●タンパク質ターンオーバーと窒素バランス

通常、人の体は長期でみてタンパク質量がめまぐるしく変化することはありませんが、体内ではタンパク質の分解 (Breakdown) と再合成 (Resynthesis) のプロセスが盛んに行われています。この分解と再合成の2つプロセスを一つの言葉でタンパク質のターンオーバー (Protein Turnover) といいます。

普通の人では、1日に 300g 程度のタンパク質のターンオーバー (分解と再合成) が発生します。ただ、これは1日に 300g のタンパク質を摂らなければいけないということではありません。分解されたタンパク質の大部分は単純に再合成に使われます。

しかしながら、ターンオーバーのプロセスは 100% の効率では行われません。通常の条件では、ターンオーバーの 4% 程度のタンパク質が体から失われてしまいます。そして、これが人間が食事でタンパク質を摂らなければならない大きな理由です。ターンオーバーで失われる少量のタンパク質は、食事から補充する必要があります。

タンパク質 (細かくいうとアミノ酸) は、人間にとって唯一の窒素源であるという特徴を持っています。窒素の損失量が分かれば、タンパク質の損失量が分かります。失われる窒素の大部分は尿から排泄されるので、尿からの窒素排泄を調べ、全体の窒素の損失量を推定することで、タンパク質の損失量を推定することができます。

この考え方によって体のタンパク質バランスを測定するのが窒素バランスの研究です。窒素バランスの研究では、体に入る窒素 (食事のタンパク質) と体から出る窒素を比較します。体に入る窒素が出る窒素よりも多ければ、窒素バランスはプラスで、タンパク質の保持量が増えたことを意味します。窒素バランスがマイナスならタンパク質が体から失われたことを意味します。

余談ですが、窒素バランスの研究では窒素量を測定するだけであり、具体的にどのアミノ酸が失われたのかを調査することはできません。近年では、タンパク質の代謝を調査するためのより精密なメソッドとして、放射標識 (Radioactive Labeling) したアミノ酸を用いることで特定のアミノ酸について調査することが可能になっています。

話は戻って、窒素バランスの研究から、不可避の窒素損失 (Obligatory Nitrogen Loss) として、窒素は1日に 50-60mg/kg/day 程度が排出されると見積もられています。これは、70kg の人間では 3.5-4.2g の窒素になり、タンパク質は約 16% が窒素ですから 22-26g のタンパク質になります。食事のタンパク質は 100% の効率で消化され利用されるわけではありませんから、これに安全率を考慮して余裕を持たせます。タンパク質の基準1日摂取量 (Reference Daily Intake、RDI) はこうして定められています。

米国ではタンパク質の RDI は 0.8g/kg で、体重 70kg の男性では 56g のタンパク質に相当します。RDI は、世の中の殆どの人にとっては十分に所要量をカバーする量です。

しかし、筋トレをするような人も RDI の摂取量でタンパク質の所要量が満たされるのでしょうか?中には「RDI で必要量が 0.8g/kg と決まっているんだからタンパク質はそれ以上必要ありません」と主張する人もいるかもしれません。

でも、この考えは誤りです。RDI は「窒素の損失量が増大するようなストレスにさらされていない (したがってタンパク質の必要量が増大しない)」普通の人に対する基準量です。窒素の損失量が増大するような状況をカバーすることを目的として定められたものではありません。実のところ、窒素の損失量やタンパク質の必要量は、状況によって変わります。

筋トレ、持久運動、そして、ダイエット。それぞれがタンパク質の必要量を増大させる要因になります。これらの活動を行う人はタンパク質を RDI よりも多く摂取することが推奨されます。