●論争に終止符を打つ?

タンパク質の必要量に関する議論は複雑で、1つの結論に完全に決着することはなさそうに思えます。実際、タンパク質を大量に摂る側にもそうでない側にもそれぞれ成功したアスリートが存在するでしょうし、双方の主張に議論の根拠として使える研究データがあります。

この議論について優れた洞察を纏めた資料としては、Kevin Tipton と Robert Wolfe の2004年の論文があります。この論文では、双方の主張を取り上げ、トレーニングによりタンパク質の必要量が増加するという主張と減少するという主張の双方の研究をレビューした上で、重要なポイントを纏めています。

その中でも、まず第一に重要なポイントとしては、指導者やアスリートは、結局のところ、研究者たちの議論にはあまり興味がなく、それよりも競技のパフォーマンスを最大限に向上させることに興味がある、という点があります。残念ながら、研究では、タンパク質の必要量に関する問題には取り組んでいるものの、全般的に言って、アスリートにとって最も大切な競技のパフォーマンスを追究することは最終目的にしていません。

また、「タンパク質の必要量」という言葉の意味は文脈によって変わるものである、という点も重要です。「タンパク質の必要量はどれくらいか?」という問いへの答えは、持久系アスリートか筋力系アスリートか、あるいはその人の目的によって変わってくるものです。

さらに、科学的には筋肉量やパフォーマンスに統計的に有意な差が得られなくとも、アスリートにとっては極めて重大な差になりうる、という問題もあります。科学の世界では統計的に意味のない 1% の違いでも、現実世界のアスリートにとっては時には1位と最下位ほどの違いをもたらすかもしれません。研究ではこの問題は解決するすることができません。とはいえこれは趣味レベルのトレーニーにとってはそれ程こだわるポイントではないかもしれません。

また、現状の研究、特に10-12週以上といった期間が長くなる研究では、筋肉量やパフォーマンスの小さな変化を正しく把握できないという問題もあります。トップレベルのアスリートをグループに分けて長期に渡ってトレーニングや食事を完璧にコントロールするというのは、まあ現実的ではありません。

具体的なタンパク質の摂取量の提案ですが、筋力・パワー系アスリートでは 2.5-3.0g/kg が、デメリットもなく、小さいかもしれないが長期で見ると重要なパフォーマンスの向上をもたらす可能性があり、タンパク質合成の必要量をカバーするのにも十分である、としています。余剰分のタンパク質は単純に酸化されます。ちなみに、研究者の中にはアミノ酸の酸化が全体のアナボリックドライブとしてプラスに働くと考える人もいます。

また、高タンパクの食事についてよく言われる健康へのリスクは現実にはほぼ心配のないものだと考えられています。スポーツのパフォーマンスの観点から言えば、基本的に、タンパク質の摂取量は少ないよりも多い方が好ましいと考えられます。

また、Phillips も最近の論文で似たような主張をしています。Phillips は、研究から導かれる最低限の必要量と、様々な側面からスポーツのパフォーマンスを最適化するための必要量は必ずしも一致するものではないという点を指摘しています。研究で提案されるタンパク質の必要量は、実際に多くのアスリートが実践している摂取量と比べると少ない傾向にあると思いますが、この乖離はタンパク質の必要量に対する考え方の違いからくるものかもしれません。

また、持久系アスリートでは、1.7g/kg よりも多くなると単純にタンパク質の酸化の増加となって現れるという研究データから、Tipton と Wolfe は、持久系アスリートでは、2.0g/kg 以上の摂取を推奨する理由はないであろうと主張しています。また、これ以上の摂取を推奨するような研究データも存在しません。

ということで、タンパク質の摂取量は、持久系アスリートでは 1.7-2.0g/kg が適切であると考えられます。持久系アスリートの一般的な摂取カロリーからすれば、トレーニングに必要な炭水化物や脂質は十分に確保しつつ、これくらいのタンパク質を摂取することは難しくないでしょう。

ちなみに、ここまでのタンパク質の推奨量の議論は、十分なエネルギー摂取をしているという前提での話です。エネルギー摂取の制限がタンパク質必要量を増加させる要因となることはよく知られた事実であり、アスリートが体脂肪を落とすためにダイエットを行う際も、タンパク質の摂取量を通常よりも少し増やすのが望ましいと考えられます。