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主にトレーニングとダイエットのブログ。それとプリンス。

「Condition Of The Heart」は、元々は1985年のアルバム「Around The World In A Day」に収録されている曲です。この曲のプリンスバージョンは私の選ぶ曲の2位になります。ただ、この曲のプリンスバージョンは非常に複雑で意味が深く、説明が難しいので、その前に Susanna and the Magical Orchestra によるカバーバージョンを取り上げます。プリンスバージョンが非常に複雑な曲であるのとは対照的に、こちらは極端に簡素化されたカバーです。

ちなみに、昨年の9月から大変間が空きましたが、YouTube で実質的にプリンスを聴くことができなかった時代に、私が YouTube でよく聴いていたプリンスの曲3つが、これで全部揃いました。他の2曲は次の通り、以前記事にしています。


さて、我ながら了簡の狭い話なのですが、私は他アーティストによるプリンスのカバーを殆ど聴きません。それは大抵プリンスのオリジナルには存在していた要素が色々抜け落ちたものを聴かされることになってしまうためです。同じ理由で、私はプリンスのトリビュートも殆ど聴いていません。最初の頃は、話題になったものは義務感から一応チェックしたりもしたのですが、トリビュートされやすい有名な曲は、一見して親しみやすいように思えて、どこかのポイントで異常な能力幅を要求されるものばかりであるため、どうしてもその大事なポイントを避けた煮え切らないパフォーマンスにならざるをえません。どんなビッグネームがトリビュートをしようが、「プリンスの演奏能力の幅、ボーカル能力の幅、ステージパフォーマンスの幅、これらの全てをカバーできるアーティストは誰も存在しない」ことを再確認して残念な思いをすることになるし、それにプリンスの曲はプリンス以外の人がやるとしばしば曲の意味が失われてしまうので、個人的にはあまり積極的に聴こうという気になれません。

しかし、この「Condition Of The Heart」のカバーだけは例外で、以前から、ふとしたときに聴いています。アレンジはアンビエント系/雰囲気系といった感じで、ボーカルも演奏も極端に簡素化され、オリジナルに存在する様々な複雑な要素はごっそりと欠落しています。ただ、そもそもこの曲をオリジナルになぞって歌うのは無謀ですし、元々美しい曲を染み入るように歌っていて、これはこれでアリなカバーだな、と思います。

このカバーは2006年に発表されたようです。私がいつ頃このカバーを知ったのかは覚えていませんが、YouTube に誰かがアップロードしたものをよく聴いていました。しかしこのカバーは一時期 YouTube から消えており、現在唯一見つかるのは2015年にアップロードされたものです。私のオンラインショッピングの履歴をチェックすると、一時期 YouTube からこの曲が消え、梯子 (ラダー?) を外されてしまった私は、2013年にこれを単体 MP3 で購入していました。

とりあえず、カバーバージョンについてはこれで終わりにします。続いてプリンスのオリジナルバージョンを取り上げるつもりですが、そちらは曲の持つ意味があまりにも特別でありすぎるために、おそらく上手く纏められないであろうことを予め断っておきます。


「Goodbye」は私の選ぶ曲の1位になります。この曲は1996年のアルバム「Emancipation」のアウトテイクですが、幸いなことに1998年の「Crystal Ball」にてオフィシャルリリースされています。私はオフィシャルリリースの1年くらい前に「Fantasia」という3枚組のブートレグでこの曲を初めて聴きました。

この曲を初めて聴いた時のことは今でも何となく覚えています。私はその日、西新宿でこのブートレグを買い、家に帰ってからとりあえず一通り流していました。この曲は3枚目の最後から2番目に収録されており、当時はまだ正式名称が不明で「(Excuse Me Is This) Goodbye」というタイトルが付けられていました。最後の曲は「Emancipation」のデモバージョンであったため、「これが実質的に最後の曲だな」と思って何の気なしに聴き始めたところ、全くの予想外の曲が流れ出しました。

それは、私がプリンスを聴くようになって以来、ずっと心の中で「プリンスにこんな曲を作ってほしい」と思い描き続けてきた曲でした。初めて聴く曲なのに、まるで生まれたときからずっとこの曲を知っていたように感じられました。それからしばらく、この曲ばかりを何度も繰り返して再生しました。

メインボーカルはファルセットですが、通常レンジのボーカルもあり、さらに時にファルセットがか細く極めて高い音程になったりと、ボーカルは様々に色を変化させながら揺れ動きます。ボーカルが単トラックになるときは世の中から隔絶されたような孤独感と喪失感が漂うのに、それなのにコーラス部でボーカルが多重トラックになると一転して優しく柔らかい空気が場を包み込みます。

