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主にトレーニングとダイエットのブログ。それとプリンス。

前回は私が持っているヘッドホンやイヤホンの話をしましたが、私には、ヘッドホンやイヤホンの聴き比べをするときにいつも選ぶ曲があります。それが、この「Bob George」(1987年、1994年、Black Album 収録) です。この曲を聴くことで、メインボーカルが発する低音ボイスのパンチの効き具合や、途中で登場する警官の高音ボイスの伸びをチェックします。

というのは冗談で、聴き比べに使うというのは本当ですが、それは私は単にこの曲が大好きなだけです。まあ色々な意味で、これはヘッドホンで聴くのに適した曲です。

この曲が収録されている「Black Album」は、元々は1987年のリリース直前になって、プリンスの独断により発売がキャンセルされた作品です。しかし音源は流出し、「Black Album」は世で最も有名なブートレグのひとつになりました。私は1992年か1993年頃にこれを買いました。私が初めて買ったブートレグです。当時は私が住んでいた盛岡にもブートレグを扱うレコード屋が2つほどあり、値段は4,500円だったのを憶えています。高校生の私にとってこの値段は大金でしたが、「あの Black Album を入手できた!」という喜びはそれを上回るものでした。ただ、このアルバムは、後の契約ゴタゴタ期の1994年にワーナーから突然オフィシャルリリースされ、「あれっ」となりました。

それはそうとして、「Black Album」を入手した当時、雑誌で得た予備知識として、私は「Bob George」がアルバムの代表曲のような扱いで評されていることは知っていましたが、それが具体的にどんな曲かまでは知りませんでした。"天才" あるいは "現代のモーツァルト" と呼ばれるアーティストが作ったアルバムのメインを張る曲です。期待に胸を膨らませ、ワクワクしながら初めて聴いたときの「何だコレ?」という気持ちはどう説明したらいいのでしょうか (笑)。まあ、それが今ではトップ10に選ぶほど好きな曲になるのですから、人生とは分からないものです。


「Bob George」は、プリンスの全作品の中でも、最も教育上よろしくない曲のひとつです。声が加工されたプリンスの一人芝居が繰り広げられる寸劇風の曲となっており、そのプロットはダークで、言葉遣いも罵詈雑言が尽くされています。しかし、それと同時に、最初から最後までユーモアで面白可笑しく仕立て上げられているところもこの曲の大きな特徴です。上手くは訳せませんが、個人的には歌詞は全てが名言だと思います (笑)。それに、メインキャラクターの声だけでも可笑しいのですが、その男はウィッグフェチで、恋人が間違ったウィッグを被ろうとすると慌てて "No, no. No, no. The reddish-brown one" と訂正したり、電話で話すときにいきなり少し丁寧な口調になったり、かと思えばその後ヤカンが沸騰したかのような勢いで "I'll kick your ass... twice!" と罵ったりと、口調の絶妙な変化も面白いです。

ちなみに、歌詞で出てくる TV ディナーとは、日本では馴染みがないのですが、下のような冷凍食品のことらしいです。

tv-dinner

また、曲名の "Bob George" とは、"that skinny motherfxxker with the high voice / あのカン高い声の痩せっぽち" なロックスター (=プリンス) のマネージャーをしている架空の人物です。この名前は、プリンスの実際の元マネージャーである Bob Cavallo と、音楽批評家の Nelson George を組み合わせたものだと言われています。

