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主にトレーニングとダイエットのブログ。それとプリンス。

ここまでで「背中のトレーニングの基本」と「ラットプルダウンで肩甲骨を寄せるという誤解」と、背中のトレーニングについての2つの記事を書きました。この3つめの記事で本シリーズは一応完了のつもりですが、全体を通してのゴールはこれです。

自分は背中のトレーニングのやり方を知っているし、上手くできる、と自信を持って言える

3つの記事を併せて読むことで、それまで背中のトレーニングがピンとこなかった人がこうなってくれればと思い、記事を書きました。

背中のトレーニングは、表面的にフォームを矯正しただけでは上手くいかない

経験的にいって、背中のトレーニングを人に教えるときは、ただフォームを矯正するだけの教え方では上手くいかないことが多いように感じます。例えば、広背筋の種目を教えるときに、

  • グリップは中指と薬指を中心に使って握る
  • グリップではなく肘主導で引く

というように、グリップや肘の使い方から始まって、肩、胸、目線など、姿勢で矯正した方が良いところがあればそれをひとつずつ直していくという進め方でやると、表面上はそれなりのフォームが出来上がるのですが、どうもいまいち納得感を持ってもらえないことが多いように思います。というのも、このようなやり方では教わる方は適切な姿勢を作ったり肘を引いたりするだけで意識を全部使い切ってしまい、フォームを作るだけで手一杯な状態になってしまうのです。一見良いフォームに近付いているように思えるのですが、結局内面では意識が付いて来ていないので相変わらず負荷を外しながらトレーニングすることになってしまいがちです。

また、それだけでなく、一からフォームを教わるような段階では何が正しいのかをまだ判断できないため、運悪くダメなトレーナーに当たってしまうとそれに対処できないという問題もあります。「はい、ここで広背筋を動員するために肩甲骨を寄せましょう」と間違った指導をされても、ああそうですかと従うしかありません。

このように、背中のトレーニングを教えるときにフォームの矯正だけに終始してしまうと、どうも色々問題があるように思います。フォームの矯正だけでなく、フォーム矯正の先に何があるのか、つまり、背中のトレーニングを理解している人は何を意識してトレーニングしているのかを知る必要があります。

Brandon Curry の背中のトレーニング

背中のトレーニングを理解している人が何を意識してトレーニングしているのかについては、「背中のトレーニングの基本」にまとめましたが、あの記事では、それを実際のトレーニング種目でどのように実践したら良いかには触れませんでした。この点について何か良いお手本がないかと探してみたところ、Muscular Development の YouTube チャネルで見つけた Brandon Curry というプロビルダーの動画が、ドンピシャで私の望み通りの内容だったので、これを参考例として紹介したいと思います。

この動画は、2014 Arnold Classic 4週間前の彼の背中のトレーニングを本人のナレーション付きで収めたものです。ナレーションではフォームのコツのようなものは殆ど出てきません。その代わり、各種目をどのような意図で行っているのか説明してくれています。背中は実質的に2つの異なる部位から構成されることもあって、フォームの解説系の動画は往々にして言葉足らずで結局何をしようとしているのか意図が分からず(というかやっている本人も意識していないのかもしれません)参考にならないことがあります。その点この Brandon の動画は、本人の口からどんな感覚でトレーニングをしているのかを説明してくれているので個人的にはとても参考になります。

ちなみに私の場合、他人のトレーニングを見るときは、「フォームのここをこうしなきゃ」と見た目で判断できる部分に意識が行くのですが、自分自身がトレーニングをするときには、それよりもまず最初に「背中のこの部分を鍛えよう」という意識があります。フォームというものはその意識に従うことで自然に決定するものであって、コツを学んで矯正するものかというと少し違うような感覚があります。

この動画では、Brandon は8つの種目を行っています。私の英語力では所々何と言っているのか分からないのですが、ひとつずつ見ていきましょう。

1. 自重チニング (0:50〜)