なぜこの曲が私にとってこれほど特別なのか、理屈ではうまく説明できません。補足のつもりで、2016年のスーザン・ロジャースのレクチャーとそこで紹介されていたプリンスの印象的な言葉を前回記事にしました。



Last night when I left U fast asleeping
I should have contemplated suicide
昨夜深い眠りについた君の元を去った時
僕は自死に思いを巡らすべきだった

4 the smile upon your face that's well worth keeping
By morning - smears 4 every tear U cry
なぜなら君の顔に浮かぶ、かけがえのない微笑みは
朝には全て涙で塗り潰されてしまうのだから

I could manage a week or 2 without those kisses
It'd be hard, but something tells me I could try
一、二週間なら君の口づけがなくても耐えられるだろう
困難だろうが、やってみれば何とかなるのかもしれない

Chorus:
4 that matter, whatever 2 make U reconsider
Is there truth when U make love 2 a lie?
Excuse me, but is this really goodbye?
それに言うなら、君が思い直すのに何が必要であっても
嘘に愛を捧げることに真実はあるのだろうか
ねえ、本当にこれでさよならなの?

Why'd I ever let U in this morning?
Why'd I let U come inside my door?
どうして今朝は君を迎え入れたのだろう?
どうして君を部屋に入れたのだろう?

I should have known without that smile adorning
Your face - a kiss was not what U came 4
微笑みに飾られれていない君の顔から
君が口づけを求めて来たのではないことに気付くべきだったのに

That's when your hand reached out 2 touch me gently
At least that's how it happened in my mind
だけどその時君は手を伸ばし、優しく僕に触れた
少なくとも僕の心の中では君はそうしてくれた

Chorus:
4 that matter, whatever 2 make U reconsider
Is there truth when U make love 2 a lie?
Excuse me, but is this really goodbye?
それに言うなら、君が思い直すのに何が必要であっても
嘘に愛を捧げることに真実はあるのだろうか
ねえ、本当にこれでさよならなの?

Can't begin 2 understand how I think about U (Everything)
Everything I wanna do, I cannot do without U
どうしたら君への想いを推し量ることができるかも分からない
僕の望むことは君と一緒でなければ何もすることができない

However wrong U want - I'll be
Just please (please) don't leave (Don't leave)
If it means this life without U, baby
I swear I'll spend it on my knees
Excuse me, but is this really goodbye?
君が如何なる過ちを望んだとしても - 僕はそれになる
だからどうか僕の元から去らないで
もしそれが君なしの人生を意味するというなら
僕は跪いて一生を過ごすと誓う
ねえ、本当にこれでさよならなの?

Last night when I left U I was so sure
We'd be 2gether 4ever and 4 days
昨夜君の元を去った時、僕は疑いもしなかった
僕たちは永遠にいつの日までも一緒にいるだろうと

And now my shade of blue couldn't get no bluer
I don't even know what I did 2 make U go away
今や憂鬱の影はどこまでも暗く
なぜ君を失わなければならないのかも全く分からない

I could possibly stage a front and play the cool one (Cool one)
Heart in my hand tryin' 2 hold back every cry
僕は舞台の主役となり、凛と平静を演じることもできよう
心を手に、涙を精一杯抑えながら

But who would applaud me when it's U, my one and only
Who ever gave me a good reason not 2 die
Excuse me, but is this really... (Goodbye)
Excuse me, but is this really... (Goodbye)
Excuse me, but is this really goodbye?
だが誰が喝采を上げるだろう
僕に死を思いとどまる理由をくれたのは
僕の唯一の人 - 他ならぬ君だというのに
ねえ、本当にこれで、本当にこれでさよならなの?

ぱっと見何の話なのか分からない記事タイトルですが、これはプリンスの言葉です。その意味は記事の中で説明します。ちなみに英語でホームベースというと、野球のホームベースだけでなく、自分の家がある (心地の良い) 場所、あるいは本拠地、といった意味もあります。


このところ、私が個人的に選ぶプリンスの曲を少しずつ挙げていっています。その中で最も特別な曲となると、それは長年変わらずに「Goodbye」と「Condition Of The Heart」の2曲になります。プリンスは他にも素晴らしい曲を沢山書いているし、プリンス以外にだって世の中には素晴らしい音楽は沢山あります。しかし、この2曲は私にとって単なる好きな曲という枠組みを超えた場所にあります。どんな名曲と称されるものを持って来られても、この2曲が他と置き換えられることはないと思います。

また、これまであまり考えたことはなかったのですが、プリンスについてブログに書くようになってから、この2曲以外にも選ぶとしたら何になるのだろうと考えることになりました。そうして最初に思い浮かんだのは、「With You」、「Sweet Baby」、それに未発表曲ですが「The Grand Progression」といった選曲になりました (ただ、これらは上述の2曲にさらに輪をかけて珍しい選曲なので、順位は控え目にしました)。