プリンスは、「Black Album」がこの曲に代表されるようなネガティブな感情を元に作られた作品であることを後悔し、直前でリリースをキャンセルしました。しかし、この曲は当時未発表であるにもかかわらず、Lovesexy Tour のレパートリーに加えられ、コンサートで演奏されています。コンサートでは寸劇のプロットが変更されており、プリンスは警察から逃走を試みるもあっさりと囲まれ、そのまま射たれて曲が終了します。続いて、自身が犯した過ちを償うかのように、コンサート前半の締め括りとして「Anna Stesia」が演奏されます。

prince-bob-george-1
prince-bob-george-2
prince-bob-george-3

Gal
Let me see U dance
おい、踊ってみせてくれ

New coat, huh? / That's nice
Did U buy it? Yeah, right
U seeing that rich motherfxxker again
U know who I'm talking about
That slicked back paddy with all the gold in his mouth
Don't try to play me 4 yesterday's fool
Cuz I'll slap your ass into the middle of next week
I'm sorry baby, that's the rules
新しいコートか? - 似合うじゃないか
自分で買ったのか? ああそうだった
また金持ちのアイツと会ってるんだろう
誰のことか分かってるだろう?
あのオールバックの金歯だよ
俺を昨日のマヌケだと思ってとぼけない方がいいぜ
来週の中頃めがけてお前のケツをひっぱたいてやるからな
悪いね - そういう決まりなんだ

I pay the rent in this raggedy motherfxxker
And all U do is suck up food and heat
Say what? Oh yeah?
4 someone who can't stand them T.V. dinners
U sure eat enough of them motherfxxkers
俺はこのボロ家の家賃を払ってるっていうのに
お前は食べてヌクヌクしてるだけか?
何だって? へえ?
TVディナーには耐えられないって言いながら
よくあれだけ食べるもんだな

Who bought U that diamond ring?
Yeah, right / Since when did U have a job?
U seeing that rich motherfxxker again
What's his name? Bob? / Bob, ain't that a bitch?
What's he do for a living? / Manage rock stars?
Who? / Prince? / Ain't that a bitch?
That skinny motherfxxker with the high voice?
そのダイヤモンドの指輪は誰が買ったんだ?
ああそうだった - いつから働き出したんだ?
また金持ちのアイツと会ってるんだろう
そいつの名前は何ていうんだ?ボブ? - ボブ、最低だな
そいつの仕事は? - ロックスターのマネージャー?
誰の? - プリンス? - 最低だな
あのカン高い声の痩せっぽちだろ?

Please, who do I look like baby? / Yesterday's fool?
Don't u know I will kill u now?
U're fxxkin' right / I gotta gun
U think I don't? / Then what's this? / Oh, U quiet now / uh uh!
Little? Yeah, right. It might be little but it's loud
おい、俺が誰に見える? - 昨日のマヌケか?
俺がお前を殺そうとしてるのは分かってるのか?
ご名答 - 俺は銃を持っている
持ってないと思うか? - ならこれは何だ? - おや静かになったな
小さい?そうだな - 小さいが音はデカイぜ

(銃声)
Yeah, right. / Uh uh!
ほらね。だろ?

Now put that suitcase down / And go in there
And put on that new wig I bought U
No, No / No, No / The reddish-brown one
スーツケースを置きな - あっちに行くんだ
俺が買ってやった新しいウィッグを被るんだ
違う違う - それじゃなくて - 赤みがかったブラウンのやつだよ

Bob, ain't that a bitch?
ボブ、最低だな

Oh / Gotcha / Got ya

Hey Bob, if U're out there, let me see U dance
U said u was funky / C'mon, c'mon
ボブ、もしそこに居るなら - 踊ってみせてくれ
お前はファンキーだって言っただろ - ほら、ほら

(サイレン)

Ain't that a bitch? / Bob
最低だな - ボブ

(Come out with your hands up)
I'll kick your ass
(This is your last warning)
Think I won't?
(Oh no! The nigger's got a laser)
(Let's get the hell out of here!)
(手を上げて出てきなさい)
ぶっとばしてやるぜ
(これが最後の警告です)
できないと思うか?
(やばい! 男はレーザーを持っている!)
(退散するぞ!)