ウォームアップを兼ねた最初の種目です。主に広背筋を意識して行っています。動作が小さくて驚いた方もいるかもしれませんが、上体を立てたワイドグリップのチニングならこれで広背筋は可動域いっぱいです。もしこれよりも動作が大きくなったらそれはもう別モノの種目です。

2. T バーロウ (1:25〜)

ウォームアップを終えた後のメイン種目です。主に背中の厚みを意識して行っています。この種目は正面からみると肘をピョコピョコ動かしているだけのように見えるので、やったことがない人にとってはこれが何のトレーニングになっているのかと不思議に思えるかもしれません。実際のところ、これは背中の内側に最高に効かせやすい種目のひとつです。ロープーリーロウでよく使う V 字のグリップを使いますが、バーベルの重みがズシッとくるので感覚はロープーリーロウとはかなり異なります。Brandon は、デッドリフトを思い起こさせるような種目だけれどもデッドリフトとは違って背中をガンガンに使う、みたいなことを言っています。

3. ロープーリーロウ (2:06〜)

もう一つのメイン種目です。主に背中の厚みを意識して行っています。前のTバーロウとこの種目で背中の内側をしっかり疲労させます。

4. ビハインドネックラットプルダウン (3:03〜)

ここで背中の厚みは一休みをして広背筋の種目に移ります。チニング同様、動作が小さくて驚いた方もいるかもしれませんが、この種目を広背筋のトレーニングとして行う場合、これが適切な動作範囲です。
brandon-pulldown

5. フロントラットプルダウン (4:15〜)

バックからフロントに切り替えて、広背筋の種目が続きます。少しグリップ幅を狭めて上体を倒すことで動作範囲を大きくとれるようにしています。「ハード」な種目なので軽い重量で行う必要があります。ここではオーバーグリップで行っていますが、初めてこれを真似をするときはアンダーグリップの方がスムーズに行くかもしれません。

6. スティフアームプルダウン/ストレートアームプルダウン (5:27〜)

またまたプルダウンですが、今度は立ち上がってストレートアームのバリエーションです。これも広背筋の種目で、特にボトムポジションで広背筋を意識します。Brandon は、Victor Martinez の背中の V シェイプをイメージしてこの種目を行っているそうです。ウエイトスタックを見ると非常に軽い重量で行っていることが分かりますが、この種目は器具の構造上高重量で行うことはできません。真似する場合は特にボトムポジションの姿勢に注目してください。

7. クロースグリップでのチェストサポート付 T バーロウ (6:50〜)

しばらく広がりの種目が続きましたが、また厚みの種目に戻ります。元々背中の内側に効かせやすい種目ですが、Brandon はクロースグリップにすると広背筋の関与がなくなって、特に Rhomboids(菱形筋)を集中的に使っている感覚が得られると言っています。前々回の記事でも触れましたが、英語では背中内側のトレーニングで Rhomboids という言葉がよく出てきます。

8. ロープグリップでのスタンティングロープーリーロウ (7:38〜)

最終種目です。主に広背筋の下部を意識した種目です。これで背中が全て疲労した状態になり、この日の背中のトレーニングは終了です。

おわりに

さて、背中のトレーニングの実践的な例として Brandon Curry のトレーニング動画を上げましたがどのような感想を持ちましたでしょうか?もし「自分のジムには同じ器具がないから参考にできない」などと感じてしまったら、それは勿体ないです。もしそう思ってしまったら、もう一度「背中のトレーニングの基本」を思い出してください。トレーニング種目は数多くのバリエーションが存在しますが、つまるところ組み合わせの元になる動作は2つだけです。

  • 背中外側(=広がり)の筋肉を働かせる
  • 背中内側(=厚み)の筋肉を働かせる

そして、トレーニングで1つの筋肉ができることはたったの1つしかありません。

  • 収縮させることで、両端の付着点間の距離をコントロールする

これを踏まえて、改めてこのトレーニング動画を見てください。この動画のポイントは、色々な器具を使ったり数多くの種目を行ったりするところではありません。重要なポイントは、各種目を行うにあたって背中の厚みと広がりが明確に意識されていることです。その意識に従うことで自然にフォームが形作られていることを感じ取ってください。

