刺激を感じ取ることができるかどうかなので、ターゲットの筋肉が見えるか見えないかは個人的にはあまり関係がないと思います。私は、多くの人にとって背中のトレーニングが難しいと感じられる一番の理由はこれだと思います。

正しい基本をはっきりと教えてくれないから

要するに、背中のトレーニングの説明は大事なところが曖昧にされてしまっていることがとても多いのです。しかも曖昧なだけならばマシな方で、結構な確率で説明がおかしかったりします。例えば、ラットプルダウンはなぜか「広背筋を適切に鍛えるためには肩甲骨を寄せることが重要である」と説明されることが多いのですが、これはおかしいです。肩甲骨を寄せるのは背中内側の筋肉が持つ機能であって、広背筋の機能ではありません。インストラクターにそう教わったからというだけの理由で肩甲骨の寄せが重要なものだと信じてしまうと、ラットプルダウンで本来のターゲットである広背筋を外した動作を一生懸命行うという残念な状況に陥ってしまいます。

一般的な背中のトレーニングの説明とその問題点

背中のトレーニングの説明では、背中という部位はしばしば厚みと広がりの2つの側面から語られます。

<一般的な背中のトレーニングの説明>
背中という部位は厚みと広がりの2つの側面を持ち、行う種目によってどちらにより強くインパクトを与えられるかが異なります。厚みを作るのはベントロウ、広がりを作るのはラットプルダウンやチニングが代表種目です。

しかし、私はこういった類の説明は誤解を与えやすく説明不足だと感じます。上記の説明には2つの問題点があります。

第一の問題点は、このように機械的に種目を分けてしまうと、あたかも各種目をインストラクション通りに行えばその効果に応じて自動的に厚みや広がりが付くかのような印象を与えかねないことです。これは考え方の順番が逆です。本来の考え方の順番としては、元々厚みを作る基本動作と広がりを作る基本動作がそれぞれあって、それを各種目にどのように適用するかという話であるべきです。実際はベントロウでも厚みを作る動作を組み入れないと厚みを作るための適切なトレーニングにはなりませんし、ラットプルダウンでも広がりを作る動作を組み入れないと広がりを作るための適切なトレーニングにはなりません。しかも悪いことに、各種目のインストラクションはしばしばこの大事な部分の説明が曖昧だったり間違っていたりします。

第二の問題点は、そもそもの話として背中が1つの部位でありながら厚みと広がりの2つの側面を持つということが一体どういうことなのか、はっきりと説明がなされていないことです。あくまで背中は1つの部位でしかなく、1つの部位で2つの側面を併せ持つものだと受け取ってしまうと、「私はボディビルダーみたいにはなりたくないから背中のトレーニングを細かく分けて考える必要はない」などと考える人が出てきてしまいます。「1つで両方の側面を併せ持つ」というのは誤解を生じやすい表現です。この部分は「厚みを構成する筋肉群と広がりを構成する筋肉群は別々に存在するものであり、両者は働きが異なるものである」と説明した方がより正確だと私は思います。このことにより、背中は大きく捉えると1つの部位ではあるのですが、トレーニングでは2つの動作を行う必要があります。これは細かい話ではなく基本知識の話なので、今回の記事でより詳しく説明します。

前提知識その1: 背中は外側と内側&上部で分けて考える

取り留めのない前置きはここまでですが、背中のトレーニングの具体的なやり方についてはもう少し待ってください。その前に前提知識を2つ説明します。

まず、背中の部位は1つに括ってしまわずに、外側と、内側&上部とで分けて考える必要があります。私は実際に背中のトレーニングをするときは具体的な筋肉名についてはあまり深く考えず、より大まかに部位を分けるだけに留めているのですが、一応代表的な筋肉名もいくつか添えました。

  • 外側 (Outer Back)
    代表的な筋肉には広背筋 (Lats, Latissimus Dorsi)、大円筋 (Teres Major) があります。背中の広がりといったら私はこの部分だと解釈します。
  • 内側&上部 (Mid Back & Upper Back)
    代表的な筋肉には中部・下部の僧帽筋 (Mid/Lower Traps, Trapezius)、菱形筋 (Rhomboids) があります。トレーニング動作は内側と上部で殆ど同じなので一緒にしました。背中の厚みといったら私はこの部分だと解釈します。

余談ですが、大円筋というのは日本語ではかなり頻繁に見聞きする単語のように思いますが英語では言葉としてはあまり出てきません。一方で、菱形筋というのは英語ではしばしば見聞きする単語なのですが、日本語ではあまり出てこないような気がします。そんなこんなもありますが、基本レベルの話では、個別にそれぞれの筋肉を考えずに、おおまかに外側と内側&上部のような分け方で個人的には十分と思います。

このように部位を分けて考えなければいけない理由はもちろんあります。それは同じ背中でも外側と内側&上部では筋肉を動員するための動作が異なるからです。詳細はそれぞれのやり方で後述します。

前提知識その2: 筋肉の働きについて

もう1つの前提知識は筋肉の働きについてです。

筋肉は両端が骨に付着しており、固定度が大きい方の付着点を起始 (Origin)、稼働しやすい方の付着点を停止 (Insertion) といいます。起始と停止の間には関節があり、両端の距離を縮めることにより物を動かしたりすることができます。トレーニングにおいて1つの筋肉ができることというのは、ただ1つ、収縮させて両端の付着点間の距離をコントロールすることだけです。

これだけではナンノコッチャと思うかもしれませんが、次の背中外側のところでもっと具体的に説明します。これは背中だけでなくトレーニング全般の前提知識として大事なことなので頭の片隅に入れておいてください。

背中外側のトレーニングのやり方

ようやく背中のトレーニングのやり方に辿り着きました。前提知識の1で説明したように、背中のトレーニングは外側と内側&上部で分けて考えます。まずは外側について説明します。