(電話)
Is Mr. George home?
Hello, Mr. George?
This is your conscience, motherfxxker
Why don't U leave motherfxxkers alone?
What's wrong with U?
Well, why can't we just dance? / Why can't we just dance?
No, fxxk that, fxxk that / I don't talk about U, I don't talk about U
U little almond-shaped head ass / Who the fxxk do U think this is?
I'll kick your ass... twice!
もしもし、ジョージさんはいますか?
もしもし、ジョージさん?
私はあなたの良心と申します、この野郎
こっちには関わらないでくれるか?
何のつもりだ?
いいから踊ろうじゃないか
違う違う - お前のことじゃない
お前のアーモンドみたいな形の小さな頭で考えな - 俺を誰だと思う?
お前のケツを蹴っとばすぜ… 2回な!

Bob, if U're out there, let me see U dance
U said U were funky, c'mon
ボブ、そこにいるなら踊ってみせてくれよ
お前はファンキーだって言ってただろ、ほら

B-O-B, spell the shit backwards, what's it say
Same motherfxxkin' shit
B-O-B - 逆から書いたら何て読むんだ?
同じじゃねえか

Turn it out
Bob, ain't that a bitch?
さあおしまいだ
ボブ、最低だな

プリンスとヘッドホンに関する記事の最後に、私の持っているヘッドホンやイヤホンの話をします。とりあえず書きましたが、後で画像はネットから引っ張ったのではなく自分のものに置き換えようと思います。

ヘッドホン: ゼンハイザー HD598 (愛称 プリン)

ここまで色々なことを書いてきましたが、実を言うと、私は昨年の夏頃になって、生まれて初めてヘッドホンを買いました。いざプリンスを聴き直し始めたら、やっぱりヘッドホンはどうしても欲しくなって、オープン型ヘッドホンで良さげなものを探した結果、ゼンハイザー (Sennheiser) HD598 という製品を買いました (レビュー数がより多い、中古品ページのリンク)。また、付属ケーブルは 3m と長いので、1.2m の純正ショートケーブル HD5X8-CABLE も一緒に買いました。

せっかく買うならまともなヘッドホンを、ということで HD598 を選んだのですが、真の決め手となったのは、その愛称です。実は、このヘッドホンはその独特な配色の見た目から、「プリン」という愛称で呼ばれているらしいのです。この決定的な理由のため、購入にあたって他の選択肢を考えることはありませんでした。

headphones-hd598

このヘッドホンは、さすがその愛称に恥じず、プリンスの音楽が心に染み入るように響きます。購入してから知ったのですが、このヘッドホンの特徴は、どうやらマイルドな聴き心地の良さにあるようです。「3121」の一部の曲など、サウンドがキツくて少し苦手だった曲も、なるほどこれで聴くとトゲが取れて、心地良く聴くことができます。個人的に、音質には 100% 満足しています。もちろん見た目にも満足しています。これ以上美しいヘッドホンは他には存在しないのではないかとさえ思います。

ちなみに、現在は後継製品のゼンハイザー HD599 が発売されているため、今後、このヘッドホンは新品の入手が難しくなるかもしれません。私は昨年ヨドバシのオンラインショップで購入したのですが、現在ヨドバシでは既に取り扱いが終了しています。ただし、現在 HD598 は少し安くなっており、新品でも2万円代前半の値段で入手できるようです。私が買ったときは、3万円近くが相場でした。

後継の HD599 も同系統の配色ではあるものの、残念ながらプリンっぽさが薄れています。ただ、音質や装着感のみを基準にするならば、新しい製品の方で全く問題ないと思います。

イヤホンいろいろ

ついでなので、イヤホンの話もします。使いたいときにうっかり忘れるのが嫌なので、イヤホンは使用場面毎にいくつかの製品を使っています。

もともと私は、普段の通勤時などは、有線イヤホンの Audio-Technica ATH-CKR5 を使用していました。いつどこで買ったのかも忘れてしまいましたが、5,000円未満の製品です。元々は音楽を聴くことは考えておらず、スマホで海外ドラマなどを見るために買ったものです。CKR シリーズのこれくらいのグレードの製品は丁度良いコンパクトさで、持ちやすい形状で装着もしやすく、個人的に愛着があります。また、Audio-Technica のイヤホンは、イヤパッドがしっかり本体に付いていて、経験上かばんの中に無造作に入れてもイヤパッドが外れることがないところも気に入っています。