様々な器具で数多くの種目をこなすことは必ずしも必要ではありません。私は時間がないときはラットプルダウン1種目で背中全体をトレーニングして終えることがあります。最近はあまり充実していない施設でトレーニングすることが多く、器具がなかなか空かないことがあるのですが、そんなときは人気がなく空きが出やすいシーテドロウのマシンを2、3の異なるバリエーションで行って背中の外側と内側をそれぞれ鍛えて終わりということがあります。

背中という部位は、この動画のように様々な器具や種目で完璧に疲労させることもできますし、限られた器具や種目であっても完全に鍛えることができます。いずれにせよ、大切なのは基本を知って自分の意識に従うことです。そうすれば、どのようなトレーニングをすれば良いかは、自分の意志で自信を持って決定できるようになります。

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トレーニングには、実は誤りだけれども根拠がないままに正しいものとして広まってしまった俗説が数多くあります。長年トレーニングをしている人ならば、普通に誤りだと知っているものも多いのですが、あまり指摘されることがないものもあります。そのような、あまり指摘されることのない誤りだけれども、個人的には気になるものに「ラットプルダウンで肩甲骨を寄せる」というのがあります。今回はこれについて書こうと思います。

スクワットで膝を出してはいけない教

あまりアクセス数の多くないこのブログですが、その中でそれなりにコンスタントにアクセスのある記事に「スクワットで膝を出してはいけない教」があります。これは2009年の記事なのですが、実を言うと、これを公開するにあたっては多少の思い切りが必要でした。

2015年の現在ではネットを検索すると「スクワットで膝を出してはいけない」という教えに疑問を呈する日本語のサイトもちらほらヒットするようですが、当時はこれを指摘するウェブサイトは日本語では見つけられませんでした。そのため、「誰も言っていないけど、これって言っていいことなのかなあ」という疑問がありましたし、それに、たかがブログに書くだけとはいえ、お金を取って人をモノを教えるトレーナーまでもが自信満々で指導していることに対してダメ出しするのは悪いなあという気持ちもあり、少々複雑な思いがありました。

そんな折、たまたま本屋で手に取ったトレーニング雑誌で、初めて日本語ではっきりとこのおかしさを指摘した記事を目にし、「ま、いっか」となってあのブログ記事を公開した次第です。

ちなみに当時は、日本のネットでは同様の指摘をする人が見つからないことばかりが気になって、英語圏ではどうだろうというのは調べた記憶があまりないのですが、今検索してみたらたくさんのサイトがヒットしました。例えば Google で「"squat" "knees over * toes" "myth"」とすると 107,000 件ヒットします (myth とは誤った俗説という意味です)。また、結構限定されたキーワードですが、期間指定をして2009年以前としても、一応結果が返ってきます。

ラットプルダウンで肩甲骨を寄せるという誤解

えーと、この記事の本題はスクワットではなく、タイトルにあるようにラットプルダウンの話です。当初はこれをネタに記事を書くつもりでしたが、広背筋を鍛えるために肩甲骨を寄せるのがなぜ間違いなのかを説明しようと思ったら思ったよりも長文になってしまい、とりあえず別の記事に分けて「背中のトレーニングの基本」を書いたのですが、そしたら今度はこの記事で説明することがなくなってしまいました。検索でこのページに飛んできた方は、そちらの方も読んでもらえたらと思います。

こちらに何も書かないのもアレなので一応簡単におさらいします。一般的なラットプルダウンのメインターゲットは広背筋ですが、肩甲骨を寄せるという動作は広背筋の役割ではありません。広背筋の停止(稼働しやすい方の付着点)が肩甲骨ではなく上腕骨であることを考えたら、広背筋を働かせるために肩甲骨を寄せるという発想のおかしさに気付くと思います。肩甲骨を寄せる動きを入れても本来は広背筋を鍛えるのに特に貢献はしませんし (*1)、他人のトレーニングを見ると、むしろ肩甲骨を寄せてしまっているせいで軌道が脱線して広背筋から逃げるような形になってしまっていることの方が多いように思います。

