トレーニングをする人がよく聞くホルモンのひとつにインスリンというものがあります。インスリンは多様な機能を持つホルモンですが、大雑把にいうとエネルギーや栄養素を貯めこむ「貯蔵ホルモン」として働きます。インスリンはすい臓から分泌されるホルモンで、主に炭水化物を摂取すると分泌されます。また、一般にはあまり知られていないかもしれませんがタンパク質の摂取でも分泌されます。

このインスリンというホルモンですが、一般的には筋肉を作るうえでは「アナボリックホルモン」なんて言われています。「(最も)強力なアナボリックホルモン」なんて評されることもあります。

ところで「アナボリック」って意味分かりますでしょうか?アナボリズム、カタボリズム、それにメタボリズム。普段何気なく使う言葉ですが、ここでちょっと言葉の定義をおさらいします。

・メタボリズム (代謝) - 生命の維持活動で生じる化学反応 (=アナボリズム+カタボリズム)
・アナボリズム (同化) - 単純な化合物から複雑な化合物を合成する過程
・カタボリズム (異化) - 複雑な化合物から単純な化合物に分解する過程

さて本題です。前回の記事で、インスリンとタンパク質の代謝の関係について、「インスリンにはタンパク質合成を刺激する働きはない」と書きました。これには「えっ?」と思った人もいたのではないかと思います。

だってネットでも雑誌でも書籍でもインスリンは常にアナボリックホルモンと紹介されていますよね?ついでにたぶん教科書でも。しかも世の中的には「強力な」アナボリックホルモンなんだそうです。「アナボリック」という言葉を定義通りに受け取れば「筋タンパク質を合成する」という意味です。

しかし、実はインスリンには一般的に信じられているようなアナボリックな働きはありません。

筋タンパク質の増加 (ネットアナボリズム) に対するインスリンの寄与は、基本的にタンパク質合成ではなくタンパク質分解の抑制効果によるものです。薬理学的な文脈 (要するに注射) ではまた話が変わってきますが、栄養学的な文脈では、インスリンはアナボリックホルモンというよりもアンチカタボリックホルモンである、というのがより正確な見方です。

ちなみに、インスリンによりカタボリズムを抑制しネットアナボリズムを最大化させるにはどの程度のインスリンレベルが必要かという点については、現在出ている研究データによると 15 - 30 mU/l といったレベルで頭打ちになるようです。これは絶食状態のだいたい2~6倍に相当しますが、それ程高いレベルではありません。普通のプロテイン/カーボシェイクや普通の食事で栄養摂取すれば問題なく到達するレベルです。

●まとめ

- 栄養学的には、インスリンはアナボリックホルモンというよりもアンチカタボリックホルモンです。

- プロテイン/カーボドリンクでも食事でも普通に摂取するならば、ネットアナボリズムを最大化するインスリンレベルには十分に到達します。