1996年にプリンスが出演したオプラ・ウィンフリー・ショウで、結婚式と天使たちの話以外に印象に残ったシーンをいくつか抜粋します。
13:30〜
「Sex In The Summer」という曲では、マイテのお腹の中にいた頃の赤ちゃんの超音波心音がリズムの一部に使われている、というのはファンの間では知られていると思います。ここでは、プリンスがどうやって実際にそのビートを作ったかについて説明してくれています。また、プリンスは、初めてこの心音を聴いたときの感動を次のように語っています。
o(+>: I was pretty much speechless. It really grounds you, it makes you realize that things you thought wee important aren't really.
もう言葉が出なかったよ。意識が釘付けにされて、小さなものにしか思っていなかったものが、実は全くそうではないことに気付かされたんだ。
10:00〜
順番が前後しますが、オプラがのけぞって驚いています。これは「Do Me, Baby」の歌の中でプリンスが "Yeah Yeah Yeah Yeah" と叫び声を上げたためです。まあ間近でこれを体験したらこうなるだろうなと思います (著作権対応で演奏の音声は消されています)。また、10:20頃に、プリンスはスプリットをしています。
18:00〜
このインタビューの時点で、生まれた赤ちゃんには健康上の問題があることは知られていました。オプラがそのことで質問をすると、マイテはプリンスの反応を待つようにプリンスを見つめます。そしてプリンスはこう答えます。
o(+>: Well, our familiy exists. We're just beginning it.
僕ら家族は存在しているよ。まだ歩み始めたばかりなんだ。
事実は、この時既に赤ちゃんは亡くなっていました。嘘をつく選択はせず、思慮深く言葉を選んでの発言ですが、二人の心中は察するに余りあります。プリンスは、マイテの二度目の妊娠が流産に終わった後、再婚はしても子供をもうけることはありませんでした。この赤ちゃんは、それだけプリンスにとってかけがえのない存在だったのだと思います。
この後、プリンスは赤ちゃんのために用意した遊び部屋を少し見せてくれます。
23:10〜
オプラは「Horny Toad」、「Jerk Out」(曲の並び的に「Jack U Off」と言おうとしたのかな?と思います)、「Private Joy」、「Sex Shooter」、「Do It All Night」、「Do Me, Baby」といった過去の曲を挙げ、性的に大胆な曲を色々と書いてきたことについて後悔はないかとプリンスに質問します。これに似た発言は他のインタビューでも見つかると思いますが、プリンスはここでは次のように答えています。
Oprah: Do you ever regret anything?
過去を後悔することはある?
o(+>: No, because I think it's all part of the experience of life and growing. And it's gotten me to this place. You take one thing out of that and the structure falls, you know?
ないよ。だって全ては人生の経験と成長の一部だからね。全てが繋がって僕はこの場所にいるんだ。1ピースでも取り除いたら構築されたものは崩れてしまうんだ。
それにしても筆頭に B 面曲の「Horny Toad」を出すところからして、オプラの選曲はなかなか渋いです。
24:10〜
プリンスは、故郷のミネアポリスに住み続ける理由について次のように言います。
Oprah: Have you ever perceived yourself as being weird in any way? And you're living in Minneapolis of all places.
自分を変わった人だと思ったりはしない? よりによってミネアポリスなんて所に住んでいるし。
o(+>: Minneapolis, yeah. I will always live in Minneapolis.
ミネアポリスね、そうだね。僕はずっとミネアポリスに住み続けるよ。
Oprah: Right. Do you - you will alway live here? Why?
そう、ずっとここに住むつもりなのね。どうしてなの?
o(+>: It's so cold, it keeps the bad people out.
ここはとても寒いから、悪い人達が来ないんだ。
27:45〜
子供の頃、身長が低いためにからかわれたりはしなかったかと、ストレートにオプラが質問します。プリンスはそれは日常茶飯事だったと答えます。ちなみに、プリンスは後でこの身長ネタを自ら引っ張ります。
31:50〜
プリンスはピアノに座って「Purple Rain」など曲を少し演奏してくれます。また、初めて弾けるようになった曲は覚えてる?と尋ねられると、プリンスは笑みを浮かべてバットマンのテーマ曲を弾き出します。
プリンスのエピソードに、7歳の頃、離婚で家を出た父親が残したピアノを触るようになり、最初に弾けるようになった曲の一つがバットマンのテーマ曲だった、というのがあります。それを実演してくれた形になります。
33:30〜
ワーナー・ブラザーズとの関係、"Slave (奴隷)"、当時リリースしたばかりのアルバム「Emancipation」の話です。
途中、精神的な意味で、"It sounds like you've grown (成長したみたい)" と言われ、プリンスは既に終わった身長ネタを引っ張り、立ち上がって "I'm pretty much the same size (いや、僕のサイズは変わってないよ)" と自虐的な冗談を言います。愛らしい振舞いだなあ……と思います。
また、プリンスは感極まったように声を震わせて "I love you, man" とおどけて見せ、ワーナーには感謝していると言います。いつの日かワーナーとは仲直りするかもしれないことを示唆するような言動ですが、実際、プリンスは2014年にワーナーと再契約しました。
また、プリンスは最後に、アルバム「Emancipation」から何を感じ取ってほしいかについてコメントしています。プリンスの音楽というと、とにかくやたら批評家のようなひねくれた態度で評価されてしまう傾向がありますが、このアルバムはそういう次元だけで捉えるのではなく、プリンスという一人のアーティストの喜びが最も強く反映された作品だ、ということも頭の片隅に置いておきたいものです。
Oprah: (Narration) What a gentle, sweet man. Wonderful soul, he is. In 1992 Prince - he was Prince then - signed a $100-million contract with Warner Bros. Records, the biggest deal in the industry. But their deal turned into a public feud over who would have the control. In protest of that contract, The Artist scrawled the word 'Slave' on his face. You all remember this phase.