説明としてはこれだけなのですが、実際にこれを誤解している人がどれくらいいるのか興味があります。ひょっとしたらこれは「スクワットで膝を出してはいけない」以上に広まってしまっている誤解かもしれません。

私は以前、ゴールドジムに加えてある大手スポーツクラブの会員だったことがあったのですが、そのスポーツクラブが教えるラットプルダウンはビハインドネックで肩甲骨を寄せるフォームひとつのみでした。その結果、見るからに広背筋にフォーカスできていないと思われるフォームで微妙な反応をしながらラットプルダウンをする人達が量産されていました。

その一方で、これを誤っていると指摘する声はあまり大きくないようです。

例えば Google で「"pulldown" "shoulder blades together"」と検索すると、「pull/squeeze/pinch/bring/retract your shoulder blades together」というように、プルダウンと肩甲骨の寄せに言及するウェブサイトが数多くヒットしますが、どれもこれもラットプルダウンで肩甲骨を寄せることは重要だと説くものばかりで、それをおかしいと指摘するサイトは出てきません。本来、肩甲骨は広背筋を鍛えるにあたって注意するポイントではないので、良い情報源では、広背筋を鍛えるという文脈で肩甲骨という言葉は普通出てきません。このため検索するときにキーワードに肩甲骨と入れてしまうと、良い情報にはなかなか辿り着くことができません。

このような状況なので、「ラットプルダウンで広背筋を鍛えるために肩甲骨を寄せる」というのは、私にとってはある意味「スクワットで膝を出さない」よりも気になる誤解です。スクワットと膝のことは多くの人に誤りが認知されていると思われるのですが、ラットプルダウンと肩甲骨についてはどれくらいの人が誤りであると理解しているのか疑問に思います。

前回と今回は背中のトレーニングについて書きましたが、基本の説明や誤りの指摘だけの内容なので、これを実際のトレーニングにどう活かしたらいいのか分からないという方もいると思います。そんな方の参考に、基本を理解しつつ正しく背中のトレーニングをすると実際どのようになるのか、次回もうひとつ記事を書こうと思います。

追記: 次の記事です。


*1) わざわざ「本来は」と断りを入れたのは、記事を書くにあたってネットを検索したら、トレーニングを経験したことがない人を対象にした実験で、シーテドロウで肩甲骨を寄せると背中内側の活動が増えるだけなく(これは当然ですよね)、広背筋の活動も一緒に増えたという論文があったからです。被験者はラットプルダウンも行っていますが、ラットプルダウンでは肩甲骨を寄せる指導はされておらず比較データはありません。既に背中のトレーニングがきちんとできている人にとってはあまり参考にならなそうに思える論文ですが、一応リンクしておきます。
Lehman GJ et al. Variations in muscle activation levels during traditional latissimus dorsi weight training exercises: An experimental study. Dyn Med. 2004 Jun 30;3(1):4.

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このブログは一応ウエイトトレーニングを中心にしたフィットネスに関するトピックがメインですが、これまでトレーニングの具体的なやり方についてはあまり書いたことがありませんでした。以前Q&Aサイト等に投稿していた頃は、質問に対する回答という形で具体的なトレーニングの話をあれこれ書く機会がありましたが、ブログは勝手が違い、なかなかそういったことを書くには至りません。

しかし、ブログテーマ的に何かトレーニングの具体的な話を書きたいとは思うので、とりあえず何か書こうと思います。とはいえ何も取っ掛かりがないと書き出しづらいので、ちょっと仮想質問を投げかけてみることにします。

トレーニングをしていて、最もトレーニングのやり方が分からず難しいと感じる部位はどこですか?