背中外側の筋肉の代表として、広背筋の図を Wikipedia と ExRx.net から引っ張ってきました。
wiki-latissimus-dorsi exrx-lat-1 exrx-lat-2

広背筋は、固定度が大きい方の付着点である起始は腰椎を中心に広範囲に広がっており、そこから伸びたもう一方の先端である停止は上腕骨の肩関節に近いところに付着しています。両端の付着点の間には肩関節があります。広背筋を収縮させると (すなわち上腕を動かして両端の距離を縮めると) テコの原理で物を動かすことができます。広背筋は、起立して脇を開いて肘を横に上げた状態ならば、肩と肘を下げて脇を締めるような動作で収縮できます。起立して脇を開かずに肘を前に上げた状態ならば、そこから肩と肘を下げながら引くような動作で収縮できます。

具体例として、ラットプルダウンで広背筋を動員する場合を考えます。既に説明したように広背筋の停止は上腕骨で、起始との間に肩関節があり、上腕を動かし広背筋を収縮させ両端の距離を縮めることでプルダウンバーを引き下げることができます。このとき、体は肩関節が支点 (Fulcrum)、広背筋の停止が力点 (Point of Effort)、グリップが作用点 (Point of Load/Resistance) となる第3種テコ (Class 3 Lever) として機能します (※)。

かえって意味が分からないという声も聞こえてきそうですが、それならば扇をイメージしてみてください。広背筋は扇のような形をしていますよね。広背筋のことを、肩や肘を下げることで停止が起始に近づき閉じることができる扇だとイメージしてトレーニングをしてみてください。

※ 第3種テコとは、以下の図のように力点が支点と作用点の間にあるテコです。
wiki-class-3-lever
oneh-lat-pulldown

背中内側&上部のトレーニングのやり方

背中の内側と上部の代表例として、僧帽筋と菱形筋の図を Wikipedia から引っ張ってきました。
wiki-trapezius wiki-rhomboid

この部位にある筋肉である中部・下部の僧帽筋や菱形筋は、大雑把にいって胸椎辺りを起始として伸びていき肩甲骨に停止となる付着点があります。これらの筋肉には肩甲骨を寄せる機能があります。ということで、背中のトレーニングで内側や上部を鍛えるには、肩甲骨を寄せればOKです。

この肩甲骨を寄せるという動作は特に難しいものではないと思いますが、あえて注意点を挙げると、負荷と動作の方向をなるべく合わせることです。負荷と動作の方向があっていない場合、例えばラットプルダウンで上体を立てたままでは、肩甲骨を一生懸命寄せても負荷の方向と動作の方向が食い違ってしまい、背中の内側にとっては空振りしたような状況になってしまいます。

このような背中内側&上部のトレーニングのやり方をはっきりと意識したことがなく初めて試す場合は、ぜひフルレンジのトップポジションまでしっかり引ききって、そこでポーズを入れてセットをやってみてください。トップポジションでポーズして耐えるためには普段よりも大幅に使用重量を落とすことになるかもしれませんが、誤魔化さずに行うと、セットの終了間際にはギブアップしたくなるくらい背中の内側が痛くなってくるはずです。

おわりに

今回、背中のトレーニングのやり方を部位を2つに分けて説明しましたが、この2つの動作は互いに排他ではないので、1つの種目で両方の動作を取り入れてトレーニングすることも可能です。例えば、ベントロウや上体をやや倒して角度を付けたラットプルダウンなどでは、両方の動作を取り入れることで外側と内側を一度に動員することが可能です。

これで私の考える背中のトレーニングの基本についての説明は終わりです。まとめると次の通りです。

  • 背中のトレーニングでは、部位を外側と内側&上部の2つに分けて考える必要があります。
  • 背中外側は、肩や肘を下げたり引いたりする動作で筋肉を動員することができます。背中の広がりといったらこの部分です。
  • 背中内側&上部は、肩甲骨を寄せる動作で筋肉を動員することができます。背中の厚みといったらこの部分です。
  • 背中の外側と背中の内側&上部では筋肉を動員するための動作が異なりますが、その動作は排他的なものではなく一度に両方行うこともできます。

今回の記事を通して読んでみて、背中の基本種目のコツになどについてもっと具体的な説明があるのかと期待してページを開いたのに、想像した内容と違って肩透かしを食らった人もいるかもしれません。私自身、文章を書き始めた時点ではこういう内容になるとは思っていませんでした。

とにかく、最後に今回の記事の意図について補足します。

筋肉を鍛える目的でトレーニングを行う場合、トレーニング種目というものは「基本の応用」であって「基本そのもの」ではありません。言い方を換えると、まず目的の筋肉を鍛えるために押さえるべき基本があって、それを具体的なエクササイズに応用したものがトレーニング種目です。トレーニング種目は応用であるために、必ずしも「ベントロウ=厚み」「ラットプルダウン=広がり」というように自動的に固定化した役割を持つものではありません。

背中のトレーニングに限らず、同じ種目でも様々なフォームが存在することに戸惑い、一体どれが正解なのかと悩む経験をしたことは誰もがあるのではないでしょうか。そんなときは、基本が何であるかを考えてみると悩みが解消します。同時にトレーニング種目は基本の応用であるために自由度があることも理解できます。つまるところ、基本を理解していなければどんなフォームでも正解とは言えませんし、基本を適切に応用したものであればどんなフォームでやろうがその人の自由です。

トレーニング種目を行うにあたっては、基本を理解しているかどうかがキーになります。トレーニング種目のやり方に自信がなくて悩んでいる人にとっては、今回書いた内容がきっと役に立つのではないかと思います。


追記: より実践的な内容について補完するため、次の記事を書きました。