どうしてこれらの曲が自分の中で大きな存在を占めるのかというのは、自分の言葉では上手く説明できません。しかし、他ならぬプリンスの言葉にとてもしっくりくる表現がありました。それがこの記事タイトルです。日本では、「ストリート/通り」は住所の基準になる要素ではないため少々感覚が異なるのかもしれませんが、なるほどと思った言葉です。

私がこの言葉を知ったのは、2016年12月にスーザン・ロジャースが行った、Red Bull Music Academy でのレクチャーです。スーザンは、1983年から1988年にかけてプリンスの元でレコーディングエンジニアを務めた、プリンスファンにはお馴染みの人物です。リンク先のページには、話した内容のスクリプトも付いています。

このレクチャーから、記事タイトルに関連する部分 (動画では5分50秒〜15分34秒) を多少意訳しつつ紹介します。なお、全体のレクチャーは2時間を超える動画で、ここで紹介する内容はカバーされているトピックのほんの一部でしかありません。とても興味深いレクチャーなのでいつか全体の感想をブログにでも、と思っていたのですが、後回しにして既に半年過ぎてしまっている状態です。ちなみに、せっかくスーザンが様々なことを語っているのに、インタビュアーはただ聞くだけで全く切り込むことをせずに進行していくので、「何でそこを突っ込まずに流してしまうの?」という箇所があったりして、その点だけは少し勿体ないです。また、スーザンは意外と大胆でファンキーなことを言う人だな、とも思いました (ここで紹介した部分で言うと、ビートルズに対して一歩引いた発言をしています。これはこの人の世代的に結構大胆な発言のような気がします)。

トーステン・シュミット: アイズレー・ブラザーズ (The Isley Brothers) の「For the Love of You」(1975年) は、あなたにとってどんな意味を持った曲ですか?

スーザン・ロジャース: ああ、とても素敵な曲よ。皆さんはご存知ですか? アイズレー・ブラザーズの「For the Love of You」。プリンスはよく、自分の住むストリート (the street you live on) という言い方をしていました。その意味するところは、自分にとってホームベースとなる音楽、自分にとって最も正しいと感じる音楽、ということです。それは自分と同じ仲間に呼ばれるようなもので、その声を聴くだけで、それが自分の仲間だということがはっきりと分かるものです。理屈抜きにぴったり正しいと感じるんです。

(中略)

それが何であるのか、生理学的に何がどうして起こっているかまでは知ったことではありませんが、ご質問にお答えすると、「For the Love of You」は、とにかく気持ち良いんです。リードラインに、あの歌声に、ただやられてしまうんです。その気持ちがどこから来るのかというと、それは生まれ持ったものである、としか言い表せないと思うんです。
「ホームベース。それは自分が住むストリートのことなんだ (Home base. It's the street where you live)」
プリンスは、その大切さに気付いていたからこのように言っていたんだと思います。

また、そのうえでプリンスは、ホームベースではない別の区域を訪ねてみたり、他の音楽を楽しんだりしても構わないと考えていました。そしてこの考え方は、ある種の真実を含むものなんだと思います。サルサでもジャズでも、あるいはフォークロックでも何でも構いません。時には別のストリートに出掛けて楽しむのです。しかし、あなたのホームベースは、いつだってあなたが最も愛する何かを持っているのです。

(中略)

スーザン: 心理学的な側面から少し脱線させてもらうと、なぜ女性はファルセットで歌う男性に惹かれるのかという話があります。エディー・ケンドリックストミー・ジョーダン (スーザンがプロデューサーとして関わった Geggy Tah というバンドのボーカル) など、非常に高い音域で歌うことができる人達のように。それは何を物語っているのでしょうか? きちんと検証されていることではありませんが、ひとつの答えとして、高音域で歌うことができる男性は「僕は親しみやすくて、怖くない人なんだよ。僕は低く粗暴な声を持った男とは違うんだよ」という含みを持っている、ということがあります。確かに研究室の実験では、女性は低く男性的な声の方を好みます。低い声は男性ホルモンの象徴であり、女性はそういった男らしさを好みます。しかしその一方で、高音のファルセットで歌う男性の声を聴くと、それはもうたまらなく魅力的に聴こえるんです。

私の言っていることに頷けますか? またこれは女性の歌声についても同じことが言えます。女性が吐息が漏れるような抑えた声 (breathy voice) で歌う時、「私は子供を優しく育むことができるし、子供にいつも怒鳴りつけるようなことはしない。私は家庭に平和をもたらす」というシグナルを男性は感じます。そして、高音のファルセットで歌う男性もまた、「僕は威嚇的な怖い男ではない」というシグナルを発します。しかしそれだけではありません。それは同時に大きなパワーを持っていることをも象徴するのです。男性は自然に歌おうとすると低い胸声が出ます。なので、男性が高い頭声を出すと思いがけない良さを引き出すんです。それはその人が一段上のギアを持っていることを示します。同じように、自然に歌うと高い頭声が出る女性が声を落として胸声を歌うと、それもまた魅力的に響きます。それはその人が並の歌手以上の能力を持っていることを示します。