おそらく「背中」と答える人が一番多いのではないかと思います。そこで今回は背中のトレーニングの基本についてまとめることにします。

なぜ背中のトレーニングは難しいのか

さて、なぜ背中のトレーニングはよく分からない、あるいは難しいと思う人が多いのでしょうか? トレーニングをしながら筋肉の動きを自分の目で見ることができないないからでしょうか?確かに背中は自分の目の届かないところにあります。しかし、結局のところトレーニングで大切なのは筋肉への刺激を感じ取ることができるかどうかなので、ターゲットの筋肉が見えるか見えないかは個人的にはあまり関係がないと思います。私は、多くの人にとって背中のトレーニングが難しいと感じられる一番の理由はこれだと思います。

正しい基本をはっきりと教えてくれないから

要するに、背中のトレーニングの説明は大事なところが曖昧にされてしまっていることがとても多いのです。しかも曖昧なだけならばマシな方で、結構な確率で説明がおかしかったりします。例えば、ラットプルダウンはなぜか「広背筋を適切に鍛えるためには肩甲骨を寄せることが重要である」と説明されることが多いのですが、これはおかしいです。肩甲骨を寄せるのは背中内側の筋肉が持つ機能であって、広背筋の機能ではありません。インストラクターにそう教わったからというだけの理由で肩甲骨の寄せが重要なものだと信じてしまうと、ラットプルダウンで本来のターゲットである広背筋を外した動作を一生懸命行うという残念な状況に陥ってしまいます。

一般的な背中のトレーニングの説明とその問題点

背中のトレーニングの説明では、背中という部位はしばしば厚みと広がりの2つの側面から語られます。

<一般的な背中のトレーニングの説明>
背中という部位は厚みと広がりの2つの側面を持ち、行う種目によってどちらにより強くインパクトを与えられるかが異なります。厚みを作るのはベントロウ、広がりを作るのはラットプルダウンやチニングが代表種目です。

しかし、私はこういった類の説明は誤解を与えやすく説明不足だと感じます。上記の説明には2つの問題点があります。

第一の問題点は、このように機械的に種目を分けてしまうと、あたかも各種目をインストラクション通りに行えばその効果に応じて自動的に厚みや広がりが付くかのような印象を与えかねないことです。これは考え方の順番が逆です。本来の考え方の順番としては、元々厚みを作る基本動作と広がりを作る基本動作がそれぞれあって、それを各種目にどのように適用するかという話であるべきです。実際はベントロウでも厚みを作る動作を組み入れないと厚みを作るための適切なトレーニングにはなりませんし、ラットプルダウンでも広がりを作る動作を組み入れないと広がりを作るための適切なトレーニングにはなりません。しかも悪いことに、各種目のインストラクションはしばしばこの大事な部分の説明が曖昧だったり間違っていたりします。

第二の問題点は、そもそもの話として背中が1つの部位でありながら厚みと広がりの2つの側面を持つということが一体どういうことなのか、はっきりと説明がなされていないことです。あくまで背中は1つの部位でしかなく、1つの部位で2つの側面を併せ持つものだと受け取ってしまうと、「私はボディビルダーみたいにはなりたくないから背中のトレーニングを細かく分けて考える必要はない」などと考える人が出てきてしまいます。「1つで両方の側面を併せ持つ」というのは誤解を生じやすい表現です。この部分は「厚みを構成する筋肉群と広がりを構成する筋肉群は別々に存在するものであり、両者は働きが異なるものである」と説明した方がより正確だと私は思います。このことにより、背中は大きく捉えると1つの部位ではあるのですが、トレーニングでは2つの動作を行う必要があります。これは細かい話ではなく基本知識の話なので、今回の記事でより詳しく説明します。

前提知識その1: 背中は外側と内側&上部で分けて考える

取り留めのない前置きはここまでですが、背中のトレーニングの具体的なやり方についてはもう少し待ってください。その前に前提知識を2つ説明します。

まず、背中の部位は1つに括ってしまわずに、外側と、内側&上部とで分けて考える必要があります。私は実際に背中のトレーニングをするときは具体的な筋肉名についてはあまり深く考えず、より大まかに部位を分けるだけに留めているのですが、一応代表的な筋肉名もいくつか添えました。