しかしプリンスを再び頻繁に聴くようになり、もう少し良いイヤホンがないかと物色し、そして購入したのが、ゼンハイザー IE60 (2万円未満) です。本当はもっと低い予算を考えていたのですが、店頭で試聴して選んだらこれになりました。どんな音楽にも対応できるようなバランスの取れた製品です。発売が2011年と結構古く、音のトレンドが古いというレビューもあるようですが、個人的には音質に関してはかなり満足のいく製品だと思います。ただ、個人的にはひとつ難点があって、これはシュア掛けといって、逆さにして耳にコードを引っ掛けて装着することが想定されたイヤホンです。これは人によってはメリットなのかもしれませんが、外にいるときに咄嗟に着けたり外したりできず、また、持つところの形状が平べったいのが微妙に不便なので、私は基本的に外では使わず家で使用しています。また、耳に引っ掛けるのは面倒なので、私は普通に装着して使っています。

それで結局、現在通勤時などに使っているのは Autio-Technica Sound Reality ATH-CKR70 (1万円未満)です。高級イヤホンと較べたら感動するほど音が良いわけではないのでしょうが、個人的にはこれで特に不満はありません。CKR シリーズはこれよりグレードが高くなると、2万円や4万円と価格が跳ね上がるのと、ややバルキーになってコンパクトさが失われるので、私はこれを使っています。

また、私はずっと、ジムでトレーニングするときは何も聴かない派だったのですが、今年になってトレーニング用に Bluetooth のイヤホンを買いました。私は、TaoTronics の TT-BH07TT-BH16 の2つを持っています。どちらも3,000 円程度のリーズナブルな製品です。この2つは、同じメーカーの製品で、価格帯も同程度であり、レビューを読んでもあまり違いが分からないのですが、実際に比較すると使用感も音質も大きく異なります。TT-BH07 のケーブルは、いわゆる平べったいきしめんケーブルなのですが、これが割と摩擦の大きな素材で、装着しているとどこかしら引っ掛かる感じがあり少々気になります。また、音質も軽くて安っぽいです。モノとしての扱いやすさも、音も、断然 TT-BH16 の方が良いと思います。ただし、TT-BH16 の音は値段相応で濁って潰れた感じがします。

それぞれのイヤホンを印象で格付けすると、次のような感じです。結局のところ、プリンスの場合、イヤホンで聴くことそれ自体に十分な意味があるので、私はあまり音質にこだわりは持っていません。それよりも、イヤホンは使いたいときに忘れずにそこにあることが重要なので、使用場面毎に決めた場所に置いておいて、どれも日常的に使っています。

TaoTronics TT-BH07 / 3,000円弱 / Bluetooth
ちょっとした小川のせせらぎに棲むカワニナ。小粒だがそれなりに音はクリア。休日のジムで使用。
TaoTronics TT-BH16 / 3,000円前後 / Bluetooth
田んぼに棲むタニシ。音が濁っているが、存在感はある。平日のジムで使用。
Autio-Technica ATH-CKR70 / 10,000円未満 / 有線
サイゼリヤのエスカルゴ。個人的には十分満足。値段に抵抗があれば5,000円未満の CKR5 (後継: CKR50) でも OK。普段の通勤時など、最もよく使用。
Sennheiser IE60 / 20,000円未満 / 有線
炊きたてのご飯。粒が艶やかに立っていて、クセがなく飽きずに食べられる。家で使用。