(ナレーション) 何て穏やかで素敵な人なのでしょう。彼は素晴らしい人物です。さて、1992年にプリンスは - 彼は当時はプリンスという名前でしたが - ワーナーレコードと1億ドルの契約を結びます。業界史上最高額の契約でした。しかし、その契約は、誰がコントロールを握るのかという問題から公の抗争へと発展しました。契約への抗議として、一時期ジ・アーティストが頬に 'Slave' の文字を描いていたことは皆さんも覚えておいでだと思います。
Oprah: All those years before -- all those years -- times you were walking around with 'Slave' on the side of your face, what was that all about?
頬に 'Slave' と描いて表に出ていたあの時期は、いったい何が目的だったのかしら?
o(+>: To clarify that so many people don't get the wrong impression, I never meant to be compared to any slave in the past. Or any slave in the future. The slavery that I had undergone was in my mind and - as well as the business that I was in. We inked a $100-million deal with Warner Bros, and that turned out to be a little less than desirable.
誤った印象を持たれないようにはっきりさせておくけれども、あれは過去の歴史上の奴隷と比べてやったことではないんだ。あるいは未来に生じうる奴隷に対してもね。僕が言う奴隷状態というのは僕が心理的に経験したもので、それに僕に関わるビジネスのことでもあって。僕とワーナー・ブラザーズは1億ドルの契約をしたんだけど、それが僕にとって望ましいものではないことが後から分かったんだ。
Oprah: A hundred million dollars did? The whole deal... What all that meant?
1億ドルもの契約が? その契約…それは、どういう意味で?
o(+>: Yeah. It's like I was saying before, you - you can go in to record, you can go in to do some form of art, and if you - you have any sort of chains on you, it's not going to come out as cool as it could be.
そうだね。前に言った通り、レコーディングや何がしかのアートをする時に、もし鎖で繋がれた状態ならば、それがどんな鎖だったとしても、それでは最良のものを作り出すことはできないんだ。
Oprah: So you felt, as an artist, enslaved?
それは、アーティストとして、奴隷化されてしまっていると感じたということ?
o(+>: Yes.
うん、そうだね。
Oprah:: Mm-hmm. It sounds like you've grown.
なるほどね。あなたは成長したように見えるわ。
o(+>: (Standing up) No, I'm pretty much the same size.
(立ち上がって) いや、僕の背は変わってないよ。
Oprah: You know.
そうじゃなくてね。
o(+>: Yeah. I - I really do feel I have, inside.
そうだね、本当にそう感じるよ。内面的にね。
Oprah: Do you think that it would have happened to you had you not been enslaved?
奴隷化されたという経験をしなくても同じことが起こったと思う?
o(+>: Oh, no. Absolutely not. And you know, some days I want to just call up the folks at Warner Bros. And just. 'I love you, man.' Yeah, just...
いや。決して起こらなかったと思う。だからほら、いつの日かワーナー・ブラザーズに電話するかもしれないね。(感激で声を震わせて) '愛してるぜ' ってね。
Oprah: Because?
それはどうして?
o(+>: Of the journey, and they're are part of the experience. I'm thankful to them for giving me the opportunity to be here talking to you, you know? This record is really important for me because it's the first time that I've recorded an album, a complete album, in a state of complete freedom.
人生の道のりにおいて、ワーナーは僕の経験の一部だからね。こうやって今機会を得て話をすることができるのもワーナーのおかげだし、感謝しているんだ。そして、これは全てに渡って完全に自由な状態でレコーディングすることができた初めてのアルバムだから、僕にとってこのアルバムはとても重要なものなんだ。
Oprah: Will we feel the emancipation?
私たちもそのエマンシペーション (解放) を感じ取ることができるかしら?
o(+>: Yeah, I think so. What you have to understand is I play most of the instruments myself. So when I go in to do the guitar track, this is a happy, free man recording.
勿論そう思うよ。分かってほしいのは、殆どの楽器は僕自身が演奏しているっていうことなんだ。だから例えば僕がギタートラックをやったなら、それは自由で幸せな人間がレコーディングしたものだというのを感じ取ってほしいんだ。