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主にトレーニングとダイエットのブログ。それとプリンス。

●窒素バランスの問題など (2)

Lemon の結論に対する他の批評としては、Stuart Phillips が Millward とは少し別の視点を交えて似たような批評をしています。

Phillips もまた窒素バランスの研究がやや過大にタンパク質の必要量を見積もってしまう問題を指摘していますが、加えてトレーニングによるタンパク質保持の向上効果についても触れています。Phillips は、Lemon による、ボディビル初心者では 1.4-1.5g/kg が必要だが、より経験を積んだトレーニーでは 1.0g/kg でも窒素バランスを維持することができるという研究結果について言及しています。また、筋力トレーニングと持久トレーニングの両方を行う (つまり、両方の運動をカバーするタンパク質が必要になる) アスリートでは、タンパク質の必要量が増えて 1.76g/kg 程度必要になるであろうと述べています。

また、Phillips は、そもそも実際には筋力系アスリートのたんぱく質摂取は 2.05g/kg 以上であるのが一般的になっており、タンパク質の必要摂取量に関する様々な研究者の議論はあまり現実的な意味をなしていないと言及しています。平均的なアスリートやトレーニーは、既に研究で推奨される必要量を十分に満たすタンパク質を摂っているわけです。

とはいえ、現実にはタンパク質を十分に摂取していない例もしばしば見受けられます。炭水化物を過大に重要視したり、脂質を極端にカットしようとして肉や乳製品などのタンパク質食品を避けてしまったり、様々な理由でタンパク質の摂取量が推奨値を下回る場合がありえます。

最後に、Phillips は、ダイエット中では 25% 程度が必要かもしれないが、十分なカロリー摂取をしているという前提では、タンパク質は 12-15% の割合での摂取なら必要量を十分に満たすであろうと述べています。

具体的に、70kg の筋力/パワー系アスリートが1日の食事で 3000-3500kcal 摂っている場合を考えると、15% なら 113-131g のタンパク質になり、体重当たりでは 1.61-1.87g/kg に相当します。Lemon の提案よりもやや多めの量になりますが、現実には一般的なアスリートはこの程度は摂っていると思われます。

●窒素バランスの問題など (1)

前回、タンパク質の必要量として、Lemon の1991年のレビューから持久系 1.2-1.4 g/kg、筋力系 1.2-1.7 g/kg という値を引用しました。しかしながら、全ての研究者がこの論文に同意したわけではありません。

例えば、DJ Millward という研究者は Lemon のレビューに異論を唱えています。Millward は、Lemon のレビューで引用されている研究では、正しく窒素バランスを測定できていないという問題点を指摘しています。窒素バランスの研究では、アスリートに対してはタンパク質の必要量が過大に見積もられてしまう傾向があります。

さらに Millward は、トレーニングを継続している人ではタンパク質の保持能力が向上するという研究データの存在を挙げています。これは、トレーニングを継続している人では逆に「タンパク質の必要量を減らしてもよいかもしれない」ということを示唆します。

しかしながら、ここで根拠として引用されている研究データは、一般的にアスリートが実践しているものよりも低い運動強度によるものであり、強度の高い運動を行うアスリートではどうなのか疑問が残ります。

また、これに関連して、トレーニング初期では窒素バランスがマイナスになっても、窒素バランスは数週間で戻るという研究データも存在します。つまり、「タンパク質の必要摂取量の増大は、トレーニング初期やトレーニングプログラムを強化するときのみに発生する一時的なものである」という仮説も成り立ちます。

また、Millward は、筋肉を成長させるのに必要な正味のタンパク質は、実際のところとても僅かであるという点も挙げています。

具体的な例として、体重 70kg の男性の筋トレ初心者が週に 0.45kg ずつ筋肉を付けることを考えてみます。0.45kg の筋肉には 100-120g のタンパク質が含まれるとして (他は水やグリコーゲン等)、週に 100-120g ということは、1日当たり 15-18g のタンパク質が余分に必要ということになります。週に 0.45kg という凄まじいペースで筋肉を増やしたとしても、タンパク質のグラムで考えるとこの程度です。

人間がタンパク質をどのくらい効率的に筋肉にできるか…そのような研究は存在しませんが、1g の筋タンパク質を増やすのに、食事から 2-4g のタンパク質が余分に必要と仮定してみます。そうすると、週に 0.45kg の筋肉、すなわち1日当たり 15-18g の筋タンパク質を増やすために、食事からは 30-72g のタンパク質が余分に必要になる計算になります。

70kg の人のタンパク質の RDI (0.8g/kg) は 56g です。これに 30-72g を加えると、タンパク質の摂取量は合計で 86-128g になります。体重当たりのグラムにすると、1.2-1.8g/kg になり、1991年の Lemon の推奨値とだいたい一致します。(というかそうなるように推奨値から逆算して例を作りました。)

●持久運動と筋トレ

前回書いた通り、タンパク質の基準1日摂取量 (RDI) は、特に運動しない普通の人のための基準であり、アスリートを対象としたものではありません。実際、RDA ハンドブックには「No added allowance is made here for the usual stresses encountered in daily living, which can give rise to transient increases in urinary nitrogen output (窒素損失を増大させるような一時的なストレスに対する追加の所要量は考慮しない)」と記述されています。

* RDA (Recommended Dietary Intake. 古い基準で現在は RDI に置き換えられています)

しかしながら、激しい運動が「窒素損失を増大させるストレス」になることは多くの研究で示されています。持久運動も筋トレもタンパク質の必要摂取量が増える要因になりますが、タンパク質の必要摂取量が増える理由はそれぞれ異なります。

持久運動では、BCAA 等のアミノ酸が直接エネルギーとして消費されます。タンパク質は長時間の持久運動ではエネルギー消費の 5-10% に達する場合があり、この傾向は筋グリコーゲンが低下した状態でより顕著になります。

一方、筋トレでは、アミノ酸が直接エネルギーとして顕著に消費されることはありませんが、ダメージを受けた組織を修復し、筋肉を成長させるためにタンパク質の必要摂取量が増えます。

また、トレーニングを行うと、アスリートにとって重要となる様々な代謝プロセスがアップレギュレートされます。これらのプロセスは食事のタンパク質必要量が増える要因となると思われますが、具体的な量については現段階では十分な研究がされていません。アスリートにとって重要な代謝を全ての側面から最適化するには、窒素バランスを保つのに必要なタンパク質の摂取量だけでは十分ではない可能性もあります。

ともあれ、実践的な観点で見ると、タンパク質の必要量が増えるメカニズムは、厳しいトレーニング下ではタンパク質の必要量が多くなるであろうという事実と比べると、それ程重要なものではありません。

Peter Lemon は過去の様々な研究データをレビューし、1991年の論文で、タンパク質の必要摂取量を持久系アスリートは 1.2-1.4g/kg、筋力/パワー系アスリートは 1.2-1.7g/kg と提案しています。これは RDI の 0.8g/kg よりも 50-100% 多い量です。

また、より最近発表された Tarnopolsky のレビューでは、持久系アスリートではタンパク質の必要量はトップアスリートの場合で最大で 1.6g/kg と提案しています。また、より少ないトレーニング量でやっている趣味レベルの持久系アスリートでは、エネルギーおよび炭水化物の摂取が十分であるという前提で、タンパク質の必要量はより少なくて良いとしています。

追記として、ボディビルダー等、筋トレの実践者の間では昔から 2g/kg 以上の摂取が推奨されていると思います。また、2.5-3g/kg 以上のようなより多くの摂取が推奨されることも珍しくありません。

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