前回からの続きです。前回は、プリンスの音楽をきちんと聴くためにはヘッドホンやイヤホンがほぼ必須アイテムであり、また、この点においてプリンスと比較できるアーティストは他に誰もいない、ということを書きました。今回は、その具体的な例として次の2曲を取り上げます。この2曲を一緒に取り上げる理由は、「Thunder」は「When Doves Cry」の焼き直しと批判されることがあるためです。

  • 「When Doves Cry」 (1984年、Purple Rain)
  • 「Thunder」 (1991年、Diamonds And Pearls)

唐突ですが、昔、学校の古文で出てきた徒然草の「仁和寺 (にんなじ) にある法師」という話を覚えているでしょうか。仁和寺のある僧侶が、岩清水八幡宮を拝もうと旅行したが、付属の神社などを本体と勘違いし、本体である岩清水八幡宮には参拝しないまま、帰ってきてしまった、という話です。

個人的に、「Thunder」は「When Doves Cry」の焼き直しという批判は、この話と似ていると思います。 プリンスの音楽を聴いてそのような批評しか出てこないというのは、とても残念なことです。まるで、山の上に岩清水八幡宮の本体があることを知らず、ふもとの神社だけを見て「ありがたや、ありがたや」とお参りして帰ってくるようなものです。

「仁和寺にある法師」では、教訓として、話は次の言葉で締め括られます。プリンスの音楽を聴いていても、これは身に沁みる言葉だと思います。

すこしのことにも、先達 (せんだち) はあらまほしき事なり
(ちょっとしたことにも、その道の指導者・案内者はあってほしいものだ)

When Doves Cry

「When Doves Cry」は言わずと知れた「Purple Rain」からの大ヒット曲で、1984年の Billboard 年間1位になったシングル曲です。荒涼としたマルチトラックボーカルが印象的で、巧妙にベースラインが取り除かれている見事な曲です。しかし、パッと聴いた感じでは、サウンドにはすき間が目立ち、曲は単調なメロディの繰り返しでしかないようにも感じられます。プリンスを知らない人が聴けば、「大ヒットしたという割にはずいぶんシンプルな曲だな、プリンスってこんなものか」という感想を抱くかもしれません。

しかし、この曲をまともなヘッドホンで聴くと、その感想は一変するはずです。

Dig if u will the picture / Of U and I engaged in a kiss
想像してごらん / 君と僕がキスに夢中になっているところを

最初に歌われるこのラインの後、注意深く聴くと「パッチン」と指を鳴らす音がします。この「パッチン」という音は、曲の中でこの一回しか出てきません。

また次の歌詞では、それぞれのラインの区切り毎に、プリンスは、仔犬が甘えるときのような声を出して懇願します。プリンスがこんな声を出すのも曲の中でこのときだけです。ちなみに、歌詞はこの後、お腹の蝶々が云々…と続きますが、これは別にお腹が空いているのではなく、英語では苦しい恋心を訴えるようなニュアンスの表現になります。

Touch if U will my stomach
僕のお腹を触ってごらん
Feel how it trembles inside
中で震えているのを感じるだろう

普通に聴いたのではあまり目立たないバランスで挿入されているこれらの仕掛けは、なんだそんなことか、と思うような小さなものかもしれません。しかし、ヘッドホンで聴いた場合、これらの仕掛けは突如として存在感を増して響き出します。思いがけずドキッとさせられ、曲はより印象深いものへと変化します。

実のところ、表面的に聴くとシンプルで単調に感じられるこの曲は、フルでは6分近くの長尺曲であるにもかかわらず、同じものが繰り返されることは一度たりともありません。印象的なシンセのエンディングに向かって、最初から最後までずっと変化を続けながら曲は展開していきます。この曲をヘッドホンで聴くと、シンプルで単調な曲という印象がとんでもない勘違いであることを思い知らされます。実際、これほど「複雑」なポップソングというのは、他にはまずないのではないでしょうか。