(中略)

そしてソウルミュージックにはとても得意なことがあります。それは「動かないこと」によってテンションを生み出せることです。一方で、ロックミュージックには大きなダイナミクスがあります。ヴァース↓ コーラス↑ ヴァース↓ コーラス↑ (この部分、ソウルミュージックとの対比を強調するためか、スーザンは少し茶化したような面白いしゃべり方をします)、その後は展開を変えてブリッジを入れ、またコーラスをするかブレークダウンを入れる、といったように、押すのと引くのを繰り返すダイナミクスがあります。しかし、ソウルミュージックでは、テンションはその場に留まり続けることから生み出されます。動かずにただその場に留まり続けるんです。プリンスがリハーサルで指示を出す時にいつも言っていた言葉があります。プリンスは、グルーヴがスイートスポットに入るとこう言うんです。
「Don't move. Don't move. / 動かないで。動かないで」
これはとても気持ち良いものなんです。そして、アイズレー・ブラザーズの「For the Love of You」は正にそれを完璧にやっているんです。

(中略/「For the Love of You」のどこが素晴らしいのか、具体的なポイントの解説など)

トーステン: 初めて「ああ、これが私の求めていたものだわ。これが私がやりたいことだわ」と感じた時のことを覚えていますか?

スーザン: そうですね。それは「これは私の求めていたものではないわ」と気付いた時だったかもしれません。そして、それはビートルズでした。当時私は7才で、ビートルズは凄い人気でした。初めてビートルズのレコードを手にした時のことを思い出すんですけど、それで感じたのは、「これって… 分からないわ。どうもこれは私にはグッとこない」ということだったんです。でもそれを口に出して言うことはしませんでした。なぜなら私はまだ7才で、よりによって私が聴いていたのはビートルズだったんですから。まだ小学2年生なのに村八分にはなりたくないでしょう? でも私は思ったんです。「私は音楽を聴くのが好き。だけどこの音楽は、他の人たちが言うようには私に訴えてこない」と。そしてその後、私はラジオでスライ・ストーンを聴いて「これよ。私が言いたかったのはこれなのよ」っていう体験をしたんです。こちらの方が私にはより合っているように感じられたんです。

(中略)

だから私たちは、子供の頃から自分がどういう人間なのかを知っているんです。大人は大抵その邪魔をします。社会や世間のプレッシャーも邪魔をします。そうして私たちは、あれやこれやと特定の音楽を好むように押し付けられ、形づけられます。私たちは、言うことを聞く良い子供でいたいと思います。しかし、音楽的な意味での、自分が住むストリートというものは、実はその向こう側にあったりするものです。本当は、私たちは幼い頃からこのことを知っているのではないかと思うんです。

ほんの一部を抜き出しただけでも、個人的には興味深いことを言っていると思います。ここで語られている4つの点を抜き出しておきます。

  • 音楽における「ホームベース - 自分が住むストリート」という意識。これが複雑な生い立ちや社会環境の元で育ったプリンスの言葉だというのがまた興味深いです。
  • 自然には低い胸声が出る男性がファルセットで歌うこと、また、自然に高い頭声が出る女性が声を抑えて歌うこと、それぞれの魅力。
  • ソウルミュージックの「動かないこと」によってテンションを生み出すという、洋楽ロックにはない特徴。また、これは私が子供の頃から慣れ親しんだ邦楽ヒットチャートの音楽とは完全に対極にある特徴なので、私は最初、「動かない」タイプのプリンスの曲を聴いて不思議に感じたのを覚えています。
  • 「ホームベース - 自分が住むストリート」を知ることについて、スーザンが子供の頃に体験したこと。そして子供の感性を尊重するということ。

この話から、私のホームベースって何だろう? と考えたのですが、私には音楽の素養がないためか、音楽ジャンルとしてこれだ、というものは私にはないように思います。ただ、冒頭で挙げた5曲がなぜ私にとって特別なのかということについては、自分の中で答えが得られたように思います。これらの曲が具体的にどんな共通点を持っているかについては上手く説明できませんが、私の中で、これらは理屈を超えたところでぴったり正しいものだと感じます。これらの曲は、自分のホームベースに存在する曲なんだと思います。

ちなみに、スーザンの紹介したアイズレー・ブラザーズの「For the Love of You」とはこんな曲です。

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