  • 外側 (Outer Back)
    代表的な筋肉には広背筋 (Lats, Latissimus Dorsi)、大円筋 (Teres Major) があります。背中の広がりといったら私はこの部分だと解釈します。
  • 内側&上部 (Mid Back & Upper Back)
    代表的な筋肉には中部・下部の僧帽筋 (Mid/Lower Traps, Trapezius)、菱形筋 (Rhomboids) があります。トレーニング動作は内側と上部で殆ど同じなので一緒にしました。背中の厚みといったら私はこの部分だと解釈します。

余談ですが、大円筋というのは日本語ではかなり頻繁に見聞きする単語のように思いますが英語では言葉としてはあまり出てきません。一方で、菱形筋というのは英語ではしばしば見聞きする単語なのですが、日本語ではあまり出てこないような気がします。そんなこんなもありますが、基本レベルの話では、個別にそれぞれの筋肉を考えずに、おおまかに外側と内側&上部のような分け方で個人的には十分と思います。

このように部位を分けて考えなければいけない理由はもちろんあります。それは同じ背中でも外側と内側&上部では筋肉を動員するための動作が異なるからです。詳細はそれぞれのやり方で後述します。

前提知識その2: 筋肉の働きについて

もう1つの前提知識は筋肉の働きについてです。

筋肉は両端が骨に付着しており、固定度が大きい方の付着点を起始 (Origin)、稼働しやすい方の付着点を停止 (Insertion) といいます。起始と停止の間には関節があり、両端の距離を縮めることにより物を動かしたりすることができます。トレーニングにおいて1つの筋肉ができることというのは、ただ1つ、収縮させて両端の付着点間の距離をコントロールすることだけです。

これだけではナンノコッチャと思うかもしれませんが、次の背中外側のところでもっと具体的に説明します。これは背中だけでなくトレーニング全般の前提知識として大事なことなので頭の片隅に入れておいてください。

背中外側のトレーニングのやり方

ようやく背中のトレーニングのやり方に辿り着きました。前提知識の1で説明したように、背中のトレーニングは外側と内側&上部で分けて考えます。まずは外側について説明します。

背中外側の筋肉の代表として、広背筋の図を Wikipedia と ExRx.net から引っ張ってきました。
wiki-latissimus-dorsi exrx-lat-1 exrx-lat-2

広背筋は、固定度が大きい方の付着点である起始は腰椎を中心に広範囲に広がっており、そこから伸びたもう一方の先端である停止は上腕骨の肩関節に近いところに付着しています。両端の付着点の間には肩関節があります。広背筋を収縮させると (すなわち上腕を動かして両端の距離を縮めると) テコの原理で物を動かすことができます。広背筋は、起立して脇を開いて肘を横に上げた状態ならば、肩と肘を下げて脇を締めるような動作で収縮できます。起立して脇を開かずに肘を前に上げた状態ならば、そこから肩と肘を下げながら引くような動作で収縮できます。

具体例として、ラットプルダウンで広背筋を動員する場合を考えます。既に説明したように広背筋の停止は上腕骨で、起始との間に肩関節があり、上腕を動かし広背筋を収縮させ両端の距離を縮めることでプルダウンバーを引き下げることができます。このとき、体は肩関節が支点 (Fulcrum)、広背筋の停止が力点 (Point of Effort)、グリップが作用点 (Point of Load/Resistance) となる第3種テコ (Class 3 Lever) として機能します (※)。

かえって意味が分からないという声も聞こえてきそうですが、それならば扇をイメージしてみてください。広背筋は扇のような形をしていますよね。広背筋のことを、肩や肘を下げることで停止が起始に近づき閉じることができる扇だとイメージしてトレーニングをしてみてください。