Thunder

続いて「Thunder」です。個人的な話で恐縮ですが、1991年のアルバム「Diamonds And Pearls」のオープニングを飾るこの曲は、私にとってプリンスの原体験ともいえる曲です。このアルバムからプリンスを聴き出した私は、それまで聴いたことのない、ぶ厚いマルチトラックのボーカルや、たった1曲の中で、まるで魔法のように次から次へと目まぐるしく湧き出てくる大量のメロディに、「なんてとんでもない音楽なんだ」と驚かされました。ちなみに、「When Doves Cry」はその前に聴いたことがありましたが、英語が分からず「鳩が…あの公園にいるくすんだ灰色の鳩が…鳴くとき?ポッポ?」という理解力だったのと、「ビートに抱かれて」という邦題のせいで、まさかあんなに深い曲だとは思いもよらず、プリンスに特別な印象を抱くことはありませんでした。

それにしても、当時、アルバム「Diamonds And Pearls」は音楽評論家からずいぶんと酷評を受けました。特に「Thunder」は、日本ではファンの間でもプリンスの歴代ワーストソングか、というくらい悪い評価を受けているイメージが私にはあります。

まあその話は置いといて、この曲に関しては、Peach & Black Podcast のレビューを紹介したいと思います。レビュアーが変われば評価も変わるということで、このポッドキャストでは、 4人の意見は満場一致で、「Thunder」はグレイト・ソングという評価でまとめられています。その中でも Captain という人のレビューが特に傑作なので、発言を少し切り取りながら紹介します。内容もさることながら、話しぶりが興奮気味で面白いので、英語が分からなくても一聴の価値があります。紹介しているのは5分9秒頃からの部分です。

Captain: それはそうとして、この曲については話すことが沢山あるよね。それを語るのは僕はやぶさかではないけどね。もちろんこの曲は、あのプリンスならではのマルチトラックボーカルで始まる。多分アルバム全体においても、プリンスのマルチトラックボーカルの凄さが最もよく分かる部分だと思う。もしもプリンスのマルチトラックボーカルの凄さを知らなかったとしたら、この曲を聴くといいよ。まさにこの1曲目で惜しみなく披露してくれているからね。続いてぶっといベースがあって、トライアングルが鳴って…

Toejam: トライアングル!

Captain: トライアングルね。これ鳴らすのスキル要るからね。そして25秒のところで、僕のお気に入りのパートになる。あの、「Partyman」のミックスのひとつで出てくるのと同じぶっといギターサウンドね。Musical Portrait って TV ドキュメンタリーで、「Partyman」に合わせてプリンスがベースギターを演奏しているのを見たことがあれば、それと同じやつだよ。同じやつ。

MC: へぇ、それは確認しなきゃ。

Captain: ああ、この曲は延々と語ってしまいそうだよ。続いて "Yeah, yeah, yeah" があって、あの "Ding, ding-ding-ding-ding-ding, ding, ding, ding" っていうメインリフになる。だけど、そのバックグラウンドでは別のシンセのリフが重なるんだ。

Toejam: ああ、そうだよね。

Captain: それも全く別のメロディでね。"Du-du-du-du-du-du-du-du..." って。これが凄く良いんだ。あ、僕は歌上手くないからね。それは指摘しなくていいよ。そして第1ヴァースでは、ウッドブロックみたいな音が出てくる。これはカウベルではなくってウッドブロックだと思う。

Toejam: ウッドブロック!

