昨日、7月30日にリリースされた新アルバム「Welcome 2 America」のファーストインプレッション、第一印象です。
他サイトのリンク
- NPG Prince Site | 「Welcome 2 America」収録曲のまとめ
- partymind | Welcome 2 America / ウエルカム・2・アメリカ
- PrinceVault | Album: Welcome 2 America - Prince Vault
アルバム全体について
アルバムを一通り聴いて、私は「Welcome 2 America」は2010年代のプリンスの魅力を十分に感じ取ることができる素晴らしい作品だと感じました。実を言うと、このアルバムには個人的に懸念点があり、私の期待はそれほどではありませんでした。ところが聴き進めるうちにどんどん印象が変わり、聴き終える頃にはこのアルバムがすっかりお気に入りになりました。
このアルバムでは、リリースに先駆けてタイトルトラックの「Welcome 2 America」、それに「Born 2 Die」と「Hot Summer」の3曲が公式 YouTube で公開されていました。2021年になぜこれほどのハイクオリティな新曲がリリースされのるかと驚かされる一方で、私は前者2曲の重さが気になっていました。特に「Born 2 Die」は歌の内容がかなりダークであり、楽曲のクオリティの高さによって逆に心配になりました。要するに、アルバム全体のトーンがこのダークさに引き摺られてしまうようならちょっと辛いな……というのが私の懸念点でした。
ところが蓋を空けてみたら、事前の予想とはすいぶんと違っていました。
予想よりもずっとユルい!そして楽しい!ワイ!イー!エス!
という感じだったのです。
歌詞のメッセージ性についても後々追っていければと思いますが、第一印象としては、音楽を聴く楽しさを改めて感じさせてくれる作品であることをとても嬉しく思いました。「Like books and black lives, albums still matter」の言葉通り、この作品には曲を単体で聴くだけでは決して得ることのできない、アルバムを聴く楽しさがありました。80年代とも90年代とも違う、2010年代のプリンスの魅力が色々と詰まった作品だと思います。
各曲の印象
曲の解説などは省略して、とりあえず思ったことだけ簡単に書きます。
1. Welcome 2 America
YouTube で公開されたときは驚きました。アルバムのタイトルトラックとして十分な存在感を示す曲です。
2. Running Game (Son Of A Slave Master)
Chaka Khan の「Spoon」(作曲にプリンスは関与なし) をちょっぴり思い出しました。スムーズで気持ちの良い曲です。
3. Born 2 Die
カーティス・メイフィールドにインスパイアされて書かれた曲で、アルバムリリースに先駆けてカーティスの誕生日である6月3日に公開されました。この経緯から、「この曲はカーティスのようだ」という感想が出てくるのが自然なのかもしれませんが、個人的には「Born 2 Die」から聴こえてくるのはあくまでもプリンスです。確かにカーティスのようだというのも分かりますし、それがプリンスの意図だというのも分かります。しかし、この曲から私が感じるのは、他の何者でもなく、あくまでもどこまでもプリンスです。
4. 1000 Light Years From Here
第一印象でアルバムのベストトラックです。「Black Muse」の後半部分に使用されていることが知られていた曲で、独立した曲としてはどんなものなのだろうと興味津々でした。実際に聴いてみて、とても素晴らしいと思いました。ここからアルバムの印象が変わっていきました。
曲自体はそこまで似ているわけではないのですが、「ここから一千光年の先」というタイトルもあって、イントロを聴いて「Space」が頭をよぎりました。
5. Hot Summer
リリースに先駆けて公開され、単体ではあまりピンと来ませんでしたが、アルバムで聴いて印象が変わりました。ミッドテンポでちょっぴりユルめなところが良いです。ぱっと聴いた感じ、アルバム「Emancipation」における「Get Yo Groove On」みたいなポジションの曲で、それに「Damned If I Do」のイントロとヴァースの間の「タタタタタ」が入ったような曲だと思いました。あとは他でも言われているように「Shake」も感じます。
6. Stand Up And B Strong
ミネアポリスのバンド Soul Asylum のカバー、というのはよく分かっていませんでしたが、アルバムに何かカバーが入っていることは知っていました。聴いているうちに大きな違和感が生じたため「ああ、これがカバーの曲か」と分かりました。素直すぎるメロディもあるのですが、違和感の一番の要因は歌詞です。はっきり言って、この曲の歌詞はプリンスの標準クオリティに達していません。
しかし逆説的ですが、だからこそプリンスはこの曲をカバーしたのだと思います。プリンスの場合、優れた曲ならば自分で作ってしまえばそれで済みます。その一方で、歌いたいと思うような価値があっても、自分のオリジナルとしては稚拙すぎて発表できないような音楽もあります。「Stand Up And B Strong」とはそのような曲なのだと思います。少し失礼な書き方になってしまいましたが、この曲には少々の稚拙さなど上回る価値があり、それをプリンスが認めたのだと思います。
また、オリジナルがストレートなロックなのに対して、アレンジが全く異なるのも面白いです。"ダラララーラーラーラーラーラーラーラーラ"、"sing a brand new song"。何だかカーペンターズの歌みたいです。
7. Check The Record
3rdEyeGirl の「Electrumpluctrum」に入れられそうな気持ちの良いロックナンバーです。未発表曲の「God Is Alive」みたいなリフも良いです。
8. Same Page, Different Book
既発曲として YouTube にアップされているのを事前に聴くことができました。単独ではあまりグッと来る曲ではなかったのですが、これもアルバムで聴いて印象が変わりました。ミッドテンポのファンクで、アルバムの中で聴くとちょっとユルい感じがとても良いです。
9. When She Comes
はい、この曲は知ってます。「Hitnrun Phase Two」にも入っているスローなバラード。それのオリジナル。どれどれ。そう思って聴いてみたら……。
When she comes, she never closes her eyes
まさかの歌詞違い。なんと "come" の意味が違いました。まさかの官能ソング (笑)。確かにこれがこのまま「Hitnrun Phase Two」に入っていたらマズいです。ですがこちらも上品にまとまっていてとても素敵です。むしろこちらの方が良いかもしれません。
10. 1010 (Rin Tin Tin)
「名犬リンチンチン」と言われても時代が違いすぎてイメージが全く湧かず、違うと分かっていながら「パトラッシュ、僕はもう疲れたよ」の情景を思い浮かべながら聴きましたが、やはり全然違いました。この曲からは、アルバム「Parade」における「Anotherloverholenyohead」のような、アルバム終盤での空気引き締め効果を感じます。
11. Yes
ザ・ファミリーの同名異曲とは違うだろうと思っていましたが、事前に何を思って聴けばいいのか分からなかった曲です。そして実際聴いてみた感想は……。これって、これでいいんでしょうか?
「これでいいんだよ」
私にはプリンスがそう言っているように感じました。プリンスの楽曲の中には、いくつか「これでいいの?」というタイトルがあります。「Guitar」なんてタイトルを見たらどんな凄いギタープレイが出てくるのだろうと思うじゃないですか。「Love」なんて大胆なタイトルを見たらどこに落とし所を付けるのかとハラハラするじゃないですか。
I love you, baby, but not like I love my guitar
君のことは愛してるよ、でも僕のギターほどじゃないけどね
Love is whatever, whatever, U want it 2 be
愛とは、君の望むままに、何だっていいんだよ
やはりこれでいいみたいです。確かにこれでいいんだと思います。
12. One Day We Will All B Free
アルバムの最終トラックです。ここに到達する頃には私の当初の懸念はすっかり消え去っていました。そしてこの曲。本当に素晴らしいです。本当に素晴らしいアルバムだと思いました。