※ 第3種テコとは、以下の図のように力点が支点と作用点の間にあるテコです。
wiki-class-3-lever
oneh-lat-pulldown

背中内側&上部のトレーニングのやり方

背中の内側と上部の代表例として、僧帽筋と菱形筋の図を Wikipedia から引っ張ってきました。
wiki-trapezius wiki-rhomboid

この部位にある筋肉である中部・下部の僧帽筋や菱形筋は、大雑把にいって胸椎辺りを起始として伸びていき肩甲骨に停止となる付着点があります。これらの筋肉には肩甲骨を寄せる機能があります。ということで、背中のトレーニングで内側や上部を鍛えるには、肩甲骨を寄せればOKです。

この肩甲骨を寄せるという動作は特に難しいものではないと思いますが、あえて注意点を挙げると、負荷と動作の方向をなるべく合わせることです。負荷と動作の方向があっていない場合、例えばラットプルダウンで上体を立てたままでは、肩甲骨を一生懸命寄せても負荷の方向と動作の方向が食い違ってしまい、背中の内側にとっては空振りしたような状況になってしまいます。

このような背中内側&上部のトレーニングのやり方をはっきりと意識したことがなく初めて試す場合は、ぜひフルレンジのトップポジションまでしっかり引ききって、そこでポーズを入れてセットをやってみてください。トップポジションでポーズして耐えるためには普段よりも大幅に使用重量を落とすことになるかもしれませんが、誤魔化さずに行うと、セットの終了間際にはギブアップしたくなるくらい背中の内側が痛くなってくるはずです。

おわりに

今回、背中のトレーニングのやり方を部位を2つに分けて説明しましたが、この2つの動作は互いに排他ではないので、1つの種目で両方の動作を取り入れてトレーニングすることも可能です。例えば、ベントロウや上体をやや倒して角度を付けたラットプルダウンなどでは、両方の動作を取り入れることで外側と内側を一度に動員することが可能です。

これで私の考える背中のトレーニングの基本についての説明は終わりです。まとめると次の通りです。

  • 背中のトレーニングでは、部位を外側と内側&上部の2つに分けて考える必要があります。
  • 背中外側は、肩や肘を下げたり引いたりする動作で筋肉を動員することができます。背中の広がりといったらこの部分です。
  • 背中内側&上部は、肩甲骨を寄せる動作で筋肉を動員することができます。背中の厚みといったらこの部分です。
  • 背中の外側と背中の内側&上部では筋肉を動員するための動作が異なりますが、その動作は排他的なものではなく一度に両方行うこともできます。

今回の記事を通して読んでみて、背中の基本種目のコツになどについてもっと具体的な説明があるのかと期待してページを開いたのに、想像した内容と違って肩透かしを食らった人もいるかもしれません。私自身、文章を書き始めた時点ではこういう内容になるとは思っていませんでした。

とにかく、最後に今回の記事の意図について補足します。

筋肉を鍛える目的でトレーニングを行う場合、トレーニング種目というものは「基本の応用」であって「基本そのもの」ではありません。言い方を換えると、まず目的の筋肉を鍛えるために押さえるべき基本があって、それを具体的なエクササイズに応用したものがトレーニング種目です。トレーニング種目は応用であるために、必ずしも「ベントロウ=厚み」「ラットプルダウン=広がり」というように自動的に固定化した役割を持つものではありません。

背中のトレーニングに限らず、同じ種目でも様々なフォームが存在することに戸惑い、一体どれが正解なのかと悩む経験をしたことは誰もがあるのではないでしょうか。そんなときは、基本が何であるかを考えてみると悩みが解消します。同時にトレーニング種目は基本の応用であるために自由度があることも理解できます。つまるところ、基本を理解していなければどんなフォームでも正解とは言えませんし、基本を適切に応用したものであればどんなフォームでやろうがその人の自由です。

トレーニング種目を行うにあたっては、基本を理解しているかどうかがキーになります。トレーニング種目のやり方に自信がなくて悩んでいる人にとっては、今回書いた内容がきっと役に立つのではないかと思います。


追記: より実践的な内容について補完するため、次の記事を書きました。

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