Captain: それが (ヘッドホンで聴くと) 右に左に散りばめられている。そして第2ヴァースでは、ヘッドホンで聴くと分かるんだけど、巨大なシンセ音が右に左にうねるように鳴り響く。そして90年代クラシックな歯切れいいピアノが鳴る。そしてこの曲のギターワーク。この曲のギターワークは、これまた素晴らしくキレが良いんだ。

それと、MC も言っていた "Only the children born out of me (= Jesus) will remain" のところね。あそこは凄くクールなんだよ。なぜならば、意図的なのかどうかは分からないんだけど、プリンスはバックボーカルで、"will remain" を凄く短く歌うんだ。だけど、メインボーカルでは、ここを長く伸ばして歌ってるんだよ。聴くと分かるんだけど。意図的にやったのか、たまたまこんなトリッキーなことになったのかは分からないんだけど。

そして、3分41秒頃に大きなブレイクダウンがあって、ボーカルがバシッと決まる。そういえばプリンスは自分の声で、楽器としてベース音を出してるよね。"Hmmm" っていう低音が通して使われている。それも凄く格好良い。4分36秒からはギターソロで、リードシンセも重なって、それにバックグラウンドのシンセラインも良いよね。5分26秒からはパワーコードが始まって、頭がぶっとばされるような勢いになって、曲は終わる。グレイト・ソングだよね

「Partyman」に合わせてベースギターを演奏するシーンというのは、1989年の Musical Portrait という TV ドキュメンタリーのことです。このドキュメンタリーには、プリンスがスタジオでベースギターを演奏する、短いけれども超絶に格好良いシーンがあります。下のリンクで2分54秒頃からです。

また、ポッドキャストでは、この前にまず MC という人がレビューをしており、この曲を喩えて「万華鏡 (kaleidoscope)」のようだ、と評しています。この人は、プリンスが作る複雑なサウンドを指してこの言葉をよく使います。「Thunder」において、サウンドが目まぐるしく色を変える様子は、まさに「万華鏡」という表現がぴったりだと思います。

しかも恐るべきことに、これだけのものをプリンスはたった一人で作り上げているのです。「When Doves Cry」も「Thunder」も、ボーカルや演奏は全てプリンスによるものです。

おわりに

今回、プリンスの音楽をヘッドホンで聴くとどうなるかの具体的な例として、「Thunder」と「When Doves Cry」の2曲を取り上げました。両者は似ていると言われることがありますが、実際にこれらをヘッドホンで聴いた場合、そのような感想を抱く余地はなかなか出てこないのではないかと思います。

一方で、上記で紹介したポッドキャストでは、この後、「Thieves In The Temple」、「Thunder」、「7」の3曲はまとめて三部作みたいだよね、という議論が出てきます。個人的には、こちらの組み合わせはかなりしっくりきます。アラビア風だったりエジプト風だったり、オリエンタルな雰囲気を持っているのと、マルチトラックのボーカルが繋がりを感じさせます。

少し余談になるのですが、マイテの本「The Most Beautiful」の第3章に、こんなやり取りが出てきます。それはマイテが初めてプリンスのコンサートに行ったときのことです。本当はその日は別なことをする計画もあったのですが、プリンスのコンサートが Nude Tour という名前であることを知ったマイテのお母さんの即決により、家族はプリンスのコンサートに行く方を選びます。そして、そのバルセロナの地でのコンサートで、プリンスは「Thieves In The Temple」を演奏します。これを聴いてマイテのお父さんは興奮し、マイテの腕を掴んでこう言います。

Mayte, do you hear that? It's Arabic - this music - this is your music!
マイテ、聴こえるか? これはアラビックだ - この音楽 - これはお前の音楽だよ!

マイテのお母さんも一緒になってマイテを急き立てるので、マイテは苦笑いをする、というエピソードです。

このときはただのオーディエンスでしかなかったマイテは、後にプリンスと出会い、そしてわずか2年ほどの時を経て、「7」のミュージックビデオに登場し、プリンセス役としてプリンスと一緒に踊ることになります。「Thieves In The Temple」、「Thunder」、「7」の3曲はまとめて三部作と言われると、個人的にはこのマイテのエピソードを思い出します。

これでプリンスとヘッドホンについてはお終いかと思いきや、もうちょっとだけ続きを書くつもりでいます。

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